平成22年度 香川県ノリ色落ち改善技術開発検討会 学術講演
「栄養塩添加技術に関する知見と佐賀県での実施状況」 佐賀県有明水産振興センター副所長 川村 嘉応氏

平成23年1月27日  於:香川大学研究交流棟5階 研究者交流スペース

【講演内容】
 初めまして。佐賀県有明水産振興センターの川村です。今日は3つのことをお話しするつもりで来ました。
 1番目の話はアマノリの基礎的な知見です。アマノリについては皆さんよくご存知だと思います。私は40年近く前に高校を出ましたが、現在の「高校生物」の本を読み直してみますと、意外とレベルが高くなっています。ここではアマノリについて、高校レベルではありますが、じっくり話をさせていただきます。
 2番目は、佐賀県では栄養塩をどのようにして添加しているのか、その実情を中心にお話します。これには長い歴史がありますので、その経緯を含めてお話したいと思います。
 そして最後に問題点といいましょうか、今後のありかたなどについて話をしたいと思います。考えただけでは、いま以上のアイデアは生まれないものです。この場をお借りして皆さんと一緒に考えていけたらと思います。よろしくお願いします。

 早速ですが、まずノリの味の話です。皆さんよくご存じだと思いますが、味の「呈味成分(ていみせいぶん:味を感じさせる成分)」と言われているのは、遊離アミノ酸です。その中でもアスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、タウリン、これが主なものです。
 地方の味といいますか、佐賀県の味、瀬戸内海の味、有明海の味、そういう味の特徴は、意外とこういう核酸系の味です。しかし、遊離糖系や有機酸系の方が意外と生産地の味を表しているのかもしれません。
 といいますのも、私も瀬戸内海の味ということで、アミノ酸組成を調べたことがありますが、そう大きな差はありませんでした。やはり、生産地の味というのは、また違ったものではないかと思います。

 これは佐賀県の有明のノリを調べた時の遊離アミノ酸組成ですが、タウリンが1,200㎎/100gです。それからアスパラギン酸、この呈味は酸味です。それからグルタミン酸、アラニンといった、ふだん皆さんがよくご存じの遊離アミノ酸ですが、佐賀県の場合ですと、このような割合になっています。瀬戸内海も調べてみましたが、あまり割合に変化はないようです。
 ただ最も異なるのは、有明のノリは柔らかいので、アミノ酸が出て来るタイミングといいますか、口の中での柔らかさ、溶けやすさが違うのではないでしょうか。ノリは基本的に変わらないけれど、出てくる時の柔らかさとか溶けやすさの方が、意外と味に対して影響が大きいのではないかなと感じています。

 それではどうして有明のノリがおいしいのかについてですが、まず瀬戸内海とは環境が全く異なるということです。とにかく、筑後川から流入する栄養塩が豊富です。それと淡水ですね。塩分濃度がかなり違います。
 2.8%の塩分濃度というように、河口漁場は塩分濃度が非常に低いものですから、そういう低い中での海水とノリの浸透圧の関係とが大きく関係しているのではないかと思います。
 また、佐賀の湾奥では潮位差が6mあります。ちょうど試験場の前あたりで6mです。南の方に行くと4~5mくらいになりますが、だいたい6mくらいありますので、それによって様々なことが起きてきます。例えば泥の巻き上がりですが、これは皆さんが有明海に行かれたらビックリすると思いますが、本当に濁度が高くて、こんな泥濁りの中でノリを作って良いのかと言われるくらい泥濁りが激しいですね。
 有明海の潮流の方向は反時計回りですが、時速が1~2㎞、秒速で言いますと30~40㎝です。佐賀県の場合は、秒速34㎝が平均です。それに加えて干満差がありますので、当然、二酸化炭素とか酸素の供給が高くなります。このような有明海の環境もノリの製品に大きなインパクトを与えているように思います。
 それから「支柱式」という養殖法です。これは6mの干満差を利用しています。佐賀県湾奥部に0.01%程度の浮流しがあります。福岡県には全くなくて、全て支柱式養殖です。これまで人間の手で品種選抜を延々と行ってきました。「おいしいノリを作りましょう」「おいしさを統一しましょう」ということで品種統一を行ってきたことが、今になって効いてきました。佐賀県ではいろんな意味で統一が図られています。
 佐賀県では協業化も進めていますが、漁業経営者の半分が協業になりました。2~3経営体で協業していますので、それによって品種が厳選されますし、さらにおいしいノリが選抜されてきています。当然、有明の場合にも入札で高いのは真っ黒いノリですが、それに加えて、最近は味が良いということと成長が良いということです。これらの色、味と成長の3本柱はこれまでに繰り返し追及して、そういう品種があれば使ってきたわけです。
 さらに集団管理です。これは佐賀県が周りから一番褒められるというのがこの集団管理で、これによって乾海苔の品質が均一化されています。
 最後に衛生管理です。協業化したことによって、施設が非常に新しくなり、近代化されて衛生面が向上しました。これらは、おいしさには直接関係しないかもしれませんが、有明海のノリというよりも、むしろ佐賀ノリのイメージアップに繋がっているのではないかなと思っております。

 さきほどアミノ酸が多いと申しました。これは推論の域を出ませんけども、ノリは潮が引くと乾燥にさらされ、満ちてくると海水に浸るということを毎日繰り返すわけですが、そういう「ストレス」に対抗するために、植物は細胞の中にアミノ酸や糖を余計に蓄積しやすくなるのではないでしょうか。
 これはモノの本に、おいしさの原理・原則のようなことが書かれてあったのですが、やはりこういうことはノリにも当てはまるのではないかと思うのです。
 支柱式養殖ですので、ノリは干満差を経験し浸透圧が上ったり下ったりします。毎日2回、干出にさらされますが、このようなストレスへの耐性のために、アミノ酸などを蓄積する必要があって、スイカもそういうところがあるらしいです。要するに水分含量との関係ですね、スイカは夏に水分が不足すると非常に甘いものができると言われていて、干出が有明ノリ、あるいは佐賀ノリのおいしさのひとつの理由になっているのではないかと思います。
 それから柔らかさの方ですが、支柱式では干満差の中で乾燥したり水に浸ったりするわけですが、その水が非常に低塩分であるということは、そんなに厚く強い細胞壁を作らなくても済むということです。すなわち細胞壁が薄いことが柔らかさの秘密ではないかなと考えられるのです。
 逆にいいますと、浮流しでは常に高塩分にさらされますので、高塩分への浸透圧耐性を維持するために、細胞壁を厚くする必要があるということで、浮流しではノリが硬くなるのではないかということです。
 あくまでも推論ですので、これから研究して明らかにしなければなりませんが、糖ですのでそういうことがあるのではないかと思っております。

 次にノリの色についてです。皆さんはよくご存じだと思いますが、色には「フィコシアニン」と「フィコエリスリン」の補助色素および「クロロフィル」という色素が関係しています。
 焼きノリは緑色をしていますが、これは実はクロロフィルの緑色が残っているわけなんです。クロロフィルは、熱によって分子が壊れずに残り、フィコシアニンも少しだけ残った結果として緑色になっています。
 ところが湿ったノリといいますか紫色になったノリの色は、フィコエリスリンの色なのですが、これがたくさんノリにあると美味しくないんです。ワケの分からないノリというのはこれが原因です。
 しかし、フィコエリスリンとかフィコシアニンは熱に弱くて、色がなくなってしまいますが、クロロフィルは熱しても強いから色が残ります。これが普通の真っ黒いノリで、焼くと緑色になります。
 有明のノリというのは支柱式ですので、高い水位で養殖をします。干潮時に乾燥を与えますから、カロチロイド系とかフィコエリスリン系が多くて赤味が増します。ですから支柱式養殖ノリは、赤っぽいんです。
 瀬戸内海のノリはおそらく真っ黒ですけど、支柱のノリは赤っぽいです。これは、光合成の中でフィコエリスリンをたくさん作るからです。逆に言いますと、フィコシアニンとかクロロフィルとかいうのは、浮流しの漁場で多いですから、真黒ですよね。赤味があっても、焼くときちんとこういう焼き色が出るというのが有明ノリの特徴かと思います。ノリの色というのは、こういうように色素との関係です。
 支柱式では光との関係で、光が入ってきた時に、光合成のためにシアン系の色素が必要なわけですから、色のでき具合は、支柱と浮流しでは違うということだと思います。

