副学長閑話(2018.3)

201803副学長


 
香川大学 副学長
(情報・危機管理・特命担当)
吉田 秀典

趣味か高じて・・・ 

東京・上野のお山の南端に不思議な「池」がある。漢文の返り点を付ける練習になりそうな名称の「不忍池」(しのばずのいけ)である。読み方も不思議であるが、不思議な力が私に講義や研究をサボらせ、群生した蓮や「何を食べたらこんなに成長するんだ」と思うような野鯉をぼんやり眺めることもしばしばであった。そんな風景を目の当たりにしながら、ある時、「池の水はどこから来ているんだろう?」と思い、調べてみることにした。

 現在、上野のお山がある上野台と東京大学等がある本郷台の間の谷間には不忍通りと言う道路があるが、実は、縄文時代くらいまでは川が流れており、上野台や本郷台の東側は海であった。その後、縄文海退が起こり、現在の東京の下町に当たる部分が陸となって現れた。低地であった不忍池付近には、この川からの流入で池ができたらしい。自然が為せる業にも驚いたが、さらに驚いたのは、大正時代まで池には川が流れこんでいたものの、その後川は暗渠となり、現在の水源は、若干の自然湧出地下水はあるものの、その大半は近接する京成電鉄京成上野駅地下ホームとJR上野駅新幹線地下ホームからの湧出地下水の人工的な汲み上げ放流で補っている。夏目漱石の著書「三四郎」に、暗渠化される前の川の描写があるので、興味のある方は読まれたい。

 地形は、上述したような自然の力だけでなく、人間の力によって手が加えられることも多々あるが、香東川も然りである。江戸時代の初頭までは、現在の高松市香川町大野あたりで2つに分かれ、分流は現在の水路、本流は一宮から紫雲山の麓を通り、高松城の西側付近で海に注いでいた。当時の本流は、堆積土砂で川底が浅くなり、雨の度に洪水を起こしていたため、当時の分流を本流に切り替えた。現在も、高松市立桜町中学あたりは地下水位が高く、以前はティッシュ工場などもあり、豊富な地下水を利用していた。香川は渇水県であるが、意外にも地下水は豊富である。

 青年の地形や川に対する興味と好奇心は、やがてそれらと強く関わる職業に繋がったわけで、趣味が高じて・・・というのは、まさにこのことだろうか。

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理事閑話(2018.2)

201802理事


 
香川大学 理事・副学長
(研究・産官学連携・教員評価担当)
片岡 郁雄

 皆さん、こんにちは。昨年10月から理事・副学長に-なりました。どうぞよろしくお願いします。今は、もっぱら屋内用務の日々ですが、これまで農学部でキウイフルーツなどの果樹の品種改良に携わり、自生資源の探索のため全国の山間地を巡ってきました。折角の機会なので、ここで関連する話題を一つご紹介したいと思います。

 皆さんは、徳島の代表的な観光地「祖谷のかずら橋」をご存じかと思います。平家の落人が、追っ手を逃れて隠れ住んだ深山の渓谷にかかる吊り橋です。この吊り橋は、現地に自生する蔓を編んで架けたもので、追っ手が迫ると切り落として侵入を阻んだと伝えられています。

 現地で「シラクチカズラ」と呼ばれる吊り橋の材料となる蔓植物は、じつは標準和名を「サルナシ」という、冷涼地に自生するキウイフルーツの仲間です。今や「かずら橋」は、重要な観光資源の一つとなりましたが、3年毎の架け替えに必要な「シラクチカズラ」の蔓が不足しつつあるとのことです。

 これまで現地でも蔓の増殖が試みられてきましたが、自然環境に戻してうまく根付かせることは、なかなか難しいようです。この度、縁あって、国有林を管轄する四国森林管理局・徳島森林管理署と三好市、香川大学農学部の三者で協定を締結し、「シラクチカズラ」の苗の繁殖や蔓・果実の活用に協力して取り組むことになりました。太い蔓に成長して「かずら橋」の材料として使えるようになるまでには、長い年月を要することから、世代を越えた息の長い取り組みになりそうです。

 「シラクチカズラ」のような、地域連携に繋がるシーズ(種子)は、思いがけないところに埋まっていて、ふとしたきっかけで芽生えるものだなあと実感しています。皆さんの足元にも、きっとありますよ。

