瀬戸内圏研究センターSeto Inland Sea Regional Research Center

香川大学瀬戸内圏研究センター講演会in塩飽本島
  原 量宏 教授 「離島の住民を守る遠隔医療ネットワーク」

【講演内容】
 ただ今ご紹介いただきました、瀬戸内圏研究センターの原です。

 1980年に香川医科大学ができたのは、皆さんご存じだと思いますが、その時に、産婦人科医として赴任しました。と言いますのは、当時、香川県では、赤ちゃんの死亡する率と、胎児の時に死亡する率が大変高く、全国で常にワースト5でした。それを、日本もしくは世界で、最も成績のよい地域にすることが、香川医大を設立する目的の1つだったんです。ただ、従来から行われてきた妊婦管理法では、なかなか成績を向上させることは難しかったのです。
 そこで、「ITを用いた電子カルテネットワーク」を開発して、妊婦さんを地域全体の医療機関で管理しようとする、理想的な妊婦管理システムを実現しようと考えたのです。

 妊婦さんはそれまで、正常な経過でも状態が突然悪くなりやすいので、妊娠中に前もって異常をどうやって発見するか、そして、状態が悪くなった場合に、救急病院で絶対に断らないこと、この2つをきっちりやれば、世界最先端の地域になれることがわかってきました。香川医大ができてほぼ30年経ちますが、幸いこれまで、産婦人科の患者さんや妊婦さんを一度も断ったことはないと思います。関東や近畿などの他の地域では、「たらい回し」などの報道がよくありますが、そういったことで、女性にとって世界で一番安全安心な地域が、この香川県だと思います。

 この様に、ITを用いた妊娠管理に取り組んでいるうちに、妊婦さんだけではなくて、すべての患者さんの医療のIT化に取り組んではどうかということになってきまして、産婦人科から医療情報部へ異動して、約10年間、電子カルテと遠隔医療に取り組みました。そして現在は、瀬戸内圏研究センターで、地域全体の医療IT、特に、へき地や瀬戸内海の離島をフィールドとして、遠隔隔医療ネットワークを作る仕事に取り組んでいます。

 ただ、香川大学だけで頑張っても、とてもそういったことは実現できないのですが、幸いにも2001年に、当時の森内閣により「e-Japan戦略」がスタートしました。これにより、日本のIT戦略が本格的に始まり、この時から、医療においてもIT化が積極的に進められるようになったのです。特に、次の小泉内閣においては、こういったことにどんどん予算が付けられていって、現在、世界で一番インターネットを使いやすい地域が、実は、断トツで日本といわれています。最近は韓国が追いついてきていますけど、国のIT戦略のおかげで、各家庭まで光ケーブルが張られるようになっています。

 ただし、ここ本島や小豆島などでは、離島ということで、なかなか光ケーブルをひくのは難しいようですが、今後は、NTTやSTNetなどにより、今ちょっと停滞気味ではありますが、これから日本中、特にへき地や離島でもネットワークがひかれて行くと思います。

 その後、民主党へ政権が変わりましたが、今の政府が最初の頃は、ITに予算を使わずに、子供手当てに使用されると聞いていましたが、幸い、いわゆる「新成長戦略」のもとに、このIT戦略には、今まで通りお金を出すということで、関係者は安堵しているところです。
 それから、政権が変わる直前、前政権の時ですが、厚生労働省による「地域医療再生計画」ということで、厚生労働省が3,100億円を計上したのですが、新政権になって2,100億円に減額されました。しかしそれも、今回の補正予算で、約2,000億円が追加で認められておりまして、これから不況を克服するためにも、IT化のために予算を使うであろうと言われています。

