SPECIAL TALK SESSION
筧 善行(香川大学長)×池田 豊人(香川県知事)

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香川の内向きマインドを変えた二つの要因
 知事は高校まで香川におられた後、42年間東京でご活躍されてこちらへ戻ってこられましたが、遠くからどんな風に香川を見ておられましたか。
池田 私の高校時代には、岡山へ出るには連絡船しかありませんでした。しかし霧が出ると欠航してしまうため、すごく閉鎖的なマインドになりがちだったように思います。瀬戸大橋ができる前は、高松での全国的な会合は敬遠されていたんですよ。それで失っていたビジネスチャンスはかなりあったと思いますが、橋ができたことによって大きく変わったと思います。
 さらに今は四国新幹線の話があったり、デジタルの力で空間の壁を乗り越える時代が来ています。新型コロナの影響で、四国内にもテレワークでかなりの人がやって来ているので、内向きの感覚は少しずつ変わってくるかも知れません。
池田 そうですね。瀬戸大橋で開かれた四国が、デジタルでもう一度解放される時代を迎えるというのは、私も同感です。

 

幸せに感じる人を増やせば、産業は二次的に増えてくる
来たるべき南海トラフ地震に備えて
 四国では今しきりに、南海トラフ地震がそろそろ来ると言われています。香川県は四国の他の3県と比べると、災害時の支援拠点としての役割が重要。また地震では物が壊れるだけでなく電気インフラが崩壊し、スマホなど様々な電気通信機器が使えなくなる恐れがあります。香川大でも学内で防災危機管理の研究を進めていて、電気インフラ喪失の研究も進めようとしているところですが、この地震についてどうお考えですか。
池田 香川県は後方の復興支援拠点としての役割が求められていますので、空港や港は現在あるものをベースに、他県へ香川県から助けに行くための準備が急がれています。また地震で大きく揺れない香川県は、市民レベルでの危機感を保つのが難しい。そこで危機感共有のきっかけにしたいのが、最近増えてきた高層マンションです。高層階は軽い地震でも結構揺れるので、まず高層階の方をターゲットに家具の転倒防止などの地震対策をしていただき、そこから地震へ備える意識を高めていければと思っています。
 香川大でも学生や院生への防災危機管理教育を進めていて、創造工学部には「防災・危機管理コース」があります。市民の方々にも「防災士養成講座」で、防災士や危機感を共有できる人を増やそうとしています。また林町の創造工学部キャンパスには、実際に地震体験をしていただけるシミュレータがあります。こちらも時代に合わせ、VRでできるような物を作る必要がありますね。

