審査委員の講評

香川大学法学部高校生懸賞論文2019 総評

四国新聞社 西讃支社長 木原 光治

 5回のうち、第1回を除いて4回の審査を担当させてもらった。おそらく今年の論文テーマが最もタフ、つまり高校生にとっては、かなり難しかったのではないか。「子どもの権利が尊重される社会のために」と「香川県における公共交通機関のこれから」の2つ。

 新聞記者を40年もやってきて、とにかく「読者の目線」、「中学生でも読める文章」を頭に置いて記事を書いてきた。そんな身だから、今回のテーマを聞いて、何人が応募してくれるのか。本当に危惧したが、応募はこれまでで最多の69点、公私立11校の生徒が挑んでくれた。
 それも内容がまた素晴らしい。多士済々な高校生が、若い感性を存分に発揮した、らしい視点、体験、思考で展開する論述の数々は、まさに審査員泣かせの秀作ばかり。
 「子どもの権利が尊重される社会のために」と言えば、いじめ、虐待に集中するかと思いきや、「家庭の貧困」「遊び」「笑顔」「食事」など、多彩なキーワードを軸に、現代社会に潜む構造課題に切り込んでくれた。
 「香川県における公共交通機関のこれから」の各作品も楽しめた。「高齢者のため」「新交通システムとバス」「観光列車」「四国新幹線」に加えて「サイクリングのすすめ」もあった。斬新な発想に、高校生の無限の可能性を感じさせてもらった。
 ありがとう、高校生諸君。なんにでも好奇心を持ってその無限の翼をさらに広げてほしい。

最優秀賞 藤原 璃子 「家庭の貧困による子どもの権利について」

香川県教育委員会 教育次長(兼)政策調整監 井元 多恵

 最優秀賞を受賞されました高松西高校の藤原さん、おめでとうございます。

 
受賞作品の「家庭の貧困による子どもの権利侵害について」は、子どもたちが直面している『家庭の貧困』という問題に真剣に向き合い、考察する藤原さんのまっすぐな姿勢が論文全体から伝わってきます。作品では、子どもたちの権利が侵害されている状況やそれに対する社会の取組みが丁寧に調査・分析されたうえで、高校生らしい提案につなげられており、自らの高校の取り組みから、ボランティアを呼び掛ける提言には、共感を覚えました。

 
参考資料も効果的に使いながら、具体的な提案へ導いていく論理展開の過程はたいへん分かりやすく、説得力がある論文に仕上がっています。

 
貧困の連鎖に焦点を当てて、学習支援や食の改善によって子どもの権利を守る、という主張は、とても現実的な提案です。また、地に足の着いた具体的な施策提案と併せて、『意識啓発』という中長期的スパンに立った解決方法を示している視点の高さも評価したいと思います。

 
藤原さんが、今後とも社会問題や事象に関心を持ち、柔軟に的確に思考を展開する習慣を身につけ、成長を続けられることを期待しています。

 優秀賞 藤村 小桜 「遊びから考える子どもの権利」

香川経済同友会 特別幹事 竹内 麗子

 観音寺第一高校の藤村さんは、将来の進路として教職を目指しています。
 
 その視点から、改めて「子供の権利を守る社会構築」を推進するために、総論的に、児童虐待などを論じる机上論だけではなく、「子供と遊び」から「子供の人権」に関する、近未来を考察していることが素晴らしいと思います。
 
 現在、大人たちは子供の声を聞いていないことが増えています。それにより、子供達の遊びが大人達によって制限され、子供本来の遊びが奪われています。
 これからの社会を変えるには、まず、大人が変わらなければなりません。人と人とがお互いに思いやり、支えあって生きて行ける社会、誰一人取り残さない社会の構築を、遊びによって取り戻すために、私達が出来ること、やらなければならない課題に真剣に向き合っています。
 
 中でも遊びは、子供達が友達を作り、「平等」について学ぶ機会でもあります。色々な立場に立って考えることで、その場に応じて、適切な判断力を身に着けることができるようになります。
 
 遊びの経験から「人権力」を育み、中でも、身体を使った遊びを軸に、子供の権利が尊重される社会構築の考察を続けていることに、敬服するとともに、今後の活動に、大きな期待とエールを贈りたいと思います。
 
 何故なら、遊びは子供達にとって、いえ、大人にとっても、最高の愛の源泉であるからです。

 優秀賞 礒野 滉大 「四国の電車が生き残るために必要な改革の提案」

 香川県弁護士会 弁護士 植野 剛

  観音寺第一高校の礒野さん、優秀賞の受賞おめでとうございます。

 私は、高校生懸賞論文の審査を行うにあたって、毎回、「高校生らしい、独創的でユニークな視点あるいは提言があるか」という点に注目しています。テーマに沿った調査を行ったり、文献を読んだりすることも、もちろん重要です。しかし、せっかく高校生が論文を書くのであれば、若々しいユニークな発想を持って論文を書いてもらいたいと考えているからです。

 礒野さんの作品は、前半にしっかりとデータ分析を行い、現状のJR四国の問題点を挙げた上で、後半にその問題点に対して「釣り列車」という提案を行っています。前半のデータ分析も、もちろん素晴らしいですが、何より素晴らしいのは、この「釣り列車」という独創的でユニークな発想です。

「釣り列車」という提案は、私達大人の目から見れば、一見、実現不可能な提案に映るかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。私達大人は、社会に出てそれなりに経験を積んできたことにより、どうしても自身の経験から判断し、過去の常識に囚われがちです。その常識が、実は判断を曇らせていないでしょうか。

  現代社会は、IT技術のめざましい発展に伴い、ほんの数年前までは不可能だと考えていたことが容易に可能となる時代です。このような時代に必要なのは、過去の常識に囚われない自由な発想を持った礒野さんのような人材です。礒野さんには、これからも過去の常識に囚われない自由な発想力を伸ばしていっていただけたらと思います。

 
 
ページの先頭へ戻る