 今回の新成長戦略の中で、特に皆さまに知っていただきたいのが、「どこでもMy病院構想」です。
 これまでは、カルテは紙でしたので、どこかの病院か、どこかの開業の先生の所に行って、皆さんが検査したりお話したことは、他の病院では使うことができません。ですから、いろいろな病院に行けば、毎回同じお話をすることになります。しかし、電子カルテをどんどん普及させて、この情報をネットワークに載せて、どこの病院へ行っても同じ治療をできるようにしようというのが、「どこでもMy病院」構想です。

 そうした中で、現在、最も重要なことは、まずは処方箋を電子化することで、大変大きなテーマになっています。いま、処方箋をもらった場合には、あくまでも紙の処方箋が原則で、患者さんは、その紙の処方箋を調剤薬局まで自分で持って行くか、もしくは、先にFAXで送ってあとで本人が薬局へ薬をもらいに行きます。
 しかし、特に離島の患者さんですと、遠くて本人がなかなか薬局まで行けなかったりします。現在、いくつかの慢性的な疾患で遠隔医療が認められているのにも関わらず、処方箋だけが紙でなければならないため、遠隔ではいけないことになっています。
 カルテの電子化が国の政策として進められているなかで、処方箋だけが紙というのは非常に不都合で、香川大学医学部附属病院では、それを電子化することによって、患者さんが必要な時に、自分の処方や健康情報を確認することができるように進めています。

 香川大学病院では全国に先駆けて、平成22年11月29日に、電子処方箋ネットワークをスタートさせましたが、さらには、医療ITの救急医療での応用も大変重要です。
 もしみなさんが、高松の丸亀町商店街などで、急に心筋梗塞なんかで倒れて、救急車に乗ってどこかの救急病院へ運ばれたとした場合に、この患者さんが、もともとどんな病気を持っていたかということが分かると、大変便利です。
 現状は、救急救命士が病院に電話したりしていますが、大変に効率が悪くて、病院側もどう判断するかが非常に難しい状況があります。もしこういった場合に、「どこでもMy病院」のシステムを利用できれば、この人はおそらくここが悪いかとか、もともと心臓に不整脈があるといったことがすぐに分かるようになって大変便利です。

 この図はやや細かすぎますけども、内閣官房が作成した「医療のIT化」実現のための詳しい工程表です。この内容は、すべての大臣が出席する閣議で決定されますので、よほどのことがない限り、政府の直轄的な仕事として、何年には何をすると決められています。

 もう1つの重要な項目が、シームレスな(切れ目のない)地域医療連携です。
 例えば、丸亀市の香川労災病院に糖尿病で通っているしましょう。普段は、診療所の先生に診てもらうといった場合に、紙のカルテですと、いちいち紹介状を書かなくてはいけないので、正確な情報がなかなか伝わりません。しかし、両方の電子カルテが相互に連携していますと、1年に2~3回は、香川労災病院の糖尿病の先生に診てもらい、普段は、近所の診療所の先生に、糖尿病の専門医と同じ治療法を受けるということが実現できます。
 これはすでに国の方針となっていて、2015年までには、生活習慣病などを遠隔医療ネットワークで管理していくことになっています。

 さらに、これは通常の医療とは違いますけども、たとえば、生き倒れで亡くなった方や、死因が不明な方の場合には、本来は大学の法医学教室で解剖をするのですが、人手の関係上、死亡された方すべてを解剖することはなかなかできません。
 そこで今後の国の方針としては、そういった方は、解剖する代わりに、CTを撮って、死因を究明すること(Autopsy imaging、"Ai "と呼ばれる)になっています。香川大学の法医学教室では、全国のトップを切ってCTが導入されました。こういったことで、今、香川県ではすべての分野で、医療のIT化が進行中です。

 この様に、医療のIT化が計画されるようになってきたのは、通信の技術を用いた遠隔医療の技術が発達していったからです。
 江戸時代、そして明治時代から現在までの医療を考えてみますと、大昔には、近所の薬草などに詳しいおばあさんが病人を診ていました。
 それから、もう少し専門的な人が「医師」として出てくると、医師自身が自分から往診するのは大変効率が悪いので、他の人たちが患者さんを診療所に連れて行く、すなわち、医療機関に患者さんを集める方法になっていきました。
 そして、道路や鉄道、さらには自動車ができたりして、ますます病人を医療機関へ集める方向になりました。その後、病院がどんどん大きくなってきて、診療科もより専門性が出てきて、総合病院になったり、大学病院になったりしました。

