審査委員の講評

最優秀賞 太田 若那 「大人になった高校生」

香川大学法学部長 三野 靖

 本作品は、「成人年齢引き下げに伴って、あなたが感じる社会的責任や問題」をテーマに書かれたものです。審査委員5 人のうち3 人が評価点をつけ、うち2 人が1位と2 位をつけました。
 本作品の小見出しは、次のように構成されています。「天秤にかけられた権利と責任」、「強力な矛・失われた盾」、「日本の若者は社会問題に無関心?」、「何もない18歳」、「責任の変化」。また、本作品のなかでキーワードとして使われている言葉がいくつかあります。「権利」、「自己決定」、「自己責任」、「手放しの自由」、「社会参加」。
 一般に、高校生ではあまり使わない耳慣れない言葉ではないでしょうか。作者は、日ごろからニュース等で社会問題に関心をもって接しているのでしょうか。一方、「日本の若者は社会問題に無関心?」のなかでは、「動画の倍速視聴」のデータをもとに、「効率化・最短化」を求める若者の傾向を踏まえて、社会参加に消極的なのではないかと分析しています。
 このように、本作品には、社会科学的な視点・素養が随所にみられる一方、今どきの若者らしい新しい観点も踏まえて、論述していることが高く評価されたものと思います。ひいては、本作品を書きながら筆者自身が、自らの大人になることの意味を模索しながら思考をしている過程なのではないでしょうか。新たなるステージで大きく羽ばたくことを期待しています。
 

優秀賞 樋笠 麻依 「輝く未来を創るために」

香川県教育委員会教育次長 金子 達雄 

 樋笠麻依さん、優秀賞ご受賞、誠におめでとうございます。
 今回の論文のA課題である「成人年齢引き下げに伴って、あなたが感じる社会的責任や問題」は、令和4 年4 月からの法律の施行もあり、教育委員会として高校生の皆さんがこの課題をどのように感じ、どのような考えを持っているのかを知りたくて、テーマとして提案させていただきました。
 今回の懸賞論文には54 点の応募があり、そのうち30 点がこのA課題でした。すべての論文を読ませていただきましたが、そのほとんどが消費者トラブルについて論じたものでした。引用しているデータや論旨も似通ったものが多く、正直、もう少し様々な観点からの論文を期待しておりましたので、少し残念に感じたところです。
 そのような中、いくつかの論文には複数の視点を交えたものがありました。優秀賞を受賞された樋笠さんの論文もその一つで、消費者トラブルに加えて少年法の変更に言及しており、18・19 歳の「特定少年」への対応について述べられていました。犯罪件数と再犯率についても触れられ、あわせて社会がどのように対応すべきかについての提案もされていました。
 今回の論文は、高校生にとって身近に起こりうるトラブルについて、参考文献をもとに下調べを十分に行うとともに、客観的なデータに基づきわかりやすく論を展開しており、他の高校生からも共感を得られる、内容の濃いものとなっていると感じました。
 成人年齢が引き下げられたことに不安を感じるだけに終わらず、正しい知識と情報を得ることで、前向きに受け止めることもできると考えます。社会的責任を伴う一方、これまでできなかった新たなことに挑戦できるチャンスでもあります。高校生の皆さんが、「成人」ということをきちんと受け止め、自身の成長に繋げてくれることを願っております。
 結びに、樋笠麻依さん、この度はおめでとうございます。これからも様々なことに着目し、文章にまとめるということを続けてください。今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。
 

優秀賞 坂賀 憩 「未来の担い手になる自覚をもって」

四国新聞社西讃支社長 木原 光治

 今年で審査員を担当して7 回目になる。いつも若い感性豊かな高校生たちの伸びやかな文章に接するのが楽しみである一方で、論法の鋭さ、斬新さを目の当たりにして、自らの文章力の乏しさ、拙文さに落ち込むこともあった。今回も応募54 編をすべて読ませていただき、その接近した論文力に感心し、選ぶ難しさに、のた打ち回った。表彰されたみなさんは、新聞記者歴40 数年の小生にとっては、ライバル以上の卓越した文章力をもった若きエリート、本当におめでとうございます。
 その中でも優秀賞の坂賀さんの「未来の担い手になる自覚を持って」は、硬直した文章になりがちな論文をできるだけ読まそうとする、工夫があった。
 まず冒頭。落語でいう「つかみ」で、取り上げたのが「チラシ」。それも「考える人」「考える新成人」とくれば、これで何を主張するのだろうか。読み手の心を捉える軽快な出だしに感心した。それに続く18 歳の成人扱いに「驚きと焦りを感じている中高校生は多いのではないか」と、ファースト段落を締めている。これは「18 歳の大人」をこれからどういう立場で論述していくかを示唆したリード文、これで一気に私は残りの文章を読んでしまった。
 起承転結の「起」で読み手の心をつかみ、中盤の「転」で大人への努力の指標として「幸福度ランキング」と取り上げた視点がまたいい。そして最後に「若いチカラで日本を変えられるかも」と締める。
 私の国語の師は作家の丸谷才一氏。文章に行き詰まると彼の著書「文章読本」や「思考のレッスン」を開く。その中で彼は書き方のコツを「文章は頭の中でつくる」「書き出しはだらだらせずに」と説き、最後は「パッと終われ」と言う。まさに坂賀さんの論文はそのお手本通り、素晴らしい筆力だ。
 

