平成23年度 香川大学瀬戸内圏研究センター学術講演会
 神田 優氏 「島が丸ごと博物館(ミュージアム)―持続可能な里海づくり―」

【講演内容】      
 皆さん、こんにちは。先ほど、紹介に預かりましたNPO法人黒潮実感センターでセンター長をしております、神田と申します。本日は、このような学術講演会にお招き頂きまして誠にありがとうございます。      
 
 私は高知県の西の端にあります、柏島というところで、島が丸ごと博物館の構想のもとで活動しております。今日は30分ということですので、活動の一部をご紹介いたします。宜しくお願いします。           

 高知県の西の端、宿毛市と土佐清水市の間に大月町というところがありますが、その先端にあります島、それが柏島です。私、今、ここに住んでいます。
 高知県は非常に海岸線が長くて、全部合わせますと706kmになります。特に西側の土佐清水や大月町あるいは足摺岬の方は、リアス式海岸となっております。なかでも黒潮の影響を強く受ける土佐清水、大月というところは、この緑で示しているような造礁サンゴが非常に発達しています。

 ここが私の住んでおります柏島という島です。島と言いましても現在は橋が2本繋がっておりますので半島のような位置付けになっております。周囲をグルッと周りましても3.9kmほどの小さな島です。現在人口は500人程度です。50年前程、漁業が盛んなころは、この島に1,500人から2,000人弱の人が住んでいたと言われています。よくそんなに人がこの島にいたなというくらいの広さですが。集落は東側の平らなところと橋を渡って向こう側に渡し場という地区があります。この2つになります。      

 これは少し古いデータですが、中学生10人程度、小学生が20人程度で少子高齢化の島です。ただ、2001年に柏島中学校が廃校になりまして、大月町に5校あった中学校が一つに統合されまして大月中学校になっております。そして、2009年には山の上にあった小学校も廃校になりまして大月町、9校ある小学校がまた1つに集められました。かなり荒っぽいことをされて、1校になってしまいました。子供たちはここからバス通学で行かさざるを得ない。大月町内で最も遠いところにあるのが柏島なので、子供たちは40分から50分も揺られながら町の中心まで行かなくてはいけないというようなことになっています。

 周囲が海に囲まれていることから主な産業は漁業ですけれども、それ以外に蒲葵島(びろうとう)や幸島といった無人島やこちらの断崖絶壁の磯がありまして、そこに釣り人を渡す磯釣り渡船業が営まれています。最近、柏島の名前が広く知られてきたのはスキューバダイビングのメッカということです。これで知名度が高まり、全国各地からの釣り客やダイビングのお客さんを泊める旅館民宿というのが柏島の主な産業になっています。

 ちなみにですね、湾内ですが、ここは浅くなっています。しかし、ここから急に深くなっています。色が変わっていますので分かりやすいと思いますが。今ここでは、マダイやシマアジ、カンパチの他、大きな円形の生け簀では本マグロの養殖をしております。
 昔こういった養殖がない頃には、ここに3つの定置網がありました。その定置網で何を取るかといいますと、マグロです。高知県で唯一なのですが、ここマグロ定置だったんですね。なんと湾の中にマグロが回遊してくる。それも、100m沖に出した網に一番多い時はキハダマグロが2,400匹も入っていたというような、日本中どこを探してもないような湾です。すぐにここから深くなりまして、浜から100m、150mほど沖に行きますとここが水深50m、60mという非常に深いところです。      

 これが柏島の海中風景で、代表的な海の風景です。柏島はもちろん温帯域ではありますが、日本有数の規模を誇るサンゴ群集があります。そして黒潮の影響を非常に強く受けることから、透明度は平均しますと約20mです。丁度、10月、11月になりますと黒潮が一番接近してきますので、水深30mのところの魚も見えるような海です。

 私の専門は魚類生態学なので長く魚の研究をしてきました。これまでにも柏島には非常に魚の種類が多いと言われてきてはいました。それでは魚はどれくらいいるのだろうか、ということで約30年間に渡ってさまざまな研究者が調べた結果、1996年に高知大学の方で魚類相のリストが出ました。
 それによれば、884種類という魚の種類が報告されました。その当時884種プラス新種の可能性のある魚や、国外では見つかったことがあるけど、国内では初めて記録されたという日本初記録種を含め100種類はいました。現在さらに増えておりまして、そういったものもトータルしますと1,000種類を超えています。これは国内の魚類相リストを調べた結果、亜熱帯域である沖縄や小笠原をしのぎ現在日本で最も多い。こんなちっぽけな島、それも温帯である島の周辺の海が亜熱帯をしのぐほどの多様性をもった海であるという、驚くべきところです。

 ここでは温帯、亜熱帯の魚が生息しておりまして、このような温帯に生息するソフトコーラル、亜熱帯地に生息するようなハードコーラル、そこにはそういったカラフルな魚から後ろにはマグロも泳いでいるというような、なんでもありの海です。      