 しかし現在では、大学病院の規模でも、すべての診療科を自分の病院内にまとめて持つことができなくなってきています。1つ1つの専門領域が、非常に細分化されていまして、香川大学でも、元々は、第1内科、第2内科、第3内科など、3つぐらいしかなかったのですが、今では、5以上に細かく分かれています。
 結局、1つの病院ですべての専門家を揃えることがとても難しくなってきて、その結果、大学病院と県立中央病院、日赤病院を全部統合した方がいいという考えになってきます。
 しかし、1ヶ所に1つの大きい病院を作ることは、現実的ではありませんので、最近では、すべての病院を電子カルテネットワークで結んで、地域全体を1つの病院にしようという考えになっています。
 
 CTやMRIを撮られた方も多いかと思うんですけど、CTやMRIの画像は何百枚にもなりますが、昔と違って、レントゲンフィルムも無くなって、全部電子的な情報となっています。すべて、コンピューターで処理できるようになってきますと、電子カルテの画像を含むあらゆる情報が、1つのサーバーで管理できます。
 従来は、小さな病院をまとめて、なるべく大きい1つの病院にしようという考えが主流でしたが、今では、小さな病院、診療所がいくらバラバラにあっても、電子カルテネットワークの技術で結べば、1つの総合病院として機能することができるので、どこにあってもいいことになってきました。そういったことを実現しようとしたのが、この「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」で、全国で一番初めにできました。

 以前は、大学病院の電子カルテを中心に、ネットワーク化するという考えが多かったんですが、私が大学病院の医療情報部長を担当していた時には、将来的には、大学病院も一般病院もみんな同じでなければならない、開業した人も平等でなければいけないということで、データを蓄積するサーバは、大学病院に置かないで、安全な中央のデータセンターに置くことにしました。結果的には、これが一番よかったと思います。
 昔は、カルテとか重要な患者の情報は、医療機関に保存するという考えが主流でしたが、皆さんは、お金のような大事なものを、タンス預金にするでしょうか。そうではなくて、やはり銀行に預けると思います。先ほど言いましたように、検査情報とか診療情報などが、全部電子カルテになりますと、紙が一切なくなります。そうすると、データを保存したサーバを大学病院に置くよりは、安全が確保されたデータセンターに置く方がよいとの考えになります。

 その後、国や世界の方針も変わり、現在では、医療情報は医療機関に置くよりも、データセンターの方がいいとなりつつあります。例えば、高松の瓦町とか丸亀町商店街にある医療機関のパソコンに、患者さんのデータが入っていたとしますと、それこそ、夜中に誰かにパソコンを持っていかれでもしましたら、全部データが流出してしまいます。ですから、セキュリティーをきっちり守ってくれるデータセンターに置く方法のほうがよいと思います。K-MIXでは、全国に先駆けて、診療情報をデータセンターに集めており、全国から注目されています。
 
 ところで、K-MIXができる時にどのようにして実現したかといいますと、それまでの香川大学では、文部科学省や通産省などの国のいろんな予算で遠隔医療に取り組んできましたが、ある時、国から県に出向してきたお役人が、遠隔医療ネットワークは、将来きっと役立つから予算つけましょうということになったのです。
 今じゃ考えられないのですが、それでは是非ともお願いしますということで、約8,000万円の予算をつけていただいてスタートしました。これが8年ぐらい前のことです。その後、K-MIXに様々な機能が増強されていって、現在のK-MIXでは、CTやMRIなど画像情報だけでなく、診療情報、心電図など、あらゆる医療情報が送信できて蓄積できるようになっています。

