審査委員の講評

最優秀賞 「AIを知り、己を知れば未来危うからず」

香川県教育委員会教育次長 三好 健浩

 松浦瑠さん、最優秀賞おめでとうございます。
 Society5.0と呼ばれる超スマート社会では、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、少子高齢化や地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されるといわれています。
 一方、AIやロボット等の発達によって単純な作業等は自動化されるため、今ある職の一部が失われる可能性が高いといわれています。このことは、すでに職に就き、定年も見えてきた私には理屈として理解できる程度のものですが、間近に進路選択が迫る高校生にとっては深刻で切実な問題です。今回のテーマと向き合い応募した高校生の多くが、このことを記載しており、危機感を抱いていることがよく分かりました。
 その中でも本論文は、調べたことをもとにAIより人間が優れていることを論じ、今の自分が身に付けるべき資質や能力を「想像力」「決断力」「コミュニケーション能力」の3つにまとめ、高校時代に何をなすべきかを見出しており、論が明快で、現在や将来の社会の状況と自身の高校生活を結び付けて考えている点が高く評価されました。
 また、終末の3つの段落は特に印象深く、「3つの力を十分に伸ばしていきたい」「未来を切り開いていきたい」「有意義な高校生活を送りたい」で締めくくられるそれぞれの文末に、これからの時代を生きる若者の瑞々しいエネルギーを感じました。
 今後、技術はさらに進歩し、高校生の皆さんが社会の中核として活躍する頃には、DX(Digital Transformation)によって社会の様相は大きく変化しているものと考えられます。そうした社会の状況に柔軟に対応し主体的に生きていくために、高校生の皆さんには、今を大切に高校時代に必要な力をしっかりと身に付け、力強く歩み出していただきたいと考えています。
 松浦さん、そして本懸賞論文に応募いただいた皆さんの今後ますますのご活躍をお祈りしています。

優秀賞 「多数決を有効に活用するために」

香川県情報発信総合参与 木原 光 

 文章づくりは感性。知恵や知見、経験に加えて、その人の想い、その時の情感が込められている生き物だと思っている。だからこそ、その人の個性がにじみ出る。生成AIやChatGPTで瞬時に生まれる文章にはない、味わいやウイット、奥深さがあるのが人が紡いだ文章。
 今回、50点の応募作もそれぞれに、高校生の若い感性が満ちあふれた論文ばかりだった。今年で8回目の審査だが、いつもその文章力の高さに驚かされている。
 今は香川県の広報の手伝いをしているが、45年間新聞記者としてニュースと格闘し常に心掛けてきたのは読者の視点。「読者は何を知りたいのか」「何を求めているのか」。これにこたえる記事を書いてきた。その基本は「分かりやすさ」「読みやすさ」。最初の10行に見出しの要素をすべて入れる記事に対して、論文は文章の作りこそ違うが、どちらも読んでもらわないと伝わらない。
 「多数決は便利だ」「だが万能ではない」。いきなりこれから始まる友川翔太君の論文は、とにかく読みやすい。論法の筋立てが巧みだ。国際連盟と国際連合、和食と洋食、エレベーターいる・いらない。馴染みやすい事例を比較・分析して多数決の功罪をあぶりだし、「少数意見を反映できない」多数決の欠点を、話し合いの実施で利点に持っていく締め。
 私の国語の師である作家の故丸谷才一氏はいい文章の始まりは「良い問い」。訴えるコツは「比較と分析」と書いている。友川君の論文はまさにその通り。見事な思考。恐れ入った。

優秀賞 「良心とメディアリテラシーが問われる世界でAIとどう付き合うのか」

香川大学法学部長 堤 英敬

 北川裕樹さん、優秀賞の受賞、おめでとうございます。
 本作品は、生成AIには著作権の問題や情報の信憑性の問題があることを指摘し、AIと付き合っていく上では良心とメディアリテラシーが重要であり、AIをただ恐れるのでも盲信するのでもなく、正しい知識を持ってAIと付き合っていく必要があると論じています。
 本作品と同様に、生成AIの抱える問題として著作権や情報の信憑性を挙げていた応募作は少なくありませんでしたが、北川さんは、画像生成AIの問題を指摘するためにイラストレーターの声を紹介したり、画像生成AIを使ったフェイクニュースがSNSで拡散し、株価にも影響を与えた例を取り上げたりするなど、実例を効果的に用いながら、それぞれの問題の重要性を的確に伝えることができていました。また、実例に即した問題提起が行われたことで、法整備が進んでいない中では人々の良心が問われており、これまでに以上に情報のソースが信用に足るのかどうか、複数の情報を参照する必要があるという主張には、高い説得力を感じました。
 今回の応募作を一通り読ませてもらいましたが、多くの高校生はAIの普及に対して不安を感じているという印象を受けました。しかし、様々な問題はありつつも、AIの利用は今後、社会の各方面においてさらに広がることが予想されます。そうした中、AIをただ恐れたり盲信したりするのではなく、正しく理解した上で活用しようと提唱する北川さんの姿勢は、年代を問わず、すべての人々に求められている姿勢と言えるのではないでしょうか。
 本作品は、文章生成AIに作成させた「AIの活用法について」という小論文の序論から始まります。生成AIが話題になっているのであれば、まずは使ってみて、その上で自分なりにAIの利便性や問題を考察しようとした本作品からは、北川さんの高い能動性が感じられました。こうした能動性を生かしながら、次なるステージへと羽ばたいていかれることを期待しています。

