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教職協働の実現をめざして ── FD・SD から PD へ

昨年11月に開催した〈SD ワークショップ〉に引き続き、今年度も教員と職員の協力連携をテーマとした研修会を実施いたしました。寺崎昌男先生、秦敬治先生のお二人を講師にお招きし、事務職員38名、教員13名(合計51名)の参加がありました。寺崎先生からは、ご自身の大学史研究と現場での教育改革の経験にもとづく、含蓄 のある明快な講演を聞かせて頂きました。また、秦先生のワークショップでは、身近な業務改善策について真剣に討論できたことと同時に、研修手法自体も学ぶことができた点が有意義でした。講師の先生方の熱意のおかげで参加者も意欲が高まり、今後の本学での教育改善と業務改善に確実につながる研修会になったと思います。

平成20年12月8日(月曜)13:30--17:30
研究交流棟5階・研究者交流スペース(幸町キャンパス内)

(1)開会挨拶  武重 雅文(大学教育開発センター長)
(2)講演「FD・SD をどうとらえるか──教職協働をめざして」
講師:寺崎 昌男(立教学院本部調査役(教育改革担当)・東京大学名誉教授)
(3)ワークショップ「明日からできる業務改善」
講師:秦 敬治(愛媛大学経営情報分析室准教授)

寺崎講師 ワークショップ 秦准教授
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FD(= faculty development)は主に教員の、SD(= staff development)は主に事務職員の能力向上のための研修等を言うことが多いですが、近年、両者を連携・融合するものとして、PD(= professional development)という用語が提案されています。教員・職員の双方が協力しあい、大学で働く専門職業人としての能力向上をともにめざすことが重要 であるという指摘です。

講演の概要

◎ 「FD・SD をどうとらえるか──教職協働をめざして」
寺崎昌男(立教大学本部調査役(教育改革担当)・東京大学名誉教授)

<はじめに 中教審の審議動向>
最新の答申(案)「学士課程教育の構築に向けて」において注目される点は、量的拡大の継続、財政充実への着目と提言、FD・SD・初年次教育への専門的提言である。最後の点は大学教育学会が蓄積してきた研究成果であり、現場の声が答申に活かされるかたちとなったことは喜ばしい。答申案からも読み取れる以下 のような大学政策の基本ラインは今後もしばらく続くだろう。(1) いわゆる「学士力」のグローバル水準の確立、大学教育の質的保証。欧米との関係から見てもこのスジは続くはずで、数年後には大学生のテストが準備されるこ とになるかもしれない。(2) 教育目標を明確に設定し、それに対応したアウトカム(持続的な成果)を出すことが求められる。これらを公開するアカウンタビリティも大学のますます重要な 責務となる。(3) 規制緩和とそれに結びついた自己責任という基本的な考え方も変わらないだろう。

<FD への中教審の提言をめぐって>
たとえば大学設置基準における規定「大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする」(第二十五条の 三)は、FDの規定としては狭すぎる。欧米の学者の定義を見れば、本来FDの概念はもっと幅広く豊かなものであることがわかる。──たとえば、「個々人が 自己のキャリアを充実させるために有する関心・欲求と、個々人が属する組織体の有する期待・要件との両者を調和させる体系的試み」(G. W. パイパー)、「人として、専門家として、また学会人としての大学人にとっての total development(……)個々の大学教員が所属大学における種々の義務(教育・研究・管理・社会奉仕等)を達成するために必要な専門的能力を維持 し、改善するためのあらゆる方策や活動」(B. C. Mathis)など。これに対して、中教審の「審議のまとめ」に付属する用語解説(下記)などでは、むしろ「なお書き」がFDの重心を逆転させてしまって いる。

ファカルティ・ディベロップメント(FD)
教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称。具体的な例としては、教員相互の授業参観の実施、授業方法についての研究会の開催、新任教員のための研修会の開催などを挙げることができる。なお、大学設置基準等においては、こうした意味でのFDの実施を各大学に求めているが、FDの定義・内容は論者によって様々であり、単に授業内容・方法の改善のための研修に限らず、広く教育の改善、更には研究活動、社会貢献、管理運営に 関わる教員団の職能開発の活動全般を指すものとしてFDの語を用いる場合もある。

