香川大学 農学部応用生物科学科
教授 櫻庭春彦
酵素工学・X線結晶構造解析
2018/03/02 掲載

研究結果の概要

2017年度日本ビタミン学会・学会賞を受賞しました。受賞研究題目は、「補酵素NAD(P)・FAD依存性酵素の応用構造生物学的研究」です。90℃以上の高温で生育し、生理・生化学的、進化的に極めて特徴的な微生物である超好熱菌を主な研究対象として、様々な酵素の機能・構造解析を進めてきました。その中で、補酵素NAD(P)及びFAD依存性酵素について、新規酵素の構造解析、耐熱化メカニズムの解明、医薬品前駆体の生産、診断用酵素試薬やバイオセンサー素子としての利用など、構造-機能相関から応用にまたがる研究が高い評価を受けました。

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研究の背景

海底火山や温泉の源泉など、水が沸騰するような高温環境に生きている「超好熱菌」という微生物に特に注目しています。超好熱菌が生産する酵素は、高温でも失活しない高い安定性を持つとともに、界面活性剤や有機溶媒などタンパク質を変性させる他の要因に対しても壊れにくいため、様々な分野への応用が可能です。特に、不安定でこれまで研究が遅れている酵素について、超好熱菌由来の安定な酵素を用いて解析することで新たな展開をもたらすことが期待できます。

研究の成果

NAD(P)及びFAD依存性酵素の多くは、基質から電子を取り出し電極へ渡すことができるため、生体物質の濃度を電気化学的信号として検出する酵素電極型バイオセンサーの素子として応用するのに好ましい性質を持っています。しかし常温生物由来の酵素は不安定なため、センサー素子としての応用研究は遅れていました。我々は、超好熱菌由来の酵素のX線結晶構造解析を行い、安定性の要因を調べました。その情報を生かし各種センサーを開発することができました。

sakuraba6.jpg※超好熱菌由来FAD依存性酵素を利用した細菌毒素遺伝子検出センサー
従来の菌培養法では5日以上の時間を要したレジオネラ菌検出が約2時間に短縮でき、かつ現場で検出可能になった。

研究の魅力

ただひたすら、酵素がどんなかたちをしているかが見たくて研究してきました。  これまで知られていない新しい酵素の構造が分かったときはうれしいです。

研究を始めたきっかけ

酵素はタンパク質ですから、ふつう100℃のような環境に置くと、ゆで卵が調理されるように変性してしまいます。ところが、超好熱菌の酵素は茹で上がらないのです。この超好熱菌の酵素の不思議さに引かれて研究を始めました。

趣味

里山を歩きながらの自然観察