奨励賞 「人間とAIの『正しい』活用のために」

香川経済同友会 特別幹事 竹内 麗子 

 まずは、松野真穂さん、奨励賞の受賞、誠におめでとうございます。
 今回、松野さんの論文を読ませて頂き、1950年代には既に第1次AIブームが始まり、以降、進化を続け、今や、私たちは、第3次AIブームの中でチャットGPTや生成AIの時代に突入していて、論理的な思考をAIが肩代わりしてくれる時代になっていることを知りました。長い論説文など読むことができなくてもAIが要約してくれますし、英語も同様に翻訳アプリが出ていて制度を問題にしなければ十分に役立ちます。
 しかし、AIの活用は、便利さをもたらすと同時に、大きな問題を投げかけるようになりました。中でも、AIがウクライナやガザを始め、世界平和の分断に油を注ぐかのようなフエイクニュースに使用されている現実です。
 私たちの今後の生活にAIが必需品になるであろうことが確信できる反面、AIの使用を重ねるたびに人間は論理と言う大切なプロセスへの価値を見失いAIの便利さに、どんどん、慣らされていき、人間の善悪を判断する思考力さえもが徐々に落ちていく危険性と過去にない加速力に大きな恐れを感じるからです。
 論理的な思考を重要視するのは、精神的な成熟を目指すものにとって筋道を立てて考えることだからです。考えるには言葉を使い、思考は、感情を呼び覚ませます。私達は持っていない概念や言葉を使って思考することは不可能です。捉えがたい感情が湧いてきても言葉が無いと混沌とした世界に留まるしかありません。この領域をAIに頼ることは、まだ、無理です。それ故、彼女が述べるように、AIに期待しつつ不安を抱かずにはいられないのです。論理的に考えることは、より成熟した精神を目指す過程で大切だと思います。
 加速するデジタル社会の中で私達自身が論理の基となる情報を取捨選択をする能力を身につけ未来を、より良いものにする責任を果たす努力を続けて参りましょう。

奨励賞 「高校生の学習における生成AIとの向き合い方」

のぞみ総合法律事務所 弁護士 二川 伸也

 黒川さん、奨励賞の受賞おめでとうございます。
 本作品は「生成AIの登場など、人工知能(AI)の発達に対し、あなたはどのようなことに留意し、どのように活用していこうと考えるか」をテーマに書かれたものです。
 ChatGPTを始めとした対話型生成AIの登場により、生成AIが急激に身近なものになったように感じるところ、高校生にもそれは同様です。
 そのため、各作品において、具体的なイメージを持ちながらAIに対する分析を加えられていたように思います。
 そうした作品の中で、黒川さんの作品は、高校生の本分である「学習」を念頭に、AIへの分析を加えています。
 また、黒川さんの分析は、(主に)生成AIが生み出す成果物について、その信用性を十分に疑うべきであるというところに留まらず、当該成果物を学習に利用することは、自身の学習の機会の喪失に繋がること、すなわち成長が阻害されるという点にまで分析が及んでいます。
 今後もAIに限らず、人生を豊かに、便利にするツールはますます発展していくことは容易に想像がつきます。しかし、こういったツールを単に使うだけではなく、自身の成長のために適切に利用できなければ、それは本当の意味で人生を豊かに、便利にできるといえるかは不明です。黒川さんの分析するとおり、AIとの適切な距離感、利用法を確立しなければ、今後の人生の豊かさも大きく変わってくるように思えます。
 高校生に限らず、社会人になってからも「学習」は成長のために欠かすことはできないところ、黒川さんの分析は、我ら社会人にとっても、AIとの向き合い方を考えさせる一つのきっかけになるものだと思います。
 黒川さん、この度はおめでとうございます。

奨励賞 「言語生成AIを利用するために」

香川大学法学部長 堤 英敬

 桑原悠輔さん、奨励賞の受賞、おめでとうございます。
 本作品は、言語生成AIの活用方法について、AIの特性を踏まえながら論じたものです。言語生成AIを適切に利用する上では、生成された文章がいかなるものかを理解しておくことが不可欠ですが、桑原さんは、言語生成AIを中国語のマニュアルになぞらえて、AIが生成した文章は本質を捉えているわけではなく、人間が主体的に思考する必要があると論じています。
 また、ある小学校で実施された言語生成AIを利用した道徳の授業の様子を紹介しながら、人間とAIには感情において違いがあることを指摘し、人々の感情が交錯して解決の糸口すら見つからない問題において、AIの回答と人間の考えと比較することで感情を整理し、意思決定の手助けとするという活用方法を提案しています。これは、AIの感情を考慮しないという特性を踏まえた、非常に有意義な提案だと感じられました。
 さらに本作品では、言語生成AIのキャラクターに依存してしまった男性の例を挙げながら、AIとは適切な距離を保つ必要があることも論じられています。AIが感情を持たないがゆえに人間がAIに頼ってしまう危険性があるとの指摘は、大変鋭いものと言えるでしょう。
 ここまで紹介してきたように、桑原さんの作品では、他の応募作には登場しないユニークな事例を紹介しながら、言語生成AIを利用する上での留意点や活用方法が論じられています。紹介されていた事例は必ずしも広く知られたものというわけではなく、この論文を執筆するにあたって多くの資料を収集し、その内容を精査しながら自分の考えをまとめていったことが窺われます。また、AIに感情が伴わないことに言及した応募作は少なからずありましたが、そうした特性を利用した言語生成AIの活用方法の提案にまで議論を進めた点は、高く評価できるでしょう。
 今後も、桑原さん自身の視点を大事にしながら、いっそう研鑽に励んでいただきたいと思います。

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