浅海環境通信

特集号 『こども開放プラン』2002

浅海環境通信 発行
香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設
香川県木田郡庵治町鎌野(Tel: 087-871-3001)
 つい数ヶ月前に『浅海環境通信・創刊号が出た!』と我々スタッフもほっとしておりましたが、今回は早速、8 月に実施された大学等地域開放特別事業『香川大学調査船体験航海』の報告を、特集号としてお届けすることになりました。実施した我々が自分たちでこう言うのも何ですが、この開放講座は大好評でしたので、今回は開放講座当日の様子を、この「浅海環境通信」で、ご紹介したいと思います。
■『こども開放プラン』実施報告 農学部 多田 邦尚
<カラヌスⅢ>
 この『こども開放プラン』の“目玉”は何と言っても我々の自慢の調査船“カラヌスⅢ”への乗船です。まず、最初に簡単に調査船“カラヌスⅢ ”のご紹介をしたいと思います。
 本船は昨年新造されたハイテク船で全長約20m、幅4.3m、総トン数は19トン、船体はアルミ合金製で軽量であり、最高速力は32ノットも出ます。1ノット(knot)は1海里(1.85km)/時間ですから、本船の最高速力の32ノットは、時速59kmということになります。自動車で時速60kmを出すのはそうむつかしくないことですが、船で時速約60kmも出すのは大変なことで、本船は左右に1基づつ、計2基のエンジンを積んでいます。もちろん、ただ速いだけではなく、本船にはさまざまな最新の観測機器が搭載されており、現場でリアルタイムに水温・塩分・植物プランクトン量などがモニターでき、かつ好きな深さの海水がコンピューター制御で採取できます。また走りながら海流の流向・流速や海底の底質をモニターできる装置等が搭載されています。本船は単なる観測船というよりは船上実験室『マリンラボ』なのです。搭載されている観測機器については、また本誌面上で別の機会にご紹介しようと思います。興味のある方は本施設のホームページの中にある「カラヌスⅢの主な搭載機器」の頁を是非ご覧下さい。本施設のアドレスおよび、搭載機器についての頁のアドレスは以下の通りです。
  本施設・搭載機器  http://www.kagawa-u.ac.jp/setouchi/aji-m-station.html
 
