創造工学部 原 光生

  香川大学 創造工学部
  特命教授 原 光生
  高分子材料、液晶、表面科学   
  2025/6/1 掲載
  ホームページ: Hara@Kagawa U

研究内容の概要

気候変動、資源枯渇、生態系への影響といった観点から、炭素循環の最適化やカーボンニュートラルの実現、省エネルギー技術の確立など、環境保全に向けた取り組みは、世界規模で極めて重要かつ緊急の課題とされています。このような背景のもと、私は、砂から得られる高分子素材「シリコーン」に着目しています。
砂は地球上に豊富に存在する資源の一つであり、そこから得られるシリコーンは、主骨格が無機成分で構成されているため、一般的な石油由来高分子に比べて優れた耐熱性を示します。しかし、これまでの産業応用では、シリコーンは「柔らかく、水に溶けない高分子素材」としての利用が中心でした。 
私はこのシリコーンに多数のイオン性官能基を導入することで、水溶性シリコーンを開発しました。その過程で、水に溶解するにもかかわらず、乾燥すると石油由来レジンのように硬化するという、想定外の特性を見いだしました。さらに、「乾燥状態では硬く、湿潤状態では柔らかい」という湿度応答性を活用することで、接着剤や表面処理剤としての応用可能も示しました。水を用いることで、接着された対象物(被着体)を容易に剥離できる点が特徴です。
水溶性シリコーン合成においては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンといったハロゲン系イオン性官能基を導入しています。これらは基礎的なハロゲン元素に由来するものですが、近年の研究から、それぞれのイオン周囲に形成される水和構造がイオン種によって異なり、その差異が水溶性シリコーンの物性に大きく影響する可能性があることが明らかになりつつあります。今後は、水溶性シリコーン内に存在する水分子の挙動にも着目し、従来の枠組みにとらわれない発想で、シリコーンの新たな機能を引き出す研究を継続していきます。また、従来の柔軟かつ疎水的なシリコーンに対しても、独自のアプローチにより摩擦低減剤として応用する研究を始めました。シリコーンは工業化から80年以上が経過している素材ですが、依然として未開拓の領域が数多く残されており、非常に奥深い材料であると実感しています。

開発した水溶性シリコーンの多様な機能.png

2025年度研究室メンバー.png

 

 

研究を始めたきっかけと魅力

もともと化学が得意だったことから、工学部の中でも化学系の学科を選びました。当時は、テレビや携帯電話などに液晶表示デバイスが搭載され始めた時期であり、液晶に関心を抱いていました。液晶の講義を受けてさらに興味が深まり、学部4年次には液晶を扱う研究室を選びました。日々液晶と向き合う中で、その面白さに引き込まれ、自然と研究の道へと進むことになりました。ちなみに、私が現在扱っている水溶性のシリコーンも、実は液晶性を示します。
研究の魅力は、自由な発想で興味を追求できること、そして世界で初めての現象を発見できる可能性があることです。自分の発見がいつか教科書に載ると嬉しいです。

今後進めたい研究

湿潤環境を積極的に活用した材料研究に取り組みたいです。自然界には、潮解や吸湿といった現象を巧みに利用する生物が存在します。例えば、乾燥地帯に生息するトカゲは、表皮の微細構造を通じて毛細管現象で体内に水分を効率よく取り込みます。一方で、人間の生活では潮解や吸湿は多くの場合、材料の液状化、操作性や純度の低下、さらには食感の劣化など、忌避される現象として扱われてきました。しかしながら、水溶性シリコーンのように、湿潤環境下で特異な機能を示す材料も存在します。このように、「湿潤環境を排除する」のではなく、「機能を引き出す場」として捉え、湿潤環境を活かした材料科学の新しい側面を開拓していきます。

メッセージ

趣味が、思いがけない形で将来役に立つことがあります。だからこそ、皆さんが持っている独自の趣味や興味を、ぜひ大切に育ててください。私自身、幼い頃からものづくりが好きで、よく工作をしたり、イラストを描いたり、ゲームで遊んだりして手を動かしていました。また、小学生のころから料理にも関心があり、趣味としてよく自分で作って楽しんでいました。おそらくそれらの影響もあって、自分では比較的手先が器用なほうだと感じています。そうした子どものころの経験が、今では研究に必要な治具の製作や合成実験の場面で役に立っています。

関連する事業採択実績、受賞歴、特許等

事業採択実績:
基盤研究(B)「直鎖状ポリシロキサンの湿度誘起自己集合現象の理解と機能開拓」(2025年4月~2028年3月)
挑戦的研究(萌芽)「高密度無機ポリマーブラシがもたらす堅牢で低摩擦な表面」(2023年6月~2025年3月)
基盤研究(B)「イオン性ポリシロキサンが示す新奇機能の発現機構解明に基づく革新的高分子材料の創製」(2022年4月~2025年3月)

受賞歴:
日本液晶学会論文賞(令和6年9月)
高分子学会関西支部ヤングサイエンティスト講演賞(令和4年7月)
繊維学会奨励賞(令和4年6月)

特許等:
ポリシロキサン、接着剤および湿度センサ", 関 隆広, 原 光生, 飯島雄太, 竹下智也, 特許第7626418号.

論文:
M. Hara, T. Seki et al., Sci. Rep., 11, 17683 (2021)
(プレスリリース:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2021/09/-1-1.html

H. Yoshida, M. Hara, G. Watanabe, J. Yoshida et al., Small, 21, 2500564 (2025)
(プレスリリース:https://www.kagawa-u.ac.jp/files/6017/4548/1356/10_.pdf

趣味

ジョギング:デスクワーク中心の生活で運動不足になりがちなため、定期的にジョギングで汗を流しています。コロナ禍前までは市民大会にも参加しており、機会があればまた出場したいと考えています。

そうじ:整理整頓を心がけており、リフレッシュも兼ねて掃除をするのが習慣です。最近は掃除ロボットの力も借りながら、効率的に掃除を行っています。

DIY:昔から工作が好きで、現在でも研究で使う治具を自作することがあります。

映画:最近はなかなか映画を観る時間が取れていませんが、高校生や大学生のころは映画観賞も楽しんでいました。好きな作品は、定番ですが「スター・ウォーズ」シリーズです。

おすすめの本

「世界史は化学でできている」/左巻健男/ダイヤモンド社
「教科書にない実験マニュアル よくある失敗・役だつNG集」/西脇永敏/講談社サイエンティフィク
「イラストで見る化学実験の基礎知識」/編集:飯田 隆、澁川雅美、菅原正雄、鈴鹿 敢、宮入伸一/著者:飯田 隆、木戸寛明、澁川雅美、菅原正雄、鈴鹿 敢、辻 智也、南澤宏明、宮入伸一/丸善