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新任教員からの挨拶「北村 尊義」

メディアデザインスタジオ

准教授 北村 尊義 

 2021年2月から香川大学創造工学部造形・メディアデザインコースの教員として着任しました北村尊義です.どうぞよろしくお願いします.私の専門はヒューマンインタフェース領域にあり,私たちの生活に身近なUX(ユーザエクスペリエンス)のためのデザインやシステムデザイン,コミュニケーション支援の研究に取り組んでおります.

 ヒューマンインタフェースやユーザインタフェースの“インタフェース”とは,人がシステムや道具などと接する際の接面や接点のことです.この研究領域の重要性を語る上でよく紹介されるのが,1979年にスリーマイル島で発生した原子力発電所事故です.こちらの事故の一因はオペレータのヒューマンエラー(ミス)であり,それを誘発するような表記がシステムにあったとされています.事故以降,プラント安全学ではヒューマンファクターやヒューマンインタフェースが重視され,様々な研究がなされてきました.私の修士・博士課程の出身研究室である京都大学大学院のエネルギー情報学分野研究室もこの流れをくむ研究室です.ただ私はそのような研究室でプラントなどの安全を対象とする研究をせず,私たちにとって身近な生活における行動への理論応用に関心を持って研究を展開してきました.

 たとえば,環境に優しい行動を促すための制度を設計したり,恋愛ゲームを開発したり,コミュニティマネジメント指針を開発したり,雑談の話題を誘導する環境システムを考案したり,などです.いずれの研究もプロトタイプシステムを組み上げ,協力者を集めて体験してもらうことで評価するというものでした.このような活動の幅は本学に着任する前の職場である立命館大学情報理工学部でさらに拡がり,インタフェース領域における防災・減災や思い出工学,観光エクスペリエンス,感性工学など多岐にわたる研究に学生さんやスタッフ,企業さんらと取り組んできました.

 では,このような背景を持つ私がどのように研究を進めているのかを説明いたします.私の研究はシナリオベーストデザインの考えに沿って進めることが多いです.シナリオベーストデザインとは,ロッソンとキャロル[1][2]という方々がソフトウェア開発に関して提案したもので [3],インタフェース領域で何か新しいシステムを創造する際の合理的な手法の一つです.下の図は,私がよく採用する研究手順を示すものです.まず,私たちの身近な問題,例えば「時間が気になって観光を楽しめない」「100m先を示すカーナビの案内がわかりにくい」「カラオケの歌いはじめやダンスの踊りはじめのタイミングがわからない」といったシナリオを発見し,それを打開するUXシナリオを描きます.そのうえで描いたUXシナリオを実現するシステムをデザインします.その後,デザインしたシステムを作り上げていくための評価,すなわち形成的評価から要求仕様をあぶり出し,得られた知見を総括する流れとなっています.

 

  また,私は形成的評価手法そのものも研究の対象にしています.どの研究分野でも言えることですが,システムの検証には定量的・定性的それぞれからの多角的な評価を必要とします.特にUI/UXの分野ではユーザという“人”が評価対象となるために特定の評価手法のみに頼り,本来みるべきところを見落とすようなことがあってはなりません.なぜなら,重要な箇所が見落とされた評価によって世に出たシステムが人に危害を加えてしまうことはできる限り避けるべきだからです.そのため,私はUI/UXのためのデザインに取り組む研究者として,評価手法の永続的な開発を使命の一つに掲げています.現在特に注力しているのは,実験室のような統制環境下ではなくオープンフィールドでの実験における新たな評価手法の開発です.

 このような背景から,私は本学で新たに立ち上げることになった研究室を青空UX研究室(AozoraUxLab.)と称することにしました.“青空UX”は私,北村による造語です.“青空”はオープンフィールドを指し,“青空UX”はオープンフィールドでの評価や評価方法の開発を目指す領域を示す言葉にふさわしいと考えています. また常識とされていることであっても,少しでも疑問に感じるところがあれば「まずはちょっと試してみようや」を合言葉に取り組む集団を目指しており, "青空"という言葉は常識という屋根を突き抜けて新たな知見を得る気概を示すのにしっくりくると考えています.マークにも青空を示すデザインを採用しました.この言葉とマークに恥じぬよう精力的に活動していく所存です.どうぞよろしくお願いします.

 

 以上,簡単な紹介になりましたが,私の活動に興味・関心を持っていただけた方は気軽にご連絡をくださると幸いです.できるだけ多くの方々と共に面白いことができたらと考えております.学生さんはもちろんのこと,企業の方々や在野の市民研究者の皆さんの問い合わせもお待ちしております.

 

連絡先: kitamura.takayoshi[★]kagawa-u.ac.jp

※[★]を@に置き換えてください

研究室Webサイト: https://aozoraux.github.io

 

参考文献

[1]    Rosson M.B. and Carroll, J.M: Usability Engineering: Scenario-Based Development of Human Computer Interaction, Morgan Kaufmann, 2002.

[2]    Rosson M.B. and Carroll, J.M: The Human-Computer Interaction Handbook: Fundamentals, Evolving Technologies and Emerging Applications, "Scenario-Based Design" in Jacko, J. and Sears, A. (eds.), pp.1032–1050, 2002.

[3]    黒須正明: UX原論 ユーザビリティからUXへ, 近代科学社, 2020.

  

北村 尊義(きたむら たかよし)
2015年,京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程指導認定退学. 同年立命館大学情報理工学部助手.2019年,同助教. 2021年2月より香川大学創造工学部准教授,現在に至る. 京都大学博士(エネルギー科学).ヒューマンインタフェース学会評議員,会誌編集委員,電子広報委員.システム制御情報学会事業委員など

 

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