平成20年度協定校訪問(鎌田政嗣/材料創造工学科1年)

 去る9月23日、私は人生初の海外旅行に旅立った。それもただの旅行ではなく、協定校訪問という非常に有意義な旅である。今回の旅を企画していただいた先生方、訪問を快く受け入れてくれたサボア大学の方々に感謝したい。

 1日目、関空から12時間かけてオランダはスキポール空港に到着。これほど長時間のフライトを体験したことがなかった私だが、機内食があったり、映画が見られたりしたおかげもあって、そう退屈することもなく、無事入国。写真は、フライト中の機内からの夕焼けである。

 オランダに着いた時点で既に気温は低く、まだ夏の暑さが残る日本からいきなり冬に飛び込んだようであったが、幸い、旅行中に風邪をひくことはなかった。時差ボケもなく、初日の晩は疲れもあってぐっすり眠れた。

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 2日目には、さっそくCERN見学へ向かった。世界最大規模の原子力研究所。今回の企画の中で、僕が一番注目していたイベントである。まさか人生の中で、そんな場所に見学にいくとは思ってもみなかった。CERNを訪れることができただけでも、参加した意義があると思う。

 

 CERNでは、実際に使用されていた実験機器、施設の案内を受けながら、CERNの歴史や今現在行われている研究の内容まで、英語で説明をしていただいた。日本語でも理解しづらい物理学の内容を、英語で話されて理解できるのだろうか、とすこし不安に思っていた。だが実際のところは、むしろ英語の説明の方がわかりやすいと感じた。もちろんスクリーンの図やジェスチャーを兼ねているからでもあるのだけれど、決まった単語を用いていたり、ときどき具体的な話や冗談を交えてくれることで、今まで以上に加速器実験に関する知識を深めることができたのである。これは、いままで僕が考えていた英語との距離感を一気に縮めてくれた体験である。それと同時に感じたのは、英語・フランス語など、より一層の語学力を身につければ、もっと双方向的な情報交換や活発に意見を交わすことができるのだろうということだ。それは当り前のことなのだが、私でもある程度の会話が成り立つのだと、すこし自信を持てたことで、実体験として理解できたということである。これがCERN見学で得られた体験のひとつである。

 

 説明していただいた研究施設についてすこし書いてみようと思う。まずは研究内容。最新の実験では、わかりやすく言うと、小規模のビッグバンを起こして観測しようと目論んでいるという。まだ理論予測の段階で発見されていない、粒子の研究である。陽子同士を高速でぶつけることによって、構成する粒子を散乱させ、解析する。その高速でぶつける過程に必要となるのが、CERNの実験施設の要、加速器である。写真は、その加速器に使用されている部品の説明を受けている一行。因みに、青いウエアを着ているのが私である。

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 陽子の加速には電磁気の力を用いており、ここではコイルの説明を受けた。写真のレールパイプの中を、陽子が飛んでいくという。その周りをコイルが覆っているということだ。
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 写真は、レールパイプ、コイルを含む、加速器全体の断面模型である。その後、加速器内部を真空に保つ仕組みや、何箇所かに設けてある冷却用の液体窒素部分を見てまわった。
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次にまわったのは、ブースター装置部分である。一番初めは液体水素を電子と陽子に分けるところから始まるという。そこで分けた陽子を、ブースターによって何段階にも分けて、徐々に加速していく仕組みである。キックとドリフトを交互に繰り返すという説明を聞いた。ここでもやはり電磁気の力が利用されている。
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そして引き続き、電磁波・放射線処理の部分や観測部分の全体的な様子を見て、ひと通りの施設の見学を終えた。

