瀬戸内圏研究センターSeto Inland Sea Regional Research Center
浅海環境通信

第2号

浅海環境通信 発行
香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設
香川県木田郡庵治町鎌野(Tel: 087-871-3001)
■発刊の主旨
 この通信は瀬戸内海または四国で起こっている環境問題に関して、知識向上、現状理解の一助になることを目的としています。紙面上では香川大学農学部附属浅海実験実習施設の調査、観測で得られたデータを掲載するとともに、分かりやすく解説します。さらに、各専門分野で得られた最新の研究成果について若手研究者が分かりやすく解説します。地域の皆様の自然に関する疑問も積極的に取り上げ、一緒に考えていきます。また、ご意見を伺い、今後の研究活動に反映していきたいと考えています。
■新施設長の挨拶施設長 多田 邦尚
 このたび、本施設の施設長に選ばれ、4月1日より就任いたしました多田邦尚(ただくになお)と申します。本施設は昭和50年に誕生し、これまでには瀬戸内海で猛威をふるってきた赤潮の研究で重要な役割をはたして参りました。また、近年では海砂利採取問題や干潟域の研究でも貴重な成果をあげております。21世紀は海と人類とのかかわりが大変重要となる時代といえますが、浅海域を専門に取り扱う本施設の役割は、大学における教育・研究、最新の情報発信、市民の方への啓蒙と、益々重要になっていると考えております。ただ、本施設は教官2名、技官1名の非常に小さな組織ですので、学内の関係教官あるいは学外の研究者の方々ともうまく連携し、よりいっそうこの施設を発展させてゆきたいと思っております。
また、本年4月1日付けで一見和彦教官が本施設助教授として就任致しました。現在、大学を取り巻く状況は非常に厳しいものがあり、色々な意味で大学もその附属施設も変わっていかなくてはならない時です。今の状況をバネにして、新しいメンバーも加え、これまでには無かった本施設の新しい発展をめざしてゆきたいと考えております。これから施設として、新しくやらなくてはならない事が沢山あるのですが、まずは、前渡辺施設長時代に始まった、このニュースレター『浅海環境通信』をより充実させ、同時に地域の方を対象とした開放講座も年に数回開催する等して、本施設が本学の学生のみならずより多くの方々の瀬戸内海への興味あるいは意識を高めて頂く一助になればと考えております。どうか、今後ともこの香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設(略称・浅海施設)を宜しくお願い申し上げます。
■メンバー自己紹介助教授 末永 慶寛
 1964年山口県長門市出身。香川大学工学部 安全システム建設工学科 水システム工学講座に所属。東京大学海洋研究所で3年間研究活動を行った後、平成8年に香川大学農学部へ赴任し、平成9年に工学部へ移籍しました。専門分野は、水圏環境工学、水産工学、海岸工学です。数値モデルによる流動場の解析、水理実験、現地観測を基に設置した人工魚礁が有する流動制御や餌料培養機能の検証や生物生息環境への影響に関する研究調査を行っています。
 農学部の多田研究室、一見研究室、山田研究室の皆さん達と一緒に、実習船カラヌスⅢに乗船して瀬戸内海の環境調査を行い、農学部と工学部の技術を融合した新しい海域環境改善・保全技術の開発に取り組んでいます。
 趣味は、水泳とボクシング観戦で、雑誌にコラムを書いたりしています。幼い頃より海に囲まれて育ちました。今後も豊な海を維持できるよう頑張っていきたいと思います。
■研究成果速報 「新しい材料による海域環境改善」助教授 末永 慶寛
 瀬戸内海のような閉鎖性海域における環境改善は十分には進んでいないのが現状で、生物生息環境の保全・改善・創造のための技術の開発が急務となっています。私達の研究グループでは、流動制御機能を有する水産資源増殖構造物に関する技術、実海域における水産資源増殖効果の定量的評価技術をシーズとし、生物親和性が高く、水産資源増殖構造物の部材として使用可能な強度を持ち、かつ製造・組立が容易な多孔質体の開発を行っています。また、開発する多孔質体製造の原料としては、形状、性状、調達の容易性等の点で製鋼スラグを使用することから副産物資源の有効利用に寄与すること、また、生物親和性を高くするために酸化カルシウムに炭酸ガスを反応させ炭酸カルシウム化する過程で炭酸ガスの固定化が図られることなどの点で地球温暖化対策にも寄与する研究と言えます。
流動制御機能を持つ水産資源増殖構造物
構造物に蝟集したキビナゴの群れ
流動制御機能を持つ水産資源増殖構造物 構造物に蝟集したキビナゴの群れ
■今月の環境講座「瀬戸内海の流動解析」助教授 末永 慶寛
 沿岸海域の水の動きを正しく把握する事は、その水質環境あるいは環境保全を考えるうえで大変重要となります。今回は、瀬戸内海の海水の動きについての研究例を紹介します。
