NEXT INNOVATION
― 香川大学発研究シーズ活用レポート ―
vol.20

体はどうやって水分を保っているのか?
私の研究テーマは、「体の水分がどのように調整されているのか」を解き明かすことです。人の体の約60%は水でできています。だからこそ、水は生命活動に欠かせません。しかし、体の水分がどのように保たれているのかについては、まだ分かっていないことがたくさんあります。例えば、子どもの肌と高齢者の肌を比べると、高齢者のほうが明らかに乾燥していますよね。でも、高齢者がたくさん水を飲んだからといって、皮膚の水分が回復するわけではありません。これまで医学では、「飲んだ水の量」と「尿や汗として排出する量」のバランスによって体液は調節されていると考えられてきました。しかし、それだけでは説明できない現象が数多く存在します。私は、体そのものが持つ「水分を保持する力」に注目し、その仕組みを研究しています。
組織の水分を直接測る
従来の体液研究では、血液や尿を調べることが中心でした。しかし、実際に筋肉や皮膚などの組織にどれくらい水分が含まれているのかは、ほとんど調べられてきませんでした。そこで、実験動物を用いて筋肉や皮膚、さまざまな臓器の水分量を直接測定しています。研究を進めると、若い個体に比べて高齢の個体では、筋肉や皮膚などの水分量が確実に減少していることが分かってきました。では、その水分減少が健康にどのような影響を与えるのでしょうか。筋肉量の低下や老化、高血圧との関係はあるのでしょうか。実は、その答えもまだ分かっていません。

腎臓だけではなかった体液調節
今回、文部科学大臣表彰「若手科学者賞」の対象となった研究では、体液調節の仕組みに新しい視点を提示しました。これまで体液調節は、主に腎臓が尿量をコントロールすることで行われていると考えられてきました。しかし研究を進める中で、それだけでは説明できない現象が数多く見えてきました。例えば、ゴム手袋を長時間つけていると、汗をかいていなくても内側が湿ってきますよね。これは皮膚から目に見えない水分が常に蒸発しているからです。こうした現象からも分かるように、体液調節は腎臓だけが担っているわけではありません。体の水分は、腎臓だけでなく、皮膚や筋肉、肝臓など複数の臓器が連携して守られているのです。
参照 : 北田助教(医学部薬理学)が、令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「若手科学者賞」を受賞(2025年04月24日掲載)
現象から考える
私の研究スタンスは、まず現象を見ることです。研究を進める中で仮説が生まれ、その答えを探すために教科書を読む。すると時々、「あれ、説明が合わないぞ」と感じることがあります。もちろん教科書は大切ですが、実際に起きている現象の方がもっと大切です。だから私は、目の前のデータや現場で得られる感覚を信じて研究を進めています。なぜ年齢とともに体の水分は失われるのか。水分の減少は健康にどんな影響を与えるのか。その答えが見つかれば、高血圧や筋力低下の予防、健康寿命の延伸につながるかもしれません。
水の研究が未来を変える
体の水分保持のメカニズムが解明されていけば、可能性は広がります。例えば、アンチエイジングや加齢による筋肉量の低下の予防、高血圧の根本治療などです。さらに、水不足が深刻化する世界において、人や家畜、農作物が少ない水で健康を維持できる仕組みづくりにもつながるかもしれません。もちろん、まだ課題はあります。人の筋肉や皮膚の水分量を正確に測る技術の開発も必要です。なぜ年齢とともに体の水分は失われていくのか。なぜ体は水分を保持できなくなるのか。私は、そのメカニズムを解き明かしたいと思っています。健康や美容の話になると、「これを食べるといい」「これが体にいい」といった情報がたくさんあります。でも、生きるために最も欠かせないのは水です。当たり前すぎて見過ごされてきた「体の水」の謎を追うことが、未来の健康づくりにつながると私は信じています。
医学部 助教
北田 研人(きただ けんと)
大阪府吹田市出身。香川大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。
東京大学大学院医学系研究科(特任助教)、Vanderbilt University Medical Center(Postdoctoral Fellow)、
日本学術振興会(海外特別研究員)、Duke-NUS Medical School(Senior Research Fellow)等を経て2020年より現職。専門は薬理学・体液生理学。
【先生のつぶやき】
教科書は所詮誰かの仮説。真実は現象の中にある。
詳しい情報は、HPから確認できます
香川大学 産学連携・知的財産センター
https://www.kagawa-u.ac.jp/faculty/centers/23894/