 これはカシワハナダイと言いまして、島で最初に発見されて島にちなんで名前が付けられたハナダイの一種です。これって魚かいなって思うかもしれませんが、これはカエルではなくて、今、新種記載しようとしているところの英名でジョーフィッシュと言います。アゴアマダイの仲間ですね。
 このピグミーシーホースはタツノオトシゴの仲間ですけども、頭の先から尻尾の先まで合わせましても皆さんの小指の爪よりちっちゃい、8㎜くらいです。成魚でそんなもんです。これが柏島には3匹います。これはしっかり見つけてあります。そして、そこへダイバーを案内していきます。       
 こういった柏島のドル箱スターがいるってことで、全国各地から多くのダイバーがやってくるというわけです。      

 黒潮実感センターは、1998年に私が単独で柏島に乗りこみまして、こういうことをしたいんだと言ってゼロから立ち上げたセンターです。高知県は非常に素晴らしい自然環境が数多く残されています。
 しかし、当時この素晴らしい自然環境を生かすようなフィールド・ミュージアムというのが高知県にはほとんどなかった。フィールド・ミュージアムってなんぞやってことですが、ミュージアムですからもちろん博物館のことです。しかも、これまでの屋内型の博物館ではなく、訪れた人がありのままの自然の生態や環境を学び、体験、実感できるような野外型の自然博物館のことを、私はフィールド・ミュージアムと呼んでおります。      

 そこで、私が考えたのがこういうことです。
 この自然豊かな柏島を島全体をまるごと博物館と捉えましょう、という「島まるごとミュージアム」というのがコンセプトです。博物館の中身はと言いますと先程さらっとお話しました、豊かな自然環境はもちろんあるわけですけども、それ以外に島に生活している人々の暮らしも含めてまるごとミュージアムいうふうに考えています。この活動を通じて目指すべき私たちのゴールというのは持続可能な里海ということです。このゴールに向けて、大きく分けて3つの活動をやっております。
 まず1つが自然を実感する取り組み、そして実感するだけじゃなくその自然を生かした暮らしづくりのお手伝い、そして3つ目として自然と暮らしを守る取り組み。この3つの取り組みをやりながら里海づくりを目指しているというわけです。      

 この里海という言葉ですが、九州大学の柳先生が瀬戸内海は里海というような考え方をだされております。柳先生がこの言葉を使われたのは1996年ごろでしたでしょうか。私、それを存じ上げてなくて1998年に私自身が作ったと思っていた造語が里海ということでした。
 私は里海という言葉にこういう思いを込めました。人が海から得た豊かな恵みを一方的に享受するだけではなくて、人もまた海を耕し、育み、そして守る、と。さまざまな海の生き物や人が共存できるような海、それが里海である、そういうふうに捉えています。      

 こういった活動を行っているわけですが、まず自然を実感し、そこにある自然がどれだけ価値のあるものなのかということを知ってもらうための調査研究や、そこで得た成果をわかりやすく伝えるための里海セミナーなどをしております。
 調査研究で得た情報はまず地元の人に地元の自然をよく知ってもらい、誇りを持ってもらうために、地元島内へ情報発信をしました。次に、島外へも情報を出すことによって、その情報が跳ね返ってきて地域に聞こえてくると、それによって地域の人が自分たちの島はすごいんだというふうに思ってもらうというのがねらいです。その一環として今、高知大学では柏島学、正確には「土佐の海の環境学―柏島の海から考える―」という授業を開講していて、ほぼ10年近く続けおります。柏島学ではフィールドワークを含めた座学もやっており、地元の方にも参加してもらっています。

 その他、次代を担う子どもたちへの環境学習会や体験実感学習、加えて大人向けのエコーツアーを開催することで自然の良さを知ってもらおうと思っています。私たちの活動では自然を実感するということを最初に行いました。
  最終的なゴールは自然と暮らしを守ることにあります。この豊かな自然や人々の暮らしをいかに守っていくかということです。ここを守っていくのはよそから来る観光客やダイバーが中心ではなく、あくまで地域の方が自主的に守っていこうという活動がベースでないと続いてはいかないでしょう。

 しかしながら、いくら良い環境があっても環境だけでは飯が食えないとよく漁師さんも言われていました。ですから、豊かな環境を生かして地域の産業に結び付くような仕組を作っていこうというのが自然を生かした暮らしづくりのお手伝いです。
 しかし、あくまでも黒潮実感センターはお手伝いであって主体的にやる訳ではありません。私たちは地域おこしを目的とはしておりません。自然や暮らしを守るための手段として行っています。このような3つの大きな取り組みの中でさまざまな活動を通して、持続可能な里海に近づけていこうと活動を続けています。今日は、時間の都合であまり細かいお話はできませんが、ざっくりこういう感じです。      

 まず、自然を実感することですけども、イメージとしてはこういう感じですね。
 これは柏島を上空から見た写真です。廃校になりました中学校を大月町からお借りしておりまして、ここを黒潮実感センターとして使わせていただいています。この湾内では養殖体験や釣り体験、海の生き物観察の他、クリアカヌーとかシュノーケリングあるいはスキューバダイビング、クルージングによるサメやウミガメの観察といったさまざまな海での活動の他、ビオトープとしてのトンボ池を整備しそれを活用しています。      

