香川大学 創造工学部・
微細構造デバイス統合研究センター
准教授 寺尾京平
マイクロナノデバイス
2018/05/31 掲載

研究結果の概要

 2018年4月に平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。受賞テーマは「マイクロナノデバイスによる単一細胞単一分子解析の研究」です。本研究は、半導体製造で用いられる超微細加工技術をバイオ分野に応用することで、従来の生物学実験では扱うことが難しかった単一細胞や単一分子の物理的な操作技術を実現したものです。

寺尾淳教授

研究イメージ図

研究の背景

 一般的に生物学で行われる実験は溶液中で多数の細胞・分子集団をまとめて扱うものです。こうしたバルク実験では、結果が集団平均化されるため、細胞あるいは分子個々の情報を得ることができません。近年では細胞毎の差異が生物の発生やがん化などの重要な現象に関係することが明らかになってきており、細胞毎に解析するシングルセル解析が高い注目を集めています。また、生体分子に関しても、1個のDNA分子の遺伝情報を読み取り、解析を高速化する技術が実用化されるなど、1分子レベルでの解析技術がバイオ分野に大きな進歩をもたらそうとしています。このような背景の下、単一細胞・単一分子解析を行うために重要な様々な要素技術、例えば細胞周囲の微小環境を精密に調節する技術、臓器の特定領域の細胞を個別に回収する技術、極めて壊れやすい生体分子を非侵襲に物理的に扱う技術、の実現が求められています。

研究の成果

 細胞あるいは分子は液中に存在するナノメートルからマイクロメートルサイズの非常に微小な物体であり、扱うことが困難です。そこで、半導体製造に用いられる超微細加工技術を応用することで細胞や分子と同レベルのサイズの構造物を作製・操作し、様々な要素技術を開発しました。以下に、二つ例を挙げます。
 細胞に関しては、単一細胞への局所的な薬剤の投与と応答反応の解析を実現するマイクロ流体デバイスを開発しました。生体内は不均一な溶液環境であり、細胞外に刺激物となる薬剤が局在することで細胞は機能を発揮します。開発したデバイスはこの微小環境を生体外に再現するもので、インスリン産生細胞である膵β細胞の新たな応答反応を計測できることを示しました。この技術は、薬剤に対する細胞の応答反応の詳細な解明に繋がることが期待されます。
 生体分子については、これまで特に扱うことが困難であったミリメートル長サイズの長大な染色体DNA分子(ゲノムDNA)に着目し、溶液中で非侵襲に扱う光駆動式のマイクロツールを開発しました。従来は長大な染色体を断片化し、短いDNA断片を解析することに限られてきましたが、新たな操作手法により、DNA高次構造や、酵素との相互作用といった未解明事象の情報が得られることが期待されます。

細胞内分子局在誘導・DNA1分子操作の図

研究の魅力

集合

 アスリートが世界新記録を達成することは極めて困難ですが、科学研究であれば、世界でまだ誰もやっていないことを自分が初めて達成するという経験が学部生であってもできます。さらに、自分の研究成果が先人たちの築いてきた「知」に貢献するだけではなく、世の中に大小はともかく何らかの影響を与えるはずです。それはとてもエキサイティングなことです。なぜ研究をしているのか、と自分に問うたとき、この思いを失わないようにしたいと思っています。

研究を始めたきっかけ

 小学生のときはロボットが好きでしたが、その後は、仕組みが謎だらけで面白いと思ったので生物に興味が移りました。機械と生物の違いはどこにあるのかという漠然とした疑問に魅かれていたように思います。大学に進学するときにこの疑問が頭の片隅にあり、生物学で生物を扱うより、あまのじゃく的な発想で機械側からの視点で考えたら面白そうと思い、工学部の機械系学科を選びました。そのころから、機械工学をベースに生物を対象にした研究を続けています。

趣味

 自然が生み出した美しい風景を見ることと、変人や天才の生み出した唯一無二な物事を体験することが好きです。どちらも「よくこんなことができたもんだ」と感じます。

発表論文

 

・染色体DNA1分子を光駆動マイクロツールで操作する技術
 http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2008/lc/b803753a#!divAbstract 

 

・生体内を模倣し細胞表面の一部に薬剤刺激を与え、内部での応答反応を観察する技術
 https://www.nature.com/articles/srep04123