香川大学の学士課程教育(2011年9月)

香川大学の学士課程教育の策定について

20世紀末から経済、政治、文化、技術が世界規模で流動化を始め、大学もこの流れの位相に合わせて動き出した。これに情報技術の革新も手伝って、知識基盤社会といわれる、大量の知的人材の活躍を必要とする、知識主導型の社会へと変化して来たといわれる。日本の大学ではユニバーサル化といわれる、同学年の過半数が大学へ進学する状況が生まれている。このような状況では大学の役割がおのずとこれまでとは異ならざるを得なくなってきている。それまで社会の外苑にいた大学は社会を構成する重要な要素として注目されるようになってきた。いまや大学が社会の主要な構成の一部となり、その役割と責任を直接的に負うことになった。この結果、大学教育にグローバル化と教育の実質化が求められ、知の創造の拠点としての大学が要求されるようになった。国際的に開かれた大学として、教育研究の世界的標準化が要求されるようになった。これらの要求を満たすために、個々の大学の教育や研究等の情報公開と共に、その大学を卒業する学士の教養や専門的知識能力に対する保証が求められる時代になった。

歴史的には本学では先進的な共通教育(一般教育)への取り組みが行われてきた。たとえば「学士課程」教育やFD等は本学では既におよそ30年前から関心を持たれてきた。しかし、大学教育の大綱化以来、共通教育は大学内に確固たる位置づけを持てず、専門教育の狭間で担当者の献身的な努力の下に維持されてきた。一方、各学部の教育はそれぞれの学問性、歴史性の上に分散キャンパスの弊も手伝って相互に交流することなく個別の発展を遂げてきた。しかし近年、大学としての教育力が問われるようになって久しい。それは学部の教育力だけでも学科のそれでもない、大学総体としての学士課程教育の実践とその成果である。個別学部に閉じこもった教育がどれだけ素晴らしくとも、今社会が大学教育に求める複雑な要求を満たすことはできないであろう。その要求の幾つかは大学以前の教育に委ねられるものでもあるが、しかし、この人間的基礎能力無くしては大学教育が成立しないこともまた確かである。国際的にも、最終教育機関としてあらためてそのことも念頭に教育の実質化が必要な時代を迎えている。

このような社会的要請に応えるために、従来の共通教育と学部教育の区分を出来るだけ廃して、大学教育の根本となる入学後4年間の教育を学士課程教育(undergraduate course)ととらえ、本学が公に約束する教育の水準及び成果を提示すると共に、これらを達成するために必要な諸事項を検討した。その結果、本学が学士課程教育を実践するに当たって、全学的な合意の下に、その基本的骨格について指針として示すものである。特に、共通教育と専門教育を通して、学士としての資質能力を保証するために必要な、明確な教育目標による学位授与の基準、これらを保証する教育課程編成基準(curriculum map及びcurriculum check listとして表す。)及び入学者の受け入れに関わる基準の、三つの基準を明確に示した。また、これらを大学として公的に約束するものである。

特に、学生諸君に対しては学士課程教育の重要項目や、全学共通教育のスタンダード及び専門分野別質保証のスタンダードを前提とした学位授与の基準を示した。これらを具体的には、個々の授業の目的及び到達目標と学位授与の基準の関係を丁寧なシラバスやカリキュラムマップの形にして示した。また、学生個人の達成度が客観的に判断できるように、全学的に統一した基準によるGPA制度を採用する。一方教員の個々の授業実践の判断の一助として、GPC(Grade Point Class Average)は有効なものとなるであろう。

教育の達成度を見るために、その成果をできるだけ正確に評価する必要がある。個々の授業や教育システムの改善のためには達成度評価のための種々の調査が必要である。これらの調査に基づくFDを中心として、教育の改善のためのPDCAサイクルの制度を確立することが、学生の現状把握と教員の教育力の向上において不可欠である。これらの制度は教員の無駄な努力を削減することにも通ずるものである。また、これらの一連の教育システムを合理的に運営し、恒常的に改善するための組織的な体制を構築する必要がある。それらは教育学生支援機構の役割である。

本報告は、本学における学士課程教育改革の端緒となるものである。今後実践に基づく改善の積み重ねの中に、より完成度の高い教育システムの構築の可能性がある。この報告の内容はこのような一連の改革過程の一環として、スタートを切ると共にその方向性を示すものである。教育は教員個々人の経験主義的な方法だけに依らず、世界的な改革の流れを意識しながら学究的な姿勢で取り組む必要がある。ここで提示する本学の教育主題となる「自己教育の機運の醸成」は、大学として組織的継続的に取り組まなければ達成できない課題である。これは学生に自己責任の意識を育てることが背景にあるが、同時に教員にも要求される。全学部の教育に対する教員の意志のベクトル和が大学の教育力を表すことになる。本学に適したより理論的で実践的な教育体制を構築するために今後の香川大学人の努力に期待したい。

 

pdfアイコン香川大学の学士課程教育(平成23年9月22日策定 全文版) (PDF:3,437KB)
pdfアイコン香川大学の学士課程教育(本文のみ) (PDF:426KB)
pdfアイコン            〃           (参照 指針・要項等) (PDF:3,288KB)

注) 報告書中に掲載している各学部の分野別質保証、デイプロマポリシー(DP)、カリキュラムマップ(CP)は、本報告書を取りまとめた時点の検討内容であり、全ての学科、課程を包含するものではありません。

2011年(平成23年)9月
国立大学法人 香川大学
学長  一井 眞比古

教育改革・計画担当理事
伊 藤  寛

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