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上田学長(左)、金田特任教授(右)、磯打特命准教授(中央)による三者鼎談

2025年9月、政府の地震調査委員会は、南海トラフ地震の今後30年以内の発生確率について、これまでの80%程度から60~90%程度以上へと見直すことを発表し、別の計算モデルを用いた場合には20~50%となる可能性も併記されています。依然として大地震が切迫している状況がうかがえます。この発表を受け、地域の防災拠点として香川大学が果たすべき役割は何なのか。上田学長、そして地震のスペシャリスト金田特任教授、BCP※1・DCP※2のスペシャリスト磯打特命准教授の鼎談から探りました。

※1 Business Continuity Plan事業継続計画の略称。
災害発生時に事業資産の損害を最小限に留めつつ、中核事業を継続・早急復旧させるための計画のこと

※2 District Continuity Plan地域継続計画の略称。
災害発生時に地域全体で連携し、重要なライフラインや施設を復旧・継続させるための計画のこと



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いよいよ真剣に考えなくてはならない
「地域の安全は、誰が作っていくのか」

上田 南海トラフ地震の発生予測が見直され、異なる計算方法で算出された、2つの発生確率が発表されました。これまでよりも低い数字が出てきたことで、危険が減ったと勘違いされている方もおられるのではと危惧しています。天気予報の場合、降水確率が30%以上になると傘を持って行ったほうがいいと言われますが、地震の場合も、30%を超えると備えが必要だと考えてよいのでしょうか。

金田 そうですね。今回提示された数字はいずれも、降水確率にあてはめると、かなり高い数字です。ただちに備えが必要な状況だということに、変わりはありません。幸いにも、香川県は大きな災害があまり起こらない県で、それは非常に良いことですが、他県と比べるとどうしても、防災意識が低いという実態があります。四国四県のなかでは最も被害が少ないと想定されていますが、それでも必ず被害は出ます。被害をいかに軽減させ、さらに備えとして防災意識を高めておけるか。これが、香川県の非常に大きな課題です。

磯打 地域の安全は、誰が作っていくのかということを、皆が主体的に考えていく必要がありますね。地域の安全は、誰かが作ってくれるものではありません。一人ひとりが積極的に取り組み、獲得していくものです。自分も、安全を作っていく一員だと皆さんに自覚してもらえるアプローチを、今後の防災啓発活動に取り入れていかなければならないと、今回の発表を受けて改めて感じました。

金田 そういった状況のなか、私が重要性を感じているのが、過去に被災した方々が、災害をどう乗り越えてきたかという知見を皆で共有することです。過去の災害を“自分ごと化”することで、防災意識の向上が期待できます。

磯打 私も、同意見です。過去に学生と、昭和49年・51年の小豆島の大規模土砂災害の教訓が、住民の皆さんにどう継承されているかを調査したことがあるんです。「過去の災害について、どのように知ったか?」という質問に対し、一番多かったのは「家族や知人から聞いた」という回答。しかし香川県は、被災経験をされている方が、圧倒的に少ない。そのことが、災害を“自分ごと”として捉え、どう備えるかを考える機会が少ない原因のひとつだと考えています。だからこそ、小豆島の土砂災害と、平成16年の高松高潮災害という、香川県が近年で経験した2つの大きな災害の教訓を活かしていかなければなりません。

上田 それで先生は、それぞれの災害で被災された方に、インタビューを行われたのですね。

磯打 そうなんです。被災された方がどんなご苦労をされ、どんな想いで過ごしたのかを10分程度の動画にまとめ、YouTubeに公開しています。「香川県でも、こんなに大変な災害があったんだ」ということを学んでいただける、大変意義あるものになったと思いますので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。



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協働人口を増やすことで、地域の防災に貢献する

上田 大学というのは、専門家の集団であり、さまざまな知識や技術が集まる場所です。地震が発生するまでの時間を有効に使い、広い意味での「教育」を提供することが、防災拠点としての使命だと考えています。大学生はもちろん、地域の子どもたち、そして自治体や消防といった、有事の際に中心的に働かれる人たちに対しても、教育の機会を創出しなければなりません。その取組のひとつが、防災士の養成ですね。

金田 そうです。学部生を対象とする防災士養成プログラムにくわえて、大学院生および社会人を対象とする四国防災・危機管理プログラムを開設し、自治体の方や企業の防災担当の方など、さまざまな立場の方に来ていただいています。学生と社会人合わせて、これまでに3,000人ほどの人材を輩出することができました。