 最初の活動は柏島中学校がまだ廃校まで3年間残っている時に、中学校の一部屋を借りまして、そこに黒潮実感センターの設立準備室を置いたのがスタートです。その当時、校長先生から私が言われたのは、まだ環境教育とか環境学習というと何をして良いのかわからない時代でしたけど、子供たちへの環境教育を担当して欲しいということでした。
 柏島ではかれこれ24年ほど付き合いを続けて、専ら調査、研究しておりましたので、地元の子供に地元の海の良さを伝えようということで、水中に潜って作ったビデオを元にしてお話をし、それで関心を持った子供たちにさまざまな体験活動を行いました。それが、島だけではなくて大月町内、そして高知県、或いは全国の子供たちに広がっていっていけばという期待です。      

 これはクリアカヌー。下が透明なカヌーですけども、これだけ透明度があると有効に使えるわけです。上から見たら下のサンゴや魚が透けて見えていますし、逆に魚から見るとこういうふうに見られている。下からもぐって撮った写真ですけども・・・汚い足が丸見えです。      

 こういったクリアカヌーとかクルージングをしながらカメを探しに行ったり、夜の海の生き物の観察などもやっています。      

 丁度、春から夏にかけて大潮で非常に潮がひきますので、そういった時には磯に行って磯の生き物観察などもします。これも単に生き物を集めて名前を教えてどうこうというだけでは面白くないので、いろんな子供たちに質問を投げかけます。

 例えばここで子供達がウニを見ています。ウニってどうやって歩くのかなって質問すると、子供たちが「神田先生そんなこともしらんのか、トゲで歩くに決まっているやないか」、と非常に偉そうな顔して言うわけです。「そうだね」、と言いながらも置いておくと確かにトゲを使って歩くわけです。
 その次に何気なく水槽に入れておきますとウニが上がってくるわけですね。「オイオイ、ウニ上がってきているぞ、なんで上がってきてるんやろ、このガラスにトゲがブスブス刺さりながら上がってきてんのかな」、というような話をすると、「そんなはずないやん」、という答えも返ってくる。「じゃ、どうやって上がってきてるんやろ」、と言ったら答えが出ないんですね。「じゃ、観察してみよう」、ということになると、子供たちガラス面に貼りついて観察を始めます。

 そうすると、普段ウニはトゲトゲして堅いものというイメージだけれどよく見てみると、トゲとトゲの間から管足というエノキダケみたいなヒョロヒョロしているものが出てきているわけです。それの先が吸盤になっていますから、ビチャビチャ引っ付きながら移動できる。或いは移動するだけじゃなくて、トゲが少ないウニはトゲの長いウニと違って、カモフラージュするためにゴミをつけたりする。それにも管足を使う。トゲの長いウニと短いウニは、住んでいるところはどこが違うのか、どうやって日頃の生活をしているのかということも、どんどん聞きだしながらやっていきます。

 聞いた話というのはすぐ忘れますが、見たものはもう少し覚えています。一番覚えているのは自分が発見したことということだと思います。だから、答えは最初から与えない。自分で答えを探し出すようなインタープリテーションといいますが、そういった形で話をしております。      

 いろんなアクティビティはさまざまありますけれども、少し割愛しまして、次にこの自然を生かした暮らし作りのお手伝いということで話をしたいと思います。      

 柏島はですね、約20年前からダイビングが盛んになってきました。
 私は学生時代に沖縄県の座間味という島でダイビングガイドをしていまして、丁度、柏島に来た時、地元の漁業者が大月町でダイビングサービスをしたいという話があって、じゃあ一緒にやりましょう、ということで始めたのが実は最初なんですね。そこから口コミで広がってきて、あれよあれよという間にダイビングショップが増えて、全国各地からお客さんが来るようになりました。
 こういった雑誌を見ても華麗なる4大マクロ王国という、どうやってこんな名前を付けてきたのか、よく分からないのですが。それだけ、こういったレア(稀で珍しい)ものというか、マクロ(小さな生き物)で面白い生き物などが発見されると全国各地から大月にダイバーが来るようになりました。それによって、それまで漁業が盛んだった柏島の漁業が次第に衰退しているところに、新たな産業としてダイビング業というのが出てきて、一つの産業になってきました。      

 現在、周囲3.9kmしかない島の中にはダイビングサービスが14軒もあります。小さな赤い点がダイビングサービスの位置ですけど。大月町内全部を合わせますと20数軒のダイビングサービスがあります。
 これまで柏島以外に大月町の東海岸、或いはこの沖にある宿毛市の沖の島というところなど、あちらこちらにダイビングポイントを私たちは持っていたのですが、いろんなダイビングサービスが増えてきて地元の漁師とトラブルを起こすようになってきたわけですね。潜ってはいけないところに無断で潜ったり、漁の邪魔をしたりとか、密漁している人がいたりとか、そういうことで各地のポイントが閉鎖されていきました。現在では約20のポイントしかないんです。メインのポイントは後浜というところで、現在はダイビングの係留ブイを10個くらい打っていますけどもここがメインのポイントで、町内の20ポイント内の大半がここに集中しています。
 上空から見て黒っぽく見える所は造礁サンゴですね。ダイビングバブルのような2000年頃は、後浜の400mくらいの幅にダイビング船が一度に22隻もずらっと並ぶほどでした。      

