平成22年度協定校訪問(宮川勇人/材料創造工学科准教授)

 

工学部が毎年取り組んでいる海外協定校訪問の本年度の行き先はフィンランドのロバニエミ工科大学(Rovaniemen ammattikorkeakoulu, 以下RAMK)であった。私は、当初渡航予定であった国際交流担当の西岡さんの代役として参加させていただいた。とはいうものの私は実はフィンランドに行ったこともなければ、西岡さんのような流暢な英語が喋れるわけでもなく、この訪問に際しては大変な身分不相応を感じつつ、不安な気持ち半分、開き直り半分の気持ちで関西空港を飛び立った。

10時間に及ぶ長時間フライトの後、降りたったヘルシンキ空港は肌寒く、更に900km北に位置するロバニエミ市の気候を覚悟させられた。今回はヘルシンキ2泊、ロバニエミ5泊の滞在であった。蓋を開ければ、団長の荒川先生をはじめとし、院生2人、学部生8人(うち1年生2人)という顔ぶれで、学生の多くが初の海外渡航であった。すでに幾人かの学生はヨーロッパ入りしており、ヘルシンキの宿ではじめて皆が顔を揃えた。このように核となるスケジュールの前後では各人が自由に周辺を旅行できることも協定校訪問の特長といえる。ヘルシンキでの宿は若者向けのホステルであったため、共同スペースや相部屋で学生は外国人との交流をはかることができたようである。首都ヘルシンキでの2日目は全日、グループでの自由行動とし、私は荒川先生とともに市内を回った。島全体が世界遺産となっているスオメンリンナの要塞群では、諸外国により幾度となく塗り替えられた領土争いの歴史とその戦火の激しさを認識させられた。フィンランド人は母国語としてフィンランド語とスェーデン語を持つ。このため、市内の多くの掲示がこの2つの言葉でなされているが、どちらも英語とは全く異なるため解読できない。特にトイレの表示がわからずどちらに入るべきか戸惑ったが、学生も皆なんとか自力で市内を回り、事なきを得ていたようである。戸惑いながらも能動的に行動し問題解決していくことが、彼らの表情を出国前よりも随分明るくしたように感じられた。

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▲ヘルシンキ大聖堂の前にて、団長の荒川先生と

3日目にRAMKのあるロバニエミ市に移動した。ロバニエミはフィンランド北部ラップランド州の州都であり、北極圏がすぐ間近でそこには広大な自然が拡がっている。サンタクロースの町としても有名であるため世界中から観光客が訪れる。我々は当初予定していたドミトリー(大学寮)ではなく、木立の中の小綺麗なコテージに皆で宿泊することになった。聞くとその丸太作り家屋は1800年代のものをそのまま利用しているとのことであった。木の味を全面に出した内装のデザインはまるで軽井沢かどこかのお洒落なリゾート別荘を彷彿とさせたが、考えてみれば実はこちらがオリジナルであったといえる。すぐに皆で食糧の買出しに行き、5日間の共同生活が始まった。夜はほぼ0℃、と予想を上回る寒さであったものの、日中の太陽は暖かく、また極寒を想定した家の作りの居心地は抜群で、特に全室に完備された床暖房は家屋の年代を感じさせなかった。また何と言っても、空港からの移動や宿の手配、移動時のバンの運転など、我々のロバニエミ滞在中つきっきりでお世話していただいたVeikko先生とJari先生の心の温かさは筆舌し難い。我等日本人が忘れかけている人情というものを私は彼らから強く感じた。彼らの親身なケアと時折発するジョークのおかげで、いつしか我々の不安感はすっかり吹き飛んでいた。そのコテージで我々はJapan Partyを開きRAMKの学生、先生たちを招待した。こちらの学生が料理した日本の食べ物にどこまで満足していただけたかは不明だが、みな美味しい美味しいと食べてくださった。食事後は学生同士が、名物の「水かけサウナ」にともに入り交流を深められたのはとてもうれしかった。

