奥廣晴香/安全システム建設工学科2年

私にとってこの協定校訪問は大きな転機の一つになったと実感している。人生で初めて海外に渡り、タイを訪れた。6日間に及ぶ現地での活動の中で、タイの人々の優しさ、文化、生活に触れることができ、日本との相違点や自分が置かれている環境について再考することができた。

・1日目(9月2日)

9時40分、関西国際空港に集合し、日本を発った。5時間後にバンコクに到着し、入国審査を行いチェンマイ行きの便に乗り継ぎ。チェンマイには現地時間18時30分ごろに到着し、ガイドさんの案内でホテルまで送迎していただいた。
夕食はタイのフードセンターを体験した。日本ではフードコートと呼ぶが、タイではフードセンターという。そこでは気軽にタイのローカルフードを楽しむことができ、珍しい料理が多くあった。フードセンターの仕組みは次のようになっている。まず、入り口でクーポンを購入する。購入の目安は1人100バーツから200バーツ程度である。次に、各店で欲しい料理を注文してクーポンで支払いをする。クーポンの金額が余ったら、払い戻しが当日限定で出来るのも特徴の一つだと感じた。タイ料理を初めて食べたが、独特の風味と食感に驚いたのを覚えている。

フードコートの様子
フードコートの様子

夕食
夕食

・2日目(9月3日)
8時30分にホテルのロビーに集合し、チェンマイ大学(CMU)へ。CMUでは午前中にキャンパス内を案内していただき、午後にCMUの学生さんたちと交流をした。大学内はとても広く、香川大学と比べ物にならないほどの敷地面積であった。至る所で電気自動車が走っており、学生の移動手段の1つになっているのだそうだ。また、多くの学生はバイク通学をしていた。タイではバイクの2人乗りやヘルメットをかぶらないことが普通のようで、事故が起きた時を想定すると恐ろしいと感じた。散策はCMUの学生さんたちとまわったが、積極的に話しかけられない自分の勇気の無さ、英語力の乏しさに愕然となった。多くの時間を要することは間違いないと考えるが、英語を深く勉強し、スムーズに自分の言いたいことを話せるようになりたいと感じた。

CMUの学生さんたちと
CMUの学生さんたちと

午後のCMUの学生さんたちとの交流会では、タイのお菓子を振る舞ってもらった。タイのお菓子はココナッツミルクを使い、とても甘みのあるものだった。私たちは日本のお菓子の紹介として、白玉を作った。付け合せに餡子、きな粉、ゴマ、フルーツを用意した。餡子ときな粉が人気で、タイの人は甘いものが好きなのだということを実感できた。その後、うちわ作りや折り紙を行った。うちわ作りでは、うちわに漢字で自分の名前や好きなものを書いてもらったり、こちらが書いてあげたりした。CMUの学生さんに頼まれて私が書いた時は、それをとても喜んでくれて、あたたかい気持ちになった。また、折り紙を教える時に手順の詳細を英語で伝えるのに苦労したが、タイの学生さんたちは大変優しく、主体的に参加してくれたので救われたと思う。

交流の中では、自分の言いたいことをすぐに英語として話すことができず、辞書を引いたり身振り手振りで伝えたり、たどたどしい会話になってしまった。しかしながら、英語力は低いとしても、「相手とコミュニケーションを取りたい」「自分の意思を伝えたい」という気持ちがあれば何らかの形で異文化交流は実現するのだということを、身をもって感じた。確かに、英語力があった方がスムーズに会話を進めることができるが、手探りの状態で自分なりに意思疎通を図ることもこのプログラムの醍醐味ではないかと考える。

・3日目(9月4日)
3日目もCMUを訪問。午前中に私たちがプレゼンテーションを行い、午後にCMUの学生さんたちによるプレゼンテーションを聞いた。私たちのプレゼンは何とか形にできた、という感覚で完璧ではなかった。原稿を見ることはありえないし、事前に暗記をしておくことが当たり前であることをCMUの学生さんたちを見て思った。世界共通で当たり前のことを当たり前にできるように、何ごとも確実に真面目に取り組んでいこうと感じた。この経験は、今後のプレゼンに活かすことができるはずだ。プレゼンを進める過程で、聴衆者の気を引くようインパクトがあるような進め方、話し方ができるように練習をしていきたい。

CMUの学生によるプレゼンテーション
CMUの学生によるプレゼンテーション

研究室訪問では、義足の研究室が印象に残った。彼らは専門用語を駆使して説明してくれるため、その知識がない私には何を話しているのか理解するのに苦しんだが、知っている単語を拾いながら大体の意味は掴むことができた。現在でも地雷が埋まっているカンボジアやインドなどの東南アジアにおいて、義足の研究は大変重要である。しかし、高度な技術であるためそれに比例してコストが高くなってしまう。そこで、民衆が買える値段であると共に、その時代における最高のものであり社会に受け入れられるものを作る必要がある。コスト削減が普及させるための1つの方策であることは、どの技術を用いるにしても同じことなのだと感じた。

