香川大学医学部自律機能生理学の山下哲生助教、平野勝也名誉教授(現・福岡歯科大学客員教授)らの研究グループは、金沢大学ナノ生命科学研究所の古寺哲幸教授、岡山理科大学の江藤真澄教授らとの共同研究により、約30年にわたり未解明であったミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(以下MLCP)のサブユニットM20の酵素活性調節における生理機能を初めて明らかにしました。この研究成果は、2026年7月22日米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載されました。
【研究の背景】
血管が拡張すると血圧が低下したり、臓器血流が増加しますが、MLCPはこの反応を担う重要な酵素です。さらには、細胞の運動や分裂など多様な生命現象にも関与しています。1990年代前半に、MLCPが触媒サブユニット(PP1c)と2つの非触媒サブユニット(MYPT1およびM20)からなる3量体酵素であることが明らかになりました。その後の研究により、MYPT1の特定の部位がリン酸化の修飾をうけるとMLCPの酵素活性が低下し、血管が過剰に収縮することが分かりました。しかし、MLCPの調節におけるM20の生理的役割は不明でした。
【研究内容と成果】
研究グループは、独自に構築した出芽酵母発現系を用いて高純度のMLCP複合体を調製し、生化学的解析と高速原子間力顕微鏡による構造生物学的解析を行いました。
その結果、M20が存在しない場合、MLCPはMYPT1とPP1cからなる2量体となり、さらにMYPT1同士の会合を介して「スーパー二量体」を形成することを明らかにしました。一方、M20がある場合、M20がMYPT1に結合することでMYPT1同士の会合を阻害し、「スーパー二量体」の形成を抑制しました。このM20の作用によってMYPT1の自己脱リン酸化(MLCP自身による脱リン酸化)が抑えられ、MLCP活性を抑制するリン酸化状態が維持されることを見出しました(図1)。
【社会的意義と今後の展望】
本研究成果は、長年にわたり不明であったM20の生理機能を初めて明らかにし、MLCP活性制御機構に新たな概念を提示するものです。
今後は平滑筋収縮機構の研究領域にとどまらず、MLCPが関わる血圧調節や細胞運動などを担う細胞内シグナル伝達機構の理解を大きく前進させ、高血圧や血管疾患、さらにはがんなどの病態解明や新たな治療法の開発につながることが期待されます。

図1 M20によるMYPT1の自己脱リン酸化制御機構の模式図
本研究成果から予測されるM20を含まない二量体MLCPと、M20を含む三量体MLCPの構造モデルを示す。二量体MLCPでは、MYPT1とPP1cからなる二量体同士がMYPT1を介して会合した「スーパー二量体」を形成し、MYPT1の自己脱リン酸化が亢進されることで、MLCP活性を抑制するリン酸化状態が低下する。一方、三量体MLCPでは、M20がMYPT1のC末端領域に結合することでスーパー二量体形成が抑制され、MYPT1の自己脱リン酸化が抑制されるため、活性を抑制するリン酸化状態が維持され、血管の収縮につながる。(発表論文 Fig. 6 を改変)
【論文情報】
論文名:Small subunit M20 augments inhibitory phosphorylation of MYPT1 in myosin light chain phosphatase by inhibiting autodephosphorylation
著者:Tetsuo Yamashita, Noriyuki Kodera, Masumi Eto, Risa Omura, Mayumi Hirano, Takeshi Hashimoto, Katsuya Hirano
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
DOI:10.1073/pnas.2534343123
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2534343123
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◆お問い合わせ先
香川大学 医学部 助教 山下 哲生
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