 瀬戸内海では外洋域における海流(黒潮やメキシコ湾流)のような一定の強さで常に一定方向の流れは存在せず、海水の動きはもっぱら潮の満ち引きによって生じる潮流が支配しています。即ち、瀬戸内海全域についてきわめて大雑把に言えば、上げ潮(干潮から満潮に向かう流れ)時には、瀬戸内海東部では西向きに流れ、西部では東向きに流れています。一方、下げ潮時にはこの逆の向きに流れています。また、内海にはこの潮流の他に風にひきずられて起こる吹送流、密度差に起因する密度流などがあります。
 瀬戸内海の潮汐流を定量的に把握するために、3次元数値モデルによる計算を行いました。さらに、数値モデルでは3m/sの西風を吹かせてみたところ、表層の流向が大きく変化することが判りました。また、鉛直流は海峡部や島付近で発達しますが、強い場所でも水平流の1/1000程度でした。尚、実際の観測結果と計算結果は全域で良い一致を示し、モデル計算の妥当性が検証されました。下の図は、瀬戸内海東部(備讃瀬戸・播磨灘)海域の※潮汐残差流(往復流を平均した恒流)を表しています。
瀬戸内海東部(備讃瀬戸・播磨灘)海域の※潮汐残差流(往復流を平均した恒流)
瀬戸内海の流動解析結果(海峡部や島に挟まれた場所で速い流れが発生しています)
※潮汐残差流:一日の潮流測定結果を平均すれば平均流は0になることが期待される。しかし、実際にはそうはならず、潮流によってつくられた余りのような流れを潮汐残差流と呼びます。
■インタラクティブコーナー皆様と自然科学の研究者とで創るコーナーです!
 多額の費用と莫大なエネルギーをかけてまで,なぜ瀬戸内海の広域モニタリングをする必要があるのでしょうか。海の色が少し濁ったり水温が高くなると,私達の生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。その答えを二つの側面から,すなわち地球環境と沿岸における環境研究あるいは環境保全から探ってみます。
海洋は地球の表面積の約70%を占め,地球環境にとって重要な役割を持っています。海洋の主体は水であり,大きな貯水槽と考えられます。また水は熱を蓄える能力が大きいので熱の大きな保管庫になっています。そのため気象に大きな影響を与えています。海洋にとってほんの少しの変化でも,気象に与える変化は大きいものがあります。例えば,エルニーニョ現象が起こると,海洋の現象だけでなく日本の気候も大きく影響されます。また,各種物質を良く溶かし,懸濁させ,陸から海へ物質を運んでいいます。海洋の植物プランクトンの生産に伴い、地球全体の炭素循環にも大きく影響しています。したがって、地球環境で起こっている諸問題を明らかにし解決するためには、より詳細な観測と研究が必要になってくる訳です。
沿岸域には,良好な居住地域として世界の人口の60%が生活しています。そのため世界の都市の2/3は,沿岸域に集まっています。沿岸域の面積は世界の海の8%に過ぎませんが,高い基礎生産によって良好な漁場として世界の水産資源の90%が得られています。
ここで,「基礎生産」について少し説明を加えておきます。基礎生産とは,藻類などが窒素やリンなどの無機の栄養塩類と太陽光線を利用して,有機物をつくりだすことです。海洋では基礎生産された下等生物に続いて,動物プランクトンから魚類へと生産段階が進んで,水産生物資源が生まれてきます。
陸水が大量に流出している沿岸域では陸起源物質の重要なクッションになっており,75から90%の土砂などが沈降しています。また、船舶を利用した交通の場や海水浴などのレクレーションの場としても重要であります。このように,沿岸環境を保つことは食生活を含めて様々な側面から意義ある課題です。そのためにより詳細な観測と研究が必要になってくる訳です。
■インタラクティブコーナー次号よりスタート!皆様と自然科学の研究者とで創るコーナーです!
 皆様がこの通信の中で興味を持たれたことまた疑問に思われたこと、身近な自然のなかで不思議に感じられたことがありましたら、どしどしお便り下さい。このコーナーで取り上げさせて頂だいて、読者の方々の自然に関する興味や知識を深めることが出来たらと思っています。
投稿先:760-8521 香川県木田郡庵治町鎌野4511-15 香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設 一見 和彦宛
電話:087-871-5338 ファックス:087-871-3001(代) 電子メール:ichimi@ag.kagawa-u.ac.jp
特に投稿規定はありません。お便りお待ちしています。
(野外調査で不在がちなので手紙、ファックス、メール等で頂けると幸いです)
編集:浅海域環境実験実習施設利用者グループ
連絡先:760-8521 香川県木田郡三木町池戸2393 香川大学農学部生命機能科学科 山田 佳裕
電話:087-891-3150 ファックス:087-891-3021(代)電子メール:yamaday@ag.kagawa-u.ac.jp
施設と調査船「カラヌスIII」
施設と調査船「カラヌスIII」
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