香川大学 教育学部
教授 小方 直幸
高等教育論
2025/06/20掲載
研究内容の要点(概要)
「ガバナンス」と聞くと、不祥事への対応やチェック体制など、「問題への対処」を思い浮かべる人が多いかもしれません。日常的に使う言葉ではなく、カタカナ語でもあるため、そうした印象が定着してしまうのも無理はありません。けれど本来ガバナンスというのは、未来をともに描き、組織を動かしていくための力、つまり、より良い意思決定を通じて新しい価値を生み出す、創造的な営みです。
この研究では、そのような「共創的ガバナンス」の可能性に注目し、大学が社会に開かれ、持続的に成長するための運営のあり方を探っていきます。キーワードは「共に創る(共創)」と「実行できる(実効性)」。理事や学長だけでなく、職員や学外の委員など、立場の異なる人たちが、それぞれの視点を出し合い、対話と協働によって大学の未来をつくっていく、そのために必要な条件を明らかにしていきます。
具体的には、日本の国公私立の大学のガバナンスの事例や、イギリス、アメリカの大学との比較研究等を行い、誰がどのようにメンバーに選ばれ、どんな役割を担っているのかを掘り下げていきます。最終的には、全国調査等の結果を踏まえて、「共創的ガバナンスが有効に機能するための条件」を整理・理論化することを目指しています。
この研究の成果は、大学に留まらず、自治体やNPO、教育機関など、さまざまな公共組織にも応用可能です。変化の大きい今の時代、限られた人だけで決めるのではなく、多様な声を活かして前に進む。そのための仕組みや関係の作り方を示すことができれば、よりよい社会づくりにも繋がると信じています。
研究を始めたきっかけ、魅力
大学に限りませんが、組織の不祥事が起きるたびに「ガバナンスの欠如」が取り沙汰されます。でも、それがガバナンス=監視というイメージになることに、どこか違和感がありました。ルールや監視を強化しても、不祥事がゼロになるわけではありません。だからこそ、むしろ性善説に立ち、人を信じて理解することを土台に、よりよい方向に組織を導くようなガバナンスの在り方に注目したいと思いました。ガバナンスは本来、未来に向けて人と組織が共に歩むためのもの。その健全な機能には、日々の実践に宿る工夫の見つめ直しが欠かせません。そんな「当たり前」の中にある可能性の掘り起こしが、この研究の魅力です。
今後進めたい研究
今回の研究だけでは全てを扱いきれないかもしれませんが、今後は大学以外の分野、例えば自治体やNPO、市民参加型の政策決定の場など、公共分野における「共創的マネジメント」のあり方についても研究を拡げていきたいです。特に、複数の主体が対等な立場で意思決定に関わっている先進的な事例を取り上げ、その背景にある条件や工夫を整理・理論化することで、実践との橋渡しをしたいと考えています。また、近年急速に普及しているAIやデータ分析の技術が、ガバナンスの透明性や対話の質にどう影響するかにも関心があり、そうした新たな視点を取り込んだ研究の展開も図りたいですね。
メッセージ
大学や自治体、NPOなど、身の回りには多くの人が関わって動いている組織があります。でも、なぜそんなに多様な人が集められているのか。そして、そこではどのように物事を決めているのか。当たり前のように見える仕組みも少し立ち止まって見直すと、「なぜそうなっているの」と問いかけたくなる面白さがあります。そしてその問いの先には、社会をよくしていく工夫やアイデアが隠れています。ガバナンスとは、そんな問いを通して組織や社会をよりよくしていくための視点です。ニュースになるような特別な出来事だけでなく、日々の話し合いや決定の中にも大切なヒントが潜んでいます。そんな目線で、身近な場面にも目を向けてみてください。
趣味
人と話していると、自分一人ではあまり考えてなかったような妄想やアイデアがふと浮かび、つい話が止まらなくなることがあります。でも、それ以上にひとりでボーっとする時間も好きで、そんな時に思考が巡ることもよくあります。何かに少しでも興味をもつと、短期間で一気に全体像をつかもうとすることも少なくありません。ただ全体が見えてくる頃には別のものに関心が移っている、そんなこともしばしば。温泉、ゲーム、建築、スイーツ、デザイン……、関心の対象は日々変わりますが、その都度「これはなぜそうなっているんだろう」と考えたりします。そして、一見すると相反するようなものが同時にある、そのことにむしろ居心地のよさを感じている自分がいます。そんな感覚をあえて言葉にするなら、「一貫性のない一貫性」かもしれません。
おすすめの本
安斎勇樹・塩瀬隆之(2020)『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』学芸出版社
上野千鶴子(2011)『ケアの社会学:当事者主権の福祉社会へ』太田出版
ジェームズ・スロウィッキー(2006)『「みんなの意見」は案外正しい』角川書店
福岡伸一(2021)『動的平衡は利他に通じる』朝日新書
フレデリック・ラルー(2018)『ティール組織:マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』英治出版
関連する事業採用実績・受賞歴・特許 等
関連の研究費
基盤研究(B)「大学教育のガバナンス」2010年度~2012年度
基盤研究(B)「持続性と実効性を備えた共創的な大学ガバナンスの構築に関する基盤的研究」2025年度~2028年度
関連の書籍
小方直幸(2020)『大学マネジメント論』放送大学教育振興会
小方直幸(2024)『ケースで学ぶ学長の仕事』高等教育研究叢書174