 それで、本当にうれしいことなのですが、K-MIXが来年度から、小学校5年生の社会の教科書に紹介されることになりまして、その中を見ますと、全国の地図があって、香川県はここにあるんですけども、香川県の小豆島や本島も図に載っています。K-MIXは全国でも使われていまして、例えば、沖縄県の病院での接続の事例も掲載されています。

 次は、先ほども言いました、データセンターのお話しです。当時は法律的にも、医療情報は病院の中に置かなくてはいけないとなっていました。
 私は、そうなっているのはおかしいと思っていましたが、その後、国の方も徐々に方針を変えて、ついに今年の2月に、医療情報は民間のデータセンターに置いてもいいようになったんです。何でも本気で頑張ると、実現するものだなあと思いました。香川に来て本当によかったなと思います。というのも、大学はもちろん、香川県と医師会も遠隔医療を応援してくれましたし、県民の方々にも応援していただいたからでして、他の地域だったら、なかなかこのようにはいかなかったのではないかと思います。
 これが香川遠隔医療ネットワークの説明図ですけども、これが大学で、これが県立中央病院、もしくは丸亀の香川労災、あとこれが本島の診療所です。たとえば、この病院でCTを撮ったとして、この診断は難しいなと思ったら、K-MIXを使って、大学病院もしくは県立中央病院の放射線科の先生に診てもらうこともできます。また、ある先生がCTを購入して、仲が良い先生がMRIを購入したとすると、両方の装置をK-MIXにつないで、2人で共同利用ということもできます。

 現在、K-MIXには102の施設が参加しています。8年ぐらい前にK-MIXを作る時に、香川県から言われたことは、6年後か7年後くらいに医師会に譲渡する予定ですが、その時にもし赤字だったら非常に困るので、絶対黒字にしてくだいということでした。しかし幸いなことに、現在も黒字基調で私も安堵しています。

 今までは、画像とか診療情報を送信できるというお話をしましたが、それ以外にも、胎児、妊婦さんの管理、遠隔医療、母子手帳のサーバといったものもあります。
 生まれてくる前の胎児の心拍数から高齢者までの、そして今年度中に実現すると思いますが、法医学で犯罪に関係があって死亡した場合にも、死んだ後からでもデータも集めることもできることです。
 すなわちK-MIXは、生まれる前から高齢者、死後のデータなど、あらゆるデータを一連のサーバに置いておけることが大きな特徴で、こういったシステムは、世界に1つしかないと思います。
 この他にも、テレビ会議室システムの「ドクターコム」も、K-MIXの新たな機能として増強されました。このドクターコムを使えば、ここに離島のおじいさんがいて、往診もしくは診療所に行って、そこの看護師さんが一緒に症状を診て、それで大学の専門家がテレビを見て、カルテを見ながら診察ができる、こういったシステムがすでに稼働しています。現在、非常に熱心に使っていただいているのは、小豆島の内海病院です。

 小豆島は離島といってもかなり大きい島ですから、島内の遠いところにお住まいの患者さんは、内海病院に通うだけでも大変です。病気によっては、1年に1~2回は大学病院に通院する必要があります。
 そのような患者さんでは、ドクターコムを使って、普段は、内海病院との間で在宅での診療を行い、必要に応じて、大学病院との間で、遠隔の診療を行うことをやっています。このようにしますと、K-MIXを中心に、あらゆる医療機関の電子カルテのデータが、データセンターに集まってきて、それを異なる病院に行っていても、1人1人の医療情報を見ることができるようになる。それが「どこでもMy病院」構想なんです。
 こうなってきますと、逆に、患者さんの個人個人の状態に応じて、自宅で、血圧や血糖値を測って、ネットワークで病院に送れるようになり、頻繁に病院に行かなくてもよくなります。