次頁以降に本船の主要目、写真および一般配置図を示しました。これらを見ると、何となく、船を実際に見たような気分になってもらえるのではないでしょうか?
<子ども開放プラン当日>
 『こども開放プラン』が実施された当日は、天候にも恵まれ、航海には絶好の日でした。今回の講座に参加されたのは、小学生10名、その保護者の方10名、中学生10名の計30名でした。当日は、生涯学習教育研究センターの清國先生と専門職員の西山さんも一緒に乗船して下さいました。
参加者は朝8時30分に高松港県営桟橋に集合し、生涯学習センターの西山さんの点呼の後、早速、乗船しました。高松港から出航し庵治町の施設に向う途中、屋島湾に入り、ネット曳きによる植物プランクトンの採集や、海底泥の採取を行いました。その後、庵治町にある本施設に到着後、ここで参加者はA,Bの2班に別れて、その後の講座が実施されました。10時から12時までと、13時から15時までの、午前・午後2時間づつのメニューは調査船乗船と実験室での実習でした。A班は午前中に乗船で午後からは実験室での実習、B班はその逆で午前中に実験室での実習、午後からは乗船となりました
 調査船乗船では、水中ロボットで、底泥の様子を観察しました。実は、珊瑚礁などのきれいな海底の映像はよくテレビ等で見る事もあるのですが、岸から数キロしか離れていないような沿岸の海底を私達は意外と見たことがないものですから、参加された方々には貴重な体験だったと思います。また参加者は水中ロボットを実際に自分で操縦して、時間はあっという間に過ぎてしまいました。海底の観察を終え、海水の透明度の測定、プランクトンネットを用いたプランクトンの採取も行いました。透明度は海洋観測の基本項目なのですが、その名の通り、海水の清濁の度合いを表すものです。実際には、直径30㎝の白い円盤を海水に沈めてゆき、これがちょうど見えなくなる深さを透明度といいます。またプランクトン採取ではプランクトンネットを船上から海へ数mおろして鉛直に曳きあげるだけで、プランクトンがいっぱい採れ、ネットの下の方に色がついて見えます。透明度の測定もプランクトンネットによる採取もどちらも、少しコツがいりますが、観測補助員として乗船してくれた学部4年生や大学院生に手伝ってもらいながら、熱心に取り組んでくれました。やっぱり、自分で実際に“はかる”のが一番ですね。船の上では最後に、エクマンバージ型採泥器という器具を使って、海底泥を採取しました。観測を終えて鎌野港に帰る途中、参加者は船長から説明を受けながら魚群探知機による海底地形の観察をしました。
 実験室での実習では、その日に実際に海で採取してきたプランクトンや泥の中に棲む生物(底生生物と言います)を顕微鏡を使って観察しました。採取して持ち帰ったプランクトン試料はピペットを使ってスライドガラスに数滴落とし、顕微鏡で観察しました。また、持ち帰った泥は篩にかけて泥粒子を洗い流し、篩の上に残った貝や底生生物を実体顕微鏡を使って観察しました。観察された生物については実際に図鑑でその名前を調べました。今回は乗船等危険な事もあるので、小学生は保護者の方にも同伴していただいたのですが、参加されたお父さんやお母さんも熱心に顕微鏡を覗いて下さいました。中には、お子さんよりも熱心な方もおられ、なんだかこちらも嬉しくなりました。でも、年齢を問わず、生物を観察するのは楽しいものですね。ましてや、それが、実際に自分の手で採取したものであれば、その感激もひとしおです。実験室での実習のもうひとつのメニューは衛星画像の観察です。本施設には、パラボナアンテナなどの衛星画像受信システムがあり、2001年5月から米国の気象衛星NOAAから送信されてくる画像データを受信しています。参加者は受信画像を見たり、実際に地球上をまわる人工衛星の現在位置を確認したりしました。さらに、本施設の庭で人工衛星に搭載されたセンサーと同じ原理のセンサーで、船で採取された海水や土からの波長エネルギーを測定し、人工衛星から届いた情報がどのようにして、水温や海色のデータとして表示されていくのかについて学習しました。少しは人工衛星がわかってもらえたかな?
 実習は、本当にあっという間に終ってしまい、15時から参加者にアンケート用紙に感想などを記入して頂いた後、15時30分には、再び参加者全員が乗船し“カラヌスⅢ”は高松港に向かいました。高松港県営桟橋で解散となりましましたが、参加して下さった方の顔をみていると、何か1日だけの実習があまりにも短すぎるように感じられました。最後にスタッフからの『今日1日、ご満足いただけましたでしょうか?』との質問に、『ハイ』と大きな声で返事が返ってきた時には、私達も、充実感を感じました。
 この『子ども開放プラン』実施後、数日して私達のもとに、参加した小学生から一通の郵便物が届きました。そこには、子ども開放プランが大変楽しかったこと、ちょうど小学校の総合学習で瀬戸内海の事について学習していたので非常に参考になったことなどが書かれており、自由研究としてまとめたレポートが同封されていました。レポートには実習の内容や我々スタッフの説明が詳しく、また正確に記述されていました。最後にこのレポートは『いつまでも魚のたくさんすむ、きれいな瀬戸内海であってほしいと思った。また、それを守るために多くの人が研究していることも知った』と結ばれていました。私達はこれを読んで、「今回の子ども開放プランは大成功だった」と感じました。また、来年はどんな子ども達に会えるのか楽しみです。今、私達スタッフも純粋に、「また、来年も海の中を覗いてみよう」そう思うのです。
■こども開放プラン実施スタッフ
香川大学農学部 石田 智之、多田 邦尚、山田 佳裕
香川大学工学部 末永 慶寛
ゲストティーチャー 一見 和彦(新エネルギー産業技術総合開発機構)
香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設 浜垣 孝司(カラヌス船長)
編集:浅海域環境実験実習施設利用者グループ
連絡先:760-8521 香川県木田郡三木町池戸2393 香川大学農学部生命機能科学科 山田 佳裕
電話:087-891-3150 ファックス:087-891-3021(代)電子メール:yamaday@ag.kagawa-u.ac.jp
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