香川大学 国際希少糖研究教育機構

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研究概要

新しい生命科学の創造

 「バイオの21世紀」の今。全世界でDNAとタンパク質が主役の研究が急激に発展し、これらの研究は人類に大きく貢献しています。DNAやタンパク質のような大きな「高分子」が中心の21世紀の科学の中で、香川大学ではこれまでほとんど研究されて来なかった小さな分子の単糖である「希少糖」に注目した研究を進めています。小さな「低分子」は、情報も機能も持たないと思われていました。ところが、希少糖を作って研究をしてみると、予想していなかった機能(生理活性)が次々に明らかになってきました。

 我々はこのような背景のもとで、希少糖を研究素材とした新しい糖生命科学(ライフサイエンス)の創出を目指した研究を進めています。

 下図は自然界の単糖の存在量を模式的に示しています。グリーンの大きな部分が自然界に多く存在する単糖です。小さな赤いで示しているのが希少糖で、「存在する量が少なく、種類は多い」のです。香川大学に本部がある国際希少糖学会で希少糖は「自然界に微量にしか存在しない単糖と誘導体」と定義されました。

D-グリコース(ブドウ糖)

 香川大学では、世界中の研究機関や企業と連携しながら希少糖研究を進めています。目標は「希少糖の研究をとおして、新しい生命科学を作る」ことです。

希少糖の生産

 自然界に存在量が少ないのですから、研究するためには「希少糖を作る」ことから始まります。多くの種類の希少糖を十分量作るのに必要なものは、安価な原料、作る道具、作る設計図です。

 「安価な原料」として適しているのは、一番大量に存在するD-グルコースであることが、これまでの研究で明らかになっています。現在はデンプンの加水分解で得られるD-グルコース(ブドウ糖)を原料として用いています。この原料については今後の研究で新たなものが開発されるかもしれません。

 「作る道具」としては、21世紀に急速に発展しているバイオの力を用いることが作戦です。大学のキャンパスから分離された微生物が生産する新規な酵素を用いること。そして各種の酵素反応と有機化学の反応が「作る道具」です。

 「作る設計図」ですが、安価な原料であるD-グルコースから多くの希少糖へ酵素反応と有機反応で結びつける設計図が完成しました。それは下図に示す「Izumoring:イズモリング」です。これは炭素数6のヘキソースのIzumoringですが、炭素数5、4のペントース、テトロースのIzumoringも容易に描くことができます。

Izumoring

Izumoring :イズモリング

 イズモリングは希少糖を作る設計図として完成されました。赤いはアルドース、青いはケトース、そして黄色いは糖アルコールを示しています。イズモリングの特徴は右側にD-型、左側にL-型の糖が配置されており、全てのヘキソースが中心の星印を焦点とした、点対称となっていることです。この図から、それぞれの希少糖の、全体の中での「存在位置」を知ることができます。

 「設計図」ですから、目的とする希少糖を作るための生産方法を示しているのです。原料のD-グルコースは右上に位置しています。ある希少糖を作る場合に、この図をもとに生産方法を計画することが可能です。車のナビゲーターのように、自分の生産したい希少糖へ導いてくれるのです。

 またイズモリングの重要なところは、単に希少糖を作るための戦略としての意味だけではないことです。これまでの研究手法では特定の単糖のみを見た研究であったと思われます。例えばD-ガラクトースの場合、乳糖の構成糖であり代謝経路に特徴があり構造は云々等といった「D-ガラクトースの特徴を独立して考えて研究する」が一般的です。ところがイズモリングの考え方は、D-ガラクトースは還元するとガラクチトールとなり、それを酸化するとL-タガトースへ変換できる等を示しています。これによりD-ガラクトースの性質ばかりでなく、これがL-タガトースの生産原料になることを教えてくれるのです。

 普通の単糖ではなく、6位とか1位がデオキシされた単糖も存在します。例えばL-ラムノースやL-フコースは6位がdeoxyされた単糖です。このdeoxy糖を全て作る「デオキシIzumoring」も完成しているのです。

 さらに重要なことは、それぞれの希少糖の生理活性をこの図の上に記載すると「生理活性イズモリング」を、物性の特徴を記載した「物性イズモリング」などをまとめることが可能です。これまで個々の単糖についての「羅列的な」認識のみであったものを、トータルに考えることも可能となるのです。このように、アイディア次第で「新しいイズモリング」を作り出すことが可能です。

 イズモリングは進化を前提とした「考え方」として利用できるのです。

希少糖の用途開発

 希少糖の研究は始まったばかりですから、その用途開発もこれから急速に進むと予想されます。高分子のDNAとタンパク質が主役の研究が急速に進む中で、低分子の希少糖がどのような生命科学の分野を作り出すか、香川の地から新たな挑戦が始まっています。

 微生物、線虫、昆虫、魚類、植物、動物、人等への影響の研究から、新しい生理活性が発見されるものが多いと予想されます。希少糖の「新しい生理活性の発見」は、それは直ぐに「新しい用途開発へと進む」ことになります。現時点での事業化として「機能性甘味料」が実現しています。これは希少糖の用途のほんの一部です。これからどのような用途が開発されるかは予測すらできません。研究者全員が楽しみにして研究を展開しているのが現状です。

 用途開発は生命科学的な分野にとどまることなく、物理化学的な研究へも新たな展開を進めています。物質としての希少糖は未知の分野が多いのが大きな特徴となっています。

 さらに、研究は教育へも人材育成へも生かされることになります。用途開発部門として「教材開発部門」も設置され、総合的な「科学」へと船出しました。希少糖の用途開発と希少糖の生産とは、常に連携した存在であることが大切です。希少糖を生産し、その用途開発を行い、その結果を希少糖生産へフィードバックすることで更に研究開発が進みます。

希少糖研究の姿勢

 DNAとタンパク質を詳細に研究しても見いだせない現象を、希少糖を用いた研究から発見する。そして「新たな生命科学を作り出す」こと。希少糖の研究は、21世紀のバイオ研究への挑戦的な研究だといえるかもしれません。
 さらに「生命科学のみならず」、物理化学的な展開も重要な研究と位置づけていることも大きな特徴です。
 香川大学で生まれた希少糖を、香川大学が責任を持って「科学にすること」を国際希少糖研究教育機構は研究の姿勢として研究を展開しています。

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