■発表のポイント
・ 都市や道路網の立地と発展に、地形条件(山や河川・海)は深く関わっていると長年議論されてきたが、その定量的な効果は不明であった。
・ 真正粘菌の輸送ネットワーク形成過程とグーグルの検索アルゴリズムをヒントに、街と道の共発展シミュレーションモデルを作成。90mの高精度地形上で、古代ローマの人口分布を出発点として、中世イタリアから現代まで再現実験を行った。
・ 海岸線、標高、河川など地形情報を段階的に加えていくことで、先行研究(中心地モデル)で予見された規則的な都市配置が変化し、現実の人口分布に近づいた。その変化量を測定することで地形効果を定量化した。
・ 今後、水資源や地質、植生などの環境要因を加えることで、本研究成果は歴史・地理学の分野に、新たな「仮想実験環境」を提供しうるものである。

■発表概要
香川大学 教育学部の青木高明准教授、東北大学 大学院情報科学研究科の藤原直哉准教授、北海道大学 電子科学研究所の中垣 俊之教授、イギリス・オックスフォード大学の Mark Fricker 教授の研究グループは、現実の地形条件にあわせた、街と道の共発展シミュレーションを構築し、都市・道路の発展における地形条件効果を定量的に分析した。「いかなる場所に街や道が発展するのか?」という問いに対して、山や河川・海などの地形条件は重要であると長年議論されてきたが、その定量的な測定は未解決であった。本手法は真正粘菌の輸送ネットワーク形成過程とグーグルの検索アルゴリズムをヒントに、都市・道路網のパターン形成の「仮想実験環境」を実現した。イタリア半島を事例に、古代ローマから現代までの長期間シミュレーションを実施したところ、現実の地形条件を課すことで、実際の人口分布と近い状況が再現され、全体で72%の改善を確認した。今後、水資源や地質、植生などの環境要因を加えることで、都市の立地と発展に関する新たな仮説・実験型の研究手法となることが期待される。

本成果は2022年6月16日(米国東部夏時間)にネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開された。 

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図1  都市と道路網の共発展シミュレーションモデル のコンセプト図

 

 

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図2  古代ローマの人口分布を出発点とした、中世イタリアから現代までの長期間シミュレーション実験

 

 

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図3  段階的に地形条件を現実に近づけていくことで、どれだけ実際の人口分布を再現できるのか。情報論的距離を用いて、定量的に地形条件の効果を評価する。

■発表内容
背 景
古来より、人々は都市を建設し、それらを繋ぐように道を開いてきた。都市と道路の立地は、人々の活動と流れを決定する重要課題である。「いかなる場所に人々が集まり住むのか?」という問いに対して、自然環境や交易や産業、あるいは政治・歴史的背景などの様々な観点から、長年議論されてきた。しかし具体的に、地形や気候・水資源などの諸要因がどの程度寄与しているのか、定量的な判定が未解決であるため、科学的実証が困難となっている。

手 法
その解決のため、本課題では地理情報システムと数理モデルを融合したアプローチをとった。中心地理論では、平らで均一な空間を下地として仮定してきたが、現実はそうではない。海岸線などの境界・標高・河川などの地形条件などを段階的に加えていくことで、都市・道路の空間配置が如何に変更されるのか。モデルと過去・現在の人口分布を比較することで、地形条件の効果を定量的に検証した。

結 果
真正粘菌の輸送ネットワーク形成過程をヒントに、道の形成(集積から流れが生まれる)と、都市の集積(流れから集積が生じる)との循環的な因果関係に基づくパターン形成モデルを構築した(図1)。古代ローマの人口分布をシミュレーションの出発点として、中世イタリアから現代まで、再現実験を行った(図2)。背景の地形条件を、平坦地から海岸線、標高、水体(河川・湖・海))段階的に地形条件を現実に近づけていくことで、シミュレーション結果の変化を調べたところ、実際の人口分布と近い状況が再現された。地形条件を課すことで、全体で72%の改善を見た。あくまで地形条件しか考慮しないシミュレーションであるにも関わらず、多くの地域(トリノやミラノ、パレルモなど)では再現性が高いことは驚きである。一方でナポリやローマは予測に大きな差が生じており、地形条件以外の諸要因が重要であることを示唆している(図3)。

論文情報
掲載誌:Scientific reports 2022年6月16日公開
論文タイトル:A model for simulating emergent patterns of cities and roads on real-world landscapes
著者:Takaaki Aoki, Naoya Fujiwara, Mark Fricker & Toshiyuki Nakagaki
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-13758-1

■用語の説明
[ 地理情報システム ]
 地理的位置を手がかりに、データを総合的に管理・視覚化・分析を行う技術。
[ 中心地理論 ]
 クリスタラー、レッシュらによって提案された、 都市の規模と最適な空間的配置に関する理論。
[ パターン形成モデル ]
 動物の体表や植生分布など、自然界に見られるパターンを自発的に生じる空間構造として説明する理論モデル。

お問い合わせ先
【研究に関すること】
 香川大学教育学部 准教授 青木高明
 TEL:087-832-1595 FAX:087-832-1595
 E-mail:aoki.takaaki@kagawa-u.ac.jp

 北海道大学 電子科学研究所
 附属社会創造数学研究センター知能数理研究分野 教授 中垣俊之
 TEL:011-706-9429 / 011-706-9439 FAX:011-706-9439
 E-mail:nakagaki_at_es.hokudai.ac.jp

 東北大学大学院情報科学研究科 准教授 藤原直哉
 TEL:022-795-4346 FAX:022-795-5815
 E-mail:fujiwara@se.is.tohoku.ac.jp

【報道に関すること】
 香川大学幸町地区統合事務センター事務課(北キャンパス担当)総務係
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 東北大学大学院情報科学研究科広報室
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