 ここからノリの窒素塩吸収の話をさせていただきます。皆さんよくご存知のように、有明海といわず海水中の無機窒素には「硝酸態窒素」、「亜硝酸態窒素」、「アンモニア態窒素」があって、これを無機三態窒素と言っています。
 これらがノリの葉体に吸収されると次々と還元されます。ノリの葉体の中に硝酸還元酵素があるためです。この酵素がないと、硝酸で取り込んだり亜硝酸で取り込んだ後に、葉体の中でアンモニアになりません。
 アンモニアになって初めて、これがグルタミン酸になり、グルタミン合成酵素が働いてグルタミンになり、アミノ基に転移し、そしてアミノ酸になってタンパク質に合成される、こういう一連の流れが細胞の中で起こっていくわけです。
 高校生物レベルの話ですが、光合成は、葉緑体のストロマでのカルビン回路の中で行われます。それが今度は、ミトコンドリアのクエン酸回路のところですね、グルタミン酸からα-ケトグルタル酸、そしてプロティンあるいはグルタミンといった流れの中でタンパク質になっていくと言われます。ノリの色落に関しては、我々は色の部分だけに注目しているわけですが、この窒素が足らなくなると色落ちをします。
 アンモニア態窒素は底泥から溶出されて酸化されていくわけですけれども、川の中には硝酸態窒素がたくさん流れてきますので、硝酸態窒素を吸収してアンモニア態にまで還元することになります。
 広島大学の山本先生によりますと、硝酸態よりもアンモニア態の方が吸収速度が8倍ほど速いといわれていますので、やはりこの間も、還元されるスピードでは8倍速いと言えるのかもしれません。細胞学的なことでよく分かりませんが、文献を参照すればこのようなことが推測されます。やはり、アンモニアが直接グルタミンになるということで、最も吸収効率が良いのかもしれません。
 佐賀県の場合は、このアンモニア(硝安=硝酸アンモニウム)を使って施肥しています。アンモニアがほとんどです。ここには尿素とも書いていますが、尿素も過去にかなり実験されてきましたが、ノリにはウレアーゼ(尿素を加水分解する酵素)がないので、海水中で分解されるまでの時間がかかるということです。従いまして、尿素はいわゆる「遅効性薬品」かと思います。ですから尿素はあまり施肥には適していないということです。

 先ほど申し上げましたように、これは普通の窒素循環です。佐賀県、有明の場合は、温度が8℃くらいまでは、泥から次々とアンモニアが出てきます。佐賀沖の有明海は、浅くて深さが5mほどですので、風がひと吹きすれば泥から海水中に大量に供給され、アンモニア濃度の割合が硝酸態濃度よりも高くなります。冬のちょうど今どき、有明海は水温が5℃~7℃台まで下がっています。5℃台にまで下がったのは、昭和58年、59年以来ですが、今年はそれが起きています。後で施肥の話をしますが、こんなに温度が低くても泥から溶出するほどアンモニア態は豊富にあります。


 これから施肥の話をします。私共では、施肥は秋芽(あきめ)に起きる色落ちと、冷凍ノリに起きる色落ちに分けて行っています。秋芽については、採苗してどれくらい栄養塩があるのかによって成長にどのような影響が出るかという室内実験をしております。
 この図の1区というのは、この12日間、栄養塩が十分にあるという設定です。採苗ですので、種を付けてそれを12日間培養します。栄養は、普通の添加補強栄養塩を加えたものですから、非常に高いです。
 栄養塩ありと、栄養塩を1日目に与えて2日目には与えず3日目以降に連続して与える場合、栄養塩を1日目に与えて2・3日目には与えず4日目以降に連続して与える場合、3日間栄養塩がない場合、12日間栄養塩がない場合、あるいは、網に付着させてすぐの1日間・2日間・3日間に栄養塩を与えず、あとは連続して与える場合のように、いろいろな条件で秋芽の色落ちにどのような影響が出るかという室内実験をしました。
 そうしますと12日間栄養塩なしは全然ダメでしたが、1、2、6区はあまり変わらない結果でした。1区、2区、6区というのは、1日目に栄養があって1日間栄養なしで3日目以降はあったというケースですが、1日間栄養がないくらいでしたら、ほぼ正常に近いのです。しかし2日間栄養がない3区、7区では色を持続できないという結果でした。
 この結果から、漁期初めの小さい芽(秋芽)の時に2日間栄養塩がないと、その後の成長に影響が出てくることが分かりました。3日間栄養塩がない8区や4区は芽落ちするなど、成長も非常に悪く、例え残ったとしても成長が悪いという結果でした。
 先ほどからお話していますように、栄養塩がなければ、ATPとかカルビン回路で出てきたものが使えずタンパク質も作れないわけですから、秋芽でもそういうことが端的に起きます。育苗期の施肥実験でこのようなことが分かりました。

 次に、冷凍ノリ葉体の色落ち回復試験をした結果をお示ししたいと思います。今はLAB(国際照明委員会の規格、LAB表色系)を用いて数値化していますが、10年くらい前までは、週に1回程度の漁場調査をする際に、色が浅いとか色が軽症とか、色落ちが中程度、色落ちが重症というように点数化をして基準を決めておりました。今は色落ち板というのを作って評価しています。




 このスライドの3・2・1というのが、先ほどの色落ちの指標となる基準です。透過率で計算しましたが、透けて見える、見えないということで色落ちしているか、していないかという評価をしています。  色落ちレベル1から始めて、栄養塩のある培地に継続して浸して、色落ちレベルが回復するかという実験です。例えば10℃、ちょうど今くらいの温度ですね、それからもっとノリの調子が良いと言われる18℃、この2つの水温でどのように色が戻っていくかを実験しました。
 そうしますと、予想したとおり水温の高い18℃の方が、早く色落ちが回復しているわけです。色落ちは4日間程度で回復します。ところが、低い方の10℃ですと6日程度はかかります。これは葉体の生理活性の問題だと思いますが、このように水温に影響されるということですから、施肥のタイミングを考える上で水温が非常に大事になってくるということです。
 それから色落ちレベル3です。これは「金髪」と言われるくらいに色落ちが進行したものですが、それが0にまで回復するには、18℃でも8日程度が必要です。さらに10℃ですと10日を要しています。2のレベルでは、2~3日+1日であれば10℃でも戻るということです。
 実際にいま行っている施肥は、10℃前後の時期です。18℃での施肥はあまり望まれません。10℃くらいで施肥をして、レベル3程度の非常に重症な色落ちを戻していきたいと考えているわけですが、実際問題として、この辺にも出ていますが、これは4日間連続して高濃度に浸けています。
 室内の実験ですので、驚くほどに高濃度の栄養塩ですが、それでも、3日間程度は浸けないと戻らないということです。1日に何時間浸けるということではなくて、連続して浸けるわけです。しかしそれでも、この程度にしか戻らないという現実があります。こういう現実を踏まえて、色落ちに対する施肥をやってきたということです。
 生物的なことですので、おそらくどこでも同じだと思いますから、栄養塩添加をしてレベル3の色落ちを0に戻すというのは、まず無理です。10日間連続して高濃度の栄養塩に漬けるということは、まず不可能なことです。これが我々のいわゆる施肥の基本的な考え方で、こういうことが前提にあることを忘れないようにしていただきたいと思います。

 これからは知ったかぶりの話の時間帯です。これは、大房さんといってノリの研究をされていた方で、山本海苔店を退職された方の学位論文の図です。窒素の吸収時間帯について書かれています。先ほど申しましたように、光合成を営んでいるときに窒素塩を吸収しますで、暗期には栄養塩吸収は落ちます。
 これが海水中の栄養塩で、ノリ葉体の長さをグラムで表しています。この黒いところが暗期、白いところが明期ですね。つまり施肥は明期、すなわち日中にしないと夜にしても意味がありません。実際、私達のところでも「夜の暇な時に施肥をさせろ」という話がありますが、これは意味がありません。
 それからこちらの図も同じですが、光合成と呼吸を示しています。当然と言えば当然ですが、光合成は昼間に行われていますので、施肥をするときはこういう時間にしましょうということです。いま私達が実施している方法は、昼間の干潮から満潮に向けての潮に合わせております。この理由は後で説明しますが、栄養塩を吸収するのは、午前中の方が多いような気がしますので、午前中に施肥するのが最も良いのです。このように、きちんと考えたうえで施肥の時間帯を決める必要があります。

 これは私の修士論文の一部で、ノリの細胞分裂の周期を示している図です。いつノリが成長しているのかを示しています。いわゆるノリの核分裂、休眠期があって、前期、中期、後期、終期を経て、また休眠期、休止期と続いています。
 これが核です。おもしろいことに、ノリの葉がこのように縦に並んでいるとすれば、核の中に核がきます。これを浮遊させると真中に来て、このように分裂します。その核分裂の時間帯を調べてみますと、核分裂の後に細胞分裂が起きるわけです。これは1つの細胞で中は見えませんので、特殊な染色法で核分裂を見るわけですが、核分裂が見えるのは、この細胞の動きと分かれた時です。
 染色して核を染めて測ると、核分裂は昼間に始まっています。大体1時くらいに始まって、夕方くらいには終わっています。核分裂の後に細胞分裂がくるわけですから、細胞分裂は、夕方から夜にかけて行なわれるということです。
 ここでは干出を与えているわけですが、干出を与えるとこの間は核分裂が止まります。つまり、干出した分だけノリの成長はずれるということです。
 細胞の大きさも日によって異なります。黒いところが夜ですが、昼間は大きくて細胞分裂が始まると小さくなって、また昼間に向って徐々に大きくなります。
 ここではすでに細胞分裂も終わって、2つに分かれて少しずつ大きくなっています。さきほど申しましたが、この部分の光合成を営んでいる午前中に、最も栄養を多く吸収していると言えるのかなと思います。これは栄養との関係を実験したわけではなく、成長との関係を論じたわけですが、こういうことが起きていると考えられます。

 次に昔の文献を紹介します。ノリの色落ちというのは、陸上植物でいうところの「クロロシス(白化現象)」と同じ様な現象でしょうか。窒素・リンのほかに、微量元素、特に鉄ですね、鉄も成長に必須ということです。
 それから施肥についての基礎的研究を、武居さん、宮沢さん、福岡水産試験場の藤本さん、山本さん、最近では坂口さんがかなりされております。佐賀水試は、実践的な施肥技術を研究していて、基礎的研究は意外と少なく、特に武居さん、宮沢さんあたりが研究されております。
 前にも述べましたように、硝酸態窒素とアンモニア態窒素を一緒にいれるとアンモニア態窒素が先に吸収されて、その後に硝酸態が吸収されると書かれていますが、このような論文が先ほどの吸収の話を証明しています。