CMUの学生さんたちによるプレゼンも学ぶことが多くあった。内容自体は専門的で高度な内容であったため、総てを完全に理解することは難しかった。しかし、プレゼンの進め方、スライドの作り方、聴衆の引き付け方などの他の部分から吸収することができた。また、CMUの学生さんたちは心が広くて、優しくてあたたかかった。その日の夜、前日に会った留学生を送る送別会に誘ってくれて、一緒にご飯を食べることができた。彼らの気遣い、思いやりの精神に触れ、心が感化された。彼らのように、人に優しく、相手の立場に立って物事を考えられる素敵な人になりたいと感じた。

・4日目(9月5日)
8時45分にホテルのロビーに集合し、メチョー大学を訪問した。メチョー大学は農学系の大学で、広大な敷地と農場があちらこちらにあった。実験室や校内の案内をしていただいたが、香川大学にもある水実験装置があって驚いた。その後、メチョー大学の学生さんたちにプレゼンテーションを行った。前日の失敗を教訓に、スムーズに進行することを目標とした。プレゼンでは、内容に対して反応を返してくれるということはとても嬉しい事だと学んだ。ただ聞いてくれることも有り難い事なのだが、疑問点をぶつけてくれることで、そこからまた新しい話題が広がる。そのようにして話が更に深まり、お互いのことを知ることができるようになるのではないかと感じた。メチョー大学の方には昼食も御馳走になり、本当に感謝の気持ちでいっぱいである。現地の人々の御厚意に感謝すると共に、そのようなおもてなしの精神を忘れないようにしたい。

大学訪問の後、ワット・プラ・タート・ドーイ・ステープ寺院を見学した。ちょうど小雨が降ってきて長い階段を上るのに苦労したが、上った先にはきらびやかな寺院がそびえ立っていた。雨が降っていたのが残念ではあったが、逆に雨と寺院の金色が反射し合っていたように感じる。日本の寺院とは全く別の印象で、タイの寺院は華美で金色の装飾が目立つ。何故、このような派手な寺院が多いのか調べてみたい。寺院は大きく、荘厳な雰囲気を持っており、神聖な場であった。

ワット・プラ・タート・ドーイ寺院 ワット・プラ・タート・ドーイ寺院
ワット・プラ・タート・ドーイ寺院

夕食は、香川大学経済学部、工学部、インターナショナルオフィスの研修生合同で会食が行われた。それぞれのプログラム内容は異なっており、面白いと感じるものが多くあった。実際にタイの大学で授業を受けたり、学生さんたちと交流をしたり、各々がしっかりとした目標を持って取り組んでいることが分かった。彼らも異国の地で様々な刺激を受けており、それに誘発されて「多くのことを感じ、学んで帰ろう」という一種の対抗心のようなものが私の中で生まれた。夕食後に、学生5人のみでナイトマーケットへ、ソンテウというタイの乗り合いタクシーで向かった。学生だけで行動したのが初めてだったため、先生がいないことに大きな不安が湧き上がってきたのを覚えている。ナイトマーケットは露店が並び、食品から雑貨、日用品まで多様なものが売られている。値段は日本円と比較すると相当安い。私たちは夜に出歩くことが初めてで、道路に停車しているトゥクトゥクの運転手に話しかけられたり、昼とは違う雰囲気に気後れしたりしたが、夜のチェンマイを知り、日本人の夜の過ごし方との違いに気づくことができた。

ナイトマーケットの様子
ナイトマーケットの様子

・5日目(9月6日)
この日はランプン工業地区の企業を2社訪問した。まず、タイニチインダストリー株式会社を訪問し、工場の見学をした。タイニチインダストリーはあられの会社で、250~300種にも及ぶあられの生産をしている。輸出先はアジアからヨーロッパ、アメリカなど幅広く、輸出先によって好みの傾向があることが分かった。日本へはのりまきが主流だが、欧米へはミックスが主流になってくるそうだ。日本への輸出は大体15パーセント程度で、日本でパック詰めされるため原産国名だけの表示となり、会社名は記載されないことを知り驚いた。確かに、「原産国名タイ」という表示は見たことはあっても「製造者タイニチインダストリー」という表示は見たことがない。もしかすると、知らぬうちにタイニチインダストリーが製造したあられを食べていたのかもしれない。現在は、原材料の値段高騰に伴い、グルテンフリーや健康志向の玄米などで業績を伸ばしているそうだ。工場内では、もち米をパックし冷凍するところからカッティング、オーブンで焼き、味付けをするところまでの一通りの工程を見学することができた。手作業が多いことが印象に残ったが、その方が効率が良くコストもかからないという理由があることを学んだ。