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理事閑話(2018.1)

香川大学理事・副学長_山下明昭


 
香川大学 理事・副学長(教育担当)山下 明昭

 現在は、まだスタニスワフ・レム氏作のSF小説「ソラリス」や手塚治虫氏の作品「鉄腕アトム」のような世界までには至っていませんが、専門分野も猛スピードで陳腐化していく時代となって参りました。これまで人間にしかできなかったことが、AI(人工知能)【Artificial Intelligence】に取って代わられるということもそんなに遠い世界ではないと東京大学大学院技術経営戦略学専攻の松尾豊特任准教授(香川大学附属坂出小・中卒業生)が述べられています。

 2030年頃には、今のAIの概念を超えた次世代のAIが生まれていると予測する研究者もいます。AIと人間との境目は、生物か否かになるのでしょうか。AIが人間を超える時それは、SF小説「ソラリス」のような世界となっていくのでしょうか。益々人間とは何かという研究が重要になってくるような気がします。「ソラリス」の中に「分からなさを引き受けながらも答えを求め続ける」という表現がありますが、未来を託されている皆さんには、このような感性を身に着けることが重要な時代になってきたのではないでしょうか。

 この感性を磨くために学友と共に「ワクワク感」や「ドキドキ感」「知的好奇心」を研ぎ澄まし「他者を感じる感性」を豊かにすることで、AIとの違いが生まれてくるのではないでしょうか。しかし、世界トップの大学院でいくら学んでも「この禿」「お前なんか死んでしまえ」では、せっかくの高等教育機関での学も無意味なものになってしまいます。知識に裏づけられた知性をもとに、異なった知識や考え方に対しても尊厳と共感を持ちながらコミュニケーションをする。そして学び続けることで未知への冒険者としての感性が研ぎ澄まされるのではないでしょうか。
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学長閑話(2017.12)

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香川大学長 筧 善行

 前回の「学長閑話」では米国のサンフランシスコに拠点を置くミネルバ大学について少し触れた。今回はその続きを書かせていただく。

 東京大学の堀井秀之教授らが率いられるイノベーションの学校「i.school」が、香川県内の高校生を集めて東京大学イノベーションサマースクールを本年8月に小豆島で開講した。その際にファシリテーターとして参加した外国人学生の中に、ミネルバ大学の学生が参加していた。2014年に開校したばかりの大学だが、すでに世界各国から注目を集め、合格率は2%前後という狭き門でハーバード大学以上の難関になっているとのこと。米国の大学ではあるものの留学生の比率が75%と大変高く、私が小豆島で遭遇した学生も一人はインド出身、もう一人は韓国出身だった。自信に満ち溢れて、香川県の高校生とのグループ討論をリードする彼らの姿が印象的であった。

 ミネルバ大学はキャンパスを保有しておらず、授業はすべてon lineとフィールドワーク型のようである。学生は4年間で世界7都市(アジアではソウルと台北、残念ながら日本の都市は入っていない)を渡り歩いて各都市に所在する大学寮で共同生活を送っている。学費の安さは際立っており、米国の大学生の学費の平均の4分の1程度で、学生の必要度に応じた奨学金制度も導入しているため、世界中から学生が集まって来ているようだ。

 なぜ、このようなユニークな大学が誕生し、世界中から注目を集めているのか。背景には我々の社会や生活環境が高度にIT化し、人工知能の導入などで目まぐるしい速度で変化が起こっている一方で、教育の進化がついていけていない現状があるのではないだろうか。ミネルバ大学の校訓は“Sapientia Critica(批判的知恵)”。上書きされる一時的な「知識」ではなく「知恵」と学び続ける「好奇心」を何よりも重要視しているようだ。入学試験は独自の設問集を用いて施行されているそうだが、TOEFLやSATなどの外部試験を一切受け付けていない。料金を払えば何回も再トライが出来て高得点を取れるテストは裕福な家庭の子息に有利になるからだとのことで、我が国の入試改革とはコンセプトが根本的に違うことに愕然とさせられてしまう。

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学長閑話(2017.10)

