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田原圭志朗 准教授らが新しい有機半導体を開発し、アメリカ化学会Organometallics誌のFront Coverに選出されました

 創造工学部材料物質科学コースの田原圭志朗准教授、兵庫県立大学大学院理学研究科の阿部正明教授らの研究グループは、既存の有機半導体に対して、太鼓型分子を連結させることで、新しい有機半導体を開発し、酸化還元に対する優れた安定性を見出しました。本研究成果は、アメリカ化学会の国際学術誌「Organometallics」に掲載されました。また、同誌で高い評価を受け、Front Coverに採択され、2025年5月12日に公開されました。

2025press_図1.png図1. 本研究の概念図:太鼓型分子との連結による有機半導体の開発

【概要】
 フェロセンは、太鼓型の特徴的な構造をもつ分子で、電子を安定に出し入れ(酸化還元)することができます(図1)。有機化学と無機化学の融合領域である有機金属化学という学問分野の代表的な分子でもあります。一方で、ベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)は、軽くて、曲げられるフレキシブル素子の実現を目指す有機エレクトロニクス分野において、有望な分子性有機半導体として注目されています。これまで報告者の研究グループでは、有機トランジスタ素子の部材開発に取り組み、フェロセン誘導体をゲート絶縁膜のコーティング剤に、BTBT誘導体を有機半導体層に用いることで、有機トランジスタに不揮発性メモリ機能を付与することに成功していました(Langmuir, 2020, 36, 5809.)。この成果を発展させ、本研究では二つの部材を一つにまとめ、素子構造を簡略化するため、新しい有機半導体の開発を目指しました。具体的には、フェロセンとBTBTを共有結合で連結した新規分子を化学合成しました(図1)。この連結分子は、元のフェロセンに起因して、安定に酸化還元できることを確認しました。また、デバイス動作でポイントとなる酸化された状態を詳細に評価しました。近赤外領域に特徴的な吸収が観測されたことから、フェロセン部位とBTBT部位が電子的に相互作用することが分かりました(図2a)。また、結晶状態では、フェロセン部位同士、BTBT部位同士が接触する凝集形態に加え、フェロセン部位とBTBT部位が接触する新しい凝集形態を含むことを明らかにしました(図2b)。

2025press_32図2.png図2. (a) 連結分子を酸化した状態での吸収スペクトル. (b) フェロセン部位とBTBT部位が接触する凝集形態

 本研究は、有機金属化学と有機エレクトロニクス分野の境界領域における研究成果であり、今後、有機トランジスタ素子の活性層への応用や新機能の創出が期待されます。

【論文情報】
掲載誌:Organometallics, 2025, 44, 973.
論文題名:Ferrocenyl-Benzothienobenzothiophene (BTBT) Conjugate: Synthesis, Crystal Structure, Redox Behavior, and Intramolecular Charge Transfer Properties of One-Electron-Oxidized Species
著者:Keishiro Tahara, Tomohito Horio, Takashi Ikeda, Koki Itamura, Yoshiki Ozawa, Masaaki Abe
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