審査委員の講評

香川大学法学部高校生懸賞論文2021 総評
香川県教育委員会教育次長(兼)政策調整監  海津 洋

 最優秀賞の鈴木櫻子さんをはじめ、受賞された皆様には、誠におめでとうございます。
 今回の懸賞論文には、過去最多に並ぶ13の高校から、これまでの応募数を大きく上回る143点の応募がありました。複雑・多様化する社会問題に対して、自分の考えや意見を文字にして伝えるこの懸賞論文が、回数を重ねるごとに、県内の高校生に確実に広がっていることを、頼もしく感じています。
 テーマA「少子高齢化が進む中、郷土香川を元気にするために求められること」では、自分の主張や提言を導くために、統計データや県内外の具体的な取組み事例を、どのように調べ、分析・考察していくのか、に着目して審査を行いました。どの論文も、引用する統計データの見せ方を工夫しながら、データや事例の分析と考察、自身の主張・提言について、的確にまとめられていたと思います。
 テーマB「ネット社会における人と人とのつながり」では、ネット社会がもたらす「光」と「影」の部分について、どこを切り取って主題とし、論文を構成するのか、に注目して読ませていただきました。内容的には、最近の報道でも度々取り上げられている、SNSでの他者への攻撃などに着目したものが多くありましたが、テーマAに比べ引用する統計データの種類が少ない中、どの論文も構成力に優れ、高校生にとって身近なテーマだからこその、説得力があったように思います。
 論文づくりは、考える力はもとより、調べる力、伝える力の習得に大いに役立ちます。社会の情報化は、今後、一層の速さで進み、大量かつ玉石混交のデータが世に溢れていくことが見込まれる中、高校生の皆様には、論文を書くことを通じて、こうした力を身につけていただきたいと思います。そして、1・2年生の皆様には、来年のこの懸賞論文にも、引き続き応募されることを切に願っています。

香川大学法学部高校生懸賞論文2021 総評
香川経済同友会特別幹事 竹内 麗子

 新型コロナウィルスの感染から2年が経過した。ワクチンの開発や接種促進を横目に次々と変異し、2021年末には、更に感染力をパワーアップしたオミクロン株感染者の増加に警戒が続いています。
 そのような時代を背景に、今年度募集懸賞論文のテーマである「少子高齢化が進む中、郷土香川を元気にするために求められること」に「ネット社会における人と人のつながり」に合計13校から143名の応募がありました。
 多くの高校生から寄せられた論文を読み進めていくうちに、この二つのテーマはコロナ禍により疲弊がスピードアップしていく経済界を始め、人々の生活や、心のありかたにも重要大切な課題であることを改めて再認識させられました。
 又、「香川にはリーダーになる人材が多い。育成を続けるための教育が大切になる」と言う主張に多くのことを考えさせられました。
 その一つとして過去の世代が作り共有してきた、総花主義で、自前主義で、横並び主義で、えせグローバル主義で、事なかれ主義で失った日本30年の遅れを、未来を担う高校生たちは、如何にして取り戻し、活性化するのであろうか?
 溜池、ぬるま湯に、首までどっぷり浸かった県民総茹でガエル状態の中で、自からがファーストペンギンとなり、鼓舞していくには自分自身の岩盤を削って変革しないかぎり郷土香川を活性化することは容易ではなく、蛇になる覚悟を持ってしても難しい今の社会に、如何に向き合うのか?
 加えて、先般、発表された香川県内における女性管理職ランクは全国最下位であり隣県徳島県は、坂田経済同友会代表幹事を始め経営者協会会長、商工会議所会頭、徳島市長と全てが女性であり、グランドスラム+αを達成し全国トップランクにあります。この差も今後の検討課題です。
 今年の論文応募者男女比率は男性31%に対し女性69%で、女性が2倍以上の比率を占めました。これはSDGs5番目のテーマであるジエンダーパワーの拡大、ダイバーシテイ推進が高校生たちにも徐々に浸透し、多様な感性を研ぎ澄まし、論理的思考力を増幅する内容の論文が見受けられました。大人たちの危惧とは裏腹に人と人との繋がりを大切にし、郷土香川を活性化したいという意欲に溢れた論文が大半でした。 
 未来を担う高校生たちが蛇となり龍となるよう更なる期待と大きなエールを贈り続けます。