 それから山本民次先生、いまは広島大学におられますけど、この方は、アンモニア態窒素と硝酸態窒素の取り込み速度を整理されて2つの論文を発表されています。吸収速度に8倍くらいの差があるから、アンモニア態がいいと言われています。
 ただし、施肥はプランクトンを増やす要因になるからダメであるとも書いてあります。藤本さんは、福岡県水産試験場の豊前分場に長くおられまして、色落ちの研究をかなりされました。私も施肥をするときにはかなり読ませていただいたのですが、この方によると、1日に2.5時間、窒素濃度が5ug-atm/Lであれば、ノリの色落ちが進行すると書いてあります。
 極端な話をすれば、1日に2.5時間か3時間くらい、高濃度の栄養塩に浸ければ、色は落ちませんよということです。これを知ってか知らずかは分かりませんが、現在、ニチモウ(株)という会社が、干出中の2日に1度、2~3時間の施肥を10日間すると等級が向上すると述べています。このことが書かれておりますマリノフォーラム21の資料をお持ちしていますので、あとでご覧下さい。本当にこれが可能でしたら、色落ちした時に施肥の効かない海域がありますので、今年から挑戦しようと思っております。現場との違いも含めて試みたいと思います。
 それから坂口さん、この方は三重県の方ですが、硫酸アンモニウムをアンモニア態窒素として、25㎎/Lという猛烈に高濃度な中に24時間浸漬すればいいということが書かれてありますが、実際の現場ではありえない濃度です。色落ちの主な回避の考え方というのは、こういうことではないかと思います。

 これから佐賀県の施肥実施状況を、かいつまんで話します。
 定義はご存知だと思いますが、まず1つ変わったことは、「施肥」という言葉はやめようということになりました。私達が施肥を始めた頃、前の県知事からは「やっと農業のレベルになったんですね」と言われて褒められたんです。ところが時代は変わりまして、「もう施肥はいかん」ということになり、いわゆる「施肥」のかわりに、「栄養塩添加技術」という言葉で表現して説明しています。栄養塩不足になって色調が低下し、色落ちが発生したところに、栄養塩を添加して色落ちを回復させ、品質を向上させる技術ということです。
 制限栄養塩(不足する栄養塩)というのは有明海では窒素ですけども、東京湾ではリンですよね。リンが不足して色落ちをするらしいです。初めの頃に申しましたが、カルビン回路とクエン酸回路の違いです。カルビン回路のところにリンが必要で、クエン酸回路にはリンは不必要だったと思います。東京湾の場合はリン制限(不足)で、瀬戸内海は有明海と同様に、おそらく窒素制限(不足)だと思います。

 ここからが佐賀県の経緯です。
 佐賀県では、昔から施肥を行っておりまして、昭和36年当時は、協和発酵の「ノリフード」という肥料剤を使っておりました。さらに今では考えられないのですが、塩安(塩化アンモニウム)を河川に投入して、拡散する方法も行っておりました。佐賀県の場合は、河口のすぐ入口のところから海苔漁場がありますので、自然には乱暴なことですが、非常に効率的というか理にかなった方法だったと思います。
 なぜこれをやめたのかといいますと、やはり河川の環境負荷の問題です。植物プランクトンが多いときには施肥効果は期待できないですし、塩安はものすごく水温を下げますので、他の生物に与える影響が小さくないということで、私が佐賀県に入った昭和55年当時には、もう行われていなかったようです。昭和59年の頃には完全に中止していました。この方法は、昭和50年代の前半までの数年間しか行われていなかったと記憶しています。

 先ほど、香川県水産試験場の山田達夫さんがお話しになった、栄養袋を吊るして施肥をするという方法ですが、昭和60年頃に「うきうき方式」ということで、こういうものですね、今でも佐賀には残っていますが、こう吊るして養殖する方法で、これはかなり長期間にわたって行われてきたと思います。
 このように吊るして、袋の中からゆっくりと栄養が溶け出すというということです。しかし、これもほとんど無駄だったと思います。漁業者の方などは効いたと言っておられますけど、私はほとんど効いていないと考えています。
 先ほどの5μにしなくてならないという話からすると、これはほんの少しずつしか栄養分が出てこないし、それが拡散されて動くわけですから、成功したという話を私は信用できません。ですから、採算性がないし効果もはっきりしなかったので、やめたというわけです。









 話は飛びますが、平成10年から佐賀県では、新しい施肥の方法を試みることになりました。そのためにもう一度、いろいろな生物への影響を確かめなければならないということで、塩安とか硫安を入れて、生物への生残に及ぼす影響試験をしています。
 この図は24時間での生残ですけど、高濃度レベルでも生物に影響はありませんでした。LD50で示していますけど、メナダをはじめ、こういう有明海産の生物に対しての影響実験をしております。500ppmという超高濃度であれば死にますが、実際にはこんな高レベルになることはないので自然海域での影響はないと考えています。
 最近、下関水産大学校の山元憲一先生との共同研究で、タイラギの「鰓換水量(さいかんすいりょう=エラ呼吸水量)」に及ぼす影響という試験を行いました。この結果、硝安50ppm濃度に暴露しても大丈夫でした。それから150ppm以下であれば、タイラギは12日後でも100%生存しました。
 次は忌避の話です。佐賀県の南の方にタイラギの生産地である大浦漁協がありますが、その漁協で7~8年くらい前から、施肥をすると魚が逃げていくという話が出ていましたので、鹿児島大学の川村軍蔵先生のところで忌避実験をしていただいたところ、硝安に対してシマエビ、セイゴ、スズキは忌避反応を示さないことが明らかになりました。非常に高濃度でない限りは逃げないというのが、この時の結論だったと記憶しています。

 こういう実験をしまして、平成10年からいよいよ始まるわけです。なぜ、平成10年に始まったかと申しますと、平成4年までは、うきうき法で施肥を行っていましたが、その後、一時的に色落ち被害がなくなったものですから、うきうき法で施肥を続ける意味がなくなり、それで止めようということになったんです。
 ところが、平成10年秋に極端な色落ちがあり、海底耕耘をやろうとか、いろいろ話をしたのですが、それでもどうしようもなくて、ついに平成10年から新しい方法で施肥をすることになりました。
 その時には、先ほどの結果や過去の経験等を生かして、まずは硫安で始めたわけですが、皆さんご存知のように、硫安よりもよく溶けることと、硫安そのものが製造中止になったことなどから、途中から硝安に変わりました。ただ硝安は保管が問題で爆発物ですから、保管については大変気を遣っております。

 佐賀県の場合、手続きが必要で、いつでもすぐに施肥ができるわけではありません。色落ちを確認すると、その情報が漁協(今は支所)からセンターに入ります。これを受けて、私どもがモニタリングした後、東・中・西・南という地区協議会に、「施肥をさせて下さい」という文書が提出され、地区協議会の中で施肥の是非を検討します。
 施肥をして良いかどうかの基準は、色落ちの程度、プランクトン量のほかに、栄養塩の量を含めて協議会で検討し、その結論を経て実施に至ります。
 今年も色落ちが発生したのですが、クロロフィルが60μg/Lとプランクトンがあまりにも多かったですから、施肥は待っていただいて、プランクトンの細胞数が収まったところで実施しました。
 プランクトン量やクロロフィルのモニタリングをきちんとしておかないと、施肥をしても効果がないどころか、逆にプランクトンを増やすことになると目も当てられないので、センターの方から、漁業者の皆さんにその都度、十分な説明をしています。
 ここですぐに計画書を連絡協議会に出してしまいますと、委員会の方もなかなか良い方向に向かいませんので、センターと地区協議会である程度止めるように努力をしております。いま申しましたように、施肥はコントロールしながら進めています。平成10年から平成22年まで十何年も経っているわけですが、始めの頃は少し管理がうまくいかなくて、施肥の量が多くなることもありましたが、現在はしっかりした手続きを踏んで実施しています。
 栄養添加の時期ですが、とにかく色調が低下して生産が不毛になると判断した時に、きちんと計画書を出していくことです。「色落ち板」を作りまして、2.5はここですが、ここまで色落ちしたところではじめて「色落ち」と判断します。
 施肥条件の1つは色落ちですので、それが2.5以上になったら施肥しても良いですよということです。平成18年から色落ち板を漁業者に配っておりまして、とにかく「色調が低下しないと施肥はできませんよ」と決めて行っております。


 組織的な話題に入ります。現在どのようなやり方をしているかと言いますと、まず、佐賀県地先の有明海は、平均潮流が秒速34㎝と流れが速く、また水深が15~16mあります。流れはこう流れます。こちらの方は秒速15~16㎝とか20㎝程度で、流速が比較的弱い海域です。施肥を実施するのはこちらの海域です。
 大潮満潮でも平均すると水深5mくらいで、こちらは10mくらいですので、施肥を実施して効果が出てくるのはこの海域です。それ以外は、水深が深いというのと、こちらの方からの潮の流れ込みが多いのとで、なかなか上手くいきません。これで5㎞なので、5㎞×4㎞くらいの範囲で施肥を行っています。
 施肥は「こういう風に、この辺りにしなさいよ」と指示し、皆さん同じようにしてもらってます。なぜこのようなことを決めたかと申しますと、有明海では大きな干満差がありますので、例えばここに施肥したとしても、栄養はこう流れて1回で出てしまいます。干満を2回繰り返せば、完全に栄養はなくなってしまいます。
 そこで、できるだけ岸寄りに施肥をして最も潮が引いたときから満潮に向かって潮がこのように満ち引きしますので、3回くらい施肥をすれば、先ほどの高濃度に1日くらいは浸かっているだろうということで、今はこのような施肥を行っています。

