香川大学大学院地域マネジメント研究科
教授 板谷 和彦
経営学(組織論・技術経営論)
2017/11/9 掲載

研究結果の概要

 健康維持に寄与するとして成長著しい機能性食品業界をケースとし、独創的なアイデアを促進するマネジメントを目ざして、同業界の100名以上の研究者から実証データを集め、創造性や偶然の発見(セレンディピティ)を統括して議論できる新しいモデルを提案するとともにアイデア創出に重要な潜在的因子とその影響の道筋を突き止めました。米国ポートランドで開催されたPICMETという学会で発表したところ、秀でた論文に対する学生賞(東京農工大大学院を修了した加藤康介氏)と、その指導に対する表彰を授与されました。

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研究の背景

 高度知識社会が進行する中で、イノベーションの源泉となる活動としてアイデアを創出する重要性が急速に高まっています。アイデア創出に関しては、従来から「創造性」の視点から盛んに議論されてきました。例えば、科学・技術では、発明と発見が創造的活動の中心となります。発明は、新しく創る活動が中心となり、創るという点で、個人の内発的モチベーションを喚起、チームや組織としての活動を活性化することや、牽引者としてのリーダーシップが鍵となります。一方で、発見は、セレンディピティと称する偶然に見出されるものもあるなど、そのプロセスには神秘的な側面も多く、特に組織の中でどのように生成されるのか、促進するにはどうしたら良いのかという示唆はほとんど分かっていませんでした。

研究の成果

 私たちの研究では、セレンディピティに関する因子を体系化したモデルを適用した調査により、組織における「偶然の機会」が発見やアイデア創出に重要であることを初めて実証的に示しました。具体的には、「失敗」や「一見無関係の情報」などから有意にアイデア創出が生まれること、研究者の資質としては、従来から指摘されていた「挑戦志向」だけでなく「異端志向」という側面も重要であることを浮き彫りにしました。さらにそれらの因果関係を解き明かす中で、組織には「協調的な風土」が重要であることも分かってきました。上からぎゅうぎゅうと「注力テーマにエースを集めよ」「成果出せ」というマネジメントや組織は「最悪」ということです。失敗や関係ないことをしていることを「見て見ぬふり」をして、「異端児にも何となく居場所がある」という環境を醸成することが鍵となるということです。研究の現場の関係者は薄々「そうではないか」と思っていたことを、きちんとデータを業界から収集し、実証的に示したのに意義があると考えています。

研究の魅力

 社会や組織に横たわっている事実を発見する醍醐味にあります。すでに無意識の内に行っている行動に実はパターンや関係性があることを見出して、「こんな形でしょ」と示して認められることの快感はほかでは得られません。

研究を始めたきっかけ

 私自身、企業の研究所で長い間、工学研究者として発明や発見に携わっていました。日々おびただしい試行錯誤を繰り返す中で、「飛躍的な発明・発見はどのようにすれば促進できるのか」という問いを解決してみたくなりました。そこで社会人として大学院に入り、関係する分野を学び直し、以来この研究をずっと探究してきました。

この研究の将来的な展望

 今回の研究では、組織における偶然の発見(セレンディピティ)を促進する因子や因子間の因果関係を明らかにしました。今後はこの研究から得られた含意に基づき、効果的なマネジメントシステムの構築や、効果的な組織設計などに展開していきたいと考えています。経営学というのは「実践」の側面も重要であり、協力が得られる企業があれば、有効性を調べるための実証的な社会実験も進めていきたいと考えています。

今、お読みの本を教えてください

 「わたしを離さないで」カズオ・イシグロの代表作、ノーベル文学賞を受賞した同氏の旬の1冊として。「島はぼくらと」島嶼を舞台にした読みやすい作品。「マッハの恐怖」何度も読み直すノン・フィクション不朽の名作、などですかね。もちろん担当する講義を良くするために経営学関連の専門書には毎日目を通していますよ。

趣味

 料理(カレー、麺類など。家族が「店を開いたら」との腕前)、ジョギング(香大周回コースでタイム更新中)、バンド活動(キーボーディストとして30年ぶりにプログレバンドを再結成!)などです。

発表論文と関連URL

 

Exploring effective factors for the generation of innovative ideas and technologies in functional food R&D, PICMET(Portland International Center for Management of Engineering and Technology) '17 Conference (2017).

学生賞と、その指導に対する表彰の歴代受賞リスト(PICMETサイトより)
http://www.picmet.org/main/student_award.asp

論文PDF(ただし、PICMETメンバーオンリー)
https://www.picmet.org/db/member/proceedings/2017/DATA%5C20-06.PDF