 そういった珍しい魚が多い海ですから、多くのダイビングサービスがお客さんを連れて行くわけです。しかし、お客さんがいっぱいでもレアなものはレアですから少ないわけですね。そうすると見るのに順番待ちをしなくてはいけない。水の中で順番待ちをしていますと、エアがなくなって息ができなくなる。
 また、悪い人もおりまして、フリソデエビというのは珍しい生物で、サンゴの下に隠れているんですけど、それを取ってですね、自分しか知らないところに持っていって隠したりします。僅か3㎝ぐらいのこの綺麗なエビが1日にして200から300mも動いたりするわけです。
 このピグミーシーホースもみんなが写真を撮りたいということで、いじくり回して、この魚が住みついているウミウチワがボロボロになったり、砂地に生えているウミウチワ周辺に初心者が潜った際に、中世浮力がとれないものだから海底の砂を巻き上げて、ウミウチワに砂が降りかかってしまったりする。そうするとそのウミウチワは嫌がって一生懸命触手で砂を払おうとして、最後には疲れて死んでしまったり、枯れてしまったりとかのさまざまなダイビング圧も生じてきて、2000年当時、漁場とのバッティングが生じてしまいした。      

 その当時、漁業者との対立があったなかで、島ではよく取れる高級魚のアオリイカの漁獲が減っていた。その原因の矛先はダイバー向けられるわけですね。ダイバーが潜るからイカが釣れないんだ、ダイバーを追い出せって話で盛り上がってしまったんです。
 けど、本当にダイバーを追い出せばイカが釣れるようになるのでしょうか?
 そこで私どもは提案したんです。ダイバーを追い出したからといってイカが増えるかどうか分からないのであれば、漁業者とダイバーが協力してイカを増やそうじゃないか、というようなダイビングと漁業との共存を模索する活動を始めました。      

 それがこのアオリイカの増殖産卵床の設置事業ということにつながってくるのですが、これがアオリイカです。非常に美味しいイカです。浜値でキロ単価2,000円か2,500円。これくらいのイカでしたら、3,000円くらいします。非常に高いんですが、これは柏島ではモイカと呼ばれています。
 名前の由来は初夏の、5月-6月あたりに、大型海藻、藻場に卵を産みに集まってくることに由来します。その藻場が今なくなっている、これを私は把握していました。藻場そのものの代わりに代替の藻場、人工産卵床として芝(山の雑木の小枝)をいれてやろうということを提案して始めたのがこの事業です。      

 その背景にあったのが磯焼け現象ですね。本来の浅場の磯にはホンダワラの仲間で形成される「ガラモ場」が発達するのですが、これがここ20年近く前からどんどん減ってきて、今、非常に少なくなっています。その磯焼けというのは海藻が生えなくなる状況のことを言いますが、そうなってくると非常に寂しい海になってしまう。大型海藻には魚も集まりますし、アオリイカの卵も産みつけられるというまさしく海のゆりかごと言う所ですが、それがなくなることによってイカの漁獲も減っているのではないかと考えたのです。      

 そこで海の中の森づくりという活動で、アオリイカの産卵床作りを始めました。海の中の藻が生えなくなる磯焼け現象の背景には、山が荒れて山からの栄養塩などが海に届かなくなるから形成されないというのが、一般的に言われている磯焼けの話ではあります。もちろん、それだけではありません。柏島の周囲は天然林で覆われていて、全然山は荒れていないです。柏島の問題は水温上昇という、温暖化に伴う海水温の上昇が藻場に影響しているのではないかと私は見ています。その近隣の山の方を見ていきますとこういった人工林が多いわけです。

 高知県というのは海の県だと思われていますが、実は山の県でありまして、県土の84%が森林に覆われている。森林率84%は全国で1番です。2番手が山に囲まれている岐阜県で、これが82%。このサプライズを形にしようということで、私も含めて「84はちよんプロジェクト」というNPOを立ち上げまして、そこでいろんな活動をしています。もし、関心がある方は「84はちよんプロジェクト」とパソコンで検索して下さったら出てきます。
 この84%のうちで65%が人工林です。人工林も間伐して良い木を育てないといけないのに、なかなか間伐が進んでないという状況にあります。そこで間伐を促進するわけです。間伐をした後、幹の部分はもちろん使い道がありますが、枝葉は捨てるしかありません。そこで、捨てる枝葉を使ってこれを産卵床にしてやろうと考えました。      