奨励賞 川崎 愛珠 「成人年齢引き下げに伴いトラブルに巻き込まれないためには」

香川経済同友会 特別幹事 竹内 麗子 

 観音寺第一高等学校 川崎愛珠さん、奨励賞の受賞、誠におめでとうございます。
 今期、平成22 年4 月からの法改正により、成人年齢が20 歳から18 歳へ引き下げに伴い多くの高校生たちから論文応募を頂きました。
 まもなく、コロナ感染と共存の3 年間が過ぎようとしています。今や、世界はコロナ問題だけでなく、ウクライナ問題を始め、エネルギー、食糧、環境等、数えきれないほど多くの問題噴出により、社会情勢は大きく変化混乱し、希望を見いだせない状況に陥っています。
 そのような状況下において、川崎愛珠さんを始め多くの高校生たちが、成人年齢引き下げに伴うメリット、デメリットについて真剣に考察し、賛否を含めて、真正面から取り組んでいる姿勢に敬服致しました。
 特筆すべきは、既に法改正された現在、今まで以上に課せられる責務や、自分自身を守るための学習や、対応改善に尽力しなければならなくなったことに加え、中学生や高校生等の早い段階における教育の重要性を川崎愛珠さんが指摘していることです。
 今、大きな世界変動の中で、人間の尊厳が守られにくくなっています。
 人間の尊厳を守る社会構築には、未来を生きる若者の社会参画が必要です。その一環として、政治への参画は国民の義務です。そして、候補及び選挙への参加は成人の義務です。なぜなら、いつの世も政治に無関心な国民は、無能な政治家に支配されるからです。
 人間が、人として熟成するには個人差があります。それ故に、更に早い、幼児や小学生段階における教育の開始と、新社会人としてのスタート、そして、100 年を生きるに十分な大器晩成型教育に、大きな期待とエールを贈ります。 
 

奨励賞 松岡 沙弥 「他者を受け入れることと自分を受け入れること」

のぞみ総合法律事務所 弁護士 二川 伸也

 松岡沙弥さん、奨励賞の受賞おめでとうございます。
 共感できない他者といかに共存するか、という抽象的なテーマに対して「共存」「寛容」という言葉の意味から論じ始め、いくつかの場面設定をして具体化する中で人権問題に関わるか否かという切り口から、それぞれの場面での課題、問題点をあぶり出し、テーマに沿う回答を導くために検討すべきことを客観的資料を用いながら論じており、非常に優れた論文でありました。
 また、その客観的資料は、他の論文にはなかった「集団心理」や「自尊心」といった科学的なところに焦点を当てた資料であり、独自性も感じました。
 昨今、社会の分断と対立が目立っております。すなわち、立場を大雑把に二分するなどにより対立構造ができてしまうことで、他者を加害、排斥し、自らの立場の安定性を保つような人が目立っているように思われます。
 この点、思想等の観点からどうしても認められない他者が存在すること自体は、松岡さんの論文でも指摘のとおり、当然に起こることです。そのため、我々がこれから考えるべきことは、他者との関係において、寛容の精神を育み、徒に対立構造を深めないことです。
 今後の日本は、社会全体で団結して取り組むべき課題がますます増える一方でしょう。その中で、対立構造を深めているようでは、課題解決どころか、日本の将来を暗くしてしまうように思えてなりません。それは、高校生の皆さんの将来を暗くしてしまうこととなります。
 こういった日本の現状を踏まえて松岡さんの論文を拝読した際には、将来の世代の方々には既にこういった問題点に気付き、現状を打破しようという素晴らしい考えが育まれていると思い、一筋の光が見えてきたように思えます。
 松岡さん、この度はおめでとうございます。今後、ますますご発展、ご飛躍されますようお祈り申し上げます。
 

奨励賞 山西 陽斗 「多様性を実現するために」

のぞみ総合法律事務所 弁護士 二川 伸也

 山西陽斗さん、奨励賞の受賞おめでとうございます。
多様性を実現するために、との観点で、日本が多様性を実現すべき理由から論じることで、多様性を実現する必要性にまずは着目しています。
 これは、テーマにも関わる、共感できない他者と共存することの理由、必要性にも繋がることであり、その理由、必要性は様々な観点から論じることができますが、山西さんが着目した点は経済面であり、これはなかなか高校生ではたどり着きにくい観点ではないかと思い、他の論文にはない部分でした。
 他方で、その観点に着目し、多様性実現のための課題を設定した上で、その課題解決の方策をこれまで自身が公共の授業等で学んできたことから導くところは、高校生らしいユニークなものであったと思います。
 山西さんの論文には、高校生らしからぬ点がありつつも、高校生らしいユニークさも取り入れられており、ハイレベルな論文でありました。
 先ほど触れた公共の授業ですが、これは2022 年度から始まったもので、実際の社会の課題と向き合い解決する力を身につけることを養うことが主眼にあると聞いていますが、山西さんの論文は日本が現実に直面している課題を見出した上で、その課題を解決するための方策を提示、実行する方法を提案しており、公共が想定している能力が養われているように感じました。
 さらに、昨今の制度改正により、18 歳での成人や選挙権など高校生の皆さんも社会に対して積極的に参加することができる、というよりも参加せざるを得ない状況になっています。したがって、高校生であっても、社会のことを自ら考え、より良くするために行動していくことが求められていくことでしょう。
 今後の日本を明るくするためにも学校で学んだことを存分に活かして、益々の研鑽を積んで欲しいと思う次第です。
 山西さん、この度はおめでとうございます。
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