 基本的には、何人かのグループで1時間くらいをかけて生簀に散布します。ゆっくりと、常に動きながら海水に溶かしていく方法を取っています。このように栄養を溶かした海水をコンテナに入れて、2枚網を重ねていますが間から抜けますので、できるだけゆっくり溶かすように指導をしています。






 添加量の決め方ですが、基本的には、海域にDIN(無機態窒素)が7ug-atm/Lを下がらないと施肥はできないと決めております。7ug-atm/Lというのは、色をどうにか維持できるという濃度です。ですから7ug-atm/Lから下がった時、例えば3ug-atm/Lまで下がると、その差の4ug-atm/L分を添加するという計算をして実施しています。
 ここに具体的な計算の仕方を書いています。例えば、それぞれの散布面積を計算して5m水深で容積を出します。散布前のDIN濃度の平均が3ug-atm/Lであれば、海域に4ug-atm/L分の窒素塩を添加できることになりますので、容積と濃度から計算して散布量を算出し、漁業者に指示します。この指示量分の肥料を、みんなで手分けしてこの面積の中に散布しましょうということです。

 次にモニタリングの方法ですが、各所にモニタリング地点を設定していまして、その各地点の中の栄養塩濃度が7ug-atm/L以下で、それに足らない分を足しましょうという計算をやっています。
 30ug/m3以上のクロロフィルがあり、沈殿量も50ml/m3あれば、施肥はできないということを漁師さんには話をしています。今年も沈殿量が60ml/m3になりましたので、少し減るまでは何日間か待ちましょうという対応をしています。



 現在、有明海の他のところではあまりプランクトンも発生しておりません。おそらく色落ちも佐賀県の西部海域だけです。写真に示すアステリオネラがこの海域に引っ付くように発生しておりまして、4年間連続して発生します。平成19年が2月、平成20年が1月、平成21年が12月、今年が1月です。  水温が下がって他の生物がいなくなった時、あるいは濁りがある時などに発生します。筑後川寄りの方で透明度は高いのですが、こちら側は濁りがひどくて、透明度も30㎝とか40㎝程度と非常に低いのですが、こういう海域でアステリオネラが増殖して困っているところです。


 平成21年度の色落ちと施肥との関係を図に示しています。レベル3、レベル2、レベル1、レベル0です。レベル1が正常で、白いところが正常ですが、去年は12月の下旬にプランクトンが発生しましたので、12月の前に冷凍網を一斉に出庫するようにしておりましたが、西部漁場は全く出庫できませんでした。
 こちら側は試験網を出しても色落ちはしていないのですが、こちらのこういうところは色落ちしています。そのため、ここでは試験網をプランクトンが少し減った時に張りこむと同時に施肥も始めました。そうしますと、出庫網の時にはノリの色がすごく浅くなっていたのですが、どうにかこうにか色落ちしなくてすみました。これがその時の栄養塩です。水温は大体8℃です。ですから、栄養塩も全体的に低い状況の中で、施肥を少しずつ行いました。
 このように、雨が時々降ってくれると施肥の効果はあります。色落ちのための栄養塩添加は、色が下ったものを上げるというのが当初の目的だったわけですが、先ほど説明しましたように、色落ちの重度のものを全く色落ちがないようなレベルまでに施肥で引き上げるのは困難ですので、雨が降るのを待たねばなりません。
 雨が降るとプランクトンが減り、必然的に栄養塩はある程度の濃度まで戻ってきますので、同時に施肥をしながら、極端に色が悪くならない程度に維持します。雨は、肥料よりもはるかに高濃度な窒素分を供給するわけですから、時々雨が降ってくれると色が戻ります。色が戻ると施肥をやめます。このようにして、少しずつ施肥を続けますと色落ちが止まっています。
 色落ちをすべてなくしてしまうのはなかなか難しいのですが、色落ちに対する施肥の役割、効果というのは、栄養塩のレベルを上げて色落ちを回復させるだけではなくて、雨が降るまでのしばらくの間、色落ちで漁業者が諦めてしまわないように心を繋ぎとめるところにもあるように思います。
 それから、色落ちしたノリに対する施肥の一つの効果として「酸処理」があります。といいますのも、酸処理をしていない頃に色落ちすると、いわゆる「白腐れ」が発生したり細菌が付いたり、あるいは「アカグサレ病」や「壺状菌病」が出たりして、葉体自体がボロボロになりますので、そこに施肥をしても効くわけがないんです。
 しかし酸処理をすれば、細菌の増殖は止まりますし、アカグサレ病なども止まるわけですから、栄養塩が来ればすぐに色が元に戻る状態にあるわけです。
 昔は、色落ちしてしまえば放棄して何もしませんので、糸状細菌などが付いて汚くなっていたのですが、酸処理をするようになってからは、もちろん酸処理剤の中にリンや窒素が入っているのかも知れませんが、このようにして葉体の活性を上げることができるようになりましたので、施肥の効果が上がり、雨が降るまでの繋ぎの役目ができているということです。
 しかし、施肥だけで事がうまくいってるわけではありません。先ほど申しましたが、東部海域の沖の方は、施肥をしても思ったように色を上げることは困難ですので、雨が降るまでの間、漁業者が放棄してしまわないように、少しでも現状を維持するために施肥をして、後は雨を待つだけです。諦めないように繋ぎ止めることだけです。
 ここには筑後川がありますが、筑後川の栄養塩は大量ですから、施肥どころではありません。筑後川から流れてくる水の量の増加を待つと次につながります。そこには、酸処理技術とか集団管理能力が必要です。佐賀県は共同で行うのが得意で協業もかなり発達していますので、そういうことが相乗効果的に働いて、施肥の効果が注目を浴びているということです。

 これは昨年の施肥をした日です。施肥をした前後のDINやクロロフィル量を調べてみると、先ほどクロロフィル量が30ml/m3以下と言いましたが、クロロフィル量が少ないときは、意外と施肥の効果があるということです。これだけ頻繁に施肥しています。潮の動かない小潮に頻度を高く、大潮の時には頻度を低くするというのが原則になっています。そうしますと、その間で一気に色を上げることができます。大潮の期間は、落ちない程度に我慢するようにしています。
 それから、施肥をしたからといっても毎日はモニタリングできませんので、モニタリング回数も、その時その時で施肥の合間とか我々の経験を生かして、1日置きくらいにするようにしています。
 1度モニタリングをすると、何日間かはモニタリングをせずに施肥を実施します。このように、栄養塩濃度、クロロフィルの量、プランクトンの量などをしっかり把握しながら施肥を行っていきます。しかし、プランクトン量やDIN量が上がってくると、中止してもらわなければなりません。
 佐賀県の施肥のことを県外で話すのはこれが初めてですが、今までは話をしづらかったんです。しかし、マスコミも知っているのになぜ隠すんだということで、最近、これまでに行ってきた施肥技術をまとめる作業を始めました。
 環境負荷という意味では、まだまだ施肥は難しいですね。ご存知のように、長崎県がいろいろと佐賀県にも圧力をかけてきて、施肥とか酸処理が非常に問題になります。しかし、きちんとした方法で施肥をしているので隠す必要はないし、マスコミにもきちんと説明できるような技術にしないといけない、隠すことはやめましょうという風潮になってきました。

 これも平成17年で、こういう風に一緒にするとこうやって上がっているわけですね。でもクロロフィルは上がっていません。ここでは少し雨が降っているのかもしれません。このように、時々雨が降って栄養塩濃度が上がってくれると、施肥の効果が出てくるということかと思います。施肥の方法、実施状況の話をしました。次は、硝安を使ったときの供給体制について説明します。
 消防法で決められておりますので、硝安をむやみやたらと山積みにすると怒られます。一度、警察に呼ばれて怒られたこともありました。自家で持つことのできる最大量は20㎏の袋を9袋まです。今年からは、硝安を安定して使用できるように商社に頼みまして、下関の保管施設の中に置いてもらって、必要な時に持ってきてもらうことにしました。本当は液肥の方が良いのですが、液肥は高くて漁業者さんがうんと言ってくれませんので、硝安で散布しています。将来的には液肥でやりたいと考えております。








 施肥をするに当たり、色落ちが観察されること、プランクトン濃度が低いことに加えて、もうひとつ設けているのは総量規制です。
 まだ公表していませんが、窒素塩濃度では420tを限度に歯止めをかけようとしています。420tというのは、ノリが乾海苔として陸上に窒素を持ち上げている量です。ノリの窒素含量は6.208%ですので、これにノリ1枚3.3gと枚数を掛けますと、大体423tくらいになります。これは佐賀県だけの規則です。



 栄養添加は、総量規制とかクロロフィルが大いに増えたとか、沈殿量が50mlを超えたら止めることにしています。今までで、施肥は1ヶ月程度しかできていませんが、これは1月から2月に春の珪藻ブルームが始まるからです。平成12年から今年までの間で、施肥をしなくて済んだのは平成19年だけです。秋芽期も、過去に3回施肥を行っています。