タイニチインダストリー社のあられ
タイニチインダストリー社のあられ

午後からはムラタ製作所を訪問し、工場の見学をした。ムラタ製作所は日本国内に27社、海外に52社を構えている。材料技術、生産技術、積層技術、高周波技術を持ち、携帯、パソコン、テレビや家電製品、自動車などを生産しており、また、他社との提携もしている。主力はコンデンサであり、全体の38.7パーセントを占め、通信モジュールも26パーセントを占めている。タイのムラタ製作所は女性労働者が80パーセントの割合で働いていることに驚いた。女性が働きやすい職場や環境が確保されているのではないかと考える。工場見学では圧電発音部品であるブザーの製造を見学した。圧電ブザーの用途としては、オーブン、エアコン、洗濯機、冷蔵庫などの家電製品から、ETC、火災報知器アラームや防犯ブザーまでと幅広い。タイにおける機械の生産では、人の手で出来るものは人がやることが主流である。日本では機械化しているが、そこが異なる点だと感じた。実際に作業している場面を見学したが、繊細な部品を扱うため慎重に且つ早く作業を進めている様子が印象的だった。

その後、ウィアン・クン・カーム遺跡を見学した。右を見ても左を見ても、至る所に遺跡があることに驚いた。また、レンガで高く積まれているのを見ると先人の知恵の素晴らしさ、能力の高さを感じた。もっと自分で下調べをして臨めば、より深く感銘を受けることができたのではないかと残念に思っている。

ウィアン・クン・カーム遺跡
ウィアン・クン・カーム遺跡

夜はナイトバザールへ行ってきた。ナイトバザールはナイトマーケットと違い、固有名詞であるためナイトバザールは一カ所にしか存在しない。一方、ナイトマーケットは至る所に開かれている。ナイトバザールでは店員と値切り交渉をするのが面白かった。ここでも相手とのコミュニケーション力が必要であったと感じた。

・6日目(9月7日)
前日に全てのコアスケジュールを終了したため、この日は一日自由行動ということになった。私たちはCMUで交流を持ったレックという学生さんにお願いして、レックと一緒にチェンマイの動物園へ行ってきた。当初、私たちはチェンマイのおすすめの場所を彼に教えてもらう目的で連絡を取ったのだが、彼は案内までしてくれた。レック自身の予定もあり忙しいはずなのに、ここまで私たちに優しく気を配ってくれて本当に嬉しかったし、それと同時に申し訳ない気持ちになった。チェンマイズーは大変広く、園内には様々な珍しい動物たちがいる。チェンマイが位置する地方に生息している数種類の綺麗な鳥や、大きなゾウ、可愛らしいパンダやコアラも見ることができて子供に戻ったように楽しむことができた。

チェンマイズーにて
チェンマイズーにて

レックは私たちと共にまわり、昼食も連れて行ってくれて、最後にはホテルまで送ってくれた。本当に彼には感謝の気持ちでいっぱいである。彼やタイの学生さんたちから貰った多くの優しさを彼らに直接返すことは難しいかもしれないが、私がこれから出会う人々や既に出会っている人々にその優しさや気遣いを示していきたいと強く感じた。

ホテルに戻った後は、マッサージを受けた。2時間で300バーツという安さにまた驚いた。1バーツは日本円で約3円である。私はタイ式マッサージとボディマッサージを1時間ずつしてもらった。タイ式マッサージは、左右に反ったり関節を鳴らしたり少し痛くて初体験だった。しかし、総ての施術が終わったあとは面白いほど体が軽くて驚いた。

16時30分にホテルのロビーに集合し、チェンマイ空港へ。19時30分のフライトでバンコクへ飛び、派遣団は解散した。ここで澤田先生や高橋さんともお別れすることになり、学生5人だけで3日間過ごすことに心細さと不安の気持ちがあったが、自分たちで何とかバンコクでの3日間を充実させることができた。バンコクでの1日目は王宮周辺、カオサン通りやサヤーム・スクエアに行った。2日目はアユタヤへ行き、遺跡の見学をした。また、3日目はジム・トンプソンでの買い物やお土産の買い物に時間をつかった。バンコクはチェンマイと違い、値段交渉や交通手段の選択に戸惑った。また、明らかに観光客を狙ったぼったくりをしそうな運転手がいる中、いかに騙されないように全員で考えて行動していくのが大変だった。

協定校訪問のコアスケジュール6日間に加え、バンコクでの3日間の個人旅行を終えた今、私の中に残っているものは何なのだろう。英語力は渡航する前と全く変化がないと思われるが、明らかに私の内面は変化したと思っている。人生で初めて海外へ渡り、日本語が通じない中で乏しい英語力を駆使しながら、様々な人々に出会い、様々なものを見て、人と関わるうえで重要なことをたくさん吸収することができた。優しさをもって、気遣いの精神をもって相手と関わること。コミュニケーションをしたい、相手と話をしたいという気持ちがあれば、交流することは可能であるということ。また、タイの学生さんたちが勉学に意欲的に取り組んでいる姿を目の当たりにし、私も頑張ろうという気持ちが湧き上がると共に、彼ら彼女らに引き離されていかないように努力しなくてはいけないという気持ちになったこと。この協定校訪問における経験は私の人生において次へと進む大きな契機となったことを実感している。9日間で起きたことをただの「思い出」にするのではなく、次へとつながる学びの「きっかけ」にできるように心の中に常に置いておきたい。

最後になりましたが、澤田先生をはじめ、石井先生、垂水先生、高橋さんには事前準備の段階から現地でのサポートまで大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

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