 当初は漁業者とダイバー達で活動をしたのですが、3年目に地元の子供たちの環境学習、総合学習の一つの目玉として子供を核にした取り組みに変えました。海の子供たちは、山のことはまったく知らないので、森林組合の方の協力を得て、間伐体験をさせてもらいます。そこで切った細い木からイカへのメッセージプレート作っていますが、もちろんイカは字が読めないわけですが、子供たちはいろんなメッセージを一生懸命書いてくれています。一人一本ずつ、スギやヒノキの枝葉を使ってマイ産卵床というのを作っています。      

 これを漁師さんとかダイバーの方に手伝ってもらって一緒にやる。できあがった産卵床をダイバーや漁師さんと一緒に船へ持って行って、あるポイントに枝葉を放り込みます。このポイントは私たち研究者がどこに産卵床を入れると効果が出てくるかということを事前に調査をして、ここが一番良いピンポイントの場所を特定して入れています。      

 海に放り込みますと、海底にはダイバーが待っていまして、スギやヒノキの枝葉を海底に設置します。ここは下が砂地なので鉄筋棒を打ちこんでそこに産卵床を結わえ付けて固定する、固定式というのを考案しました。ちゃんとメッセージプレートがありますね。『welcome IKA』・・・どっちがwelcomeなのかわかりませんけども。      

 そうすると次々とイカが集まってくるわけです。私たちが一生懸命、設置をしていると何やら見られている視線を感じるわけです。ふっと上を見るとイカが急かせにくるわけです。「なんや、はよやらんか、はよやらんか」と来て、見ています。枝葉をセットすると海の中に現れた人工の森のような里山のようになります。海の中にヒノキが立っているのも気持ち悪いですが、彼らは非常に勤勉で、次から次へとイカが集まってきました。本来の藻場以上に集まってきまして、このようにどんどん卵を産んでいきます。      

 これはオスですが、堂の長さが60cmくらいあります。足を伸ばすと1mくらいあり、3kgほどの大きなイカです。こういったやつがドンドン集まってきて卵を産むわけです。      

 これ、子供たちに作ってもらった産卵床ですけども、去年の大月小学校の授業で岡崎君という子の枝葉が今年、一番の産んだ産卵床だったんですけど、このように卵が鈴なりに産まれています。こういったことを水中に潜って水中でビデオを撮ってイカが卵を産んでいる様子やこういった写真で報告をして子供たちに戻すわけです。      

 一番産んでいるのはこれでしたね。長さ2m50cmくらいの産卵床ですけど、ここに1万5,000房の卵のうが産みこまれています。一つの卵のうには7、8個の卵が入っていますので、これ1個で10万個の卵があります。皆さん、驚いてくれませんけども水深20mの海底でこの卵一生懸命、1房ずつ数えていっている私の姿を想像して下さい。結構大変なんですよ、ユラユラと動きますし。恐らくこれは全国で最も産んでいる事例じゃないかと思います。      

 このプログラムは元々、漁業者とダイビング業者が争っていたけども、両者で協働作業をすることでうまくいったものを、さらに次のステップとして地元の子供たちの総合学習にした。子供たちは、山に行って林業関係者に協力してもらって間伐体験や山の学習をする。そこでいらなくなった間伐材の枝葉を海に運び、漁師さんと産卵床を作って海に放り込むと、ダイビング業者が海底で設置する。元々、関係のなかった三者、あるいは仲が悪かった二者が子供を核にすることによって非常にうまく結び付きました。
 そして、子供たちからすると森と海との繋がりを大変実感できる。つまり、「山が荒れると海が荒れますよ」ということを座学で教えるのではなく、実際に山で不要になった枝葉を海に入れることで自分たちの海のイカがどんどん増えていく。それで漁師さんが取って地域も潤うと、ここの関係も良くなるという、その仲立ちもしてくれる。ということで、こういった活動がさまざまなメディアなどで全国からも取材に来られたことで、この活動は大きく広がっています。      

 そういったことを子供たちや漁業者の方に還元するようなセンターにしていくことです。現在ではこの活動は地元柏島小学校や大月小学校の他、近隣の三原村の小学校、宿毛市のさまざまな学校にも広がり、宿毛市の沖の島や鵜来島など、流域圏全体の広域連携による海の中の森づくりが進んでいます。      

 その次に「海の中の森づくりpart2」なんですが、イカの産卵床を入れてイカは卵を産んだけれども、本来の藻場が回復したわけではない。大事なことは、元々あった藻場が再生することではないかということで、今、藻場再生に取り組んでいます。これは近隣にまだある藻場の海藻を取ってきて移植する作業です。移植といっても1年生藻類ですので、すぐに枯れてしまうんですが、その際に次世代の種(受精卵)を落としてくれます。      

 それで種を供給するということをやりながら、一方でなぜ海藻が生えなくなったのかという原因を考えたところ、実は非常にウニが多かった。ウニというのは草食性なんですが、ウニによる捕食圧が高いことがわかりました。最初に調べましたら1㎡あたり平均12、3個のウニがいました。ウニだらけ。それを今、定期的に除去する作業をしています。      

