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■発表のポイント
・人々の移動行動データは、「何処から何処へ何人移動したか」という地点間の関係性を示すデータである。感染症対策を始め、防災やマーケティング、交通・都市計画などへ活用されている。
・しかし情報過多のため、地点から地点への移動行動の全体像を地図上で把握することが困難であった。
・その解決として、移動データの背後にある引き寄せる力(ポテンシャル場)を抽出することで、水が高いところから低いところに流れるように、人流の全体像を直感的に可視化することが可能になった。
・ロンドンや東京などを事例に、通勤データからポテンシャル場を可視化し、その変遷から人流の集積地点の発展を見た。
・今後、都市構造が変化・複雑化していく状況を人々の移動行動データから分析できると期待される。

■ 発表概要
  香川大学 教育学部の青木高明准教授、一橋大学 大学院経済学研究科の藤嶋 翔太准教授、東北大学 大学院情報科学研究科の藤原直哉准教授の研究グループは、人々の移動行動データに対してポテンシャル場を導入し、都市空間構造を可視化する手法を発表した。人々の動きを捉える人流データ*1は、携帯電話の普及に伴いリアルタイム計測が可能になっており、感染症対策を始め、防災やマーケティング、交通・都市計画などへ活用されている。しかし情報過多のため、地点から地点への移動行動の全体像を地図上で把握することが困難であった。
  提案法では、各エリアの人流を引き寄せる力(ポテンシャル場)を定量化した。これにより、人口密集地ではなく、人流の流入地点や流出地点が可視化され、人流の全体像を直感的に把握することが可能になった。1988年から2018年にかけて東京都市圏の通勤データからポテンシャル場を抽出し、東京都立川市やさいたま市大宮区などが、人流の集積地点として発展したことを確認した。今後、行動制限やリモートワークへの移行、さらなるライフスタイルの多様化が進む中、都市構造が複雑化していく状況を人々の移動行動データから分析できると期待される。
  本成果は2022年7月4日(米国東部夏時間)にネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開された。

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<図1>
ロンドンの通勤流動データ(2011)を直接表示しても情報過多のため,“もや”のようにしか見えない(左図)

ポテンシャル場を分解することで,人々の流れを惹きつけている地点が可視化される(右図)

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<図2
東京首都圏の通勤流動データに基づく、ポテンシャル場の変遷

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<図3>
何パーセントの通勤流動がポテンシャル場の勾配流で記述可能か?アメリカ合衆国の都市圏を評価

■発表内容
背 景
  人々の移動行動データは、「何処から何処へ何人移動したか」という地点間の関係性を示すネットワークデータである。このデータには「どこに住むか」「どこで働くか」「どこで買い物するか」といった人々の判断とともに、交通システム等の都市環境が反映されており、この行動記録から「都市の姿」を可視化したいというニーズがある。しかし膨大な関係性データは情報過多のため、地図上への可視化が困難である。そのため移動記録を捨て、人口分布のスナップショットのみを可視化し、その増減を分析する等の対応が行われてきた。
手 法
  移動行動を表現する行列に対して組合わせホッジ理論*2を適用し、(スカラー)ポテンシャル場で記述できる成分と、それ以外の循環流成分に一意的に分割した。ポテンシャル場は地点毎の統計量となるため、容易に地図上に可視化できる。ポテンシャル場を見ることで、人口密集地ではなく、人々の移動の流れの流入地点(人々を惹き付けている場所)や流出地点を把握することができる。
結 果
  2011年のロンドンに通勤流動データをポテンシャル場に分割し、中心地区や再開発地区が主要な通勤流動の流入地点になっていることが確認した(図1)。また1988年から2018年にかけて東京首都圏の通勤流動データに対して、ポテンシャル場の変遷を見た(図2)。過去30年にわたり、千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区が通勤流動の流入地点トップ5であり続けたとともに、1998年からは立川市付近が、2008年からはさいたま市大宮区が新たな流入地点として発展してきたことが確認された。
  またアメリカ合衆国の都市圏を対象に、何パーセントの通勤流動がポテンシャル場の勾配流で記述可能か、評価を行い、大都市圏における循環流の重要性を示した(図3)。
論文情報
掲載誌: Scientific reports 2022 年7月4日公開
論文タイトル: Urban spatial structures from human flow by Hodge-Kodaira decomposition
著者: Takaaki Aoki、 Shota Fujishima & Naoya Fujiwara
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-022-15512-z
DOI: 10.1038/s41598-022-15512-z

■用語の説明
*1人流データ
  時々刻々と変動する人々の動きを捉えるデータ。従来のパーソントリップ調査のような統計調査に加えて、近年では携帯電話の位置局情報やGPS情報などによるリアルタイムな計測が可能になっており、感染症対策を始め、防災やマーケティング、交通・都市計画などへ活用されている。
*2組合わせホッジ理論
  グラフ上に拡張されたホッジ理論。特に完全グラフの場合、歪対称行列が勾配流と循環流に一意に分解される。この性質を利用して、純流動を表す行列からポテンシャル場を抽出している。

■お問い合わせ先
【研究に関すること】 
  香川大学教育学部  准教授 青木 高明
     TEL:087-832-1595 FAX:087-832-1595
      E-mail:aoki.takaaki@kagawa-u.ac.jp 
  一橋大学大学院経済学研究科 准教授 藤嶋 翔太
     TEL:042-580-8854 FAX:042-580-8195
     E-mail:s.fujishima@r.hit-u.ac.jp  
  東北大学大学院情報科学研究科 准教授 藤原直哉
     TEL:022-795-4346 FAX:022-795-5815
     E-mail:fujiwara@se.is.tohoku.ac.jp

【報道に関すること】 
  香川大学幸町地区統合事務センター事務課(北キャンパス担当)総務係
     TEL:087-832-1405 FAX:087-832-1595
     E-mail:lsoumu-c@kagawa-u.ac.jp 
  一橋大学総務部広報室
     TEL:042-580-8032 FAX:042-580-8016
     E-mail:pr1284@ad.hit-u.ac.jp 
  東北大学大学院情報科学研究科広報室
    TEL:022-795-4529 FAX:022-795-5815
    E-mail:koho@is.tohoku.ac.jp