 特に離島の患者さんにとっては、薬をもらうためだけに船に乗って病院に行かなくてはならないのは、あまり望ましくないと私は思います。ただ、現在の日本の診療報酬、分かりやすくいいますと、病院の収入の決め方が、患者さんが医師の目の前に来て、しかも、何回来て~円というふうに額が決まる所に問題があります。いまのままでは、遠隔医療を行うと、かえって病院の収入が減ってしまうので、遠隔医療に診療報酬をつけないと、なかなか普及しないということなんですね。皆さんはどちらに賛成されますか?
 やはり病院に行って、お医者さんや看護師さんと話して、良くなったと言いたいのか、しかしその代わりに、何時間も待って数分間しか診てもらえない。私としては、病院に行くときはゆっくり診てもらって、普段は、自宅で測った血圧が、通っている先生の電子カルテに出て、グラフ化されて、わざわざ病院にいかなくても、遠隔で正確な診断がついて、近所の看護師、保健師に診てもらうのがよほどいいと考えています。

 このように、K-MIXの機能はどんどん強化されていますが、最近最も力をいれているのが、「電子処方箋」と「糖尿病地域連携パス」です。
 現在、日本でいちばん医療費が増えているのが、糖尿病です。糖尿病は、重症化するとほとんど透析治療が必要になります。透析の患者さんは、ひとりあたり年間で400万円から500万円かかるといわれています。1人増えると500万円とすると、10人増えると5,000万円、100人増えると5億円ぐらいになってしまいます。この医療費は、病院ではなくて医療費として国民全体にかかってくるのです。
 糖尿病は何十年もかかって症状が出ますので、重症化する前にしっかりと治療しておけば、透析をしなくてもいいですし、年間500万円もかかりません。日本ではまだ考えられませんが、イギリスでは、65~70歳以上の方には透析はしないようです。患者さんにとっては厳しい話ですが、しかしそうでもしないと、イギリスの医療費が破綻してしまうとの理由からです。

 しかし、実際に日本の医療もそうなりつつあります。最近の日本の年間の医療費は、総額35兆円程度といわれていて、これは毎年1兆円ずつ増えています。5年前までは30兆円ぐらいだったんですけど、そのうちの1兆円までいかないですけど、5,000億円ぐらいの負担増が、透析にかかっているようです。
 ですから、糖尿病の患者が、重症化する前に治療することが大変重要で、地域全体の病院が一体となって、チームで治療しようとするのが、この「糖尿病地域連携パス」です。

 これに加えて、癌のパスというものも作ろうとしています。つい先週、香川県全体で5大ガンの地域連携パスの会がありました。例えば乳がんだったら、大病院で手術して、そのあとの治療やリハビリを、一般の開業の先生とか中規模の病院にお任せする。大病院は、手術だけに集中するという考え方なんです。もしそれを紙カルテで行うと、病院同士の連携がなかなかうまくいきませんが、電子カルテネットワークで行うと、大変効率よく行えるわけです。

 さらに私が考えているのは、難病の電子カルテネットワークです。電子カルテネットワークで、日本中の難病の患者さんを安心して診てもらえる、もしくは、そういった人たちが、仲間、友達を作り、普段の悩みなんかを解消できるところも電子カルテネットワークの特徴です。

 もう時間がありませんので、周産期電子カルテのことをちょっとお話します。
 私が30年前に香川医大に赴任してきた理由は、この周産期電子カルテネットワークを実現するためでもあったのですが、幸い、周産期電子カルテネットワークは、平成18~20年度に、経済産業省の予算で、岩手県と千葉県、東京都、香川県を中心に進められ、現在は北海道から沖縄県まで、全国に普及しつつあります。