 20年前、竜の浜の沿岸はずっと藻場だったんですが、それが2009年6月にはたったこれっぽっちになってしまったんですね。
 それで地道にウニの駆除をやってきた結果、2010年にはこれだけ増えてきています。こちらの方へと広がってきています。来年、恐らくこの辺がずっと藻場になる予定です。今、毎日調査していますけども非常にいい感じで進んでいっています。      

 ここからがウニ駆除してないところ、ウニ駆除したところ。非常に分かりやすく藻場の再生状況がよくわかります。      

 対照区です、何もしない状態のすぐ近くの磯はこんな感じですが、横ではこんな風に藻が増えていっている。このような調査結果が出てます。      

 最後に、自然とくらしを守る取り組み、について話しをします。他にもさまざまなサンゴの調査などを行っております。
 柏島というのは非常に多くの情報が出ていくので、多くのレジャー客が増えるようになりました。その背景にはダイバーが増えたってこともあります。
 ダイバーをさらに増やして地域経済をより活性化していこうと、人口500人しかいないところに地元の行政は観光バスが通れる大きな道で、2km超えるような非常に大きなトンネルをつくりました。さらに去年、もう1個小さなトンネルができました。その後、1車線の道が全線2車線になったんです。       

 そういうことでダイバーだけでなく、多くのレジャー客や観光客、海水浴客が来て、島は非常に混雑して元々、駐車場がなかったところに鈴なりの人がきて、道が占拠されてしまったんです。そうした中で、増え続けるキャンプ客や海水浴客によるゴミの問題、風紀の問題、違法駐車、さまざまな問題が生じてきます。
 中でも柏島というのは川のない島ですから、水が非常に貴重なんですね。元々、地元の人は水を非常に大事にするんですけども、よそから来た人はそんなことわかりませんから、湯水のように水を使っていきます。そういうことで地域とのトラブルがあったわけです。
 つまり、柏島の海は非常に良いけれど、非日常を提供するリゾート地ではなく、ここは島民の生活の場であるということですね。そこでは、訪れる人も住んでいる人も共に気持ちの良い島づくりをしていこう、と。そのためのこういった地元住民主体のローカルルールであります『柏島里海憲章』を作ろうということに取り組んでいるところです。      

 その1つにこういった情報があるんです。島の山の中腹にひとつの井戸があります。これは谷に沿って一回滲みこんだ水が伏流している井戸です。水深は20cmしかありません。1mの幅ですが。約40年前までは、たった一つのこの井戸で1,500人の飲み水を確保してきました。みんなこういう感じで水を柄杓で汲んで運んできた。これが女の子の日課だった。つい40年ほど前までの柏島って、こういう所だったんだよってことも訪れる人に知ってもらった上で、節水に心がけましょう。島の歴史を通じて知ってもらおうとしています。      

 こういった『柏島里海憲章』を作っていこうと。レジャー客などの受け入れ態勢を整えるのと同時に島独自のローカルルールを情報として発信していく。全国各地で失敗してきたような消費型の観光地ではなくて、持続可能な環境立島にしていこうじゃないかという考え方です。      

 こういった持続可能な里海づくりに向かって2つのアプローチをしています。1つは、自然科学的アプローチです。海に関心を持ってもらうことを第一に考えましょう。身近な海洋生物の生態観察や海洋観測などの地道なデータの蓄積をすることで、人も自然の一部であると認識してもらう。
 しかし、もう1つの社会科学的アプローチも必要である。人の暮らしと海とのより良い関係を考えるなら、利用と保全。つまり守るための方策と利用する際のルールが必要である。こういったことを島民も巻き込んでみんなでやっていくというのが活動です。      

 今ですね、エコツーリズムという物の考え方が最近よく言われています。エコツーリズムで大事なことは、質の高いガイダンスの提供とルール作りです。
 これをこの活動に当てはめると、まずそこにあるものの価値を知ってもらうために、質の高いガイダンスを提供します。そういうサービスを提供していくことでお客さんがやってくる。このことで地域経済の活性化が図られるわけですが、ただ闇雲に人が来てお金が落ちればいいかというと必ずしもそうではありません。
 環境のキャパを超えるとオーバーユースになってしまい、この図では一方通行になってしまい、回っていかない。そうすると環境が維持できなくなる。そのためにちゃんとしたルールを元にして、いかにこの三角形を回していくかということが重要になるわけです。ルールを決めて守ることで環境の質の低下を防ぎ、質を維持し続けることができる。
 今、人を呼び込むことだけが、地域おこしだと勘違いしている方が多くいらっしゃいますが、一時のバブルのようになって結局は長く続かない。だから私たちはそれぞれのコーナーに立ってランナーコーチのようにうまくベースランニングするような役割を果たさなければいけないと思って活動しています。循環する仕組みを作らないといけないというわけです。      

