博士後期課程

安全システム建設工学専攻

21世紀は環境の世紀といわれる。社会基盤整備においても環境への負荷を最小限にし、原材料の採取から建設、利用、廃棄に至るプロセス全体を通して、省資源・省エネルギー、原材料及び製品の再利用・循環を図り、循環型社会(ゼロエミッション・サイクル)の確立に貢献することが求められている。また、都市計画、地域計画においても人間生活にとっての快適性、安全性、効率性に加えて、環境・生態系の保全及び環境負荷の軽減を考慮に入れた取組が求められている。

香川県は、瀬戸内海と讃岐山脈に囲まれた自然豊かな地域ではあるが、同時に水資源確保や瀬戸内海の環境保全等の問題に多くのエネルギーを費やして、問題解決のための模索を図ってきた。また、環境回復のために巨額の資金を投入しなければならない産業廃棄物問題の象徴「豊島」も経験した。このように、香川県は、人々が環境問題の本質を生活の中に身近に感じてきた地域と言える。したがって、今後、香川が環境問題先進地域として、環境解析・評価のための調査・情報システムの構築と環境保全及び低環境負荷技術の開発・研究を進めることの意義は極めて大きい。

博士後期課程の本専攻は、学士課程(安全システム建設工学科)及び博士前期課程(安全システム建設工学専攻)の上に積み上げるものとし、水システム工学、防災システム建設工学、環境政策工学の3研究分野で構成する。これらの3分野が連携を図りながら、上記の課題に関してさらに深く掘り下げた研究を展開することによって、地域の抱える課題解決に向けて貢献すると同時に、同様の問題を抱える世界中の地域に発信し、地球環境全体の保全・回復に貢献する。

1)自然環境マネジメント分野
本研究分野では、地盤環境、水環境、緑地環境などの保全と再生のために必要な技術を身につけます。地盤の破壊機構の解明に基づく防止技術、自然災害発生危険度の評価手法や災害軽減、河川、ため池や貯水池、地下水等の陸域での水循環系の総合的な管理・予測・修復技術の開発、瀬戸内海の流動・水質の計測・予測技術の開発及び沿岸域環境の修復技術の開発、地盤の破壊機構に基づく防止技術および災害軽減・危機管理技術等、荒廃した自然環境の修復とその活用等に関わる研究を展開し、地域の環境と安全性の向上、地震等の災害に対する地域の安全性向上に貢献する。

2)建築・住環境デザイン分野
本研究分野では、都市・地域環境の実態把握・計測・予測および保全・修復に関わる技術の開発から政策代替案の提言までを行う。具体的には、環境と調和した快適な都市開発・住環境づくり、自動車交通負荷の軽減による都市環境の改善、都市化に対する適切な対応、環境管理に関わる住民合意形成・価値形成や計画・事業評価の手法を開発し、制度基盤としての制作立案支援システムを構築する。地球環境を見据え地域資源を活用した環境親和型材料・工法、構造物の長寿命化や機能回復技術、構造物や材料の信頼性評価技術、構築物や地盤の破壊機構の解明に基づく防止技術および災害軽減・危機管理技術等を扱う。これらにより、地震等の災害に対する地域の安全性向上に貢献する。

信頼性情報システム工学専攻

人類の生存基盤としての環境を適切に利用するという前提で、人間は多様な活動をしていかなければならない。日々の生活及び生産活動は様々な技術が組み込まれた「もの」の助けを借りることなくして行うことができない。そして、それらの、一層の高度化、効率化及び高付加価値化を目指した間断ない研究開発が必要である。新技術の研究開発は熾烈な競争の中で行われており、それらの結果は経済の動向とも密接に関連する。従って、地域の自律的発展は、このような環境の中で如何に優位な技術を継続的に生み出していくかにかかっている。

大量のデータを瞬時に移動でき、人々の間のコミュニケーションを容易にする情報通信関連産業の創生は、地域発展の起爆剤として期待されている。しかし、インターネットや携帯電話に見られるように、その展開は想像以上に早く、従来の企業形態で事業を進めることが困難になりつつある。このような状況下では、技術開発の頭脳として大学が果たす創造的役割は大きく、またそれが強く期待されている。