最優秀賞「若者の力を認める社会に」
四国新聞社広告局長兼西讃支社長 木原 光治

  論文の善し悪しは、どれだけ多くの共感を集めるか。おそらくそうだろう。だが、それよりも前に、ちゃんと最初から最後まで読んでもらわないと始まらない。「起承転結」。よくいう文章作りの基本だが、何を「起」にし、どれを「承」「転」「結」に持ってくるかは自由だ。ここに上手、下手が生まれる。
 鈴木さんのこの論文にはセンスがある。分かりやすく言えば、読ませる論文だ。さらに言えば、斬新な切り口と奥深い探究心、着想、高校生らしい若さが随所に満ちあふれた心地よい論文だ。
 最後まで読んでみて、気がつく。冒頭の「温故知新」。この四文字熟語にすべてが込められている。「故」は先人であり、大人。「新」は若者。「大人から学び、若者よ立ち上がろう」―そう言いたいのではないか。
 落語でいう「枕」に持ってきた「伏石事件」。大正末期、高松から始まった近代日本最大の農民決起を「人の力」と説き、日本一小さな県土、水不足の「ため池県」をポジティブにとらえて「教育特区」「情報の集積場」を提唱する。面白い。
 この文章展開はコラムニストの名文に似ている。朝日新聞の天声人語でもよく見られる手法。枕言葉から締めが読めない。だから最後まで読んでしまう。すべては「香川のために」。全文がそう彩られている。
 鈴木さんおめでとう。あなたの筆力に脱帽です。ぜひ新時代の若者のリーダーになってください。

優秀賞「小さく始めるまちづくり」
香川大学 理事・副学長 川池秀文  

 高松高等学校の安川結彩さん、優秀賞の受賞、誠におめでとうございます。
 作品の審査に際しましては、テーマである「少子高齢化が進む中、郷土香川を元気にするために求められること」について、調査研究を行うことは重要でありますが、加えて、「高校生らしい率直な主張があるか、建設的な提案であるか。」の観点を大切にしました。
 この受賞作品は、自らの生活の拠点である身近な地域に着目して、地域が人口減少、少子高齢化により、地域づくりの担い手が不足している状況をよく認識し、魅力あるまちづくりに向けて、地域からの目線による説得力のある論文となっております。
 特に、コミュニティの主役は、「地域に関わりある人すべて」ととらえ、高校生、学校が、コミュニティ活動に参画することが重要であるという主張は、実効性があり、共感できる提案であると思います。
 今、ふるさとを取り巻く状況は、大変厳しいものですが、安川さんの郷土香川に対する思い、これからの活動に期待しています。 
優秀賞「ルッキズムから脱却するためのSNSでの繋がり」 
のぞみ総合法律事務所 弁護士 二川 伸也
 
 今治菜々香さん、優秀賞の受賞おめでとうございます。「ネット社会における人と人とのつながり」を題材に様々な論文を拝読しましたが、精神的繋がりと物理的繋がりとの比較という観点で論じられるものが多く感じました。その中で、本論文はネット社会における匿名性とは「顔」、「ルックス」がわからないことであるという、他の論文にはないアプローチで、ユニークでした。顔やルックスがわからないという点はネガティブな文脈で語られることが多いように思いますが、本論文のようにポジティブに捉え、現代社会に存在する一つの問題を解決する道具にもなり得るとの考えは、いわゆる「Z世代」らしい視点であり、素晴らしい感性でした。
 これからの社会は、今治さんのような「Z世代」が形成していくことになり、これまで常識とされていたことが、次々に変わっていくのではないかと思います。そもそも、これまでの世代には、本論文で論じられているルッキズムに陥っているという感覚すらなかった人もいるはずです。ネット社会が進み、顔どころか名前や性別すらわからない人とコミュニケーションを取ることが可能となり、かつ、それが自然なものである、新たな世代だからこそ論じられた内容であり、大人たちに新たな気付きを与えてくれるのは、常識の変化の一端といえるでしょう。
 昨今の報道を見る限り、日本の将来は悲観的に語られがちですが、それはあくまで、これまでの日本を前提にして語られていると思われます。そうであれば、今後の日本をよりよくしていくには、これまでの常識を次々と変えていくであろう皆さんの活躍にも懸かっているでしょうし、期待しております。そして、今回、今治さんの論文を始めとした種々の論文に触れ、皆さんであれば、私くらいの期待は優に超えていくことを確信しております。
 今治さん、この度はおめでとうございます。今後、ますますご発展、ご飛躍されますようお祈り申し上げます。
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