 私たちセンターはさまざまな関係各所と関係を持ち、大学などとは学術研究でタイアップしております。ボランティアとは環境保全、水産業とは産業振興、学校とは環境教育、観光客には島から出したいという情報を発信しています。また、行政とは地域貢献ということで取り組んでおりますが、1番大事なことは地元とよそ者ではあります黒潮実感センターが、いかに一体感を持って島のことを考えていけるかに尽きると思います。これが1番大事な所であり、1番難しい所であるわけで、これまで13年間やっていますけども、なかなか難しいところがあります。
 ただ、長くやっていくことで、段々そういった島民とのコミュニケーションとか、私が何をしたいと思ってこの活動をしているかもほぼ分かり、聞いてくれるようになった。ということで、気長にやっていく活動を通して実現可能な里海づくりをしていきたいというふうに思っております。
 以上です。ご清聴ありがとうございました。
 



【質疑・応答】
Q.アオリイカの卵には感動致しました。あれだけ産まれると今度親になった時にどのくらいの資源量がなるのか、それが逆に心配で。それによって生態系が壊されないかなどと思ったりしたのですがそのあたりはいかがですか?

A.そこまで資源量が増えれば御の字ですが、そこまでは観測できておりません。ただ、数自体は上がってはきているようです。
 柏島にはキビナゴなどが非常に多い所なので、餌になる魚は十分すぎるくらいあるようです。生態系全体を考えていくときは、そういったバランスを考えていかなければならないと思ってはいますけども、昔はもっと取っていたということもありますので、その辺は今のところ大丈夫かなと思っています。
 ただ、漁獲量のデータを取るのは非常に難しくて、地元との協力などをお願いしてはいますが、アオリイカは個人売買なので、組合を介さず流通に乗ることが多く、なかなかデータが取りにくい。漁師さんは取れてない時はまったく取れていないと言いますけれども、取れている時には取れているとは絶対言わないですよね。今年は全然取れんと言いながら次の年になると、去年は取れたのに今年は取れんといいますからね、どっちやねんって話です。ニコニコしながら今日は釣れんと言っている時は、今年は結構豊漁なんだなぁと思いながらやっています。
 大事なことは元々あった藻場をきちんと正常な状態に戻していくなかでバランスを保つことかなって思います。


Q.島の一番大きな産業はやはり漁業ですか?

A.そうですね、今のところはやはり漁業ですね。これまでは一本釣りが有名で、定置網と一本釣りでした。しかし、漁業の中身がしだいに変わってきていて、昔は一本釣りが隆盛をきわめ、取れなくなってきて、その後に香川県でハマチ養殖する際のモジャコ取りが盛んになりました。沖合でモジャコ漁をやって、モジャコを香川に持って行くだけではなく、自分たちでもやろうとハマチ養殖が始まり、次いでマダイ養殖に変わり、そして今はマグロ養殖に変わってきています。
 でも、漁業がどんどん衰退していっているので、今はどうでしょう、マリンレジャーの規模と半々くらいじゃないかと思います。一本釣りも最近廃っているので、ほとんど養殖ですよね。ただ外部資本でのマグロ養殖での漁場使用料が組合に落ちるところが大なので、果たして健全な経営状態かどうか怪しいと思います。


Q.今回、津波の影響はどんな状態でしたか?どういう対策をとったのか?もう一つ、宿泊施設などはありますか?

A.まず、津波の件についてです。東北の方は甚大な被害がありましたが、柏島での被害はほとんどありませんでした。ただ、大きな津波がきたら当然サンゴとかも全部壊れてしまいますので心配しました。2003年に、非常に大きな台風が直撃して、その時に浅場のサンゴは壊滅状態だったんです。それまでは60%くらいの被度でサンゴがあったものが、3%まで落ちてしまいました。今では回復して50%まで戻ってきましたが。自然による破壊に対しては比較的生物は強いです。
 もう一つ、民宿旅館の件ですが、これは結構この島にはありまして、30軒くらいの民宿旅館があります。これも夏場になりますとダイバーが大勢来て全部埋まりますのでほぼ満室で、一般の観光客は泊まれない状況です。その代わり11月、12月と冬になりますと北西の季節風をもろに受けるところなので、海が大しけになって冬の日本海のような海に変わります。そうすると船は出せないし、潜れないということで民宿旅館やダイビング産業というのは半年休業です。逆に、磯が南側に位置していますから、渡船業は冬場が稼ぎ時で、冬は渡船が儲かって、夏はダイバーが儲かるという仕組みになっています。


Q.アオリイカの産卵場所に、枝を海に沈めています。あの枝というのは使いきりですか?毎年交換するものですか?それとも一度海に沈んだら永遠に使えるものなのなのでしょうか?

