浅海環境通信

創刊号

浅海環境通信 発行
香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設
香川県木田郡庵治町鎌野(Tel: 087-871-3001)
■発刊の主旨
 この通信は瀬戸内海または四国で起こっている環境問題に関して、知識向上、現状理解の一助になることを目的としています。紙面上では香川大学農学部附属浅海実験実習施設の調査、観測で得られたデータを掲載するとともに、分かりやすく解説します。さらに、各専門分野で得られた最新の研究成果について若手研究者が分かりやすく解説します。地域の皆様の自然に関する疑問も積極的に取り上げ、一緒に考えていきます。また、ご意見を伺い、今後の研究活動に反映していきたいと考えています。
■浅海環境通信創刊記念挨拶農学部長 一井 眞比古
 附属浅海域環境実験実習施設は、自然環境に恵まれた四国最北端に農学部附属浅海利用庵治実験所として昭和48年に設置され、それ以来農学部の海に関する教育研究の前線基地となっています。また,瀬戸内海における赤潮研究のメッカとして大きな研究成果をあげてきたことはよく知られています。
瀬戸内海には、富栄養化の問題を始め、干潟の環境保全や養殖漁場汚染などの環境問題を抱えております。これらの地域的課題に取り組むために、高度な観測機器や化学分析装置を備えた調査艇「カラヌスⅢ」(19t)が第3代目の調査艇として平成13年度に配備され、瀬戸内海の観測や調査に日夜活躍しております。得られた研究成果は学会等を通じて公表されていますが、それらの情報は研究者を中心とするものであり、一般社会に広く知られておりません。社会に開かれた大学をめざす我われにとっては本施設で得られた成果を分かりやすく、迅速に社会に公表することが必要と考えています。
浅海環境通信の創刊が、瀬戸内海の環境問題だけでなく、瀬戸内海研究や海洋環境、地球環境の理解や創造にとって大きな役割を果たすことを期待しております。
■施設からの挨拶施設長 渡邉 直
 浅海環境通信の創刊に当たって,施設を代表して一言述べさせて頂きます。この施設は,庵治町に位置し,教官2名,技術職員1名の教職員で構成され,最新の海洋観測機器類を搭載したハイテク船を保有し,瀬戸内海の海洋環境に関する教育・研究を行っている施設です。小規模な施設ですが,瀬戸内海研究においては大きな足跡を残しています。ご存知の方も居られるかもしれませんが,当学部は瀬戸内海で猛威をふるってきた赤潮の研究で先進的な役割を果たしました。この役割を支援したのが,この浅海域環境実験実習施設です。このような歴史性を有する施設があまりよく知られていないのは,社会に対する説明責任の欠如と、施設長としての責任を痛感しておりました。そのような中で、施設の利用者を中心としたスタッフの方々から、この通信の創刊について相談を受け、小躍りして喜んだ次第です。大学が発行する通信なので、施設で測定したデータをタイムリーに発信するように、心がけて下さいとお願いしました。この方向で、新たなプロジェクトの準備を進めています。
豊島問題を代表するように公害告発型の環境問題は後を絶ちませんが、一方でリオデジャネイロの「地球環境サミット」で代表されるように、新たな重大な環境問題が発生しています。
そのような環境問題に対応していくためにも、海洋環境の重層性を考慮した総合研究が重要であると認識しています。また、多くの方が瀬戸内海の状況を良く知って頂くことも大事な事です。この通信が瀬戸内海研究の回廊あるいは瀬戸内海を護るための知識や力になる様努力してまいります。
■施設の活動多田 邦尚
