瀬戸内圏研究センターSeto Inland Sea Regional Research Center

一見和彦准教授らによる国際研究グループが、干潟に飛来するシギ等の鳥類が「バイオフィルム(微生物膜)」を餌として摂取していることを、世界で初めて解明しました!

平成24年2月6日  香川大学瀬戸内圏研究センター
 シギ類などの干潟に飛来する鳥類は、これまで、ゴカイやカニなどの小動物のみを食べていると考えられていましたが、日本・イギリス・カナダの国際共同研究グループ((独)港湾空港技術研究所・桑江朝比呂チームリーダー)は、日本やカナダの干潟における鳥類の行動調査や、鳥糞や餌の化学分析などにより、小型のシギ類が、餌の多くをバイオフィルムから賄っていること(最大で餌全体の78%を占める)を世界で初めて明らかにしました。これは、これまで生態系の中で見落とされてきた、鳥とバイオフィルムとの間の「ミッシング・リンク(未解明の関係性)」を特定したことになります。

 小型のシギ類にとって、大きな餌や硬い殻を持つ餌は、その小さな消化器官に適していません。また、小型シギはくちばしも短いので、干潟泥の深い場所に棲む餌を上手く捕らえることもできません。こうした結果、餌をめぐる他の鳥類との競争の中で、干潟泥表面のバイオフィルムを摂取するように進化したのではないかと考えられます。

 シギ類は舌先にブラシのような毛を持ち、その毛にバイオフィルムを巧みに絡めて食べます。小型のシギほど舌毛は発達していて、餌の多くをバイオフィルムに依存していることも分かりました。干潟にはウミニナなどの巻貝類も生息し、これらもバイオフィルムを主食としていますので、小型シギは「バイオフィルム」という共通の餌をめぐり、巻貝と熾烈な競争を行っていることを示しています。また、※食物網の理論から、鳥類がバイオフィルムと小動物の両方を食べることにより、生態系全体の安定性が保たれると予測でき、裏を返せば、シギ・チドリ類の個体数が減少すると、干潟生態系全体のバランスが崩れることが懸念されることになります。

 国内あるいは世界中で、過去20年間にシギ・チドリ類の個体数が半減し大変深刻となっていますが、今回の研究成果がこうした現象の原因解明や、干潟生態系の環境や生物多様性保全に役立つものと期待されます。
 香川大学瀬戸内圏研究センターでは、この成果を今後の環境学習や教育・研究の場に反映させて参ります。

 なお、この成果を取りまとめた研究論文が、生態学の専門誌である「Ecology Letters(IF=15.253)電子版」に掲載されました。

※食物網の理論:餌と捕食者の関係が、網目のようにつながっている様子全体のこと。
バイオフィルムを採取する様子
バイオフィルムを採取する様子
解明された新たな食物連鎖
解明された新たな食物連鎖
形質や餌資源をめぐる競争に関連したニッチ分化
形質や餌資源をめぐる競争に関連したニッチ分化