 経済的効果は計算の方法によってどうにでもなりますが、施肥の経費と色落ちを計算すると3円のノリになります。施肥の期間に獲れた量と、その時のノリの金額引く3円で計算したものが栄養塩を添加した生産金額です。
 それから、硝安の肥料代を引いてどの程度もうけているかです。一番多い時で約35億円です。計算の仕方でどうにでもなりますが、施肥効果はそれくらいはあるのではないかと考えています。
 9億円とか3億円くらいの施肥はしても良かったのではないでしょうか。去年は、総生産金額が190億円ですので、施肥をしてなければ160億円くらいしか獲れないということになります。

 佐賀県の施肥の状況を隠さずにお話ししました。これから私が考えたことを少しだけ紹介したいと思います。

 今実行している方法は、漁場全体の栄養塩添加を上げるという方法です。これを冬場に行っています。網を集積して添加する方法もあります。小さい芽の時には網を重ねますよね。
 支柱式養殖は30枚重ねといって、採苗する場所の面積が狭いんです。網を1枚ずつにする前は30枚に重ねて育苗しています。この育苗時に色落ちしたときには、重ねて育苗しているところで施肥をしたことがあります。
 その時の施肥は、うきうき法のように少しずつ栄養が出るようなもので、集中的に行ったという経験があります。小さい芽の時ですので、それは効果があります。先ほど説明しましたように、色が下がる2、3日前に施肥をすれば効果があるということです。
 囲いをしてその中で施肥をするのは、本城先生がよく言っておられます。それから、干出させることで葉体表面の濃度を上げることは、昔から佐賀県でも行っていましたが、ニチモウが同じような理屈でシステム船と網の干出法を開発しています。これは岡山県でうまくいったということです。佐賀県でも実験をしてみようと考えていますが、有明海に向くかどうか、効果があるがどうか今のところ分かりません。それから、下水施設からの放流や河川水の利用もあります。

 下水処理施設からの栄養塩の供給は、佐賀県で行っています。中部地区の試験場の近くに人口約30万人の佐賀市の下水処理施設がありまして、平成18年頃からですが、ノリの養殖期とノリをやってない期間に硝化の促進を止めたり進めたりしています。
 10月から3月まで栄養塩類の供給を行っているということです。計算によると、約220tの窒素の供給になります。最大制限施肥量である420tに対する220tですから、これは結構大きい量になります。リンでも9.2tくらい放出する計算になります。
 皆さん中部地区のノリ生産が良いのは、このためだということも言っておられます。佐賀市の浄化センターの施設は、こういう処置をすることで費用の面からも良いようです。芦刈町とか小城市、鹿島市も同じことを検討しています。
 ノリを陸上に獲りあげていることを前提にすれば、悪いことでは無いのではないかなと思います。ただ1番心配したのは、塩素処理をすることによって、モノクロラミンという物質が作られて、乾海苔が墨を塗ったように真黒になる「スミノリ病」の原因になる心配もありました。スミノリが塩素で起きるということを愛知県の方が言われていますので、そういう心配もありました。
 しかし実際のところ、今の塩素処理では、塩素はほとんど海域には流れて出ないということで、心配しなくても良いのかなと思います。

 次は河川水からの栄養塩の供給についてです。
 筑後川からの年間の窒素供給量は3,700tくらいありますが、これは、筑後川の流量と河川水に1t当たり約1gの窒素量が含まれていることから、大体3,700tと算出されます。周辺の河川からと併せて、筑後川の倍の窒素量が、有明海の湾奥部に流れこむと計算されていますので、大体7,400tくらいが有明海奥部に周囲の川から流れ込んでいるということです。
 平成21年度の栄養塩添加量としては320tです。この値は、施肥実施期間中に筑後川から有明海に流れ込む窒素量の約半分に相当しますので、施肥実施期間中に限定した場合、有明海への栄養塩添加による負荷の考え方をどうするかを気にしながら、やはり、河川水や自然を生かした栄養塩添加技術というものが確立できれば、それが一番いいのかもしれません。

 もう1つは、色上げを陸上では行っておりません。これは商社との取り決めなのですが、この点を見直してみてはどうかと思います。陸上で栄養塩を添加するという話です。
 3日間、高濃度の栄養塩に浸けると色が上がりますので、商社の取り決めを外して、陸上色上げの可能性も考えてはどうかと思います。そこまでしなければならないのかという話もありますが、環境負荷のことを考えると、陸上での色上げには検討の余地はあるのではないでしょうか。佐賀県の場合は、協業施設があり、20tタンクの大きい水槽があるわけですから、色が落ちたノリを冷凍庫に入れておいて、温度が高くならない季節に少しずつ出してきて、色を上げることもできます。無理があるようですけど、それくらいしてもいいのかとも思います。

 また今後、本当にノリが足らないとか、価格が高い時には、乾ノリだけではなくて、ノリの有効な成分を使う実験も必要でしょう。佐賀県ではこの辺はかなり研究しましたが、産業的になかなかうまく行きませんでした。
 ノリが人間の生活のために必要なものを持った生物であるということになれば、色を上げる価値が生まれます。例えば葉緑体、フィコエリスリン、フィコシアンといった色素は、生では手に入らなくて、アメリカのノリ養殖は、フィコエリスリンを取るために養殖したという話があるくらいです。赤色はなかなか入手が難しいらしいですので、このような価値があるのならば、陸上で色上げしても構わないと思います。

 話は戻りますが、佐賀県で行っている施肥の方法でどうにか効果が出てはいますけど、さらに効率を上げるにはどうすればいいのかということは、これからさらに多く検討することではないかなと思います。

 問題点として、今後、生物・環境への影響に関する研究を行う必要があるということです。
 それから、環境六法の平成11年度版に照らすと、法律上、硝安とか硫安は、有機物質のD分類に該当するので違反ということです。施肥とか酸処理は、産業廃棄物で出ているものだからダメだとは言えないらしく、海上保安部もきちんと取り締まりをしませんが、やはりこの辺は気になります。
 技術的な問題としては、漁業者のモラルです。いわゆる「過剰施肥」のコントロールです。今回も漁師側からは「施肥の許可を」と言うわけですが、基準に則して実施していますので、施肥の許可をしたくても「それはできませんよ」と言った時に、漁業者と施肥自粛の話をしなければなりません。漁業者にはそういった意識を持ってもらいたいと思っています。
 さらにマスコミ対策です。マスコミへの公表をどのようにして行っていくかです。
 また色落ちを早く止める時の問題です。色が冷め始めたら、すぐ施肥する方が効果あるから早く施肥をしたいというわけですが、先ほど言いましたように、一度色が冷めてしまうと「戻るのに時間がかかるから早くさせろ」とか、「色が冷め始めたからもう施肥をしていいじゃないか」というわけです。何のために施肥をやっているのかの議論になった時に、しっかり説明しないといけないわけです。
 一方、栄養塩を添加すれば色落ちは止まって生産が上がることが分かったわけですが、そうすると、今度は人間には欲が出てきて、苦労して組織的体制を作ってきたことを忘れてしまって儲けに走ってしまう。ふと施肥を5ug-atm/Lの時でも良いのではないかとか、色落ちレベルが2.5ではなくて2から始めたら良いではないかとか、そういう話になってくるわけですね。これは人間の欲ですけど。
 ですから、ルール作りとその厳守、漁業者のモラルの向上などをしっかりと指導しなければならないというのが最近の実情です。これくらいで私の話を終わりにしたいと思います。



【質疑応答】

Q.有明海で栄養塩が極端に落ちるという現象はどういう時か。

A.植物プランクトンの出現の時です。1週間くらい晴れが続くと、小型珪藻が発生します。9月~10月頃は、集中豪雨による栄養塩の負荷があり、梅雨時期20ug-atm/L程度の濃度が連続しますが、珪藻が爆発的に増殖すると、栄養塩の状況は1週間程度で一気に変わります。ただし小型珪藻の増殖ですと、ノリの色が悪くなっても、雨が降ってくれれば小型珪藻が急速に休眠細胞を作ったり死んだりするので、栄養塩はすぐに上がります。当方では、20年くらい前までは1日か半日かかって栄養塩を測っていました。昔は栄養塩の調査、分析は週に数回もやっていなかったですので、こんなことは分かりませんでした。


Q.今はオートアナライザーがありますからね

A.はい。オートアナライザーができてから半日もかからないで濃度を知ることができますので、栄養塩を測定すると高い頻度でお話ししたようなことが起きていることが分かってきました。昔は気付いていなかったのではないでしょうか。ノリ養殖が始まり、海の中の泥から栄養塩の溶出が無くなってくると、1月~2月に海水中の栄養が次第に下がってきます。それから、ダムが上にありますので、海に流れ込む水量も段々減ってきて、植物プランクトンが発生するとノリへの栄養塩は少なくなり一貫の終わりです。


Q.筑後川の流量は、瀬の下、直下流量で毎秒40tありますか。

A.一応40tはあります。今年は多かったですね。


Q.聞き落としたかもしれないですけど、硫安から硝安にどうして変えたのでしょうか。

A.第一には硫安の製造量が少なくなったからという理由があるのですが、技術面において硝安が水に良く溶けるからでもあります。漁業者側からも、早く対応性を上げたいので良く溶ける硝安を選びます。硝安の溶解度は10℃くらいの低温でも60%、硫安はもっと低いです。