「FDの義務化」と言われる場合、各教員には倫理的な義務があるだけであって、「義務」の主体は教員個人ではなく、あくまでも大学である。そこから、大学におけるFDのための金銭的支援が必要であるということにもなる。それでは、個々の教員には何が求められているのか? 単なる researcher ではなく scholar と呼ばれるための条件は、「十分に自分の専門分野の文献に通じているとともに、学生にその情報を うまく伝達することができる専門家の水準に達している」ことである。条件の後半を実現するという課題が重要であり困難でもある。たとえば、ドイツ の或る「教授力」指標では、講義やカリキュラムを計画する力をはじめ、特に「具体例と結びついた問題解決型でしかも複数の専門分野を架橋するような講義」 が推奨され、さらには、「大学と社会の関係にまで目を向け」る大学改革立案能力も教員に求められている。私たちは「狭義のFD」──この表現自体が問題な のだが──だけに引き込まれることなく、日頃何気なくおこなっている授業改善・教育改善の活動にもあらためて目を向けることが重要であり、大学における形 式的研修の横行を生まないよう留意すべきである。大学文化にとけ込んだFDのあり方を考えなくてはならない。academic community としての大学を作っていくことこそが、最も広い意味での、あるいは深い意味でのFDと言える。

<あらためて注目される SD>
仕事のためにも「もっと勉強したい」と考える職員は多く、特に私学の切実さと熱意は目にとまるものの、全般的に見て我が国のSDは黎明期にある。SDには、職務異動型・外部委託型・大学院という三つの原型が考えられるが、どの方法も課題を抱えているため、現時点では職場における主体的な研修が中心になっ ている。職務異動はキャリアについてのデザインが見通せない欠点があり、外部委託も評判はあまりよくない。大学院での研究や通信教育は有意義で効果も高いが、14万人とも言われる大学職員を受け入れるキャパシティはないし、経済的な負担も大きい。立教大学では、特定のテーマを合同で研究する職員に一テーマ ごと年間十万円の援助をおこなっているが、比較的若い世代の職員の出願が多い。

職員の皆さんには「大学リテラシー」を身につけることを提言したい。すなわち第一に、「大学」という組織そのものの成り立ちや特徴に関する 理解(歴史論・社会論)。第二は、勤務大学に対する理解によるアイデンティティの共有である。たとえば、自校教育やキャリア教育のプログラムを教員と職員 が共同で作り上げていくなど、様々な具体的戦略が考えられる。第三に、最初に述べたように、答申をどう読むかといったような大学政策への理解が、大学リテ ラシーの重要な要素としてあげられる。──「事務員をやめよう、職員になろう!」(記録:松根伸治)

ワークショップの概要

◎「明日からできる業務改善」 秦敬治(愛媛大学経営情報分析室准教授)

ワークショップを始めるにあたり、秦講師から、東京大学のSDの事例が紹介された。その内容は、東京大学では、職員全員が業務改善案を出すことが求められており、その数は年間で200件を超えるというもの、またその8割が採択されており、すでに完結しているものは350件にも及ぶというものであった。こうした紹介をふまえて、そのミニチュア版をこのワークショップで行いたいという説明がなされた。

ワークショップは、比較的業務内容の近い3-4名ずつのグループで行われた。ワークショップに先立ち、まずアイスブレイクが行われた。4分 間の時間が与えられ、「最近あったちょっと幸せだったこと」を話すよう指示がなされた。続いて、チーム名の決定を2分間で行うよう指示がなされた。その 際、チーム名はそのチームのメンバー全員に共通したものにすることが求められた。メンバー全員が50歳以上であることから「アラ?50」や、メンバー全員 が爪のおしゃれをしていないことから「素づめ」などというユニークなチーム名も見られた。こうした和やかな雰囲気の中、ワークショップは始められた。

ワークショップでは、以下の6つの点に対して、その問題や課題を、個人でポストイットに書き出していき、それをメンバーで共有するというプ ロセスが繰り返して行われた。

  1. 勤務時間等についての問題
  2. 接遇・身だしなみ・規律等
  3. 係・チーム・委員会・課・部等の組織上の問題点
  4. 業務上の問題点
  5. 学生側の問題点
  6. 人間関係・チームワーク上の問題点

このワークを行った後で、「職場環境・業務改善シート」に、上記6点についてそれぞれ、「重要・緊急・ぜひやりたい」と思うものを3つ以内で選択することが求められた。そして上記6点の枠を超えて、「重要・緊急・ぜひやりたい」と思うものをさらに3つ選択し、その3つについて、改善策、導入に向けて の課題、導入方法、導入時期、完了時期を、それぞれ1枚の模造紙にカラーマジックで書くことが求められた。

