香川大学 医学部
教授 塩田 敦子
産婦人科学 漢方医学
2025/1/14 掲載
ホームページ : https://www.med.kagawa-u.ac.jp/faculty/center/igaku_kouza/health-sciences/
研究内容の概要
1、 日本人女性の月経量、月経特徴の研究
2、 月経前症候群(PMS)と血糖変動についての研究
3、 漢方薬の臨床効果および看護基礎教育への応用
2019年から生活用品メーカーとの共同研究で、日本人女性の月経量の中央値、主観的評価と実測量のずれ、出血のパターンなど、167名2-3周期ずつ、497周期でナプキン重量測定を行ってもらい、これまで古い研究しかなかった月経量などのリアルについて調査し発表してきました。2023年には日本女性医学学会で教育講演を行い、2024年にはJOGR(Journal of Obstetrics & Gynecology Research)に掲載されました。
現在は、月経前症候群(PMS: Premenstrual Syndrome)のいらいらなど精神的症状は黄体期の低血糖エピソードと関連するのか、5時間75gOGTT(糖負荷試験)、2週間の非侵襲的持続血糖モニタリングシステムを用いて、女子大学生・院生を対象に研究中です。(科研費 基盤C)この研究を思いついた経緯として、漢方薬の「甘麦大棗湯」が、感受性の強い若い女性のPMSの情緒不安定に奏効することを多く経験したからです。「甘麦大棗湯は分子栄養学的に血糖を安定させることが報告されています。月経前に血糖コントロールが悪くなるといわれているのは本当なのか?低血糖が多くなり血糖を上げるアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌されることで、攻撃性、不安などがPMS症状と感じられているのであれば、症状のある女性は月経前に低血糖が多いのか?まだ研究は途中ですが、女子学生は朝食を食べていないことが多く、低血糖のエピソードがよくみられることがわかりました。」
臨床では、漢方専門医でもあり漢方を多く処方しているので、漢方薬の効果についての臨床研究を多く発表、論文化しています。PMSや慢性疼痛のひとつである慢性外陰痛について、その処方のしかたをパターン別に考えました。漢方医療は、全人的なオーダーメード医療であり、その処方の際には、四診といって、視て、聞いて、聴いて、触るという五感を働かせたアセスメントが必要で、その人の歴史や環境をすべてひっくるめて考えます。このアセスメント法や漢方の考え方は看護のマインドにそのまま通じるもので、根拠をもって看護ができるようになります。
看護の教育における漢方教育についても、科研費をいただいた研究は終了していますが、現在も主に大学院生に自分で考案したカードゲームを用いた教材を使って講義を行っており、教材のブラッシュアップを行っています。
研究を始めたきっかけと魅力
希望のかたまりの赤ちゃんの誕生、お見送りさせていただいた患者さんからの学び・・・
命に直接かかわれることの畏れと誇りを産婦人科の診療で感じてきました。若い頃はがんの早期発見のための細胞診と超音波など腫瘍関連の研究を行いました。そんな中女性の人生の一場面だけではなく、一生をトータルで支えられるのも産婦人科医であると気づきました。漢方の考え方は、その人のありのままを肯定する言葉を遣い、バランスの崩れからくる不調を整える手助けをします。そして、女性が自分の人生を自分でつかみとっていくためのbody autonomy を実現するには、思春期からのエンパワメントが大切です。自分の月経について知ること、PMSと上手につきあうことはその第一歩と考えて現在の研究を着想しました。
今後進めたい研究
PMSと低血糖との関連については、まだまだこれから多くの学生さんにお願いしてデータを集めているところです。結果がまとまったら、次は低血糖を防ぎPMS症状を軽くするような食事の工夫など生活上の提案を考えたいと思っています。また漢方の教育では昨年から医学科生にも講義をしているため、学生参加型の講義について後輩の先生といっしょに工夫して、研究に繋げたいと思います。漢方専攻医が香川で多く育ってくれていることはありがたいことです。ダイバーシティ推進に関わる身としては、女性医師・研究者が自分のやりたいことを女性だからとあきらめなくてよい大学であるように、私にできることをしていきたいと思います。
メッセージ
現代は若者にとって夢を持ちにくい時代であり、スマホの普及とネットでの情報の多さから、「他人からみられている」と感じてしまっていることが多いのではないでしょうか。
失敗や傷つくことをおそれて周りと足並みをそろえることに必死になっていませんか。リアルな大学生活では、学生のうちに何かにチャレンジしたり、冒険したりして、失敗や傷つく練習もしてくれたらいいと思います。
身近に相談できる人はいますか。もし思い当たらなければ、教員は他人に見せたくないような弱い部分の話も聴く準備がありますし、全力でサポートします。
大学での学びも、傷つきにも、ひとつとして無駄なものはありません。
自分のこころと身体を大切にしながら、生きる力にかえていってくださいね。
関連する事業採択実績、受賞歴、特許等
・生活用品製造企業との共同研究 2019/4~2023/3
「月経・月経量研究及び関連商品・サービスの研究」
ユニ・チャーム株式会社共生社会研究所
・科研費 基盤研究(C) 研究責任者 2022/4~
「プレコンセプションケアに活かす月経前症候群予防プログラム開発-低血糖に着目して-」
・科研費 基盤研究(C)研究責任者 2014/4~2018/3
「看護師教育における漢方教育のあり方-教材・教育手法の開発を含めて-」
<論文>
Shiota A, Shime C, Nakai K, Kageyama M. "Kambakutaisoto" and Emotional Instability Associated With Premenstrual Syndrome. Front Nutr. 2021 Oct 25;8:760958. doi: 10.3389/fnut.2021.760958. PMID: 34760911; PMCID: PMC8573044.