Q.硫安で他に気になることは。

A.硫安に硫黄の(S)がついていますよね。これが直接関係しているとは言わないですが、硫安の(S)は環境に対してやはり気になりました。


Q.値段でいうと硫安の方が安いですか。

A.硫安の方が安いですね。


Q.どれくらい違いますか。

A.どれくらいでしょう、今、硝安は高くなっています。始めは900円くらいでしたが。


Q.倍ということはないですか。

A.倍まではいかないでしょう。しかし、1.5倍はありますね。


Q.ただ、海水中で硫酸塩は主成分ですから。

A.そう思っていました。


Q.ダメな気がしますけど。

A.そう思っていましたけど、やはり漁業者から見れば、溶けないというのが使用しない一番の理由でしょうね。我々はそういうこともあって、硝安の方が環境にも受け入れやすいかなと思っています。漁業者は、溶け易いことが魅力のようです。我々も硝安の方がいいかなということです。


Q.船倉に入れて何袋使ったかという話だと思いますけど、濃度はどれくらいですか。

A.それは関係ないです。というのは溶ければ、外に出るようにしていますから。


Q.上澄み液を散布すると言うことですか。

A.上澄み液を出しています。ですから、できるだけ動きながら散布するように指導しています。


Q.写真はありますか。

A.これです。これを溶かして、このようにポンプで汲み上げて、シャワーにして散布するように指導しています。










Q.どこから撒いていたのですか。

A.ここからここを通って、ここから撒きます。


Q.このホースを手で持ってですか。

A.ホースの先をシャワーにすれば、もっとよくなるはずです。


Q.それで窒素の吸収効率は、どれくらいになるのですか?

A.私が計算したとこでは20%ぐらいです。


Q.残り80%は別のところに残るのですか。

A.おそらくそうです。この地域の希釈率とノリが摂取する量からの計算ですので、80%は環境への負荷になりますね。


Q.しかし結果的には、収穫したノリで環境に負荷された分は陸に上げている計算ですね。

A.そうです、瞬間的な吸収は20%くらいではないかなと判断しています。


Q.香川県では、施肥ロープを使って回収率を見てみると、5%ぐらいが戻りになるかなという計算です。

A.希釈率は1日0.1%くらいです、そういう論文もあります。それは、さきほどの河川投入法を実施する時にかなり研究しております。河川から投入すれば、どれくらいの日数、海域に残るかの研究を昭和50年の前半にしております。


Q.全員が一斉に施肥をするのですか、それともバラバラに行うのですか。

A.時間を決めて一斉です。そうしなければ効果がないと説明しています。東中西の海域で実施するときは、可能な限り、日程を揃えるようにしています。


Q.すべて漁業者の負担ですか。

A.肥料代が1,400万円と結構かかります。去年は1億4,000万円ほどを佐賀市に補助してもらいました。しかし、儲けは36億円ですので、投資効率といいますか、経済的効果のP/Cは相当に高いです。これは、施肥の金額が安いからでしょう。そういうことがありまして、この辺から高くなりました。


Q.栄養の摂取効率をもっと上げれば、さらに経済効果はあがります。

A.そうですよね。


Q.スライドのAの値は、色落ちしたら獲れなかったというのに対して、獲れたということになるのですか。

A.この計算は、例えば入札が5円とすると、5円-3円で計算しています。3円というのは色落ちしたら3円になるからですが、その差の2円分が儲けという考えです。今はこういう計算をしています。あくまでも、後でこれくらい効果ありましたというだけです。










Q.摂取効率を上げれば、経済効果が上がってくるということは十分に考えられることですね。やはり8割を環境に捨てるというのが気になりますし、もっとその分を少なくする必要があると思います。私どもは高い摂取効率を考えてきました。これを実現する際に、いろいろと佐賀県の話をしていただければ、色々なアイデアが浮かぶのではないかなと思います。情報の共有をしていただいて効率の上昇にご協力をいただければと考えています。ノリの適採時刻とかは決めておられないのですか。

A.1回目、2回目の摘採は、通常、漁業者は夜中に漁場に出ます。3回目以降になると昼間になりますが、摘採は潮に合わせて行っています。


Q.そうですか。

A.3回目以降は、夜は行かなくて昼の潮に合わせて行きます。


Q.潮に合わせるしか方法が無いのでしょうか。

A.そうです。仕方がありません。


Q.でも浮流しではそれができますね。

A.そうですね。ですから、昼間に摘採した方が味は良くなると思います。


Q.連続的に栄養塩を添加している時期もあったようですが、施肥を行った数日後には色は良くなりますね。有明海では、逆算してそこに摘採日をあてることはできないのですか。潮の加減ですか。

A.できないことはないでしょう。といいますのも、施肥をする日は大体決まっていますから、大体この辺から色が上がるというところまで待つわけです。少し延ばしたりしますが。


Q.摘採日は遡って計算しているわけですね。

A.そうです。


Q.しかし摘採時刻までは無理ですよね。

A.摘採時刻までは無理ですが、摘採日については、栄養塩が回復するだろうというところで待ったり中止したりします。これで時間がかかったりします。それと乾燥の方法も違います。栄養塩を急に吸収させるからでしょうか、乾燥させにくいというんですね。それは私達も初めのうち気が付きませんでした。


Q.栄養塩を添加した場合ですか。

A.細胞の中に栄養塩が急に入るからですね。乾燥させる段階で、ノリが柔らかくなるのではないですから。施肥をした直後には摘採して乾燥することができません。瀬戸内海はよく分からないですが、私達のところのノリは柔らかいですから、施肥をしてすぐには乾燥できないですね。1日置くようにしています。


Q.さらに柔らかくなるということですか。

A.そうみたいです。


Q.瀬戸内海では、色戻りしたノリは「ガサつく」という表現をするのですが、有明海でも、施肥した後にガサツキはあるんですか。

A.ガサツキはないと思います。


Q.乾燥はどのようにしていますか。

A.一次乾燥、二次乾燥で対応しています。一次乾燥して湿度を取ってさらにもう一回乾燥させるということですね。


Q.乾燥室に除湿機を入れると、乾燥用の重油分が随分安く上がるようです。香川県や兵庫県、佐賀県の一部で試験的に試みているようです。省エネ効果は10%以上になるようです。

A.いいですね。


Q.これはボイラー油が高くなってきているからだと思います。

A.除湿機は電気ですか?


Q.電気です。電気代の方が安いですから。

A.太陽光発電ですね。佐賀県でもおそらくすぐに取り入れますよ。


Q.業者が始めていますから取り付けることはできると思います。10%以上の省エネであれば、その価値はありますから。そうすると、栄養塩を添加した後の柔らかくて少し粘っこいノリでも、乾燥効果が一気に上がる可能性があります。

A.有明海の場合は、施肥しても漁場から栄養が一回出ていって干満差で戻ってきますが、瀬戸内海では流れ放しでしょう。有明海では小潮の時には戻りが緩やかで、大潮のときは急速に沖に出てしまいますから、小潮の時に多めに施肥をするのはそのためです。小潮の時はこれくらい戻ってくるけれど、大潮の時はこう戻ってきますからね。ですから、そういうところの工夫はやはり必要ですね。


Q.小潮時の栄養塩濃度は高いですか?

A.高いです。


Q.どれくらいありますか。

A.差ですか。


Q.施肥した直後での濃度です。

A.それはなかなか難しいところです。佐賀県には干潮・満潮があります。これが満潮時の濃度です。ところが干潮の時は高くなります。特に筑後川の河口では、満潮が例えば2ug-atm/Lぐらいあっても、干潮時には5ug-atm/Lや6ug-atm/Lになります。それだけ河口付近では河川の影響があるわけです。ですから佐賀県東部海域では、色落ちは少ない感覚です。一方で、西部の方は2ug-atm/Lでしたら満潮干潮関わらず2ug-atm/Lぐらいです。このように、東部と西部の漁場に大きな差があります。


Q.これは沖合からの海水が入ってきて河口の栄養塩が希釈されているということですか。

A.そうです。とにかく施肥してすぐであれば、栄養は十分にあります。施肥後の栄養塩の変動を連続して追跡したことはありませんが、それを希釈率で計算した結果が論文で報告されています。今の栄養塩濃度を連続観測して希釈率を計算しています。


Q.潮の流れを、そうですか。全員が一斉に施肥をしますから、栄養塩が十分に広く存在しています。ノリへの摂取効率をもっと上げようとしていない所に、不思議があります。瀬戸内海から見たらうらやましい限りです。

A.というのは。


Q.瀬戸内海には瀬戸内法があり、海水の栄養塩を上げることはできません。お話を聞いていると、かなりの管理をしながら施肥されているなと思いますけど、施肥の考え方としてはあくまで雨が降るまでの繋ぎだということですね。

A.今はそうなりました。


Q.香川県の場合は、雨降っても川が小さくて少ないので、栄養塩が回復することはありません。そうすると、どうすればいいかということになってしまい、解決の手口はないのかなと考えています。やはり、栄養塩を添加することでしょうね。
 そうなると、先ほど山田さんの地図にも出てきましたが、例えば、浮流し式のノリ漁場は、潮の流れの早いところばかりに網が張ってありますので、施肥しようとするとノリ場に栄養が入ってこない可能性がありますね。