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香川大学長 筧 善行


 学長となって初めての「閑話」であるので、何か気の利いた所信の様なものを書くべきかと思ったが、このコーナーはあくまでも「閑話」であるので気分の赴くままに書かせていただく。とはいえ、先月号の長尾先生の学長としての最後の「学長閑話」のさらに最後のメッセージ、「引き継ぐ諸氏がすべては後輩のため、本学の発展のためと’塊’となって各自の力量を発揮されんことを期待する」は心にずしんと来るものがあった。身の引き締まる思いである。

 さて、私自身大学生の息子を持つ身であるが、子供を一人大学に通わせるには金のかかるものだと痛感している。地方の国立大学で学ばせていてこれであるから、生活費の高い都心の大学であれば親御さんの脛は相当細くなるのだろうと想像される。本学も奨学金制度を拡充する方向で検討に入っているが、地元の企業などにご理解をさらに求める必要がある。とはいえ、米国に比べ日本の大学生の学費はまだ安い方であることを最近知った(「アメリカの大学の裏側」アキ・ロバーツ、竹内洋. 朝日新聞出版)。米国で日本の国立大学に相当するのは州立大学ということになるが、州外からの学生は年間約240万円、もともと州内居住の入学学生は95万円前後とのことだ。有名州立大学ならばこの1.5倍程度になるらしい。学費高騰の原因は様々のようだが、教員や職員の給与の上昇だけではなく、そもそも各州が大学への支援金を削減していることも要因のようである。これは我が国とも似た背景で身につまされる。とはいえ、学費高騰の結果、全米の学生の3分の2が卒業時にローンを抱え、貧困層の子弟の大学への門は狭まる一方で、米国社会の格差拡大要因の1つとなっている。

 ところで、8月初旬に東京大学のi.schoolが小豆島に香川県内の高校生を集めて東京大学イノベーションサマースクールを開校した。私はわずか半日ではあったが見学に行かせてもらったが、そこであるファシリテーターの米国から参加した大学生に遭遇した。ミネルバ大学の学生とのことだった。数年前に開校したばかりのキャンパスのない全寮制の大学だが、今世界中から注目されている。学費が安いことも売りの1つとのことだが、人気の秘密はそれだけではないらしい。次回はこのミネルバ大学の教育戦略から話を続けてみたい。

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学長閑話(2017.09)

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香川大学長 長尾省吾

汗と涙の跡・机は残っていた

 7月末、約1週間の予定で40年前に脳神経外科の研究と学修を含めてあらゆる人生経験をした米国シカゴのクックカウンティ病院(CCH)訪問とミシガン大学での国際会議に出席してきた。昔の友人の大歓待はさておき、主に若き日の時間を過ごしたヘクトン研究所を訪れた。さすがに建物は古くなり、人の出入りも少なく感じたが、7階にあった私のラボは、40年前の雰囲気とたたずまいを残し、何より驚いたのは、私のオフィス、汗と涙の思い出の机、手術室、研究室が40年前のそのままに残され、掃除も行き届きピカピカで、明日からすぐ使える状態で保存されていたことである。友人は退職したらここでまた仕事をしないかなど嬉しいことを言う。

 CCH病院は米国でも1,2位を争う旧い病院で、さすがに現代医療提供機能に対応できない運命にあったが、米国では珍しいゴシック様式の正面玄関はシカゴの歴史史跡として残す作業がなされていた。私の青春の大きな時間を占め、人生を鍛え、世界人との付き合い方を教えてくれた古巣に、しばらくはじっと目を閉じ、たたずむしかなかった。

 私の6年間の任期も9月一杯で満了となる。本学教職員・執行部の皆さんの総力により創造工学部新設、経済学部改組、医学部臨床心理学科の設置等全学的な改革を実現することが出来たが、この新しく生まれかわる香川大学が、今後何十年も先にどのように評価されるか、シカゴの机のようになっているのか思いは巡る。

 引き継ぐ諸氏がすべては後輩のため、本学の発展のためと“塊”となって各自の力量を発揮されんことを期待する。

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理事閑話(2017.08)