これらの作業を終えた後に、ポスターセッションが行われた。その際、各グループのメンバーの一人はそのポスターの前で説明するように指示がなされた。ポスターのいくつかの内容を紹介しよう。

チームA
問題点:できる人・する人に仕事が偏りすぎ!
改善策:一極集中を防ぐ。
課題:(1) 自分ができることをする。(2) できる事を増やす。
導入方法:グループ内で個々の能力を共有し、適材適所の仕事分担をする。
導入時期:今から
完了時期:H21.3

チームB
問題点:グループ制を導入したが、個々の役割が不明確である。
改善策:チーフ・旧係長の役割を明確にする。
課題:チームの役割は、グループ間でばらつきがある。
導入方法:アンケート調査を実施し、分析する。
導入時期:H21年4月から。
完了時期:H21年9月末まで。

ポスターセッションを終え、秦講師から若干のコメントをいただいた後、最後に「宿題」が出された。それは、各チームの3つの改善策の企画書を、その 企画書を提出するのにふさわしい管理職名を記載の上、提出するというものであった。つまり、研修のための研修に終わらせることなく、実践に結び付けていく ことこそが重要であることが最後に確認された。締切は12月24日、こうした改善策の企画書の積み重ねが、今後の香川大学にとってのよいクリスマスプレゼ ントになることだろう。(記録:葛城浩一)

当日のアンケート集計

1・本日の講演内容で、有益だと思われた点や印象に残った点などを自由にお書きください。

  • FDの定義など、今まで考えていた内容だけでは不十分であること、取組には様々な方向性が必要であることがわかりました。
  • FD・SDの定義および具体的事例
  • (1) グローバルな(本来の)意味でのPDの内容・意義を (2) 体系的に整理し (3) 方向性を提示してくださったこと → 非常に有意義であった。(我々自身では十分にやれない)
  • 日本のFDと世界のFDの違いなどについても説明があり、理解がしやすかった。
  • FDの定義が日本と外国では相違していること。
  • 日常の業務に追われがちであったが、大学政策等広い視野を持たなければならないことを再認識できた。
  • スカラシップとリサーチャーの区別
  • ドイツ「教授力」の指標
  • 大学教員としての広い視野、教養の大切さと学生に伝達する授業力の本質について、改めて眼を開くお話だったと思います。有り難うござい ました。
  • 本物の先生は、自分のことばで心しみ通る話をされる。これまで教育の場や研修の際に聞かされた話は、ぶっきらぼうな流行の漢語ばかりで、意味がわからないものが多かった。演題のテーマと具体例、対応策が明瞭に示され、おもしろく拝聴できました。
  • FDが広い範囲の意味を持っていることがわかりました。
  • そもそもFDということばの認識が乏しかった点が改められた。
  • とても参考になる話でした。
  • 全体的に勉強になりました。
  • 組織としての(学部執行部として)取組の方向性を具体化することの困難さを感じざるを得なかった。(事柄のひろがり、優先順位、教員へ の問題提起と説得などなど)
  • 講師の大学リテラシーの3点が有意義だった。
  • 立教でやっているFDの促進方法について
  • FD・SD・PDなど、今まで説明を受けたことがなかったのでよかった。
  • SDの3つの原型(異動・外部委託・大学院)について

2・ワークショップで、有益だと思われた点や印象に残った点などを自由にお書きください。

  • 時間が限られていたが、初めての取組で有益であった。
  • 最初に思っていることを書き出して、それをだんだん整理していくというのは、他のことでも使える方法だと思いました。
  • 他学部、他部署の意見を聞くことができ新鮮だった。
  • 問題点の共有
  • みんな同じ考えであり安心できた。
  • 割と同じ内容であった。
  • 日頃の不満を文章にできて、ストレス解消になった。
  • 改善に向けて進むことはよい
  • 実際に学長に提案すること
  • ポスター形式で発表したこと

3・今後、職員・教員合同の研修会で、どのような内容・企画のものがあれば、参加したいと思いますか。できるだけ具体的にお答えください。

  • 「地域に根ざした学生中心の大学」具体化へ向けての討論を通じた問題点の発見と認識の共有に向けての研修
  • 上から与えられるものでなく、職員教員等広い範囲の方々からテーマ、人選、開催時期について意見を聞いて欲しい。
  • 学生指導(不登校などへの対応)
  • 学内の資源(人的、施設的)の所在と使い方の共有化の取組み