-強誘電性拡張π共役液晶のバルク光起電力効果に関する論文により受賞-

強誘電性拡張π共役液晶の光起電力効果についての論文によって、舟橋教授が日本液晶学会論文賞Cを受賞しました。本論文は英国化学会の有力学術誌(Materials Chemistry Frontiers)に昨年掲載されたもので、論文に関するイラストが同誌のOutside front coverに採用され、3件の国際会議(OLC2021、および、Pacifichem2021、OLC2022)の招待講演に選出されるなど、国際的に高く評価されています。授賞式は2022年9月15日の日本液晶学会(オンライン開催)において行われます。
授賞論文:High open-circuit voltage in the bulk photovoltaic effect for the chiral smectic crystal phase of a double chiral ferroelectric liquid crystal doped with a fullerene derivative,Mater. Chem. Front., 5, 8265–8274 (2021).

著者:Masahiro Funahashi
*受賞内容の詳細については、別紙をご覧ください。

液晶性強誘電半導体での異常光起電力効果について
本学創造工学部舟橋研究室では、強誘電体の自発分極を利用した光起電力効果に着目し、半導体としての性質を持つ強誘電性液晶を開発しています。この材料を用いると、従来のp-n接合を用いた太陽電池では困難であった高電圧を発生できる太陽電池を実現できる可能性があります。通常の有機太陽電池では、0.7 V程度の電圧しか発生しませんが、今回発表した成果においては、液晶性強誘電半導体にフラーレン誘導体を添加することにより、開放電圧を1.2 Vにまで向上させることができました。液晶性強誘電性半導体でのバルク光起電力効果は本学創造工学部の舟橋教授のグループが世界に先駆けて発見した現象であり、国際的に高く評価されています。

Materials Chemistry Frontiersについて
英国化学会が2017年に創刊した材料化学に関する学術誌で、2021年のインパクトファクターは8.683に達しており、国際的に注目度の高い論文が多数掲載されております。

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お問い合わせ先 
香川大学 創造工学部 教授 舟橋正浩
TEL:087-864-2411
E-mail:funahashi.masahiro@kagawa-u.ac.jp
※上記不在の場合 香川大学 林町地区統合事務センター
総務課 庶務係 大森・北村
TEL:087-864-2000 FAX:087-864-2032
E-mail:shomu-t@kagawa-u.ac.jp

別紙
 既存の太陽電池では、p-n接合やショットキー接合界面での局所的な内部電界を利用して光キャリアの生成・輸送を行っているため、開放電圧は半導体のバンドギャップや正負両電極の仕事関数の差に制限され、開放電圧は最大でも0.8 V程度である。それに対して、BiFeO3などの強誘電性セラミックスにおいては、自発分極によってバルク全体に発生した電界を駆動力とするバルク光起電力効果が観測されており、バンドギャップを超える数Vの高電圧が発生している。しかし、電気抵抗が高く、光吸収帯が紫外域に限定されるため、エネルギー変換効率は0.1 %に満たない。また、薄膜作成に真空プロセスが必要である。さらに、低温では大きな開放電圧が得られても、室温では低下する。
 当研究室では強誘電性液晶にπ電子共役系を組み込んだ「液晶性強誘電半導体」を合成し、強誘電相におけるバルク光起電力効果を見出している。自発分極によって内部電場がバルク全体に発生し、それによって光キャリアの生成・輸送が起こり、光起電力が発生する。そのため、原理的にはバンドギャップをはるかに超える大きな起電力が発生しうる。
 今回発表した論文では、双極子モーメントの大きなフルオロ基やカルボニル基を導入した液晶性強誘電半導体1とフラーレン2の混合物に着目した(図1(a))。高温側の常誘電性の液晶相において直流電圧を印加して強誘電相に冷却すると、分極した強誘電相が出現する。強誘電相では、液晶相中でフラーレン誘導体が数mm程度の大きさの微結晶を形成する(図1(b))。液晶/フラーレン微結晶界面で効率的に光キャリアが生成するため、近紫外-青色域での外部量子収率は70%を超える。また、強誘電相での強い内部電界により、開放電圧は1.2 Vに達する(図1(c))。

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図1(a) 液晶性強誘電半導体とフラーレン誘導体の分子構造 (b) 強誘電相での偏光顕微鏡写真 (c) 強誘電相での電流電圧特性

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 本研究の概念図はMaterials Chemistry Frontiers誌のOutside Cover Pictureに採択された(図2)。本研究を進めるにあたり、科学研究費基盤研究B(21H01904)、JKA補助事業、池谷科学技術振興財団単年度研究助成、小笠原科学振興財団研究助成金、住友電工社会貢献基金、文部科学省ナノテクプラットフォーム事業(No. JPMX09F19GA0004)の支援を受けている。
掲載誌:Materials Chemistry Frontiers, 2021, 5, 8265–8274 (2021)(DOI:10.1039/D1QM01143J)

図2 Mater. Chem. Front.誌に掲載されたCover picture