素材が持つ「しっとり感」と「温もり感」は、触り心地の良さの決め手となる感覚です。この度、創造工学部 機械システム工学領域 高尾英邦教授らの研究チームは、指先の様に対象の「しっとり感(乾湿感)」と「温もり感(冷温感)」をそれぞれ正確に感じ取り、場所ごとにおける違いを1ミリメートル以下の位置精度で見分けられる指先型半導体触覚センサの開発に成功しました。 本技術は高尾教授が推進するJST-CRESTプロジェクト「触覚の価値を創造する深化型マルチフィジックスセンシングシステム」の主要研究成果で、今回、全く新しい原理で「乾湿感」ならびに「冷温感」をセンシング可能にしました。これらを開発済みの「粗滑感」「摩擦感」「硬軟感」と組み合わせることで、指先が持つ「5大触覚要素」全てを一つのセンサ上に実現可能としました。今後は、繊細な指先の感覚を可視化・数量化する技術として、指先の鋭い感覚を必要とする未踏科学分野の応用を展開します。 本成果に関して、本年1月15 日~19日にドイツで開催されたIEEE MEMS2023国際会議※1にて、本学大学院生の山田原暉さんと三瀬奈智さんが「しっとり感」と「温もり感」のセンシング技術をそれぞれ発表しました。事前の論文審査の結果「しっとり感」の論文が「Outstanding Student Oral Presentation Award Finalist」(全635件中20 件)に選出され、「温もり感」の論文も「Outstanding Student Poster Presentation Award Finalist」(全635件中10 件)に選出されました。現地での発表とFinalist最終審査の結果、「温もり感」の研究が「Outstanding Student Poster Presentation Award Winner※2」を受賞し、研究に対して極めて高い評価が得られました。詳しい研究発表の内容は別紙をご参照ください。

1 IEEE MEMS2023国際会議について
 Micro Electro Mechanical Systems (MEMS, 微小電子機械システム)技術と半導体微細加工技術を用いた各種マイクロデバイス、マイクロセンサの最新研究成果が発表される中心的かつ分野最難関の国際会議です。IEEE MEMSは毎年1月に開催され、MEMS分野の最新かつ革新的な研究成果が発表されます。開催場所は北米大陸、アジア、欧州を順に巡ってゆき、2023年はドイツ・ミュンヘンにある「Science Congress Center Munich」で5 日間の会議が開催されました。

※2 選考対象となった論文数、Finalistに選出された件数ならびに最終受賞件数等について
各件数は全てIEEE MEMS2023 Award Selection Committeeの発表に基づきます。Finalistは全投稿635件中30件(上位4.7%)であり,FinalistからのAward WinnerはOral部門,Poster部門とも各2件の結果となりました。

参考情報
1.The 26th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS2023国際会議)
      https://mems23.org/  (2023.1.15~1.19)

2.IEEE MEMS 2023 Award Winners
  https://mems23.org/home/award_winners.html (Published on the web on Jan. 20 2023)

別紙1:「しっとり感」を計測可能な触覚センサと計測原理について

 健康な素肌や高級な皮革製品、上質な食材の表面は「しっとり」していると言われ、表面には適度な湿り気を感じます。私たちは「しっとり感」の起源を表面の微小水滴群が持つ表面張力、または、それと錯覚する「引力」の存在と考えています(図1)。開発したセンサは指先のように対象を走査し、接触力と摩擦力の関係をたった1回の計測だけで取得します。そこから「接触力」と「摩擦係数」の関係を描き出し、「しっとり感」の有無による摩擦特性の違いを明確に抽出、数量化することに成功しました(図2)。摩擦特性における特定のパラメータに注目することで、摩擦力における「引力」の支配性、すなわち乾湿感の強弱が判別可能となりました(図3)。本技術は毛髪や肌の潤い程度やしっとり感の診断、高級な素材が持つ独特の質感や劣化状態の計測、湿潤度の計測が必要な医療診断の技術・治療器具への応用等につながります。

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図1「しっとり感」の起源モデル 図2「しっとり感」が持つ摩擦特性  図3「しっとり」「さらさら」の識別

本成果がIEEE MEMS2023 Outstanding Student Oral Presentation Award Finalistに選出
Genki Yamada, Yuto Morita, Kyohei Terao, Fusao Shimokawa, and Hidekuni Takao,「High Resolution Tactile Sensor for Measurement of a Complicated Tactile Feeling of “Shittori” with Moistness」, Proceedings of IEEE MEMS2023, pp.213-216, Munich, Germany, January 15-19, 2023.
上記論文はIEEE MEMS2023国際会議で発表され、全投稿635件中20件のOutstanding Student Oral Presentation Award Finalistに選出されました。図4は表彰式で授与されたAward FinalistのCertificateです。

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図4 Award Finalist Certificate

別紙2:「温もり感」を計測可能な触覚センサの開発について

 対象を触れた際に感じる「温もり感」は、指先内部の熱が相手に伝わりにくい(熱伝達率が低い)ことで得られます。熱伝達率が低いほど熱は逃げにくく「保温性」が高まります。今回、指先が感じる「冷温感」の能力を高解像度触覚センサに実現し、対象の「温もり」を感じることができる指先型半導体触覚センサを開発しました(図5)。指先の指紋列を模した接触子の先端に、体内温度を再現するマイクロヒータと、外に逃げる熱流を測る温度センサが内蔵されています。本センサは素材の熱伝達特性と同時に、表面凹凸と摩擦力を同じ接触子で検知可能であり、保温性が異なる複数素材の表面粗さ、摩擦感が変化する様子を1mm以下の高い位置精度で可視化することに成功しました(図6)。「温もり感」が加わることで、指先でも識別困難な違いを精度よく見分ける鋭い触覚を実現できます。この能力は各種サービスロボットや遠隔医療診断、ロボット手術などに応用可能です。

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図5 「温もり感」を同時検知可能な指先型触覚センサ 図6 素材による「保温性」と「手触り感」の変化

 

本成果がIEEE MEMS2023 Outstanding Student Poster Presentation Award Winnerを受賞

Nachi Mise, Mitsuki Kozasa, Kyohei Terao, Fusao Shimokawa, and Hidekuni Takao,「Fingerlike Tactile Texture Integrated Sensor with Cold and Warm Sensations of Sub-mm Spatial Resolution」, Proceedings of IEEE MEMS2023, pp.775-778, Munich, Germany, January 15-19, 2023.
上記論文はIEEE MEMS2023国際会議で発表され、全投稿635件中2件のみの受賞となるOutstanding Student Poster Presentation Award Winnerに選出されました。図7は表彰式の模様で、図8はAward Winnerに贈られた盾です。

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図7 IEEE MEMS2023 Award Winner表彰式

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図8 Award Winner表彰盾

お問い合わせ先
香川大学創造工学部 機械システム工学領域 教授 高尾英邦
TEL/FAX:087-864-2331
E-mail:takao.hidekuni@kagawa-u.ac.jp
※上記不在の場合 香川大学林町地区統合事務センター総務課庶務係
TEL:087-864-2000 FAX:087-864-2032
E-mail:shomu-t@kagawa-u.ac.jp