メンタルヘルスアップ・コーディネーター養成講座 第4回

日時
2011-11-19 14:00–16:00
場所
香川大学幸町キャンパス 研究交流棟5階 研究者交流スペース
参加者
47名
講義
自殺予防について
藤岡 邦子 (香川県精神保健福祉センター 所長)
実習
聴く練習 その2
岡田 倫代, 片山 はるみ, 藤川 愛, 鈴江 毅

写真: 藤岡 邦子さん

香川県精神保健福祉センターの藤岡 邦子先生に、精神保健の観点から自殺予防について講義していただきました。1998年以来、国内の年間自殺者数が3万人を超えた状態が続いています。小豆島の人口に匹敵する方が毎年命を絶っているとの紹介がありました。具体的な対策が見通しやすい交通事故に対して、どういったことをすればいいのか対策が見通せない自殺予防。自殺された方の状況を調査したところ、9割近くが何らかの精神的な問題を抱えていたとのことでした。自殺は、単にメンタルヘルスだけの問題ではなく、精神的な困難や問題の解決を通じて防ぐことのできる死である、との話が印象的でした。

写真: 講義風景

話は、喪失体験に移ります。喪失体験は、メンタルヘルスが損なわれやすい代表的な例です。人とのつながり, 財産, 地位…。人は有形無形の様々なものを失いながら、また、得ながら生きています。例えば、不幸にして家族の大黒柱を失った場合にも、家族は故人を心配し地域は家族を心配します。地域が持つこのようなシステムが少しずつ弱くなっていることが、喪失体験を個人では受け止めきれないほど大きく重いものにしている一因、と藤岡先生は考えておられます。「茫然自失 – 否認 – 怒り – 受容 – 再生 – (成長)」という喪の仕事 (悲哀の仕事) がうまく進む方もいますが、中には停滞したり周囲の力を必要とする状況に陥る方もおられます。このような状況に力を貸すことができる家族や親戚, 学校や職場, 地域など、共同体のサポートが希薄になってくる中、本講座のような新しいムーブメントによって、新しい支援の形が生じてくるのではないか、と述べられました。

「自殺予防はみんなの仕事」。国際自殺予防学会 (IASP) とWHOが2005年に出した勧告です。死の世界に向かおうとする人を瀬戸際で止めるのではなく、その前の段階で何とかしなければならない。自殺に対する根強い偏見など、援助を遠ざける要因の解消が求められます。自殺する予定の人などいない。いるのは死にたくなるくらい困っているひとである」、「普通に困っている人、すごく困っている人、死にたくなるほど困っている人は連続して存在しており、支援の手を次々とすり抜けた人が、最終的に「自殺者」と呼ばれることになる」という話は、非常に示唆に富むものでした。自殺する予定の人などいない、ということは、統計にも表れています。香川県精神保健福祉センターに相談に訪れる方のうち、自殺に関連する相談の割合は約1割。また、「こころの電話相談」に寄せられる相談でも、自殺が主たる相談であるものは0.5%程度です。すなわち、生きることの困難さに関する相談として対応されていることも多いと考えられます。

写真: 講義風景

続いて、「自殺のシグナル (M.ジィンフィン, C.フェルゼンタール; 霜山 徳爾, 妙木 浩之による訳本があります)」に書かれている、自殺についての根強い神話10項目について、反例を挙げつつ検証しました。

最後に、自殺を巡る実態の一例を示されました。困っている人は皆しょんぼりしているとは限りません。気持ちの通じない人, 依存的な人, 攻撃的な人, 脅す人など、時には援助者を困らせる人であることも想定し、辛抱強い丁寧な対処が要求されます。質疑応答の中で、死んでしまいたいくらい困っている人を探すのではなく、とても困っている人を探すだけでよい、と再度述べられ、講義を締めくくりました。


写真: 実習風景

後半は実習です。背中に貼られた動物のイラストをたよりに、仲間探しをしました。自らの背中にどのような動物イラストが貼られているかは分かりません。声を出さない方法で無事仲間を見つけることができるでしょうか…。7分ほどで皆さん無事4人組の仲間ができました。この4人組で、前回の実習でも行ったコンプリメントシャワーを再度行いました。前回は、1人を他の3人が褒めましたが、今回は、1人が長所を自己アピールし、他の3人がアピールポイントを褒めます。

写真: 実習風景

互いの長所を理解し合えたところで、見方を変えて物事を見る演習です。満開の桜も、冬の桜も同じ桜…。桜を好きな人は、いろんな桜を知った上で「桜が好き」などと判断します。また、見方によって見え方が異なる絵 (だまし絵) をたくさん示し、見方を変えることで全く異なるものが見えてくることを体験しました (実習に登場しただまし絵の一部は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の「イリュージョンフォーラム」に掲載されています)。人と接するときも同様で、多面的に見ることの重要性を知りました。欠点も違うところから見ればいいところになる。これを体験するため、欠点を長所に言い換える「リフレイミング (reframing)」の練習を行いました。1人が自らの欠点を告白し、他の3人がそれを言い換えます。

写真: 実習風景

つづいて、「ジョハリの窓」が紹介されました。開放の窓を拡げ秘密の窓を狭めること、他の人のアドバイスをフィードバックして盲点の窓を狭めること。前者は自らできることですが、後者には他の人の協力が不可欠です。友人や家族など、様々な人が知っている自分を知ることが、自己の成長に大きく役立ちますす。自己の開示と他者の理解が進み、開放の窓が大きく開いたところで、グループのメンバーと話し合ってメンバーの共通点を探し、それを反映したグループ名を決めて発表。最後にグループの仲間と握手をして、この日の実習を終了しました。