香川大学 農学部
教授 藤田政之
植物ストレス応答学
2021/12/3  掲載

研究の概要

【クラリベイトによる2021年高被引用論文著者(Highly Cited Researchers 2021)選出】

Highly Cited Researchersって何なの?多くの方はそう思われることだろうと思います。そこで本題に入る前に、少し私なりに注釈しておこうと思います。
科学者の研究評価の指標にはいろいろあります。学問的新規性、将来的発展性、社会的貢献度。具体的には、論文雑誌名、論文数、特許数、集金力、学会での認識度などが考えられます。しかし、雑誌の質、論文の質、学会の質等については、考えれば考えるほど、それらにはあいまいさが付き纏います。そこで新たな評価の一つとして、論文の引用数が近年引き合いに出されるようになってきました。論文の引用とは、論文を執筆する際に、既存の論文を引用しつつ、背景、方法、結果、考察を組み立てていく大事な作業です。この値は数値化できますし、統計処理もできますので、何の人的コネクションも介在することなく、科学者間の評価が、機械的に算出されることになります。本年MLBの大谷選手が、数々の素晴らしい賞を取られましたが、誤解を恐れず強いて言うならば、選手間投票で選ぶ賞に少し似ているのではないかと思います。

ストレスは現代人だけの専売特許ではありません。戸外で固定生活を営む植物の周りには、様々なストレス要因が存在しており、植物はそれらに対して植物特有の対処方法でもって対処しています。植物には、あるストレスに対して耐性なものもあれば、感受性なものもあります。つまり植物によって、ストレスで受ける影響の程度は異なっています。ストレスが大きい時には、当然ダメージは大きくなります。成長が鈍化します。実成が悪くなります。ひどい時には枯死してしまいます。農業の立場から言いますと、ストレスは農作物の生産性を減退させ、商品価値を落とし、余分なコストと労力、時間を費やす負の要因となってしまいます。それを少しでも軽減するためにも、植物のストレス生理、生化学並びに、分子生物学を明らかにし、ストレス下における植物体の中で何が起こっているかを解き明かすことは重要となってきます。

我々はこれまで、それらの基礎研究を推進するとともに、方や、植物のストレスからくるダメージの緩和・軽減をもたらす物質(ファイトプロテクタント)の検索を行ってきました。一過性の環境ストレスを植物の抵抗反応を補強しつつ乗り越える手段は、低コストで簡便に行えるため大変有効な方法といえます。最近これらの物質は、バイオスティミュラントとして、多くの研究者、特に、企業の注目を集めています。

私の研究室では日本人学生と共に、バングラデシュからの多くの優秀な留学生が在籍し活発に研究してきました。(香川大学はバングラデシュのシェレバングラ農科大学と学術交流協定を締結しています)

研究の魅力

研究そのものも魅力ですが、それを通して多くの人たちと知り合うことができました。敢えて言えば、それかなと思います。

植物のストレス研究を始めたきっかけ

私は学生の時、恩師の瓜谷郁三先生から植物を研究するには、“異常から正常へ”という取り組み方が基本であると教わりました。正常な植物をいくら眺めていても、植物は何も答えてはくれませんが、何か刺激を与えてやると、潜在的に持っている様々な機能(酵素、遺伝子)を自ずから誘導・発現し、対応するものだということです。その時分、植物研究の場においては、ストレスという言葉は皆無に等しく、思考の隅にも過りませんでしたが、今から思えば私とストレスの関係は、その時、既に始まっていたのかなあと思っています。

この研究の将来的な展望

遺伝子操作による農作物の品種改良が、種々の観点からまだ社会的に受け入れにくい現状を踏まえ、安全で安価なファイトプロテクタントの活用は、一つの希望的選択肢となっていくのではないかと思っています。

今、お読みの本を教えてください

水上勉全集、V. C. Andrewsの本

趣味

旅行、街歩き、読書、ヤフーオークション(家内の説得もあり、この度足を洗いました、、?)