肝心のRAMK訪問では、まずInternational OfficeのHelleviさんから概要説明を受けた。RAMKは3つのキャンパスからなり、情報技術やツーリズム、環境工学、医療運動工学、ビジネス工学に力をいれているとのことである。フィンランド語に加え英語の授業による学位取得コースが可能となっている。ちょうど到着初日に参加させていただいた留学生交流パーティ(Night Club)では、様々な国からの留学生がお互いにダンスを交えて交流していたのは大変魅力的であった。皆が留学生と限らないが、おおよそ100人以上はそのパーティに参加していた。しかしながら日本人留学生は大変少なく、アジア系も中国人、インド人がいたもののその数は多くはなかった。香川大学からは昨年に続き、ちょうどこの9月からの5ヶ月間を国際インターンシップとして過ごす派遣学生が1人来ており、先の滞在を不安がっていた。そのような長期の海外経験で得られるものは計り知れなく、今後も継続的な交流の推進が必要である。さらに、我々はRAMKの学長ならびに工学部長と面会した。お二人ともに我々の訪問をとても歓迎していただいた。こちらの代表学生が英語のプレゼンテーションを行い香川大学の概要を説明した。彼自身はプレゼンの出来具合にやや不満な様子でいたが、学長、工学部長からは賛辞をいただいた。特に大学の人数規模が両者で類似している点や、またこのような大人数の団体による国際的な訪問は今回が始めてであることに大変喜んでおられた。その後RAMKでの実際の授業体験や研究室見学などをしてまわった。それぞれに関係者が厚く対応してくださり、こちらの学生の質問にも丁寧に答えてくださった。ロバニエミではRAMK以外にも、低温研究所、パワープラント、老人擁護ホームなどの施設や企業見学を行った。工学と人間、そしてフィンランドの地域環境とがよく融和し研究なされていることを体感することができた。

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▲RAMKで授業を受ける香川大学の学生とRAMKの学生たち

そして忘れてならないのは、ラップランドの雄大な自然である。現地での移動には、Veikko先生とJari先生の運転によるバンを利用させて頂いたが、その車窓から眺める緑の森と、静かで鏡のような湖、澄んだ空など、日本とは違う美しさを持つ情景は今でも瞼に浮かんでくる。彼らに連れられて歩いた針葉樹の森は人の手の全く入っていない原始林だと聞いた。その自然の中で自分らで薪割りをして火を焚き食事をした。日本の普段の生活では味わえないものを学生たちは感じたに違いない。大自然とともに暮らし生活する中で、心のゆとりと豊かな知識、美的感覚、そして科学技術との調和をフィンランド人は発達させてきた。自然とデザインとテクノロジーの融合、そこに私はフィンランド人の工夫とセンスを感じる。そのような背景がAlbert Aalto といった偉大なデザイナーを生んだのではないだろうか。

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▲ラップランドの美しい湖

最後になるがVeikko先生、Jari先生を始めととし、Johani先生ほかお世話になった方々に、心より感謝の念を申し伝えたい。彼らは、移動時のバンの運転を始めとし、スケジュールの立案と手配、現地の方とのやりとりやハイキングの道案内など、ロバニエミでの全5日間に渡り本当に献身的に我々に付き添い面倒を見てくださった。彼らの力なくしては、この滞在は成り立たなかったであろう。彼らから受けた厚いおもてなしを忘れることはできない。また、そのような厚い歓待も荒川先生とのこれまでの深い交流からくるものと予想します。荒川先生ありがとうございます。また、訪問にあたり大学間の事務手続きや旅券手配等、細々したことでお世話になった西岡さん、ありがとうございました。この旅を共に過ごした学生達が皆、世界とその中の日本とを同時に意識し、香川大学の学生としての自らの在り方を考え、未来において国際的に活躍する人材となることを私は確信している。

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