 今回、この『浅海環境通信』を発行することになった私達の施設の正式名称は『香川大学農学部附属浅海域環境実験実習施設』と言います。とにかく長い名前なので、関係者は単に『浅海施設』とか『浅海』などと呼んでいます。言うまでもなく、“海の環境屋”の私達にとって、この『浅海』は現場調査の前線基地です。『浅海』関係スタッフの主な研究・調査内容は以下のようなものです。沿岸海域の海洋環境調査、河口干潟域調査、河川調査、人工衛星による浅海域のモニタリング調査などです。私達の自慢の“足”は昨年度に竣工した調査船「カラヌスIII 」です。日頃の研究調査や学生実習航海の他にも、子供解放プランで小学生や中学生の体験航海を実施し、大変好評でした。今後、この『浅海環境通信』では、私達スタッフや「カラヌスIII」の紹介、あるいは現場観測の様子などもお知らせしていきたいと思っています。
■メンバー紹介
 このコーナは、施設のスタッフを紹介するコーナです。トップバッター(写真を見ると、トップバッターというよりは4番打者の風貌ですが)として、調査船の船長である濱垣孝司さん(通称浜さん)にお願いしました。
濱垣 孝司 氏 名前:濱垣 孝司(はまがき たかし)
本籍:香川県さぬき市津田町
年齢:46才
職名:文部科学技官 技術専門職員
初代カラヌス、二代目カラヌス、カラヌス3の船長として現在に至る
 水島重油汚染、製紙工場排水、赤潮、豊島産廃、海砂利採取など瀬戸内海における環境問題は多年に渡り見てきた生き証人の一人であると自負している。趣味は、料理を作ることと息子の野球を観ること。
30年来、施設あるいは調査船とつきあってきたので、表には出ない色々なエピソードを知っています。時効になった面白いお話しを紹介します。
26年ほど前、観音寺の漁師さんと岡市教官と私の3人で伊予三島の製紙工場の排水口へ船外機の船でサンプリングに行ったとき、運転をしていた漁師さんが急に海の中へ落ちてしまいました。船はグルグルと回り止まりません。その時の岡市元学長の慌てふためいた顔、今でも思い出します。
10年ほど前、2代目カラヌスで志度湾の徹夜観測(24時間観測)を行った時です。
1月の寒い季節で機器観測が主な作業でしたが、夕食は鍋物をデッキの上で防寒着を着たまま摂りました。あの時の鍋、研究の大変さがほんのりしみこみ(他の香りもありましたが)、格別の味でした。
まだまだ活字に出来ないおもしろいお話があります。見た目と違って、「心優しい力持ち」ですので、遠慮なく施設に遊びにきて下さい。その時に、お話しします。
■研究成果速報コーナー石田 智之
 このコーナーでは、施設長からの挨拶にありましたように、当施設で観測したデータをタイムリーに紹介します。今回は、瀬戸内海の広域モニタリングを行うために、昨年の4月から当施設で設備したNOAA気象衛星データの受信システムをご紹介します。
日本の気象衛星ひまわりを知らない方はいらっしゃらないと思いますが、NOAA(ノア)は米国が打ち上げた「ひまわり」と考えて頂ければ理解しやすいでしょう。
海洋をモニタリング、すなわち監視する際には何を見れば良いのでしょうか。何事でも
そうですが、監視する対象にはそれぞれ見落としては対象の様子が分からなくなるポイントがあるはずです。海の場合のポイントは海の色と温度です。
右の図は2001年10月15日午前7時8分に受信した瀬戸内海の温度画像です。色がより黒い部分はより温度が高く、白い個所は温度が低い地域です。海上は陸上と比較して、温度が高いことがわかります。太平洋では世界有数の暖流である黒潮が北上しているために、水温は高くなっています。この暖流が影響しているのかどうかは議論のある所ですが、淡路島近海は大阪湾よりも水温が高くなっています。このように、NOAA画像を見れば、水温の分布に関して色々なことがわかります。また、継続的にNOAAの温度画像を蓄積していけば、本当に瀬戸内海が温暖化しているのかどうかの判断に役立ちます。なお、受信したNOAAの画像は、即座にインターネット上で閲覧できるように公開しています。興味のある方は、http://www.ag.kagawa-u.ac.jp/NOAA/ を御覧下さい。
■今月の環境講座「瀬戸内海の広域モニタリングの重要性」石田 智之
