香川大学 経済学部/創発科学研究科
教授 緒方 宏海
人文・社会/文化人類学、民俗学
1.自己紹介
経済学部の緒方宏海です。日本の瀬戸内海や中国の離島をフィールドにして、島嶼コミュニティの政治参加や経済、民俗宗教などについて、文化人類学の視点から研究をしています。本学のSDGsの取り組みでは、人類学の視点から人口減少に直面する香川県の離島に居住する高齢者コミュニティの再形成、地域社会とのつながりの実態、及び島の町づくり、観光地域づくりにかかわる地域的基盤について明らかにすることを目指しております。これによって小規模離島の人口減少を克服するための政策等も提言しながら、国の離島振興政策に対しても行政が自助・互助・共助・公助を検討する際に貢献できるように取り組んで参る所存です。
2. 活動のきっかけや経緯
私は長年中国の辺境離島でのフィールドワークをしていたこともあり、10年前、香川大学に着任した翌月から早速、香川県の島々のフィールドワークに取り組み始めました。島々の浮かぶ瀬戸内海の美しさに心躍らせつつ、ある島に調査に渡ると、その島の入り口からは細道の竹藪をかき分けないと進めませんでした。舗装されていない道を1キロ歩き、やっと集落が見えましたが、人の気配がまったくなく、更に5キロ歩いても人が見当たりません。道の両サイドに広がるのは、ガラスが割れた廃墟の家々ばかりでした。それは、私が今までに調査してきた人々の熱気が漂う島とはあまりにもかけ離れた光景であり、また人類学者や地理学者が描いてきたエキゾチックな島、美しい景観をもつ島、長閑な島、観光開発に成功したリゾート地の島々のいずれとも衝撃的なまでにかけ離れていました。この日の経験が小規模離島研究に取り組む原点であり、過疎化した離島で暮らす島民の生活の向上に関するSDGsの研究が日本国内だけでなく世界においても未だ進まない中、その課題解決に対し研究者として積極的な役割を果たそうと心から願う所以です。
3. 活動(研究)紹介と将来の展望
人類学は、フィールドとする調査対象地域を訪れ、長期間住み込み、現地の人々との日常生活を体験しながら参与観察するなど、ボトムアップの手法からフィールドとする地域の人々の暮らしを探究します。香川県の離島には、島民の生活の推移を物語る貴重な民俗文化が多く残されています。本取り組みによって、一般の人々に香川県の離島の貴重な民俗文化の存在を伝え、その重要性を認識していただけるよう努めて参ります。また、島の高齢者が主体となりうる地域としての島の特徴的観光資源を発見し、過疎化に直面する島の高齢者の地域づくりの自分事化の可能性を検証・提示し、多角的な取り組みを展開することで、香川県の島のより良い未来に寄与して参りたいと思います。