A.そう思います。


Q.ですから漁場を変えるということになるのでしょうか。

A.うきうき方法であっても効果は出せませんので、集中的に色を上げるためには、今のとこは、漁場を移す方法しか私には思い浮かびません。


Q.ですから我々は、小豆島・内海湾での養殖を候補にしています。

A.そういうところがよろしいのではないですかね。内海湾でしっかりとコントロールして施肥を行うことですよね。


Q.7μMを切った時に色落ちが起きると言われましたが、7μMの根拠は何でしょうか。

A.根拠は先人の7μMで色が落ちないよという論文です。ところが最近は、もう7μMでなくても良いくらいです。といいますのは、植物プランクトン量を含めて7μMという意識があったと思いますが、植物プランクトンが少ない時は、5μMでも十分です、5μMでも色落ちはしません。ですから7μMというのは経験値ではないでしょうか。


Q.安全を見越しての値ではないですか。渡辺さんが5μMとおっしゃってましたよね。

A.そうです。通常、有明海では5μMです。


Q.有明海では5μMで、瀬戸内海では3μMと。

A.3μMですか。


Q.3μMというのは、3μMを切ったら色落ちするという話ですから、今の話は5μM切ったら色落ちして、7μMであれば大丈夫という話でしょう。

A.そういうことです。


Q.安全を見越しての値だと思いますよ、瀬戸内海は5μMです、3+2で。5μMあれば大丈夫ですよ。

A.ですから最近は、7μMを考えて施肥はしていません。本当に正確な値を決めるような研究はあまりされてないですよね。おそらくモデル計算をしている人は、簡単に色落ちの始まる栄養濃度を決めることができるのではないでしょうか。


Q.佐賀市の下水処理の話に戻ります。先ほどの話では窒素が220tも供給されていますが、硝化抑制はどういう方法で行っているのでしょうか。

A.すみません、下水処理の方法はよく知りません。


Q.香川県でもノリ業者の方から下水処理場からの栄養を流せという話が出ています。

A.それは簡単なんじゃないですかね。施設を小さくしたりしたとおっしゃっていました。


Q.修理をしてでもですか。

A.はい。ですからすごく経済効果があったようです。


Q.兵庫県では、硝化抑制と硝化促進でノリ漁期は促進にしています。

A.行っているのですか。


Q.去年から始めました。高度処理をしているからそれが可能なのだそうです。香川県は高度処理をしてないのでなかなか困難です。

A.もともとしてないのですか。


Q.してないですね。

A.下水場の話はあまり詳しくありませんが、経済的には非常に良いという話は聞きます。しかしいずれにせよ、冬は結構流れていたということではないですか。


Q.ただ、バクテリアが消費するN量があって、その分、処理場を出たときの濃度が低くなっているのではないかという話もあります。

A.瀬戸内海といっても閉鎖水域ですから、おそらく効果が見えると思います。流速2ノットとか4ノットという海域ですよね。


Q.漁場は、水深が浅いとこで10m、深いところで20mです。

A.それは無理です。内海湾とかそういう湾内でないと難しい。


Q.佐賀県はダム放流をしていないんですか。

A.毎年しています。


Q.効果はどうですか。

A.効果があるような方法では行っていないですね。小潮に一気に入れるようにしないといけないと思っています。ところが、河口に近いところの組合が反対するので、仕方なしに大潮にします。大潮に流してもなんの役に立たないと言っていますが、流させてくれないです。結局は、大潮に何日間かすることになります。でもタイミング良く雨が降ったりするんですよ。こういうときには。


Q.岡山もそうでしたね。

A.だからうまくいったということになるわけですね。私達は何日間も小潮にドサッと流さないと効果はないと言っています。それこそ、九州大学でシミュレーションしていただいて、そのような結果も出ています。しかし残念ながら、そこは漁業者さんがなかなか「うん」と言ってくれません。


Q.ダムから放流して、そういうときに雨が降るなら良いですが、香川県ではそれも期待できないですから。

A.1月~2月の降水量は少ないですか。


Q.少ないですね。特に最近12月~1月は極端に少ないです。福岡県矢部川の放流もやはり成功していないのでしょう。

A.おそらく。矢部川は流量が少ないですね。筑後川の瀬の下、直下流量は毎秒40t流すようになっていますが、40tよりも少ないと思います。試験場は45t程度を流さないといけないと言っていますが、42tくらいしかダメだと漁業者が言うので、私達はあまり期待していません。


Q.しかし塩田川でしたら許すでしょうね。塩田川の上流にダムはあるのですか。

A.塩田川の上流には小さなダムがあります。ダムの放流水にはケイ素がいっぱい入っていますから、ダムから放流するくらいであれば、施肥をした方が良いと思います。もう少し効率のいい方法があれば良いのですが。


Q.私は以前に、有明海の泥中のアンモニアを集めて施肥をすれば良いと言ったことがあります。

A.そういうのが本当は良いですよね。


Q.それであれば、文句も言われずに済みますよね。何万トン撒いて、何万トン陸上に揚げるからという話もしなくても良いですよね。泥のアンモニアを溜めておく効率の良い方法があれば安くて済みますが。しかも、厄介な泥が毎年港に入って航路を塞いでいるわけですから。

A.残念ながら、まだそこには至っていないですね。


Q.しかし、港に溜まった泥を沖に運び出すのに数億円を使っているのなら、逆に窒素を撒くようにするとかすればいいですよね。

Q.ノリの漁期中に海底耕耘はしないのですか。

A.ノリの漁期中はしません。平成10年度に色落ちして、手を打てないのであれば海に行って皆で掻き回そうという話もしたのですが、その程度では全くダメで、焼け石に水です。毎日、全員で続ければどうか分かりませんが。


Q.おそらく底泥にはアンモニアがありますよね

A.それはやってみないとわかりませんが、やる気力もないと思いますよ。


Q.フィコエリスリン色素をアメリカでは集めたということでしたが、どういうものに使ったのですか。

A.お菓子等、食品の赤い色ではないでしょうか。天然食品色素ということだと思います。赤系統の色素は熱に弱いですから、保存することができないそうです。抽出してもそれを保存できないし、赤の色素を明瞭に分離させる技術が無いらしいのです。


Q.ノリでは、ポルフィラン以外に何か有用なものはなかったのでしょうか。

A.産官学連携研究で、九州大学の先生に研究してもらった時には、ポルフィランの効果でした。


Q.ポルフィランの効果は健康食品ですか。食料工学の先生が研究していたのですか。

A.そうだろうと思います。企業化しようという話になったのですが、結局、採算がなかなか合わないのでやめてしまいました。期待していたのですが。採算が合うのならば、色落ちして残ったノリを全部そういうのに使えますから。


Q.ポルフィラン量を増やせば良いのでは。

A.増やせればいいですが。中川先生にも化粧品に使ったらとかなり言われたのですが、なかなかうまくいかないですね。


Q.酸処理剤の話ですが、佐賀県の場合は全て浸け込み法ですよね。浸け込むのは結構長い時間ですか。

A.いえいえ5~6分です。


Q.香川県は潜り船で酸処理ができるので、大体1網30秒から45秒ぐらいです。

A.素通しですか


Q.素通しです。

A.うちは素通し禁止です。


Q.どうしてですか。

A.pHの低い酸処理剤を使うと、変な”まがい物”が入ってくるからです。しかし現在は、pH2ぐらいの処理剤でも効くのがあるのではないでしょうか。ですから、システムの話は少し出てきています。そのような酸処理技術が減ってきてますから、そういうことを考えないと若い人たちがやめてしまいます。


Q.酸処理をしていて色落ちが止められるかというと、酸処理した後でも色落ちは進行していて止まることはありません。

A.止まらないでしょうね、それは。


Q.酸処理内の中にも窒素と多少のものが入っています。

A.しかし、それはもう無理ですよ。


Q.やはり2.5時間が必要だということですね。

A.それくらいしなければダメということです。基本的には、高濃度液に3時間程度で何日間か浸けないと、色落ちしたノリは元に戻らないのではないでしょうか。


Q.室内培養ですが、10μMから20μMぐらいの干出に、1日60分、それを5日間やれば色調は回復していくという結果を得ています。

A.それは私が聞いた中で最も効率が良いです。


Q.ただその場合、葉体の密度もかなり低いですし、室内培養なので、一定の制約条件があります。そういう面では、香川が最も良いところに来ているのではないですか。

A.2.5時間で5μM、それよりは良いですよね。


Q.ただそれが15μMですよね。河川水事業でやった場合ですが。藤本さんの論文をかなり読みました2.5時間って書いてあります。

A.これくらいが限界ではないでしょうか。しかし藤原さんが実験したのは随分低いですよね。Mですか。


Q.そうです、μg-atmですからMです。

A.μMですか。ニチモウも相当頑張ったのでしょうが、干出中の網に2~3時間施肥をするというのは、どうやって行うのでしょうか。ちょうどニチモウがやっているのは、干出操作機械を作っているんです、写真がありますが。そして干出中に振ってですね瀬戸内海でやっている干出操作の、このように機械をピッと上げるんです、何とか式とか言いますね。


Q.ありますね。これは考えていきましょう。

A.それでこの方法で,栄養塩を2日に1回施すと、1等級か2等級か上がります。でもそれは岡山の人に聞くとそうかなと。


Q.これは、マリノフォーラムで作ったものですよね。岡山の草加さんと話をしていて、セットが小さくないとできないというのと、何度もセットが壊れて、伸びているノリに干出を与えるのは至難の技だとおっしゃってました。


Q.重量が掛かりますよね。

A.佐賀の支柱式はちょうど上がる時にできますので、これが本当に有効ならば、私はシステム船の方法が一番良いと思っているんです。


Q.両面散布のような感じですね。今まではやっていなかったのですか?