 最近、産婦人科医がどんどん減っていますが、その理由として、産婦人科医は、夜中に起きなくてはいけないとか、訴訟が多いとか言われています。
 約40年前、私が医学部を卒業した頃は、産婦人科医たちは大変忙しく、若いころ私は、実に年間320日以上当直したことがあります。しかし、毎日が大変楽しく、今でも大変充実していたことを思い出します。
 最近の若い医学部の学生は、9時~17時の生活が良いというのが増えていまして、色々と理由はありますが、とにかく産婦人科医が減ってきました。あとは、女医さんが増えていることも理由のひとつです。昔の患者さんは、男の先生でもいいという人が多かったのですが、最近の女性は女医さんの方がいいということで、最近は男の学生は産婦人科医にならない傾向があるようです。




 この図は、妊婦さんを自宅で管理するシステム「在宅妊婦管理システム」です。
 このシステムは、小豆島の50人ぐらいの妊婦さんを対象にして開発しましたが、離島やへき地の妊婦さんには、非常に便利なシステムです。皇室の雅子様、紀子さまにも使っていただきました。

 さきほど、本城先生から貝リンガルのお話がありましたけど、貝の情報は海の底です。胎児も羊水の中で発育するので、海の底と一緒です。
 みなさんは魚群探知機にお詳しいでしょうけど、超音波を使って妊婦さんのお腹に発射すると、胎児の心臓の動きなどの情報が検出できて、胎児の心拍数が速くなったり、遅くなるのが分かります。そして、その変化のパターンから、胎児の状態が分かるんです。まさに魚群探知機そのものです。


 これは岩手県ですけども、岩手県の妊婦さんは香川県とは違い、冬には、妊婦健診のために、このようにトラックの間を、滑りそうになりながら「命がけ」で病院に通わなくてはなりません。
 そこで、香川県で開発したこのシステムが役立つわけで、現在は岩手県全域にこのシステムが普及しつつあります。

 これは、アメリカの有力紙「ニューヨークタイムズ」の記者が取材に来たときの記事です。
 それまでは、国内の取材はあまりなかったのですが、ニューヨークタイムズが取材したことで、NHKや新聞社がたくさん取り上げてくれるようになりました。

 さらにこれは、前総務大臣の原口議員が、岩手県遠野市で「周産期電子カルテネットワーク」を視察したものです。今後、遠隔医療の普及に力をいれるといわれました。
 岩手県では今後、全県的に、すべての産婦人科医療機関と市町村を、電子的な母子手帳と周産期電子カルテネットワークで結ぼうとしています。枝野行政刷新担当大臣や社民党の福島党首も視察にこられ、ぜひとも、このシステムを全国に普及させたいといと言われています。

 周産期電子カルテのプロジェクトも、教科書に掲載されました。来年4月から、2つの会社、あと実際5つぐらいの会社が教科書に載せてくれることになっていますので、何ごとも頑張れば実現するもんだなあと、あらためて感じています。

 ところでいま国では、新成長戦略の一環として「総合特区制度」といいまして、日本の国を活性化するための様々な知恵を、全国の地方自治体や民間から募集しています。香川県からは、この遠隔医療を用いた「安心の街づくり計画」といった提案をしていますので、もし採択された場合には、この本島が遠隔医療ネットワークのフィールドに、ぜひともなっていただきたいと思います。
 以上、香川県で取り組む遠隔医療に関してお話ししましたが、どうぞよろしくお願いします。なにかご質問でもあれば。よろしくお願いします。



【質疑・応答】
Q.昨日ね、大波が来まして、丸亀に泊まることになったんです。その時わたし、ここの診療所でもらっている晩と朝の薬を、丸亀の薬局へ行ったらもらえますか?

A.それは今のところ無理なんです。

Q.今はダメですか?