川池理事写真


 
香川大学 理事・副学長
(財務・施設・地域連携・特命担当) 
川池秀文

今、讃岐平野は、美しい。

今、ふるさと 讃岐平野は、圧倒的に美しい。
  天気のいい日に、東京からの出張帰りの飛行機から見える、青空の下に広がる讃岐平野の光景は、緑の絨毯のような田んぼ、きらきらと輝くため池、網の目のように張り巡らされた水路など、まるでアート作品のような田園風景、まさに絶景である。
  これは、雨が少なく、水資源に乏しい讃岐において、先人の英知と努力によるものであり、今から約1,300年も昔に日本最大級のため池である満濃池の築造をはじめ、これまで永年にわたり約14,600箇所のため池が造られ、また、徳島県の吉野川から導水する香川用水など、日本列島の長さの約半分となる1,200キロメートルを越える水路が開設され、讃岐平野のインフラ、基盤の整備がされたことによるものである。
  しかしながら、我々は、昨今の社会経済状況の変化と相まって、農業従事者の減少、耕作放棄地の増加、鳥獣被害の拡大など厳しい農業情勢とともに、地域の人口減少や急速に進行する少子高齢化の中で、ため池や水路、田園を維持し、この美しい讃岐平野を継承して行けるのだろうか。ため池や水路などは、稲作を通して、地域の集落、住民によって維持・保全されており、どのように継続させて行くのか。農村地域の水源涵養や洪水防止など多面的機能の低下が懸念される中、県土や自然環境の保全をどうするのか、持続可能な地域社会の構築について、考えていく必要があると思う。
  今、国を挙げての地方創生の中で、大学においては、フィールドワークやワークショップの実施など学生の地域理解の推進に取り組んでいる。地域の実情を理解し、人々の価値観の変化などを踏まえて、新しい地域像、地域づくりを考えて行かなければならない。この美しいふるさと、讃岐平野を是非守りたいものである。

讃岐平野イメージ

理事閑話(2017.07)

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香川大学 理事・副学長(総務・労務担当) 特殊文字画像

YOUTH(青春)

 「青春とは、人生の一時期のことではなく、心のあり方のことだ。」
 これは、米国の詩人サミュエル・ウルマン(1840-1924)の詩「YOUTH(青春)」の一節である。詩の中では、「人間は年齢を重ねた時老いるのではない。理想をなくした時老いる。」とも謳っている。
 この詩を座右の銘にしていたのが、往年の経営者 松下幸之助氏である。 また、日本初の女性報道写真家として度々マスコミに取り上げられる笹本恒子氏など、100才を超える今も尚、この詩の「青春」を体現している方々がいる。
 これらの方々に共通した人生との向き合い方には、「あくなき好奇心・探求心」、「目標へのチャレンジ意欲」、「好きなことをやり続ける努力」などが見て取れ、ともすれば安きに流されそうな自分自身を支えるロールモデルにもなって、大いに励まされる。
 大学のキャンパスに集い、行きかう皆さんの溌剌とした賑わいの中に、爽やかな活力を感じる日々を過ごしているが、段々と年齢を重ねるにつれ、時間感覚が若い時より短くなってきているのを実感しており、益々「貴重な時間の使い方」を意識するようになった。
 若者の特権である「時間」を十分持っている皆さんには、漫然と日常に埋没することなく、将来進むべき目標や理想をもって充実した学生生活を送っていただき、まさに今ある「青春」を謳歌してもらいたいものである。

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理事閑話(2017.06)

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香川大学 理事・副学長(企画・特命担当) 清水 明
遍路の山道を歩く