博士後期課程の本専攻は、このことを強く認識した教育研究を進め、香川県及び四国地域における情報通信関連産業の創生・発展に貢献するため、人間の社会活動の基盤として必要な情報通信技術を文理融合の概念でとらえ、実践的かつ先進的な教育研究を行う。本専攻は、学士課程(信頼性情報システム工学科)、博士前期課程(信頼性情報システム工学専攻)の上に積み上げるものとし、情報環境、電子情報通信の2研究分野で構成する。

・情報環境分野
情報通信技術革命によって到来が現実味を帯びてきた高度情報化社会に向けて、社会生活そのものの変革が実際に起こり始めている。特にインターネットやパーソナルコンピュータ、携帯電話の普及は、利用者の増大や利用場面の拡大を生んでいる。その中で、情報システムや計算機ネットワークの実現や利用において、確固とした情報通信技術に基づく高信頼性の確保と、同時に、人間にとっての分かり易さや使い易さのための感性の活用が求められている。また、システムの高度化、グローバル化に伴い、情報の機密性確保、システムの信頼性確保の必要性が増してきている。このように、情報化社会が高度化するに伴い、個々の情報システムから、グローバルなネットワーク環境に至るまで、幅広い分野にわたる信頼性確保が極めて重要な課題となってくる。
これらの要求にこたえるために、本研究分野では、感性工学、ヒューマンインターフェイス、ソフトウェア工学、分散システムの構築・運用技術、最適化工学、パターン認識、教育支援工学、信頼性設計理論・技術等について教育研究を行う。これによって、人間が無理なく対応でき、豊かな社会生活を送ることができる社会の高度情報化をより促進するための技術を探求する。また、情報専門家として必要な知識・技術だけでなく、信頼性設計技術を必要としている他分野の知識・技術を身に付けた高度信頼性技術者の育成も目指している。

・電子情報通信分野
この10年で、インターネット及び携帯電話に代表されるモバイル通信が社会全体に普及し、一般市民が当たり前のようにこれらの技術を使う世の中に急速に変貌した。これにより、通信技術、ネットワーク技術は重要になり、特に高速性、信頼性、安定性、セキュリティ等への要求は高まるばかりである。さらに、ネットワークを利用した情報サービスも多様な展開を見せており、従来考えられなかった新たなサービスの構築が社会・経済の活性化に重要になってきている。また、文理融合の観点から、ネットワーク利用者の新しい行動様式やコミュニケーション様式、また、それらに関する世代間ギャップ、倫理などの問題も重要になってきている。さらに、電子機器や計算機の高速度化、大容量化への要求がますます増大している。このような社会的要求にこたえる技術として、光波を利用した光学情報処理技術、光エレクトロニクス応用技術は注目され、多くの電子機器や計算機システム中で利用され始めている。また、ハードウェアの発展に対応して、マルチメディア情報処理技術及び分散処理技術を中心にしたソフトウェア開発の重要性も従来にも増して認識されている。本研究分野では、安心して使える高性能情報通信ネットワークに係わる技術について、ハードウェア・ソフトウェアの両面からアプローチするとともに、新たな情報サービスの開発とそれに係わる社会科学的な検討、さらには、ニューラルネットなどネットワーク技術の他分野への応用に関して教育研究を行う。また、光エレクトロニクス技術を中心にしたハードウェア的側面と、マルチメディア情報処理技術や分散処理技術を中心にしたソフトウェア的側面の両面から高度情報電子システムを創造できる人材を養成することも目的とする。ハードウェア的側面では、光デバイス及び光エレクトロニクス技術、電子応用計測技術等を、ソフトウェア的側面では、超高速信号処理、画像情報処理等、及びシステムソフトウェア、生体情報技術、分散処理信頼性技術等についての教育研究を行う。さらに、ハードウェア技術とソフトウェア技術をバランス良く発展させ、両技術の融合による、より高度な情報処理システムや計測システムの研究開発技術者の育成を目指す。

