NEXT INNOVATION
― 香川大学発研究シーズ活用レポート
vol.16 

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持続可能な食料生産を目指して

 「未利用資源」と呼ばれる、現在使われていない資源を家畜用飼料として利用するための研究を行っています。大学時代は農学部で、ヌートリア、ウサギ、モルモットの消化器官を研究。それらを飼育する際に生じる尿に含まれる窒素が環境汚染に繋がるということで、尿中の窒素量を減らすエサがないか調べていました。きっかけは、2006年にFAO(国連農業食糧機関)が発表した報告書「Livestock’s Long Shadow」を読んだこと。そこには、畜産業が環境破壊の一端を担ってしまっている実情が書かれており、衝撃を受けた私は、環境問題に配慮した家畜用飼料の研究がしたいと考えるようになりました。

 2013年にFAOが報告書「EdibleInsects」を発表して以降、昆虫を新たな食料・飼料原料として捉え、昆虫生産を行う取り組みが世界的に注目を集めています。現在、家畜用飼料としてよく使われる魚粉は、天然資源なので価格が安定しませんし、今後、海温が上昇することで原料の魚が獲れなくなる可能性があります。また、海に獲りに行くことで船の燃料が必要になり、排気ガスも排出されてしまいます。対して、我々が研究している昆虫のアメリカミズアブは、建物内の狭いスペースで人工的に繁殖できるので、供給が安定します。また、焼却処分される野菜クズで飼育が可能なので、温室効果ガスの排出量も低減できます。SDGsの観点からも、昆虫の飼料化には多くのメリットがあると言えます。栄養面でも、文句のつけようがありません。

 しかし、昆虫が飼料として国内で流通・利用されるようになるためには、国の認可が必要です。研究をしているだけでは、普及に繋がらないのです。そこで現在、アメリカミズアブをはじめ4種類の昆虫由来の粉末や油の家畜用飼料としての有用性をデータ化し、国に登録申請を行う準備を進めています。持続可能な食料生産を実現させるための第一歩です。

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▲左が魚粉で、右が昆虫を乾燥させて粉砕したもの。匂いを嗅ぐと
「飼料によくある匂い」という印象でクセはなし。サラサラしていて、加工もしやすそう。

可能性は未知数。そこがおもしろい

 昨年の3月から一年間、香川大の在外研究制度を使ってアメリカのミネソタ大学に行き、インビトロ法という、試験管や培養器のなかに体内と同様の環境を人工的に作って試験を行う方法を学んできました。というのも研究を重ねるなかで、魚粉などとは異なり、昆虫粉末にはどうやら機能性がありそうだということがわかってきたのです。採卵鶏に一年間昆虫粉末を与えたところ、通常、加齢によって下がっていくはずの鶏の体重が維持されていました。また、年齢に比例して小さくなっていく卵が、大きいままだったのです。肝臓などの組織を調べたところ、酸化ストレスを除去する抗酸化関連物質の濃度が上がっていることがわかりました。現時点では、昆虫粉末中のどの物質が作用しているかまではわかっていませんが、それを突き止めることができれば、幅広い分野に活用することができます。機能性サプリにして人の健康を守れるかもしれませんし、家畜の死亡率が下がることで農家さんの生産性を上げられるかもしれません。その解明を進めるために必要なのが、インビトロ法だったのです。まずは今夏、日本中央競馬会の助成を受け、採卵鶏、肉用鶏、豚の3種を対象に、昆虫粉末が機能性を有することを証明するための試験を実施します。特に暑熱ストレスは家畜の生産性を低下させることがわかっていますので、夏場に昆虫粉末を与えたら、暑熱ストレスが軽減されるのかどうかを見ます。今回は200頭規模の試験ですが、これを足掛かりに次は1000頭ほどの大規模試験をし、効果をより確実に実証したいです。

 実は以前の採卵鶏の試験では、長寿遺伝子として知られているサーチュインが増えている可能性もわかり、もしかすると医療分野にも良い影響を与えられるのではと期待しているところです。今後まだまだ研究を重ねる段階ではありますが、昆虫粉末の利用は持続可能かつ、人の健康を守ったり、農家さんの生産性を上げたりする可能性を秘めています。これからの研究でさらに実態を解明し、社会に貢献していきたいと思っています。

川崎先生プロフ(w200.jpg
農学部 准教授
川﨑 淨教かわさき きよのり)
宮崎県宮崎市出身。岡山大学・大学院自然科学研究科博士後期課程修了。
香川大学農学部助教を経て、2021年から現職。
専門は動物栄養学で、未利用資源の飼料化の研究に取り組む。
「この研究は楽しいから、大変だと思ったことは一度もない」と断言する川崎先生。
論文が引用されたときは、とくに達成感を感じるそう。

詳しい情報は、HPから確認できます
香川大学 産学連携・知的財産センター
https://www.kagawa-u.ac.jp/faculty/centers/23894/