香川大学 農学部
教授 柳 智博
施設園芸学
2018/08/28 掲載

受賞の概要

 この度、学術雑誌Cytologiaに掲載された論文“The Development of a Primed In Situ Hybridization Technique for Chromosome Labeling in Cultivated Strawberry (Fragaria×ananassa)”で、公益財団法人日本メンデル協会の第7回和田賞を受賞しました。
 日本メンデル協会は1984年に設立された任意団体で、国際細胞学会(日本で最も古い生命科学の国際学術誌Cytologiaを1929年から出版)と1990年に合流した経緯があります。このため、現在は日本メンデル協会がCytologiaの出版を行っています。和田賞は、2011年に創設されたもので各年度にCytologiaに掲載された論文の中から選ばれる国際賞です。
 今回受賞した論文は、Primed in situ Hybridization (PRINS) labeling 法と呼ばれる染色体の蛍光観察法を応用して、イチゴの連鎖地図の正確性を評価するという内容です。具体的には、連鎖地図を基に相同染色体の両端に座上すると考えられる2種類のDNAマーカーを選定し、それらを蛍光標識した後に染色体と分子雑種を形成させ、その位置を蛍光観察するという手法です。おそらく、連鎖地図の正確性の評価にPRINS labering 法を用いた点に新規性があったものと思います。なお、Cytologiaには以前から我々が投稿したイチゴの染色体に関する論文が掲載されています。今回の受賞は、それらを含めたものであると聞いています。

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   米国カリフォルニア州ベンチュラのイチゴ畑で撮影。左は研究室にいたタイ人留学生。(2015年撮影)

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                    イチゴの染色体の蛍光観察
          青色:イチゴの染色体 緑色:プライマーが染色体にハイブリダイズしたところ

研究の背景

 私は、長年イチゴを中心に栽培技術の開発、品種改良、DNAの分析、染色体の観察と解析、イチゴの社会的な役割等と、多岐にわたって研究を行ってきました。イチゴは体細胞の染色体数が56本と多く、最大でも全長が2μmと小さく、さらにスライドガラスの上で染色体を適度に散らばらせることが困難であるため、我々のグループが研究を開始するまでは、ほとんど観察例がありませんでした。しかし、我々は、富山大学理学部岩坪先生の協力を得て、観察技術の開発に成功し、様々な成果を上げてきました。今回の受賞論文は、一連の研究の一環です。

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      実験風景:学生がマイクロダイセクッション法でイチゴの染色体を摘出しているところ

研究の成果

 私は、自分で執筆した論文を公表することが、研究者にとって一番の成果であると考えています。そのため、最近の論文とその成果をまとめます。

・Yanagi T., Shirasawa, K., Terachi, M. and Isobe S., Sequence analysis of cultivated strawberry (Fragaria × ananassa Duch.) using microdissected single somatic chromosomes, Plant Methods 13:91, 2017, DOI 10.1186/s13007-017-0237-8
この論文が示すように、イチゴの染色体1本ごとのゲノム分析に成功しました。

・Yanagi, T., Miura, H., Isobe, S., Okuda, N., and Yoshida, Y., Effect of insect pollinator on inbreeding versus outbreeding in open pollinated strawberry seeds,Scientia Horticulturae 215: 112-116, 2017.
この論文が示すように、ハチによるイチゴの花の授粉が自殖か他殖かをDNA分析で突き止められることに成功しました。

・Yanagi, T., and Noguchi, Y., Strawberry (Plants in the genus Fragaria); In: Polyploidy and Hybridization for Crop Improvement, CRC Press, 115-158, 2016
これは、イチゴの種間雑種に関する総説です。

・Yanagi, T., Okamoto, K., and Okuda, N., Effects of light quality and quantity on flower initiation of Fragaria chiloensis L. CHI-24-1 grown under 24 h day-length, Scientia Horticulturae, 202, 150–155, 2016.
この論文が示すように、1野生イチゴが24時間日長条件で花芽分化する光反応がPfr型のフィトクロームを媒介にして起こることがわかりました。

研究の魅力

 自然の中に埋もれている謎を解き明かすことです。

研究を始めたきっかけ

農学部 教授 柳 智博

 大学生の時、日本で栽培すると春の1か月間しかに収穫できないイチゴが、カリフォルニアの海岸地域で栽培すると1年中収穫できるということを知りました。この謎を解き明かしたいと思ったのがきっかけです。

研究の将来的な展望

 イチゴにまつわる謎を1個でも多く説きたいと思います。

今、お読みの本を教えてください

 白井青子 著 ウィスコンシン渾身日記

趣味

将棋、囲碁、Bluegrass music (Banjoの演奏)、読書 etc.