香川大学医学部医学科5年生の森下陽香さんが、医学部形態・機能医学講座組織細胞生物学研究室での2年次早期医学実習から自主的に研究を継続し、今回その研究成果を英語論文にまとめたものがElsevier出版の国際生命科学誌Experimental Cell Researchに掲載されました。この研究は、ライブセルイメージングと光―電子相関顕微鏡法(CLEM)を用いることでがん細胞の浸潤・転移に関わる新しいタイプのラメリポディア(葉状突起)の存在を明らかにし、がん浸潤メカニズムの解明に新たな洞察を提供しました。

研究内容:
ラメリポディア伸展による細胞移動は、胎児発生、創傷治癒、炎症、がん浸潤などさまざまな生命現象において非常に重要です。アクチン結合タンパク質の一つであるアクチニン4(ACTN4)の発現量は、がんの悪性度と相関性があることから、がんバイオマーカーとしての有用性が見込まれています。しかし、ACTN4と細胞移動の関連性については十分に解明されていません。

従来、ラメリポディアは平坦な細胞突起と定義されており、細胞はこの突起を伸ばすことでその方向に移動することがわかっています。しかし、本研究では、GFP(緑色蛍光タンパク質)融合ACTN4を発現させた培養がん細胞を生きたまま顕微鏡観察するライブセルイメージングと光学顕微鏡像を電子顕微鏡と対応させて観察するCLEM法により、ACTN4を豊富に含んだ多層膜ヒダ(ruffles)を先端に持つ特殊なラメリポディア(図参照)の存在を証明し、「ruffle-edge lamellipodia」と命名しました。この新規タイプのラメリポディアは、通常の平坦なラメリポディアより運動能が高く、ACTN4のノックダウンにより先端ヒダ形成と細胞移動が抑制されることがわかりました。また、ACTN4は細胞膜イノシトールリン脂質であるPIP3との結合能を有しており、PI3K阻害剤でPIP3産生を抑制するとラメリポディア先端のACTN4局在が消失するとともにヒダ構造もなくなることから、PI3K活性がこの構造形成の重要な因子であることが示されました。このヒダ状になった細胞膜にはマトリックスメタロプロテアーゼ(MT1-MMP)が局在することから、ラメリポディア先端で細胞外マトリックスのコラーゲンを分解しながら細胞間質を移動するのに合理的な構造と考えられます。

この新規タイプのラメリポディアは、ヒト肺がんA549細胞などの特に浸潤能が高いがん細胞株でよく見られることから、がん浸潤・転移メカニズムの解明、さらに浸潤・転移をターゲットとした新しいがん治療法の開発につながることが期待されます。

なお、本研究成果は、日本医科大学の本田一文教授との共同研究によるものです。

森下陽香さんは、2年生の時から形態・機能医学講座組織細胞生物学の荒木伸一教授の指導のもとで研究を継続的に行い、これまでに第128回および第129回日本解剖学会全国学術集会で2回にわたり学会発表を行っています。今回、その研究成果を筆頭著者として英文論文にまとめたものが、Elsevier出版の生命科学雑誌 Experimental Cell Research, Volume 442, Issue 2, October 2024,114232 (オンライン版 2024年9月1日)に受理、掲載されました。

図.png
図の説明
(A)GFP-ACTN4(緑色蛍光タンパク質融合アクチニン4)を遺伝子導入により発現させた培養細胞の超解像共焦点レーザー顕微鏡(Nikon AX NSPARC)画像。矢印はACTN4が豊富に局在するラメリポディア先端の膜ヒダを指す。青色は核。
(B)GFP-ACTN4蛍光顕微鏡画像(左)点線枠内の同一視野をCLEM法で観察(右)。走査電子顕微鏡(SEM)でラメリポディア先端ヒダの微細構造が立体的に観察できる。
(下記の論文より改変)

論文情報
Live-cell imaging and CLEM reveal the existence of ACTN4-dependent ruffle-edge lamellipodia acting as a novel mode of cell migration
Haruka Morishita, Katsuhisa Kawai, Youhei Egami, Kazufumi Honda, Nobukazu Araki (責任著者) 
Exp. Cell Res. 442 (2), 114232, 2024.
https://doi.org/10.1016/j.yexcr.2024.114232
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014482724003239?dgcid=author

Open Access Preprint版 13011556 (biorxiv.org) Live-cell imaging and CLEM reveal the existence of ACTN4-dependent ruffle-edge lamellipodia acting as a novel mode of cell migration | bioRxiv

==================================
お問い合わせ先 
香川大学医学部 形態・機能医学講座 組織細胞生物学 
荒木 伸一
 TEL:087-891-2089 FAX: 087-891-2092
 E-mail:araki.nobukazu@kagawa-u.ac.jp

※上記不在の場合
香川大学 医学部 総務課 広報法規・国際係
TEL: 087-891-2008 FAX:087-891-2016
E-mail:kouhou-m@kagawa-u.ac.jp