香川大学創造工学部の田原圭志朗准教授と田原梨珠さん(研究当時:創発科学研究科博士前期課程在籍)らの研究グループは、パラジウム錯体の薄膜デバイスを開発し、表示デバイスへの応用に向けたユニークな動作機構を構築しました。本研究成果は、英国王立化学会の国際学術誌「Dalton Transactions」に掲載されました。また、同誌で高い評価を受け、Back Coverに採択され、令和8年4月14日に公開されました。
本研究における主なポイントは以下3点です。
・パラジウムを金属中心とする金属錯体が、電気化学的な条件で自己酸化還元反応を起こすことを確認し、反応を促進させる添加剤を見出しました。
・薄膜中での自己酸化還元反応を達成し、パラジウム錯体の酸化還元状態の変換と省エネルギー条件での状態の読み取りに成功しました。
・金属錯体化学分野、電気化学分野、デバイス関連化学分野の境界領域における研究成果であり、今後、化学反応を利用した不揮発性メモリや電子ペーパーへの応用展開が期待されます。

■ 研究の背景
エレクトロクロミズムとは、電位の印加により物質の酸化還元状態が変化し、それに伴って色が可逆的に変化する現象です。電子ペーパーやスマートウィンドウなどへの応用が期待されていますが、所望の物質の色を維持するには継続的な電力供給が必要になります。そのため、低消費電力でのデバイス動作の実現に向けて、新しい仕組みで色が変わるエレクトロクロミック材料の開発が求められています。
■ 研究の内容
本研究では、「自己酸化還元反応(不均化反応)」に注目しました(図1(a))。通常、酸化還元反応は、酸化剤と還元剤という二つの異なる物質間で進行します。一方で、自己酸化還元反応は、同一の物質間で進行し、酸化された生成物と還元された生成物が50%ずつ生成します。このような同一の条件で二種類の生成物が安定に存在できる性質(双安定性)を活かし、電気化学的な制御によって片方の生成物に偏らせることができれば、その後はマイルドな電位や電力供給なしでも所望の色を表示することができると考えました(図1(b))。
今回、エレクトロクロミック材料には、パラジウムを金属中心、カテコールを配位子とする金属錯体を選択しました。このパラジウム錯体は、自己酸化還元反応を起こすことが報告されていましたが、本研究では電気化学的な条件でも自己酸化還元反応が進行することを確認し、塩化物イオンの添加により反応が加速することを見出しました。さらに、電解重合により電極上にパラジウム錯体の薄膜を作製し、薄膜中で自己酸化還元反応を進行させることが出来ました。パラジウム錯体の酸化還元状態の変換に伴って、錯体の色が変化し、変化後の状態をマイルドな電位で読み取ることに成功しました(図2)。
■ 論文情報
掲載誌:Dalton Transactions, 2026, 55, 5485–5494.
論文題名:A Pd(II) catecholato complex bearing 5,5'-divinyl-2,2'-bipyridine: synthesis, characterization, and electrochemical disproportionation in solutions and electropolymerized films
著者:Rizu Tahara, Kohei Matsuura and Keishiro Tahara
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/dt/d5dt03022f
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/dt/d6dt90060g
【研究に関するお問い合わせ先】
香川大学 創造工学部 材料物質科学領域 准教授
田原 圭志朗(たはら けいしろう)
E-mail : tahara.keishiro@kagawa-u.ac.jp
【報道に関するお問い合わせ先】
香川大学 林町地区統合事務センター総務課庶務係 藤原・二宮
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