近年、瀬戸内海の水質は高度経済成長期に比べるとかなり改善され、『瀬戸内海はきれいになった』と言われています。しかし一方では、イワシ類等の漁獲量は低迷を続け、特にここ数年は栄養塩不足によるノリの色落ちが頻発し、地域経済に深刻な影響を及ぼしています。今、ノリ漁場及びその周辺海域における栄養塩の動態を定量的に明らかにして、有効かつ適切な栄養塩の管理手法を開発・提言することが必要とされています。このため、今般、国(水産庁)の委託を受けて新たな事業が開始されました。独立行政法人水産総合研究センターを総括機関として、香川大学を含む9大学・機関が連携し取り組む事業です。この研究調査では、瀬戸内海の主要なノリ漁場が存在する東部海域をモデル海域として、
・河川等の陸域や外海からの栄養塩の流入量及び底泥からの栄養塩の溶出量の季節・経年変化を把握して栄養塩の動態を定量的に明らかにすること。
・栄養塩類の主な消費者である珪藻類やノリの生理生態学的知見を蓄積し、栄養塩類の動態を再現、予測可能な数値モデルを構築すること。
により、ノリ養殖の安定的な生産を可能とする栄養塩の管理技術の開発を目指します。
本事業で、本学瀬戸内圏研究センターの担当する課題では、東部瀬戸内海の主要な海域において、底泥からの窒素やリンの溶出速度等、底層における窒素やリンの動態を把握することにより、近年、播磨灘等で夏季の底層に栄養塩が蓄積されなくなった原因を明らかにすることを目指します。また、ノリの収穫時期に大型珪藻が増殖しノリの必要とする栄養塩を先に消費してしまうという問題がありますが、東部瀬戸内海でしばしば出現する夜光虫に着目し、夜光虫による捕食圧が大型珪藻類の個体群動態に及ぼす影響についても検討します。


○本研究調査により期待される波及効果

陸域からの栄養塩負荷量の推移や陸域を起源とする栄養塩の海域での寄与を科学的な根拠の基に提示することで、内湾域の栄養塩に関する近年の諸問題に対する社会的なコンセンサスの形成が可能となり、生物生産を考慮した環境施策等の推進につながることが期待されます。また、今後、栄養段階で上位にある魚介類等の生産量漁獲量と栄養塩との関係を考える上で、本事業で得られた知見や対策技術などは基盤的かつ応用可能なものとなることが期待されます。

■お問い合わせ先■

香川大学瀬戸内圏研究センター 多田 邦尚(農学部 教授)
TEL:087-891-3148  E-mail:tada@ag.kagawa-u.ac.jp