審査委員の講評

 

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香川大学法学部懸賞論文2017 総評

香川大学法学部長 三野 靖  

 今年度の懸賞論文のテーマは、「魅力ある街づくり・地方創生に向けてなにができるか」、「君たちの東京オリンピックとは?」で、43作品の応募がありました。最優秀賞と優秀賞については、別途講評がありますので、奨励賞及び総評をさせていただきます。
 奨励賞についてです。地方創生に関しては、①地元農業の現状を分析し、活性化の提案をするもの、②女性の雇用状況を分析し、課題解決の方策を提案するもの、③地方と都市との格差を解消するためにITを「どこでもドア」と見立てて活用することを提案するもの、④独居高齢者の孤立問題を解消するために、アニマルセラピーの活用を提案するものです。現状を分析し、地に足のついた提案もある一方、大人では結びつかないような発想の提案もあり、そのスキルと思考が評価されます。
 東京オリンピックに関しては、①訪日外国人の言葉の壁を解消するためにピクトグラムの活用を提案するもの、②オリンピックの本来のあり方(オリンピズム)から若者が関わる意義を述べたものです。浮かれがちなオリンピックを冷静にみて、自分たちに何ができるかという視点からの作品であり、その鋭さと提案・意見が評価されます。
 全体的には、地方創生に関する作品が多かったのですが、この課題は、国・地方あげて取り組んでおり、既存の政策やデータがあるため、それらを踏まえた作品が多く、少し冒険的な提案が少なかったように思われます。今後は、高校生ならではの斬新な切り口を期待します

 

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最優秀賞 横関 あかり 「安心安全な東京オリンピックへ」

四国新聞社編集局 次長兼論説副委員長 木原 光治

◎「多様性と調和」に共感、論文らしい論文

 前回の1964年の東京オリンピックは、だれもが戦後の日本の復興を世界にアピールし、日本人としての誇りを取り戻す大会だった。今、53年を経て、成熟された日本社会に生まれ、育ってきた高校生たちが、3年後の東京オリンピックにどんな思いを持ち、何を期待するのかを知りたくてテーマに取り上げた。その期待通り、応募された生徒たちの作品は、若い発想と情熱にあふれる作品ばかり。その中で横関さんの「安心安全な東京オリンピックへ」は、論文の基本である起承転結をきっちり踏まえた論文らしい論文。 中でも最も惹かれたキーワードが「多様性と調和」。まだ高校1年でありながら、人種や宗教、言語などの違いを受け入れ、相手を認め合い、調和することの大切さを説いて、主題のパラリンピックとオリンピックの統合を提案、その方策をメリットとデメリットの両面で分析する論法がとても清新だった。今、世界では特定の人種や宗教を排し、難民を排除する内向きな排他主義が台頭しつつある中で、この論文からは若い世代が、その風潮を「非」とする、強い意思を持っていることが読み取れた。その生き方にも大きな希望を感じることができる作品であり、本当にすがすがしく、力強い論文だ。

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優秀賞 岩瀬 七虹 「海外のフィルターを通して」

香川大学理事・副学長 川池 秀文

 優秀賞を受賞された高松第一高校の岩瀬七虹さん、おめでとうございます。作品の「海外のフィルターを通して」は、論文のテーマ「魅力ある街づくり・地方創生に向けてなにができるか」を高校生らしい観点から的確にとらえ、地域や社会の状況をよく勉強し、よく理解した展開、主張となっております。
 特に、来日した外国人旅行者の関心が、従来のモノの消費から、日本での非日常的な体験などコトの消費へと変化していることを、自らの実体験を踏まえ、よく理解されております。
 このため、自分の街を改めて見つめ直し、うどん作り体験や瀬戸内海の島々での滞在など、香川の魅力や良さをよく認識し、地方創生に向けて説得力のある提言だと思います。
 今後とも、地域への関心を持ち続けてほしいと思います。

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優秀賞 多田 壮汰 「復活、そしてこれから。」

香川県弁護士会 弁護士 山地 淳仁  

 優秀賞おめでとうございます。
 この作品の特筆すべき点は、やはり自分の足で高松市中心部の商店街を歩き、各店舗の業種や空き店舗の数を調査している点です。
 論文を書く際、まず書きたいテーマに関連する文献を読むことも非常に大切ですが、自分自身で現地を訪れ調査することも非常に大切です。自分で体感することにより、文献で触れられていなかった問題に気付いたり、新たなテーマが見つかったりすることもあるからです。
 また、様々な立場の人の視点に立って、地方創生のために何が必要かを論じている点も非常に良かったと思います。  魅力ある街づくりは、行政の力だけでもできませんし、民間の力だけでもできません。立場の異なる団体や個人の連携が不可欠です。
 地方都市の商店街の過疎化は、全国的な問題です。過疎化の要因は様々ですし、解決の唯一の答えもありません。人口が減少していく中で、いかに住みやすい地域社会を作るのかは非常に難しい課題ですが、今後も地元の変化に目を向け続け、決して他人事とは思わず考え続けてもらいたいと思います。
 優秀賞の受賞,おめでとうございました。

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優秀賞 田井 涼子 「2020年では終わらせない東京オリンピック」

香川県教育委員会 教育次長(兼)政策調整監 松原 文士

 香川県立観音寺第一高校1年田井涼子さんの「2020年では終わらせない東京オリンピック」は、タイトル通り東京オリンピック・パラリンピックを一過性の行事で終わらせずに、それを機に香川県の振興や街づくりといった地方創生にまでつなげていこうとする大変興味深い提起をしてくれました。 それは、今回のオリンピック・パラリンピックに限らず、これからの国や自治体がおこなう行事の在り方の提案でもあったように思います。 外国人観光客向けの宿泊施設をはじめ、外国人観光客がより快適に過ごせるような施策やリピーターを増やす方策などを、日本を訪れた外国人の視点に立って議論することができており、グローバル時代を生きる高校生として積極的に異文化を理解し共生しようとする姿勢が感じられました。 それと同時に、パラリンピックでの様々なノウハウを地域振興や町づくりに活かそうという議論もあり、グローバルとローカルの二つの視点を共に大切にしながら、インクルーシブな社会を作っていこうとする田井さんの意気込みを感じました。 また、論文全体を通じて、客観的なデータから地域の課題を見いだし、今、既にある資源や行事、具体的には、空き家や瀬戸内国際芸術祭を活用しながらの議論は、読み手も問題点をイメージしやすく説得力があったと思います。 タイトルにある通り東京オリンピック・パラリンピックは2020年では終わらせない、という思いを読み手にもしっかりと持たせる内容でした。 大変素晴らしい出来栄えの論文と感心いたしました。田井さん、優秀賞の受賞おめでとうございます。

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