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  香川大学 創造工学部
  教授 吉田 秀典
  応用力学、計算科学、廃棄物工学
  2024/10/23掲載

研究内容の概要

現在、私が力を入れて研究している内容は、「AI・数理・データサイエンス」と「廃棄物の再資源化」に係る研究です。
前者は、主に数学と物理を、後者は化学を用いる研究と思ってください。両者は、あまり関連性が無いですが、私の研究の岐路は、東北地方太平洋沖地震の際の東京電力福島第一原子力発電所(以降,1F)におけるシビアアクシデントでした。
当時、私は、原子力発電によって発生する核のゴミ、つまり、高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る研究に従事し、主として、地盤の掘削解析や、掘削にともなって変化する地盤水理の研究をしておりました。しかしながら、1Fのシビアアクシデントによって、高レベル放射性廃棄物の事業は、私が現役の研究者として活動している間に大きな前進はないだろう・・・と思うに至り、この研究を断念しました。
では、どんな研究をすれば良いのか・・・1年ほど悩みましたが、元々、解析を得意としていたことから、その経験をAI・数理・データサイエンスに活かすこととし、また、放射性廃棄物がダメなら、一般廃棄物を研究の対象にしようと考えました。

まず「AI・数理・データサイエンス」ですが、様々な計測データを、主として数学で処理しています。
例えば、ドローン等に搭載した測量機器(写真1)にて三次元データを取得し、災害にあった家屋の被災状況や、地盤等の災害状況を定量的に評価しようしています。図1は写真(画像)ではなく、測量によって得られた3次元の点です。点に色を着けているので写真のように見えますが、単なる点の羅列です。こうした3次元座標データより、建物がどのくらい壊れたか、どの程度傾いたかを定量的に求めることができます。

次に、廃棄物に関する研究ですが、一言で言えば、ゴミを処分場に持ち込まずに再資源化し、再利用するというものです。
写真2は魚骨ですが、写真3~5のステップを経て、重金属等を吸着する吸着材(写真6)を製造しています。その他として、ゴミの焼却灰をコンクリートの骨材あるいはセメント代替としてコンクリートに混和しているほか、賞味期限の切れた希少糖を用いて有害物質の無害化などをも行っています。図2は、六価クロムを含むセメント中に、何も入れないもの(BLANK)、と糖(希少糖廃シロップ、グルコース、アロース)を投入して六価クロムの残存量を測定した結果ですが、セメントが固まり切っていない7日後に、その残存量を環境基準以下にできるのは希少糖廃シロップのみであったことを示しています。28日後には、全てで残存量が環境基準以下になっていますが、これは、セメントが固まってしまって、六価クロムが溶出していないことを示しています。

今後は、こうした研究を社会実装していく所存です。

研究を始めたきっかけと魅力

研究を始めた契機は、前項【研究内容の概要】にて記載した通りです。
「AI・数理・データサイエンス」に係る研究の魅力は、人間では、到底処理できないような大量のデータを迅速、かつ、安価で処理し、目に見える形で情報を提供できることです。こうした情報は、災害からの復旧や復興に対して、多大なる貢献が可能です。
また、「廃棄物の再資源化」に係る研究では、ひっ迫する最終処分場の寿命を延長するだけでなく、廃棄物をイノベーティブな再資源材料に再生し、むしろ価値のあるものにしております。
こうした研究は、社会の諸課題を解決し、持続可能かつレジリエントな社会の構築に貢献できることが魅力と言えましょう。

今後進めたい研究

研究の成果が、人間の安全かつ安心な暮らしに、そして、精神的な豊かさ繋がるような研究を進めたいと考えています。さらに、研究を通して、学生が成長し、かつ、最大限にその能力を引き出せるような研究を行いと考えております。

メッセージ

学生さんへ:人生は、山あり谷ありです。楽しいこともあれば、辛いこともあるでしょう。しかしながら、どんな時でもポジティブに考え、逆境をむしろ成長へのチャンスと捉えて、何事にも臆することなく挑戦していくような人材に育って欲しいと願っております。高い障壁を超えた先には、恐らく、これまでに見たことが無いような素晴らしい景色が広がっていると思います。

関連する事業採択実績、受賞歴、特許等

受賞歴:
 2024年 令和6年度防災功労者内閣総理大臣表彰
 2017年 文部科学大臣賞, 科学技術賞(開発部門)
 2016年 平成28年度四国地方鉱山保安表彰
 2009年 芦原科学功労賞
 2005年 岩の力学連合会 論文賞
 1997年 (財)前田記念工学振興財団 前田工学賞
 1997年 (社)土木学会 土木学会論文奨励賞

論文等;
 https://researchmap.jp/hidenori_yoshida/published_papers

趣味

趣味は自転車と「昭和の香りが濃い街」の散策です。
子供の頃から自転車は好きでしたが、それが高じたのは、高校3年間、自転車通学だったからでしょうか・・・ただ、大きな事故も3度経験(顔面打撲、肋骨3本骨折、大腿骨骨折、脊椎骨折)もあり、それでもやめないので、よほど、好きなんでしょうね(笑)。
「街歩き」を趣味にしていますが、中でも、「昭和の香りが濃い街」は大好きです。
もっとも好きなのは、大学が近かったせいもありますが、「谷根千」(ご存じない方は検索してみてください)です。昭和へとトリップできますよ。夏目漱石の小説を片手に、文豪気分で散策するのも良いかもしれません。

おすすめの本

(せっかくなので、「谷根千」に関係の深い文豪を・・・)

・『道草』 / 夏目漱石 / 新潮文庫

・『青年』 / 森鴎外 / 新潮文庫

・『谷根千文学傑作選』 / 森まゆみ / 中公文庫