A.天然素材の木ですから、だいたい半年しかもちません。入れて半年の間に産卵があって卵がハッチアウトしてしまったら、腐ります。良いタイミングで入れていることになります。翌年の春に残った木を上げようとすると、木の中にフナクイムシとかがいっぱいいますので、ほとんどボロボロになって食われています。残骸だけは取り上げて、また新たに入れることになります。コンクリートとか鉄製で耐久性が魚礁の条件のように言われています。
 しかし、非常に高価で耐久性のある魚礁をいっぱい沿岸に入れていても、魚はほとんど釣れていないですね。お金のかからない木製の腐る魚礁は非常に成果を上げています。魚礁というものの考え方をもう一度考え直すのもよろしいのではないかと思います。あえて腐る魚礁ということです。海を耕すという私が出した里海の概念の中に、お百姓さんが毎年畑を耕して苗木を植えて育てて収穫するように、春になったら山に行って木を切って、芝を付けてイカを収穫すると、また、木を入れる。このようなサイクルで海を耕しているというイメージが湧きやすいのがイカのこの事業かと思って、今回も話しています。
 さらに言えば林業関係の人の間伐促進のために、不要なものにお金を払って買い取ってくる、ということでの経済的な循環も目指してやっているところです。


Q.小魚が多いと思いますし、小魚にアオリイカの卵はたくさん食べられてなくなると思うのですが、中間育成みたいなことはしているのですか?

A.確かに言われる通り、あれだけ産んでも親になるのは少ないです。中間育成というかアオリイカを昔、養殖をしようとか言う方がいらっしゃいました。アオリイカは非常に成長がよいのですが、共食いが激しいですね。ですから、養殖はなかなか難しいということです。中間育成という形も考えようとしたのですが、今のところそこまではやっていません。
 卵の間はまずもって食われない。卵からハッチアウトしたらすぐ食われます。卵そのものを食べにくる生物ですけどね。アオリイカに限って言いますと、ゼラチン状の卵嚢を食べに来る生き物はほとんどいないです。私がこれまで観察した中では、卵ごと食べているのは、でかい巻貝であるサツマツブリが飲みこんで食べているのを見ただけです。その他にイカの卵嚢が食べられているのを見たことはありません。房の中から出てくるころに、捕食者がいっぱい集まってきて、出た瞬間ばんばん食べているのはよくみています。


Q.島、丸ごとがミュージアムですかね。大月より南東になりますね、足摺海中公園は。あそこの水中博物館には海中展望台があります。そういう施設は柏島にないのですか? それともう一点、クジラウォッチングなんかの定期船や観光船は出ていないのでしょうか?

A.まずはクジラの方から。ホエールウォッチングは、大月町ではなくて車で一時間ほどいった旧大方町、今は黒潮町になっていますが、そこで行われています。見られるのは沖合に居着いているニタリクジラです。大月ではやっていません。
 次に、足摺の海中展望塔ですね、あのような整備はやられていないです。あのようなことをやるとかなり環境にダメージを与えるのではないかと思います。以前ですね、ある県議さんが柏島に海中トンネルを作ってそこに人を呼び込もうなんて話をしていたことがあります。作ることでかなりサンゴへのダメージが大きくて、なかなか難しいのではないかという話をしたことがあります。サンゴって強いように見えて非常に弱かったりします。私たちは毎年、リーフチェックというサンゴの健全度調査をしていますけども、毎年増減を繰り返したりしていますね。環境に対して非常に敏感な生き物で、サンゴがなくなるとすぐに魚の数や種類が減ってしまいますし、そういうデータも持っています。
 私も水族館は好きです。しかし、生き物をもってきて人の都合の良い入れ物に入れて観るものですから、そこの生き物、あるいは魚などの「一部の生態」しか見ることができません。島まるごとミュージアムというイメージとしては、私たちは逆に普段から魚が住んでいるフィールドに自分たちが入れさせてもらって、ちょっと見せて下さいね、というようなスタイルで考えています。それがフィールドミュージアムであると考えているのですが。そうすると魚やいろんな生き物が本来あるべき普段の生活を見せてくれるし、特別展などの企画をしなくても毎日、日替わりで見るものが変わってくるということでそちらの方が新鮮かなと思っています。ハード整備については賛否両論があると思いますので私が言ったことが必ず良いかどうかは分かりませんが、とりあえず大月にはそういったハード整備はありません。


Q.なぜウニがこのように増えたのかな?昔は増えなかったのかな?それからウニの駆除しか海の中で生きていくしかないのかな?ウニの立場でものを考えてしまって。

A.私もウニを潰すというのは非常に痛いです。決してウニが悪いわけではないけれど、と気持ち的には思いながら。ただ結局、本来の原因は、はっきりわかりませんが、元々海藻がいっぱいある時には、それくらいのウニがいても十分食べていける生態系だったのかもしれません。でも、現在温暖化などで海藻が生えづらい条件が整ってきてしまった。
 以前、冬場には水温がもっと下がっていました。柏島も20年ほど前は15度くらいまで下がっていたのが、ここ10数年は16度、17度までしか下りません。そうすると、従来は水温が低いために、冬に活動が鈍ってウニや草食系魚類などの生き物による捕食圧が抑えられていたのに、冬場の水温が高くなって海藻が伸び始める冬でも捕食活動が盛んになってしまった。海藻が食べられる一辺倒になってしまって、ウニは増えるけども餌がないから卵の入りの悪いウニばかりが増えた。どんどん負のスパイラルに入ってしまった。ですから、もう一度仕切り直しをして適正な密度に落としてやろうと、そこで藻が生えてきたときにはウニと共存できるよう元の状態に戻したいという姿勢で臨んでいます。
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