 この見学にあたって、今現在の研究施設までは見ることはできなかったものの、使用されている機器の一部を目の当たりにできたり、これまで、そしてこれからの研究についての説明を現地で聞くことができたりしたことは、とても貴重な体験であったと思うし、感慨深く思っている。この日の午後は、カイエのチョコレート工場で舌鼓を打ち、ジュネーブからフランスへと戻った。
 3日目は、いよいよ本命のサボア大学訪問となる。大学全体のオリエンテーションのプレゼンを受けた後、いくつかの研究室を見学させていただいた。シャンベリーキャンパスでは、雪崩などの流体実験の装置や、濾過の研究、生ごみからつくられるバイオガスなどの燃料研究などのスペースがあった。アヌシーキャンパスに移ってからは、学食をいただいたあと、再び研究室見学となった。
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 アヌシーでは、シャンベリーよりも多くの研究室をめぐることができた。見てきたものを順に箇条書きにしてみる。

・車のミラーの自動制御システム
・小型のCTスキャンの原型モデル
・3-Dの位置情報、モーション解析装置
・圧電効果の実験装置
・アーク放電の装置
・半導体マーカーによるレーザー追跡
・Wi-Fi通信を利用した遠隔操作システム

 各研究の説明は、CERNよりも専門的な用語が多く、なかなか理解の難しい話が多々出てきた。何度か重複した説明を聞くことで、なんとか概要だけでもつかめたと思う。3-Dのモーション解析などは、小児喘息の発作時に行うマッサージの動きの解析に利用するということや、Wi-Fi通信技術の今後の応用なども、いくらか聞き取ることができた。
 また、説明をしていただいた教授や学生の方々は、私の拙い英語での質問にも、気軽に応えてくれた。CERNでも感じたように、伝えようという気持ちがあれば、コミュニケーションはきちんと成り立つのだということと、やはりもっともっと語学の勉強を重ねて、より気さくに話しをしたり、深い話をしてみたりしたいという気持ちが強く湧いた。日本にいると、どうしても外国の人と出会う機会は少なくなってしまう。機会はいくらでもつくれるはずだけれど、どこか積極性に欠けてしまうのである。やはり一度でも旅行かなにか、海外に一歩出てみることで、より多方向への興味・関心が生まれ、勉学の弾みにもなると思う。振り返りながら、参加できて本当によい経験ができたと感じるばかりである。

(以下、箇条書きの順に研究室・装置の写真)

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 その日の夜には、サボア大学の学生さんたちとボーリングをして、楽しい時間を過ごした。
 4日目。ベアリングの企業、SNRの見学に向かった。ここでは、ボールベアリングの種類の多さに驚き、さまざまな用途、環境によって、それぞれの工夫が細かくちりばめられていることに、感銘を受けた。展示用のベアリングを見たとき、その機能的な姿は美しいと感じるほどである。機械や部品などの仕事は、予想以上に緻密で繊細な技術と計算のもとに創造されうるのだと思った。
 SNR見学以降は、始終アヌシー観光にまわった。古くから変わらない落ち着きのある街並みは、1週間弱という短い間過ごしただけでも、居心地のよい場所であった。透明度の高いアヌシー湖をはじめ、山手にそびえる聖堂やアヌシー城、街に流れこむ水運、裏通りでにぎわうマルシェなど、どれをとっても素敵な土地だと思う。初めての海外旅行で、こんな素晴らしい旅ができたことは、本当に幸せであった。

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 何度も書いたことだが、今回学んだことは、最低限の知識があれば基本的なコミュニケーションはできるということと、もっと学んでいけば2倍も3倍も楽しめる旅、出会いができるということを、実際に体で体験できたということである。ジュネーブの観光地では何度か写真を頼まれたり、逆に頼んだりしたこと、ユースホステルでインド人の学生にボディーソープを貸したこと。サボア大学の学生さんとの交流はもちろんだが、なんでもないところでの些細な交流のひとつひとつも、私にとっては大事な思い出である。
 日本にとどまっていては経験しえなかった大きな糧を、この協定校訪問で手にすることができたと思うとともに、これをまたこれからの励みに、より一層勉学に励んでいきたい。

 

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