知能機械システム工学専攻

人類は、生活の中で人の持つ機能を最大限に活用し、また、人の機能が不足する場面では、人間の機能を越えた、または補完、代替する機器を作り、生活の高度化、高利便化を計ってきた。現在も、これら機器のハ-ド、ソフトの両面から、一層の高度化、高付加価値化を目指し、間断のない新技術開発、研究競争が繰り広げられている。新技術開発競争の結果は、経済活動の動向にも密接に関連しており、地域の自立的な発展は、如何に優位な技術を開発し、事業化できるかにかかっている。

これら、生活を支援し、生産を支援する機器及びシステムは、ますますその複雑さを増し高度化してきている。これまでは、技術が未熟であるが故に、また、機器生産の効率化を追求するあまり、これら機器を使うには、人が機械の機能に合わせることを強要されることもしばしばあった。これからは、人が機械に合わせるのではなく、機械を人に合わせる視点に基づく技術開発が一層重要になってきている。例えば、介護支援等においては、人間の尊厳と感性に配慮した技術開発が求められる。このような高度な技術には、高機能なデバイス、複雑なシステムが必要であるばかりでなく、人間理解が不可欠であり、その技術的なブレークスルーにより幅広い応用分野が拓け、新規産業に向けた多くの種子をもたらす。

香川県は高齢化の先進県である。今後、20数年の間に、日本の高齢者は3000万人を超え人口比率の30%を超える高齢化社会になると予測されている。高齢者は各種の機能が衰え、社会生活に支障をきたすことも多い。この衰えた機能の補助、補完の課題を、技術開発により優位性のある技術にまで高めることにより、高齢者先進県である香川県は、来るべき日本の高齢化に先駆けた高齢者対応技術の中心になりうる。例えば、高齢化に起因する交通事故や要介護人口の増加は、今後多くの地域において社会問題化することは明らかであり、この解決には、人間工学的な立場、高度なロボット、デバイス、制御システム等に関わる総合的な技術開発が必須となる。本学工学系の人的な資源を考慮すれば、これらに対する先進的な取組が可能である。この結果として、これまで産業構造の中でほとんど存在しなかった新規分野の起業、事業化に対する可能性が高まる。

他方、既存産業においても世界的なメガコンペティションの中、製品の高度化、コストダウン、付加価値の付与が求められている。上記の高度化した技術、システムは、既存の生産活動を合理化、効率化、高度化する可能性を持っており、この面からも地域の企業への支援が期待されている。
これら生活支援、生産支援のコンセプトのもと、博士前期課程では高度専門職業人の育成に向けた教育研究を実施している。博士後期課程においては、社会で必要とされる技術を発掘し、新規技術の種となる技術を追求し育てることのできる、技術者、研究・開発者を教育・育成するとともに、開発した技術を使い起業のできる人材の育成を目指す。このため、本専攻は学士課程(知能機械システム工学科)及び博士前期課程(知能機械システム工学専攻)の上に積み上げるものとし、自律制御工学、知能機械設計工学、造形工学の3研究分野で構成する。

・人間支援ロボティクス(Human-assist and Robotics)分野
生活・医療・福祉・交通等における安心・安全で快適な環境を提供するための人間支援技術、また、宇宙・深海などの人が立ち入れない環境で活躍するロボットの開発を進めている。これらの研究開発を通して、人間支援ロボティクスについて学ぶ。

・バイオメディカルエンジニアリング(Biomedical Engineering)分野
バイオ分野ならびに医療分野における計測および制御技術を提供するために、材料開発、半導体微細プロセス技術に、シミュレーション技術や材料評価技術を融合した高度ものづくり技術の研究開発を進めている。

材料創造工学専攻

21世紀においては、地球規模で問題となるエネルギー、環境マネジメントなどを見据えた革新的科学技術の構築が急務である。これを実現するためには、新しい技術の展開を促す材料の研究開発が不可欠となる。新しい物質の発見が新しい材料を生み、技術に革新をもたらすからである。この世紀は材料科学の役割が従来に増して厳しく注目される時代となるであろう。