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県外にアピールできる香川のチャームポイント
 知事公約の「みんなが住みたい香川県」というのは私も大賛成で、他県の人から香川県に住みたいと思ってもらわないといけない。防災や教育、医療の充実も大きな魅力でしょうね。
池田 韓国から何度も香川県を訪れているお客さんにその理由を聞きました。するとまず瀬戸内海の美しさと、街もきれいで交通の便も良いことだそうです。これは「住みたくなる」という視点と同じで、特に「街がきれい」というのは、公共的な空間が洗練されているかどうかに大きく左右されます。
筧 私は丸亀町の取組が好事例だと思うんですよ。車を閉め出し、歩く空間にしているのは、画期的な試みですよね。人中心の街づくりは、人間に非常に良い効果がある。
池田 住んでいる人もきれいな街にいると、気持ちもリフレッシュしますよね。良い発想が浮かんだり、テンションが上がる。
 AIやロボットが普及すると、人間はあまり働かなくてよくなると言われていますが、そうなったとき、残った時間を歩いて楽しむことができる空間がたくさんある土地ほど、競争に勝てるのではないでしょうか。香川県はアート県として大分定着してきましたが、アートというのは時間が余った人間にとってご飯のように大事になってくる。県内どこへ行ってもアート的な感覚を感じるような方向へ、ぜひ進んでいただきたいですね。
池田 私は香川県に産業をもっと誘致しようとしているんですが、「そのためには、アートを大事にした方がいい」と言われたことがあります。企業が場所を選ぶ時に「アートな香川県に立地する」というのは、企業ブランドを高めるうえに、働く人も移住したくなるというダブルの効果がある。
 単に企業を誘致したり工場を建てたりしたら街が潤うというのは前近代的な発想で、まずは幸せに感じる人を増やすと、産業は二次的に増えてくるかと。男木島や女木島に20〜30代の若い人たちが移住してきているのも、これが関係あるのかもしれません。そこはユニークな視点で、ぜひ取り組んでいただきたいですね。
池田 先ほどの話にもありましたが、デジタルがもたらす多様性によっても、島での生き方・暮らし方が可能になって、そういう選択ができるようになったのではないでしょうか。
筧 移住者の方は、退屈じゃない島の過ごし方というのを自分たちで作り始めています。今は日本全国にそういう芽が出てきていますから、そういうものを香川県は大事にしていくべきですね。
池田 やはり香川県は、瀬戸内の島が大きな魅力です。香川県には有人島が24ありますが、その多くが高齢化しています。この財産を守るために、24の有人島を有人島のまま残したい。祭や施設のメンテナンスなども、高齢化するとできなくなってくるため、香川本土の人が定期的に出かけていって、色々なことで交流しながら役に立てるようにならないかなと。そういうことをやっていけば、寂しくて心細いっていうのが大分変わってくるのではないかと思います。
筧 住民票にも意味がなくなり、マイナンバーカード1つでよくなるのでは。そうすると拠点をいくつも持てることになると思います。香川県も日本も多極分散しないと生き残れません。香川大は県内出身の学生は3割しかいません。また地元の高校生の8割は県外に行ってしまう。しかし、それをどうこう言う時代ではもはやなく、複数拠点を行ったり来たりする時代が来るのではないでしょうか。知事がおっしゃったように、過疎が進んでいる有人島や、場合によれば無人島も活用の仕方次第で生き返るかもしれません。そして香川県が拠点の一つに選ばれるために、地域の魅力アップと活性化は必須だと思います。香川大は産官学連携を強化して、「価値創造型」人材の育成にチカラを入れていきたい。

デジタル技術で伸ばせる社会貢献寿命
 
これから高齢者が増えていく中で、少ない若者はマルティプルプレイヤーみたいな八面六臂の活躍をしなければいけなくなります。文系だからAIのことは分かりません、というのは通用しなくなるでしょうね。
池田 私の子どもは海外に住んでいますが、今は映像付きで無料で何時間でも話せるので、あまりいなくなった気がしないんです。この様なデジタルの部分が、これまでできなかったことを色々とできるようにしてくれる。障がい者の方がベッドに寝たまま仕事ができるようになったり。
筧 高齢者や力の弱い女性も、パワーアシストで力仕事ができるようになったり。そうやって社会貢献寿命が伸ばせると、それが社会にとっての活力を産むことになります。
池田 活力を産み生きがいがあって、生産力も維持できます。みんな何かの役に立ちたいとか、誰かのためになりたいと絶対思っていますから。
 実はそれが一番幸せなんじゃないかな。香川県に来たら、みんな生き生きしていて、何か仕事しているっていうのが。
池田 そういうのが「人生100年時代のフロンティア」じゃないかと思いますね。
 また、香川県は教育熱心な県なので、様々な方が香川大で熱心に学びに取り組んでいます。地域人材共創センターや2022年に開設した大学院「創発科学研究科」には、高齢者の方だけでなくキャリアアップやキャリアチェンジを目指す社会人や主婦の方など幅広い世代の方も増えて、多世代がともに学ぶ場となってきています。

産業と観光の両輪が導く香川県の未来
池田 直島は自分の描く未来像にすごく近いです。あそこは美術館で有名ですが、三菱マテリアルがあるので船便も多く安定している。観光面でも渡航するのに便利で、受け入れのキャパシティも増えています。2つがうまく両輪になっているんです。香川県も今後、そういう産業と観光の両輪をうまく回す県を目指していきたい。風光明媚で災害も少なく晴れの日が多い、瀬戸内海という地の利を活かしながら、両輪で伸びていけるんじゃないかと思います。
筧 そこに香川大もぜひ加わりたいです。企業と大学の垣根は以前ほど高くなく、県内の企業と共同で仕事をすることが増えています。産業と観光の発展した未来のために、自治体や産業界、地域コミュニティと協働して地域の活性化と魅力化に貢献していきたいと思います。