メンタルヘルスアップ・コーディネーター養成講座 第5回

日時
2011-12-03 14:00–16:00
場所
香川大学幸町キャンパス 研究交流棟5階 研究者交流スペース
参加者
48名
講義
カウンセリングの初歩
杉山 洋子 (香川県臨床心理士会 会長)
実習
ピア・サポート訓練
岡田 倫代, 片山 はるみ, 辻 よしみ, 藤川 愛, 鈴江 毅

写真: 杉山 洋子さん

杉山 洋子先生に、演習を交えながらカウンセリングの初歩をお話しいただきました。第3回, 第4回の「聴く練習」という実習を通じて気づいたことを隣の席の受講生と話し合いました。つづいて、普段の生活の中で自殺について誰かと語り合ったことがあるかを、話し合いました。語り合ったことがない場合は、なぜ話し合うことがないのか。あるいは、語り合ったことがある場合は、どのような話し (内容, 語り口など) だったのか。受講生からは、タブーだから語り合う雰囲気になりにくい、昼夜逆転の生活を指摘したら自殺をほのめかされた、などの経験が語られました。

杉山先生は、私たち一人一人が死や自殺ということをどのようにとらえているかを、自分自身で気づくことが大事である、と話されました。例えば、「自殺」という言葉をなかなか口に出せないのか、さらりと語れるのか。自分自身が死や自殺をどうとらえているかを認識していないと、相談者などから自殺という言葉が出てきたときに慌てたり、聴けなくなったり、話題をそらそうとしてしまうそうです。また、「死んでしまいたい」という言葉だけが自殺を表す言葉ではありません。「知らない人ばかりの場所に行ってしまいたい」「朝が来なければいい」「私はいる所がない」のように、「死」という言葉を使わなくとも、死をほのめかす言葉があります。相談者は、「この人なら、きっと話を聴いてくれるだろう」と思って、死にたいと思っていることを打ち明けます。相談を受けた側は、「もう少しお話を聴かせて」と落ち着いて言えるかどうかが重要になります。自身は死や自殺をどう考えているか、その考えを自身で受け入れられているかが、カウンセリングマインドを身につける上で大事なことであると述べられました。

写真: 講義風景

二人組で、一方は1年前にパートナーと死別し後追い自殺を考えている人、もう一方は絶望や救いがない感情を話し手に表現させることは避けつつ、相手の語りを聴く人と役割を分担し話し合いをしました。その後、受講者からは、「聴くことはできるけど、励ましてあげる言葉やそのタイミングが分からなかった」、「過去の楽しかった思い出を引き出すと、余計に寂しさが募るかもしれない。語りかける言葉に迷う」、「相手の気持ちが少し楽になるように、軽くなるように聴いてあげられればいい。引き続き聴いてあげられるような雰囲気に持っていきたい」といった感想が述べられました。

写真: 講義風景

杉山先生は、ご自身の体験から、「相談者の語りを遮ることなく、まずはしっかり聴く」、「相談者の語りを聴いているうちに、もう少し聴いてみたいところや『それはどうかな』と思うことが出てくると思うが、これらを無理に押さえ込んで相手に同調することがいいとは思わない」、「聴いた上でどのような言葉をかけるのがよいか、公式はない」、と述べられました。相談者との人間関係を丁寧に構築する過程で生まれてくる言葉を誠実に伝えることが大切で、「この言葉は間違っている」といったことは、強く意思にしなくても良いのではないかと述べて、講義を締めくくられました。


写真: 実習風景

実習では、受講生の皆さんに前回提出していただいた、振り返りシートに寄せられたコメントや質問が紹介されました。その中で「通信講座的なものがあれば、教えて欲しい」との質問を戴きました。本講座と近いものとして、内閣府のゲートキーパー養成のための教材 (テキスト, 動画) が紹介されました。

背中に貼られた、感情が書かれた紙をたよりに、前回と同じく、声をかけずにグループに分かれます。8個のグループに分かれた後、ピア・サポートについての説明を受けました。場や気持ちを共有する仲間 (ピア) が悩んだり困ったりしたときに、互いに支え合うこと、人が人を支援することがピア・サポートです。社会には様々なピア・サポートがありますが、ピア・サポートを行うにあたって、気をつけなければならないことがあります。この日の実習では、それを体験しました。

写真: 実習風景

グループごとに1列に並び、背中に漢字を1文字書き、その文字を前の人の背中に書いて伝えていきます。最後のメンバーまで、初めの方が書いた文字が伝わるでしょうか。結果は、最後まで正しく伝えられたのは8組中1組のみ。ここで学んだことは、噂話の伝達です。噂とは、いない人のことを陰で言うこと。噂には歪んだ情報が多く含まれます。歪みの原因は、その人の思いこみとコミュニケーション不足です。

写真: 実習風景

つづいて、会話の例を示して、安易に同調することの危険性を示されました。ピア・サポートを行うコーディネーターの立場からは、相手の気持ちを汲んだ上で、様々な視点から見たり考えたりした事を伝えること、可能であれば相手とは異なるプランを提示することが大事。誰かに対する否定的な評価に対しては、なぜそう思うのかを聴くことも有効です。また、仲間の悩みを一緒になって解決するお手伝いをする、という視点が大切です。グループ内で相談者とコーディネーター役に分かれて、実習です。実習後、どのような対話が行われたか、コーディネーター役の人は何が難しかったか、どのような工夫をしたのかをグループごとに発表しました。

グループワークの終わりに、一緒に活動した仲間へのメッセージを送り合いました。自分宛のシートに、グループの他のメンバーが「ありがとう」のメッセージを書き込みます。

最後に、初回講習と同じコンピテンシー質問紙に回答し、取り組み状況の変化を確認しました。あわせて、個人プランニング用紙に行動目標など記入して、全5回の講習を終えました。


休憩スペースで紹介されていた書籍

写真: 休憩スペース
すぐ始められるピア・サポート指導案&シート集
森川 澄男/監修, 菱田 準子/著, ほんの森出版 (2002)
ピア・サポート実践ガイドブック -Q&Aによるピア・サポートプログラムのすべて-
日本ピア・サポート学会/企画, 中野 武房, 森川 澄男, 高野 利雄, 栗原 慎二, 菱田 準子, 春日井 敏之/編著, ほんの森出版 (2008)
改訂新版 ピア・サポートではじめる学校づくり 小学校編 -異年齢集団による交流で社会性を育む教育プログラム-
滝 充/編著, 金子書房 (2009)
改訂新版 ピア・サポートではじめる学校づくり 中学校編 -「予防教育的な生徒指導プログラム」の理論と方法-
滝 充/編著, 金子書房 (2009)
現代のエスプリ 502号 (2009年5月号) ピア・サポート
中野 武房, 森川 澄男/編集, 至文堂/制作, ぎょうせい (2009)
ココロブルーと脳ブルー -知っておきたい科学としてのメンタルヘルス-
小山 文彦/著, 産業医学振興財団 (2011)