これまで、材料の研究開発は、主に経験を集積する形で進められてきた。しかし、近年、材料科学の基礎的学問としての物理、化学、生物学などが相互に結びついた境界領域での学問の進展、さらにビーム技術、解析・評価技術などの材料研究手段の著しい発展につれて、材料を原子・分子レベルで制御することが可能になりつつある。その結果、ガイディング・プリンシプルに基づいた系統的研究により、機能を理論的に予測した材料の創造ができるようになってきた。また、新機能材料を用いた種々のデバイスも、その構造から特性や性能が予測できるようになるであろう。

このような材料創造の動向として、具体的には以下のような研究開発が求められている。

・基礎的研究によって得られた知見などを積極的に活用して、省エネルギー、循環型、環境適応などに必要な機能を付与した新素材を創造する。
・スマート・マテリアル創造の基礎となる機能発現の原理に立ち、材料機能の理論的、実験的研究を体系的に進め、材料の機能をミクロな見方から研究を行う。すなわち、外部からの能動的制御による新機能の発現や、材料機能をその元となる基礎物性=『素機能』に分解してとらえ、素機能が積み上げられた結果としての機能発現機構などを明らかにする。
・材料のデバイスとしての機能を素機能の組み合わせで具現させるため、材料機能を理論的に予測する材料設計法により、ハイブリッド化、組成調整、結晶構造制御、表面・界面制御など構造を制御した量子デバイスを創造する。また、先端材料創造の目的達成のために、計測技術が不可欠である。このような材料評価技術は「顕微鏡的手法」と「物性測定法」の結合による『ナノ計測・評価技術の高度化』が求められる。したがって、材料構造や表面構造の評価、光・電子機能の計測、量子デバイス特性評価技術などに関連する先端的複合物性評価技術を駆使した未来材料創造を行う。

また、「素材産業」空白地域に近い香川県は、「新素材」を地域で育成すべき重要先端産業の一つと位置付けている。本専攻はその教育研究活動を通じて、環境に優しく省エネルギーを目指す、軽量構造材料、環境循環型材料、電子材料、光情報通信材料などの未来材料を創造する産業や人材の育成に大きな寄与を果たすことと期待される。

このような材料創造研究の新しい潮流、地域からの要求を勘案しつつ、学士課程、博士前期課程では、研究分野を新素材・機能発現・デバイスの観点から分類し、それらを相互に有機的に結合させ、それぞれの研究分野に再配分することにより、革新的機能を有する先端材料の創造を目指した。本専攻は、学士課程(材料創造工学科)、博士前期課程(材料創造工学専攻)の上に積み上げるものとし、環境材料化学、機械材料科学、光・電子材料科学の3研究分野で構成する。

・環境材料化学分野
資源の大量消費が環境を著しく劣化させていることから、今後は物質循環を重視した高機能材料開発が求められる。本研究分野では、耐環境材料、セラミック材料、有機材料及び生体システムを補完できる高機能生体材料等について、設計・創製・デバイス化、システム化等の材料開発に関し巨視的及び微視的観点から教育研究する。また、物質循環に関する評価技術、表面・界面制御などとともに、使用材料の長寿命化のための診断技術、廃棄物処理技術等の教育研究を行う。

・機械材料科学分野
省エネルギー、省資源化の流れは常に材料の新しいプロセス法の改革を促している。本研究分野では新世代構造的材料や斬新な機能を持つ金属材料、セラミックス材料から半導体ナノ構造まで、ミクロ、ナノの立場から材料組成解析・組織設計・創製、組成制御などを軸に教育研究を展開する。このような材料創成に関する高度な知識・技術に関する教育研究を行う。

・光・電子材料科学分野
高度にインテリジェント化している人間活動を支える基盤となる、量子効果を用いた高機能物質・材料の設計、機能発現、創成及び評価についての教育研究を行う。特に、新しい量子機能を発現させるための、ナノテクノロジー、半導体材料、電子材料、光機能材料、通信及び計算機シミュレーションなど量子材料の特性の制御、評価、予測及び設計、先端的機能を持つ材料及び物性に関する教育研究を行う。

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