Atsuko S, Hiromi T, Hiroki I. Normal menstrual flow volume range and its characteristics measured from sanitary napkins in Japanese women: Discrepancy between measured and subjective menstrual flow volume. J Obstet Gynaecol Res. 2024 Oct;50(10):1924-1934. doi: 10.1111/jog.16064. Epub 2024 Aug 26. PMID: 39187459.
Tada S, Shiota A, Hayashi H, Nakamura T. Reference urinary biopyrrin level and physiological variation in healthy young adults: relation of stress by learning. Heliyon. 2020 Jan 7;6(1): e03138. doi: 10.1016/j.heliyon.2019.e03138. PMID: 32042943; PMCID: PMC7002780.
Segawa M, Iizuka N, Ogihara H, Tanaka K, Nakae H, Usuku K, Yamaguchi K, Wada K, Uchizono A, Nakamura Y, Nishida Y, Ueda T, Shiota A, Hasunuma N, Nakahara K, Hebiguchi M, Hamamoto Y. Objective evaluation of tongue diagnosis ability using a tongue diagnosis e-learning/e-assessment system based on a standardized tongue image database. Front Med Technol. 2023 Mar 13;5:1050909. doi: 10.3389/fmedt.2023.1050909. PMID: 36993786; PMCID: PMC10040798.
蓮沼 直子, 柿木 保明, 川添 和義, 塩田 敦子, 喜多 敏明, 杉山 清, 高山 真, 三潴 忠道.第71回日本東洋医学会学術総会 特別企画1「次世代に継ぐ卒前卒後漢方医学教育」1 シンポジウム 医歯薬看におけるモデル・コア・カリキュラムと漢方教育の立ち位置 日東医誌2022: 73(4); 434-447
https://doi.org/10.3937/kampomed.73.434
塩田敦子,野萱純子「慢性外陰痛(Vulvodynia)の漢方治療-フォローアップ症例の検討から-」産婦漢方研のあゆみ 2021: 37; 99-105
https://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=ev4kanpo/2021/000037/019&name=0099-0105j&UserID=133.92.250.151&base=jamas_pdf
塩田敦子、秦 利之「イライラに用いる3方剤の使い分けを交流分析における人生の基本的構えから考える」日東洋心身医研 2018: 33: 44-50
https://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=el7toshi/2018/003301/008&name=0038-0043j&UserID=133.92.250.151&base=jamas_pdf
塩田敦子,鈴木恵子,秦 利之「眼動脈血流速度波形解析を用いた桂枝茯苓丸における駆瘀血効果の検証」産婦漢方研のあゆみ 2014: 31; 21-24
https://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=ev4kanpo/2014/000031/004&name=00210024j&UserID=133.92.250.151&base=jamas_pdf
趣味
・テニス (週1回夜のスクールに通っています。軟庭のくせが抜けず、バックは苦手。)
・登山 (剣山、石鎚山に登ってから昨年は富士山に! 漢方薬で高山病にもならず無事ご来光、影富士を拝めました。)
・TVドラマをみること (朝ドラ、大河など:今年は『虎に翼』『光る君へ』もよかったですし、秋の『宙わたる教室』は最高に感動しました。深夜にひとりみて泣いています。)
・旅行に行って美味しいものを食べておいしいお酒を飲むこと、できれば温泉で!
・音楽鑑賞・カラオケ (J-POP、昭和歌謡が好きで、推しは福山雅治、スピッツ、平井 堅です)
おすすめの本
・「あなたがパラダイス」/ 平 安寿子 / 朝日新聞社
…ジュリー(沢田研二)ファンであることを軸にした3人の女性の更年期を描く物語
・「海からの贈り物」/ アン・リンドバーグ:吉田健一訳 / 新潮社
…子ども、男、社会を養うために与え続ける女性が満たされるための示唆
・「スキップ」「ターン」「リセット」/ 北村 薫 / 新潮文庫
…凛とした女性がそれぞれ主人公の「時と人シリーズ」(記憶がなくても)その道を選んだその時の自分を信じるという主人公の生き方は更年期女性に、過去を悔やまないで、未来に不安ばかり抱かないで今を生きてほしいとエールを送ってくれます
・「不思議に劇的、漢方薬」/ 益田総子 / 同時代社
…私が漢方にはまるきっかけとなった本 「劇的」シリーズがあります
・「まるっとまなブック」まなブック | まるっと!
…子どもの人権、SRHR(セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を学べる包括的性教育の実践的なガイドブック