香川大学の寺尾京平教授と高橋昂生さん(研究当時:工学研究科博士前期課程2年)は、細い金属ワイヤー(ピアノ線)を空間に張り巡らせるシンプルな方法により、微小な流路構造を持つ新しいマイクロ流体デバイスを作製する技術を開発しました。本研究では、細いワイヤーの束を「あやとり」のようにねじって配置することで、ワイヤーが途中の断面で自然に密集する幾何学的な原理を利用し、微小ノズルが高密度に集積した三次元マイクロ流路構造の作製に成功しました。
マイクロ流体デバイスは、細胞や組織を扱う生命科学研究、医療診断、創薬などの分野で重要な技術です。特に、微小なノズルから液体を吸引・吐出して試料の一部だけを選択的に処理する「マイクロ流体プローブ」は、細胞や組織の局所解析に有用とされています。しかし、従来のデバイスは半導体微細加工や高精度3D光造形などの高度な製造技術を必要とし、製造工程が複雑でコストが高いという課題がありました。
今回の研究では、細いピアノ線をあやとりのように空間に配置し、それを樹脂の型として利用するというシンプルな発想により、微小流路構造を作製しました。本手法により直径数十マイクロメートルの微小ノズルが高密度に並んだデバイスを作製することができます。さらに、それぞれのノズルは独立した流路に接続されており、吸引と吐出を個別に制御できます。これにより、細胞や組織のごく小さな領域を選択的に解析したり、特定の細胞を回収したりする技術への応用が期待されます。また、このような高密度の微小ノズル構造は、細胞や生体材料を積層して人工組織を作る「バイオプリンティング」にも応用でき、多数の微小ノズルを用いることで、従来よりも高い解像度で人工組織構造を形成できる可能性があります。
本研究は科学技術振興機構(JST)「創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR212D)」の支援により実施されました。
本研究成果は、令和8年4月10日、バイオマイクロデバイス分野で代表的な論文誌Lab on a Chip誌に論文が掲載されました。
◆掲載論文
論文名:Facile fabrication of high-density two-dimensional micronozzle arrays using
twisted thin-wire molds
雑誌名:Lab on a Chip
著者 :Koki Takahashi(高橋 昂生), Kyohei Terao(寺尾京平)* (*責任著者)
DOI :10.1039/D6LC00036C
◆研究の背景
微小な液体を精密に操作するマイクロ流体デバイスは、細胞解析、組織解析、創薬、バイオプリンティングなどの分野で重要な技術となっています。特に、微小ノズルから液体を吸引・吐出して微小領域だけを選択的に処理する技術(マイクロ流体プローブ)は、細胞や組織の局所解析に有用です。しかし、従来の作製方法は、半導体微細加工(フォトリソグラフィ)による多層構造の作製、高精度3D光造形(2光子重合など)などを必要とし、製造工程が複雑でコストが高いという問題がありました。また、多数の微小ノズルを高密度に配置し、さらに、それぞれを独立した流路として制御する構造の作製は難しく、ノズル密度や構造の自由度に制約がありました。このため、より簡便な方法で高密度かつ独立流路を持つ微小ノズルアレイを作製する技術が求められています。
◆本研究のアプローチ
細い金属ワイヤー(ピアノ線)を「あやとり」のように空間に張り巡らせるというシンプルな発想から、三次元マイクロ流路構造を作る新しい方法を提案しました。張り巡らされたワイヤーをねじって配置することで、途中の断面でワイヤーが自然に高密度に集まる幾何学的原理を利用しています(図1)。このワイヤー配置を型として樹脂に転写することで、微小ノズルが高密度に集積したマイクロ流体デバイスを作製することに成功しました。細いワイヤーを多数配置すると、互いに接触してしまう問題がありますが、これを避けるため、ワイヤーの配置角度や間隔を数学的モデルと実験で最適化するとともに、作製用器具の設計を工夫しました。
◆本技術がもたらす成果
従来法では達成できなかった三次元的な微小構造が、単純なあやとりの原理で作製できます。半導体微細加工や高精度3Dプリントを用いず、単純なワイヤー配置と樹脂成形だけで三次元マイクロ流路を形成し、従来法では作製できなかったノズル直径35マイクロメートル、85マイクロメートル間隔の4×4高密度ノズルアレイを実現しました(図2)。さらに、各ノズルは独立した流路に接続されており、吸引と吐出を個別に制御可能であることから、実験では、複数のノズルから抗体液体を同時に操作し、マイクロメートルスケールの局所流体制御を実証しました。
◆今後の展開
本方法は、身近な「あやとり」の原理を極細ワイヤーに適用することで、従来法では達成できなかった3次元マイクロ流路構造を簡便に形成できます。本手法で作製したデバイスは、微小領域だけを薬液処理できるため、細胞や組織切片の局所解析、特定の細胞だけを回収する技術などの生物医学研究に応用できる可能性があります。また、微小ノズルを多数並べた構造は、3Dバイオプリンティング(人工組織作製)のノズルとしても利用でき、ノズルが高密度であるため、従来よりも高解像度の人工組織構造を作れる可能性があります。製造方法がシンプルで、クリーンルーム設備や高額な加工装置も不要なため、研究機関や企業が低コストでデバイスを作製できる点も期待されます。
▶お問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ先】
香川大学 創造工学部 教授 寺尾京平 (微細構造デバイス統合研究センター 副センター長 併任)
TEL:087-864-2436
E-mail:terao.kyohei@kagawa-u.ac.jp
【報道に関する問い合わせ先】
香川大学林町地区統合事務センター総務課庶務係 藤原・二宮
TEL:087-864-2000
E-mail:shomu-t@kagawa-u.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
TEL:03-5214-8404
E-mail:jstkoho@jst.go.jp
【JST事業に関する問い合わせ先】
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