 多額の費用と莫大なエネルギーをかけてまで、なぜ瀬戸内海の広域モニタリングをする必要があるのでしょうか。海の色が少し濁ったり水温が高くなると、私達の生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。その答えを2つの側面から、すなわち地球環境と沿岸における環境研究あるいは環境保全から探ってみます。
海洋は地球の表面積の約70%を占め、地球環境にとって重要な役割を持っています。海洋の主体は水であり、大きな貯水槽と考えられます。また水は熱を蓄える能力が大きいので熱の大きな保管庫になっています。そのため気象に大きな影響を与えています。海洋にとってほんの少しの変化でも、気象に与える変化は大きいものがあります。例えば、エルニーニョ現象が起こると、海洋の現象だけでなく日本の気候も大きく影響されます。また、各種物質を良く溶かし、懸濁させ、陸から海へ物質を運んでいいます。海洋の植物プランクトンの生産に伴い、地球全体の炭素循環にも大きく影響しています。したがって、地球環境で起こっている諸問題を明らかにし解決するためには、より詳細な観測と研究が必要になってくる訳です。
沿岸域には、良好な居住地域として世界の人口の60%が生活しています。そのため世界の都市の2/3は、沿岸域に集まっています。沿岸域の面積は世界の海の8%に過ぎませんが、高い基礎生産によって良好な漁場として世界の水産資源の90%が得られています。
ここで、「基礎生産」について少し説明を加えておきます。基礎生産とは、藻類などが窒素やリンなどの無機の栄養塩類と太陽光線を利用して、有機物をつくりだすことです。海洋では基礎生産された下等生物に続いて、動物プランクトンから魚類へと生産段階が進んで、水産生物資源が生まれてきます。
陸水が大量に流出している沿岸域では陸起源物質の重要なクッションになっており、75から90%の土砂などが沈降しています。また、船舶を利用した交通の場や海水浴などのレクレーションの場としても重要であります。このように、沿岸環境を保つことは食生活を含めて様々な側面から意義ある課題です。そのためにより詳細な観測と研究が必要になってくる訳です。
■インタラクティブコーナー次号よりスタート!皆様と自然科学の研究者とで創るコーナーです!
投稿先:760-8521 香川県木田郡三木町池戸2393 香川大学農学部生命機能科学科 山田佳裕宛
電話:087-891-3150 ファックス:087-891-3021(代) 電子メール:yamaday@ag.kagawa-u.ac.jp
特に投稿規定はありません。お便りお待ちしています。
(野外調査で不在がちなので手紙、ファックス、メール等で頂けると幸いです)
■編集後記
 「やっと、やっと27年にして浅海実験実習施設の広報誌ができた~」というのが御偉い先生方の心境でしょうが、香川大学へ来て3年目の私にはあまり実感がありません。「大学も地域社会へのさらなる貢献が求められるのだー」という風潮のもと、広報誌の刊行が企画され、バタバタのなか若輩の私が編集責任者になりました。広報誌の刊行には“何を今さらと”という思いがしますが、庵治半島の片隅での孤独主義が殻を破れたのは大きな進歩であることに間違いはありません。自然を研究領域としている我々にとって研究成果をもって環境問題などの市民生活の重要な部分に貢献することは当然の責務であり、市民の方々とのコミュニケーションのツールは持つべきであります。今後この広報誌を香川大学と地域の皆様との間の知的媒体として、お互いの情報の供給源として大きく育てていけたらと思っています。施設はこのように若い私が自由に発言できるフランクな環境なので皆様もご意見をどしどしお寄せください。(山田)
編集:浅海域環境実験実習施設利用者グループ編集責任者:山田 佳裕
連絡先:760-8521 香川県木田郡三木町池戸2393 香川大学農学部生命機能科学科 山田 佳裕
電話:087-891-3150 ファックス:087-891-3021(代)電子メール:yamaday@ag.kagawa-u.ac.jp
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