A.いまは、遠隔医療はできるけれども、薬を出すときは紙の処方箋の原本がなくてはいけないという決まりがあるんです。

Q.ありがとうございました。

A.どうしても腰が痛いっていう時に、娘さん(家族など)が病院に痛み止めをもらいに行ったりしてるのかなあと思ってしまうんですけどね。あまり聞かないようにします。自分で必ずもらわないといけないことになっていますので。

Q.当日、私は泊まる用意していたんですけどね、幸い、昨日は、うまいことに薬を持ってたからよかったんですけどね。診療所の薬をそのまま、処方箋とか向こうへ回せないかなと思いまして。

A.そうなんです、そのようなことがあるからこそ、ぜひ、診療所の先生は今日会場に居られるんでしょうか?
 一番いいのは、やっぱり、丸亀の大きな病院と診療所の間で、カルテや処方のデータが連携できていたらいいと思います。しかし、みなさんが行政に要望していただくのが一番いい。というのは、行政にも、非常に熱心なお役人さんがいるんですけど、一般的には、9時~17時の生活がいいといって、なんでも今まで通りやって、新しいことやってあとで怒られるのがイヤ。何か新しいことをやって、「減点されるのは困る」っていう感じの方が、残念ながら多いんですよね。
 大学は新しいことをやるための組織だから、ダメと言われると、かえってやってみようじゃないかという風になるんですけど、行政はそこがなかなかむずかしいようです。ですから、みなさんから行政に言っていただくと効果があると思います。ひょっとして、行政の方が会場におられたりして。

Q.今のお話は、先生の開発されたシステムは非常に香川県が進んでるっていう話ですね?

A.そういっていただくと大変嬉しいです。


Q.それで、こんど教科書に載る地図の中に、本島いうのがありましたけど、本島の名前も入ってるんですか?

A.いや、名前までは入ってないです。昨日、一昨日かな、聞いてビックリしたんですけど、香川県の教育委員会は、この教科書を採用していないようです。大変残念ですよね。香川県に言ったんですよ、でも県は教育員会にそういうことを指導することはできないらしいです。

Q.これは非常にいいシステムだと思いますんでね、是非とも本島をモデルケースにしていただいて。

A.そうなんです。それで今日ここまでやってきたんです。

Q.ぜひ、ねぇ皆さん拍手をお願いします。

A.そのために、診療所の先生にも「やる!」といっていただけるともっとうれしいんですが..。ぜひお願いします。


Q.島の年寄りが島で住むのに何が一番不安かっていうと、やっぱり医療のことだと思うんですよ。それで、その問題を解決していただけるのは、先生のこの考えを進めていった形だと僕は思っております。究極的な形として、私なりに理解しているのは、いまは、患者さんがみんな病院に行かなくちゃならないけども、いずれは、ほとんどのお年寄りは自宅にいて、ネットワークで全部病院とつなぐことで、非常に身近に、自宅が診療所みたいになって、身近な診療が受けられる。
 大きな病気のときはもちろん病院に行くけども、普段は、自宅で診療レベルのことをやっていただけるのが、このシステムの最終的な姿かなと僕は理解しています。それで、その前にそういうインフラ、基盤が整って、自然が非常にたくさんあって、島の人たちが、実は、住むにはいいところ、島に住んでいて医療の不安がないという形、先生のお考えでは、この形が本島に実現されるのは何年ぐらい先ですか?


A.国に提案している総合特区の案が、来年7月ぐらいに通れば、本島、小豆島が実証フィールドになると思います。特に小豆島は、大きな病院がありますから、もし希望される時は、ぜひとも一緒にお願いします。そのために、本日、本島までやってきました。ただ、こういった遠隔医療や在宅医療が普及した場合、今の制度のままだと、病院や開業の先生のところに行く患者さんが減り、その結果として、収入が減ってしまうようですと、なかなか普及しないことになります。ですから、遠隔医療に対して、診療報酬をつけてくださいと提案しています。ただ、病院に行く回数が減ると、お医者さんや看護師さんとあんまりしゃべれなくて寂しいなっていうことも出てきますので、その時は、保健師さんや看護師さんが、これまで以上に在宅の患者さんを訪問して、コミュニケーションを取ってもいいと思います。遠隔医療が普及するように、是非ともご協力お願いします。
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