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Research

細胞操作解析 MEMS細胞分画(バイオMEMS) ”その場で細胞をナノサイズ分割して保持・測定できる「細胞空間分画」”

香川大学 創造工学部 機械システム工学領域 寺尾研究室
(寺尾京平 准教授/微細構造デバイス統合研究センター副センター長)
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研究の目的

 現在、バイオサンプル調製に至る大部分の過程が、熱拡散に依存した偶然に頼らざるを得ず、細胞や生体分子に対して1個1個の解像度で処理を行うことはできません。我々は機械工学的なアプローチを、細胞と生体分子に拡張することで、これまで扱うことのできなかった個々の細胞や分子を望み通りに加工する技術の実現を目指します。それにより、生命科学研究・医学研究において、新たな細胞・生体分子の解析と有用な生体サンプルの調製に応用することを目標とします。
組織と細胞の空間解析を目的として細胞の切断加工法を、有用細胞サンプルの調製を目的として細胞の組み立て加工法を、染色体解析を目的としてDNA分子加工法の開発に取り組んでいます。


ナノブレードアレイデバイスによる細胞空間分画

 バイオテクノロジー分野において、生体を解析するために、生体分子の種類・量だけではなく臓器内・細胞内の空間分布の計測を行う技術が求められています。それに対し我々は、組織内・細胞内の空間情報を保持した状態で、細胞から生体分子を直接サンプリングする技術を開発しています。本研究は、半導体微細加工技術と微小物体操作技術を組み合わせることで、組織を細胞1個サイズの複数の微小領域に、また1細胞をさらに微小なサブセル領域に区画化して、物理的に一括で切断する「細胞空間分画技術」と呼ぶ新たな細胞加工技術です。微細な刃状構造体を並べたナノブレードアレイを用いて、組織スライスや個々の細胞を培養・観察している「その場」でナノ~マイクロメートルサイズの微小領域に細かく物理的に分割し、なおかつ分割した部位が散逸することなく、空間情報を有した状態で保持・回収することを目指しています。これまでにシリコンによる様々なアレイ形状のナノブレードを微細加工技術によって作製し、押圧機構によってブレードを顕微鏡下で押しつけ物理的に組織スライス試料や培養細胞を切断する操作を実現しました。本技術が実現することで、空間的な様々な生体分子の解析が可能になることが期待されます。


光駆動ナノ工具による細胞・生体分子加工

 個々の細胞や生体分子を加工するためのツールとして、光操作型ナノ工具の開発に取り組んでいます。半導体微細加工技術で一括大量に作製されたナノサイズの構造体に、酵素や抗体を固定したり、電極を設けることで高機能化した上で、レーザーで液中操作します。それにより、工具が接触した部分でピンポイントに細胞1個や生体分子1個を「その場で、狙った位置で」反応を生じさせることにより加工します。これまでに、細胞を1個ずつ組み立てることで細胞集団構造を人為的に構築することを達成し[1]、臓器を模擬した有用なバイオサンプルの調製に応用することを目指して開発を進めています。また、断片化しやすく扱うことが難しい染色体DNA分子を、同様の技術でそのまま顕微鏡下で加工する技術にも取り組んでいます[2]。この技術を応用することで貴重な細胞サンプルの新たな染色体解析技術に繋げることを目指しています。


[1] S. Mori, T. Ito, H. Takao, F. Shimokawa, K. Terao, “Optically-driven microtools with an antibody-immobilized surface for on-site cell assembly”, IET Nanobiotechnology, 1-7 (2023)
[2] A. Masuda, H. Takao, F. Shimokawa, K. Terao, “On-site processing of single chromosomal DNA molecules using optically driven microtools on a microfluidic workbench”, Scientific Reports, 11, 7961 1-9 (2021)