A.両面散布は、過去にものすごく多くの先輩方が試験をやられているんですが、なぜか失敗しています。やはり毎日行わないといけないからなのでしょうが、毎日はできませんから。それと、塩安で薬害が出るとかというのもありますし。昔は、そういうのが全然分かっていなかったですから、いろいろなことを試みたのだと思います。


Q.昔、協和発酵の今田さんでしたか、この方の行った試験報告は、この中に入っていますか?

A.いいえ入っていません。これよりもあまりいい結果ではなかったからです。あの方はアミノ酸を加えたらということでしたが、それは私が読んだ限りでは、ちょっとキツイと感じだったので、ここでは紹介しませんでした。


Q.ここでも安部先生がアミノ酸を使用した話がありましたが、文献を送ってもらいましたら、アミノ酸も吸収するということでした。

A.ただ、ニチモウが新しい薬品を作った時に、アミノ酸を入れると腐るということでした。初めアミノ酸でしたらしいのですが、バクテリアが増えるそうで、アミノ酸を外したということのようです。ですから、アミノ酸を栄養塩として添加するのであれば、別の添加の方法をしなければならないようです。ニチモウで使っている施肥は、普通の人工海水、補強海水ですね、SWM水とか、ああいう培地を元にしたものです。それからアミノ酸を除いてあります。


Q.最初のうま味成分のところで「グルタミン酸」ですね、有用品種の事業で、福岡県・兵庫県・香川県で比べてみました。そうしましたら、兵庫・香川ではそんなに成分の違いはないのですが、九州の上の方かな、グルタミン酸が瀬戸内の倍くらいありました。それをどちらも上等なノリで比較すると違いがありました。アラニン、タウリンに差はないのですが、なぜグルタミン酸含量に違いがあるのか、養殖方法の違いなのかと思います。
 支柱式と浮流しでアミノ酸量を測りましたが、あまりはっきり覚えてませんが、確かにグルタミン酸含量が多かったです。干出を与えるとアミノ酸量を上げることだけは間違いないようです。組成は忘れましたが、干出させるとアミノ酸量が増えるのは間違いないです、ここですね。報告書には書きましたが、どれくらい違ったかというのは覚えてはないです。
 では、この一連の話の中で、色落ちして5級とか下の方に下がっていったノリを、ある技術でもって特級の方まで持っていくことは可能なのでしょうか。香川漁連の方たちと話をすると、引き上げることができても3くらいまでで、それ以上延ばすことはできないという話でした。特級なら特級の品質のノリじゃないとだめなのでしょうか。


A.特級はツヤがないといけないとかありますので、色だけではありません。仮に色を人工的にそれだけ上げたとしても、ツヤが出たりするかどうかは分からないです。


Q.ではツヤはどうやって出すのでしょうか。

A.私は干出だと思いますから、室内ではなかなかできません。陸上で色上げしてもいいのではという話をしましたが、おそらくツヤは出ないでしょう。それこそバサバサしたノリとか、そういう感じのノリしかできないのではないかと思います。


Q.人為的に網を空中に上げるとか、小規模でも良いのでそういうことができれば、ツヤは出てくる可能性はありますか。

A.その可能性はもちろんあります。


Q.ノリの遺伝ではなくて、技術を加えれば上がると。

A.上がると思います。ただ5等を特級に上げることはどうかと思いますが。


Q.なぜできないのでしょうか。

A.佐賀の実験でも時間が相当にかかるからです。高濃度栄養条件に10日かかります。それらを目指して行うのは、技術的に難しいのではないかと思います。例えば、5等を3等くらいにするのでしたら、結構短期間でもできますが、5等を1等にするというのはちょっと新しい発想が必要ではないでしょうか。


Q.それ試みてみる人はいないですよね。

A.なかなか難しいと思います。


Q.長い歴史の中で、そういうツヤの研究がなかったというのが不思議でしょうがないですよね。

A.いや、ツヤの研究はありますね。


Q.そういう論文はお持ちですか。

A.あります。光沢で測っていますね。


Q.今回それはお持ちではない?

A.持ってきてはないです。光沢の研究はしましたが、どのように干出を与えれば良いかという答えはないと思います。


Q.今後、このような基礎研究を行いたいと思いますよね。水試では難しいけれども大学でしたら5級を特級まで持っていける研究を。太陽を利用しながらツヤの研究をしたい気がします。

A.色落ちを止めた上での製造の仕方の研究も必要ですね。


Q.同じノリを使っても、生産者が違うとひどい時は2等級ぐらい下がる。色ツヤが全然ない。加工場の湿度・温度の管理などでもかなり変わってきます。川村さんは、5級であっても空中に上げれば色は回復するはずだとおっしゃってますが。

A.色は上がりますが。乾燥でツヤを上げる技術を開発することも、将来的にはできるかもしれないですが、生きている間にできるかどうかは分かりません。


Q.そんなに難しいのですか。

A.難しい気がします。


Q.あなたはノリに冒されてしまっているのではないでしょうか。

A.私はノリの研究ばかりしていますので、ノリの発想しかないんですよね。別の発想がないとたぶんダメだと思いますね。


Q.僕だって自信はないですが、全然素人だからなんかやっていけないかなって思ってしまいます。

A.私は、知らない方の発想が必要な気がします。


Q.ここにサンプルとして2等から9等までのノリを揃えています。色が全然違うのを見ていただきたいのです。先ほど言われていた5等が2等に上がったとか、6等が2等にというのは、色としてこれくらいの差があるという見本になります。










Q.九州大学で学生にこれを並べて食べさせたことがありますが、真中あたりが最も美味しいという投票結果になりました。

A.それはうちでもそうです。


Q.だから現在は、良いノリを作ってもだめです。お寿司屋さん等のプロならば一番いいものを選ぶんだけれども、そうですよね。

A.そうです。うちも3等ぐらいが一番おいしいですが、これは干出の関係のようです。赤味がかかっているけど、干出が加わってアミノ酸が多いです。


Q.赤めのノリがやっぱりおいしいですよね。しかし、どうして一番高いのを高い値段で。

A.それは、やはりツヤのあるノリの方で評価が高いという目利きで入札するからです。焼けば同じなんですが。最初に話をした焼き色についてですが、1、2、3等とするならば、3等あたりが一番焼き色は出ます。でもその評価が低いです。


Q.値段がつかない。

A.つかないです。ですからみんな1等級を取ろうとしています。ただそれを少し変えたのが、佐賀県の「有明海一番」というノリです。味も良くて、ツヤもいい。一般的にいいものを買おうとしたら、真ん中辺りが意外と美味しいというのはよくある話です。


Q.みんな学生はそれ選びます。

A.だぶん、そうだと思います。アミノ酸が多いのは水分も高くて赤い、その辺りが、商社と我々の現場とが合わないところです。


Q.一番高いのはいくらぐらいですか。これで11円ぐらいですね。11円から6円くらい。佐賀ノリの良いのはどれくらいですか。

A.うちは100円です。有明一番でしたら。


Q.今年、香川で一番良かったのが18円。

A.佐賀は105円かな。これもうもう少しツヤが欲しいですし硬いです。もう少しツヤがあってこの色であれば100円でいけます。


Q.香川県のノリを佐賀県で売った方がいいっていう話もしたいほどです。

A.しかし、これを佐賀に持っていっても、すぐに佐賀のものではないと分かります。


Q.佐賀のノリでないとダメだという周辺状況もあるんですよね?

A.佐賀のノリは安心感があるというのもあるんですけど。


Q.よそのノリを持ってきて売ってはいけないという決まりはないにしても、そんなには売れないっていうことですか。

A.おそらく、どこから持ってきたということになるでしょう。浮き流し養殖の大浦のノリに似ています。全然安いです。


Q.支柱のノリの柔らかいものが高いという傾向は昔からありますか。見て触っただけですぐ分かるのですか。

A.すぐわかると思います。調査の専門家や毎年ノリを見ている人たちならば。私でも分かります。本城先生にお土産に持ってきたノリは、おそらく15円くらいです。すみません安いものですが、2等です。


Q.高級ノリがとれるところのものですが、今は色落ちしているので悪くなっています。

A.ですからノリの世界は、なんかおかしいですよね。


Q.これが今の香川県が置かれた栄養不足の環境からできたノリです。

A.A等級ですよね。


Q.香川県で、9と11等級ぐらいに相当する「金髪ノリ」ですね。その下が10等級でかなり悪い。しかし、ラーメンに入ったら溶けないのがいい。

A.でも佐賀では、これがこの前6円でした。下の方が高いんですよ。


Q.うちも今日それが6円で、上が抑えられている。

A.ですから、施肥の効果は出るんですね。これを、これにすれば2円ぐらい上がります。


Q.そうであれば、香川県でも施肥すると数円上がるかもしれない。この前も、漁連の人が3円ぐらい上がればなんとかなると言われていました。香川県のノリは、良いものと悪いものに差がないですよね。これで、仮に1~2等級上がっても、何銭プラスというレベルなので、そこが辛いところです。

A.そこは佐賀と違いますね。香川も2等級あれば、それこそそのレベルなら2円ぐらい。


Q.悔しいですね、それは。

A.ですから、昔は硬いノリを柔らかくする研究もされていたんですね、酵素を入れて柔らかくするとか。



この後も川村さんと話をする時間がありますので、ここでの質問はこのあたりにしましょう。 川村さん、我々も努力して良い方向へ向かおうと思っていますので、今日だけではなくて、今後とも知恵を与えて下さい。よろしくお願いします。今日はありがとうございました。
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