磯打 地域の方や企業の方が主体的に動けるかどうかは、防災において非常に重要な要素。協働人口を増やすことは、大学の大切な役割だと思います。ほかにも香川大では、防災拠点としての機能強化を図るために四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構を立ち上げ、定期的に香川地域継続検討協議会を開催。香川県内の全ての市町村、そして電力やガスなどのインフラを担う企業の方にお集りいただき、災害が起こったときにどう立ち振る舞えばよいか、事前にどう備えておくべきかをお伝えしています。私も、自分の専門分野であるBCP・DCPの視点から防災基本戦略の策定・運用支援を行い、地域社会の安心安全に貢献できるよう努めています。



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子どもから大人まで“自分ごと化“できる防災教育を

上田 金田先生は、子どもの防災教育に力を入れていらっしゃいますね。

金田 はい。やはり防災教育は、早期から始めておくことが大切です。幼少期から防災を学ぶことで、生涯にわたって防災意識を持ち続けられる大人になり、それが災害に強い社会を築く基盤に繋がります。また、子どもが家族や近所の人に災害の話をすることで、家庭・地域の防災意識の向上も期待できます。とはいえ子どもは経験が少なく、災害の恐怖をリアルに想像することができません。そこで近年は、AIやメタバースといったテクノロジーを駆使して、子どもに「もしも」を疑似体験してもらい、自分たちが災害に直面し、主役となって対応しなくてはならないときに、どうすればよいかを考えてもらう機会を作るようにしています。座学だけではなく、自分で主体的に考えることが、子どもの防災教育には必要です。

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上田 ほかにも金田先生は、子どもの防災意識向上を目指して、防災ソング「そなえたらこわくない」を制作されました。きっかけは?

金田 2004年に、スマトラ島沖で大津波地震が発生しましたが、震源地近くにもかかわらず、奇跡的に犠牲者が数名だった島があるのです。そこでは昔から、過去に起こった津波被害を教訓にして作られた童謡が歌い継がれており、「揺れたら山に登る」ということが島民の意識に刷り込まれていたといいます。そこからヒントを得て、被災体験が少ない香川県の子どもたちに向けた歌を作ろうと思いました。「もしも」に直面したときにこの歌のことを思い出し、直ちに避難ができるようになってほしいです。

上田 磯打先生は、これまでに何度も被災地を視察されていますが、そこで得た教訓はありますか。

磯打 西日本豪雨で被害に遭われた、若いお母さんと話したときのことです。そこに家を建てた理由を尋ねたところ「市街地と比べると土地が安かったから。ハザードマップで浸水が想定されているとは知らなかった。持ち家があれば、子どもに財産を残せると思った」と返ってきたんです。お子さんの将来を考えて投資をされたわけですが、そこに“防災”の視点が加わっていれば、違う選択ができたのではないかなと。「ハザードマップを見て、自然災害のリスクを考えたうえで必要な備えを準備しましょう」「家族を守るために、建物を耐震化しましょう」といった啓発がちゃんとできれば、被害を軽減させることができるのではと思います。小さなお子さんがいる世代は、自分の子どもの命を守りたいという想いが強いので、感度が高い。一方で、働き盛りでもあるので、防災に取り組む時間が作りづらい。そういった世代にどうアプローチするかが、今後の課題になると思っています。




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香川大がもつ知識・技術を集結させ、災害に強い街をつくる

上田 教育と同じくらい重要な大学の役割が、研究です。現在取り組んでいる防災研究には、どのようなものがありますか。

金田 南海トラフ地震を早期に検知し、被害軽減に貢献するためには、震源域のリアルタイム観測が必要不可欠です。そこで震源域を観測監視する、世界初の海底観測ケーブルネットワークシステムDONETを四国沖に設置し、そこからリアルタイムで送られてくる情報の利活用について、香川大が中心となって研究を進めています。一例を紹介すると、坂出市と連携し、リアルタイム情報を活用した実動訓練や図上シミュレーション訓練を実施しました。香川県は他県に比べて津波到達まで時間があると予測されていますが、市民の方がいち早く避難できるシステムの構築に取り組んでいます。

磯打 私も、坂出市と連携した訓練に参加し、リアルタイム情報の有効性を肌で感じました。DONETを活用した取組が今後、他地域にも広がっていくとよいなと思っています。

上田 DONETの活用については、ハードとソフトの両面からの研究開発が必要です。香川大の専門家たちがもつ知識・技術を、文系・理系の枠を超えて集結させ、もしもを恐れない、災害に強い地域の構築に貢献してまいりましょう。また近年は、新たな科学的知見もどんどん集まっています。香川大らしい防災研究にも取り組んでいきたいですね。