 四国に住むことになったのだからという軽い気持ちで、厚い信心も修行の心構えもないままに、 八十八箇所霊場のいくつかを訪れている。高松市街から近い屋島寺、八栗寺、根香寺は、健康増 進も兼ねて遍路道を歩いて登ってみた。
 急な坂道ではあるが、道は歩きやすく整備され、地元の方々の活動だろうか、草刈り・清掃も されている。鶯の鳴き声、緑の木々を抜ける風、道端の野の花に舞う蝶などに癒やされつつ歩を 進め、霊場に到着すると、眼下には穏やかな瀬戸内海とともに、高松の町の家々も小さく見える 。「汗をかいて登って見る景色の美しさは、車やロープウェイで来た人にはわからない」と自分 勝手に満足する。
 また、遍路道ですれ違う老若男女と交わす挨拶は心に元気をくれる。遍路の装束の方、犬と散 歩中の方など様々で、重そうな荷物を背負った外国人の歩き遍路も多い。また、お接待の飲み物 をいただいたこともある。不真面目な遍路なので恐縮してしまうのだが。
 霊場の寺院だけでなく、そこへと至る遍路道、風景、人々などの全体から、生きていくパワー が伝わってきた。東京に長く暮らしてきた私にとって、これらは四国・香川でしか得ることので きない新鮮で貴重な体験である。
 今、地域の特色と強みを生かした「地域創生」(まち・ひと・しごと創生)が大きな社会的課 題となり、大学にはその推進役としての役割が期待されている。遍路体験を通じて得られた前向 きな姿勢で、地域の魅力(もちろん「うどん」と「遍路」だけではない!)とそれを生かすアイ デアを発見し、国内外に発信していくことはできないだろうか、と考えている。

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理事閑話(2017.05)

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香川大学 理事・副学長(研究・評価担当筧 善行

マツバウンラン


 桜が満開の某日、大学の傍のとある喫茶店で食事をしていると、カウンターの上でガラスコップに無造作に生けられた紫色の蘭に似た小さな花が目にとまった。「マツバウンランです。香川大学のまわりにたくさん咲いてますよ。」と欧州風の可愛いコスチュームを着た女性主人が教えてくれた。調べてみると帰化植物だそうで、華奢なみかけとは異なり大変逞しい植物と分かった。日本本土に成育する約4000種類の植物のうち約1200種類がこのような帰化植物だそうである。植物の世界の方は日本もグローバル化がかなり進んでいるようだ。インターネットによる情報量の加速度的な増加などで世界はグローバル化が急速に進行しているが、一方で移民問題やテロの勃発など問題が次々噴出している。四方を海で囲まれた日本はどちらかというとグローバル化の進行が遅く、この様な問題もどこか人ごとの様な受け止められ方が依然として強い。しかし、香川県に在住する外国人は他の四国3県よりも多く、1万人近くに増加している。大学の周辺のコンビニエンスストアに入ると、外国人留学生とおぼしき若者がたどたどしい日本語でレジ応対してくれる機会が増えた。接客マナーは厳しく教育されているようで、一生懸命日本の生活に馴染もうとしている様子がほほえましい。昨今の世界情勢は内向き傾向が目立つが、彼ら外国人の多様な文化を寛容に受け入れ、日本文化と調和させ、逞しい香川、逞しい日本にしたいものである。

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理事閑話(2017.04)

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香川大学 理事・副学長(教育担当)井 宏史

クールジャパン


 最近、日本を訪れる海外からの観光客が急増し、テレビではクールジャパンをテーマにした番組が花盛りです。こうした番組を見ると、海外からの観光客が日本のどこに魅力を感じて訪れているのかが分かり、日頃気づかない日本の良さを再発見できますが、日本の良さの背後にあるクールでない側面、日本社会の現実を考えさせられることもあります。
 例えば海外からの観光客が一様に驚くのは、電車の中で居眠りをする日本人が多いことのようです。これは居眠りができるほど電車内が安全で治安が良いことを示すだけでなく、居眠りをするほど疲れている人が多い日本社会の現実を示しているかもしれません。また日本人の美徳とされる「おもてなしの心」や勤勉さは、海外にない消費生活の豊かさをもたらしてくれていますが、過労死を生み出しかねない働き方で実現されているかもしれません。
 そこで政府はこうした厳しい働き方にブレーキをかけようと「働き方改革」を進めています。最近の報道によると、長時間営業の外食産業やデパート、ネット通販の比重が高まる宅配便業界では、労働環境が悪化し従業員確保が困難なため営業持間の見直しや配送サービスの見直しが行われるようです。
 日本が真の意味でクールになるには、海外からの観光客に、観光で訪れるだけでなく、日本で働き生活したいと思ってもらえる魅力をつくることです。それが実現できて初めて、クールジャパンと世界に胸が張れるでしょう。ちなみに米国の「社会発展調査機構(Social Progress Imperative)」が発表した「2016 世界で住みやすい国ランキング」で、日本は14位です。

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他年度のメッセージ