香川大学医学部の西山 成教授を研究開発代表者とする研究課題「抗体産生誘導 Wnt 阻害薬の開発」が、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「大学発医療系スタートアップ支援プログラム(シーズS1)」のうち、筑波大学拠点実施分に採択されました。本研究では、家族性大腸腺腫症(FAP)を主な対象として、抗体産生誘導型のWnt阻害薬候補KU-FAP001の実用化に向け、非臨床・CMC(製造・品質)・臨床開発に向けたスタートアップの準備を進めます。研究開発期間は2026年10月1日から2029年3月31日までの予定です。
発表のポイント
・FAPは若年期から大腸に多数のポリープが生じ、生涯にわたるがん予防と疾患管理を必要とする遺伝性疾患です。
・KU-FAP001は、患者さん自身の体内でATP6ap2を認識する抗体の産生を誘導し、FAPの病態に関わるWntシグナルを抑えることを目指す開発候補品です。
・助成期間中に、第三者機関での非臨床POC検証、製造・品質管理体制の構築、GLP試験用被験物質および治験薬の製造、First-in-Human(FIH)試験の準備を進めます。
・研究成果の社会実装を担う大学発スタートアップの設立に向け、事業計画、人材、資金調達、知財・規制対応の準備を並行して進めます。
・採択結果については、こちらをご覧ください。https://www.hosp.tsukuba.ac.jp/t-credo/1485
背景:家族性大腸腺腫症(FAP)が抱える医療ニーズ
FAPは、主にAPC遺伝子の病的変化を背景として、大腸に多数の腺腫(ポリープ)が生じる遺伝性疾患です。日本に7,300人、世界で40万人の患者さんがおられるとされています。放置すれば100%大腸がんで死亡するため、大腸の全摘出術が世界的な標準治療ですが、手術後の癒着や腸閉塞、デスモイドの発生、慢性的な下痢・脱水などの生活の質への影響が大きな問題となっています。一方、最近は内視鏡でポリープを繰り返し切除する大腸温存の取り組みが開始されましたが、頻回の処置が必要なため、患者さんと医療者の双方に負担があります。また、大腸外腫瘍は大腸内視鏡では治療できないため、手術の回避・延期や内視鏡治療の負担軽減、臓器機能の温存につながる薬物療法の開発が求められています。
研究シーズKU-FAP001の特徴
FAPでは、細胞の増殖や組織の恒常性に関わるWntシグナルが過剰に活性化します。一方、Wntシグナルは正常組織にも重要であるため、経路全体を広く抑える方法では副作用が課題となり得ます。当研究グループは、FAP病変で発現が高まるWntシグナルの補助因子ATP6ap2に着目し、その機能に関わる特定部位を標的としました。
KU-FAP001は、ATP6ap2由来のペプチドをキャリアタンパク質CRM197に結合し、アジュバントを組み合わせた抗体産生誘導型の開発候補品です。投与後に患者さん自身の免疫反応を利用して抗ATP6ap2抗体の産生を促し、病的なATP6ap2由来のWntシグナルを持続的に抑えることを目指します。一般的な抗体医薬のように抗体そのものを繰り返し投与するのではなく、体内での抗体産生を利用する点が特徴であり、少ない投与回数で長期間の作用を得られる可能性があります。

採択事業で進める主な研究開発
・第三者機関による非臨床POCの検証
FAPモデルマウスを用いて、ポリープの数と大きさ、抗体価、関連指標等を評価し、第三者機関における非臨床POCの取得を目指します。
・製造・品質基盤の整備
品質規格および試験方法を整備するとともに、CDMOを選定し、製造・試験方法の技術移管を進めます。これにより、CDMOへの移管完了を目指します。
・非臨床安全性試験の準備
GLP安全性試験に用いる被験物質を製造し、その品質を確認することで、GLP試験へ供給できる状態を整えます。
・FIH試験用治験薬の製造
GMP管理下でFIH試験用治験薬を製造し、品質および安定性を評価することで、臨床試験用製剤の確保を進めます。
・FIH試験の準備
PMDA相談ならびに臨床専門家および生物統計家の助言を反映し、治験実施計画書の原案を作成します。これにより、実行可能な試験計画原案の完成を目指します。
研究開発体制
研究開発代表者 : 香川大学 医学部 薬理学 教授 西山 成
研究課題名 : 抗体産生誘導 Wnt 阻害薬の開発
採択枠 : 筑波大学・大学発医療系スタートアップ支援プログラム(シーズS1)
用語解説
家族性大腸腺腫症(FAP):APC遺伝子の病的変化などにより、大腸を中心に多数の腺腫が生じる遺伝性疾患。大腸がんの発症リスクが高く、継続的な検査・治療が必要となります。
Wntシグナル:細胞の増殖や分化、組織の維持に関わる細胞内シグナル伝達経路。FAPではこの経路の過剰な活性化がポリープ形成に深く関わります。
ATP6ap2:(プロ)レニン受容体とも呼ばれる分子で、Wntシグナルの調節にも関わります。研究グループはFAP病変での発現亢進に着目しています。
抗体産生誘導薬:標的分子の一部を利用して、患者さん自身の体内で標的に対する抗体の産生を促すことを目的とした医薬品の考え方です。
非臨床POC:動物モデルなどを用いて、治療の考え方(コンセプト)が成立する可能性を示すこと。
CMC/GLP/GMP:CMCは医薬品の化学・製造・品質管理、GLPは非臨床安全性試験の信頼性を確保する基準、GMPは医薬品を適切な品質で製造するための基準です。
FIH試験:開発候補品を初めてヒトに投与する臨床試験(First-in-Human試験)。
本発表について
本資料に記載したKU-FAP001は研究開発段階の候補品であり、有効性および安全性は確立していません。本発表は研究助成の採択と研究計画をお知らせするもので、特定の治療を推奨するものではありません。
□お問い合わせ先
<研究に関すること>
香川大学 医学部 薬理学 教授 西山 成
TEL : 087-898-5111
E-mail : nishiyama.akira@kagawa-u.ac.jp
<報道に関すること>
香川大学 医学部 総務課 広報法規・国際係
TEL : 087-891-2008
E-mail : kouhou-m@kagawa-u.ac.jp